【旅行記】まだ見ぬ九州に出会う旅 沖永良部島・徳之島編〜徳之島総合陸運亀津-平土野線に乗車し、平土野を歩く〜
沖永良部島と徳之島を巡る初めての離島旅も、いよいよ最終日を迎えた。最終日は宿泊地である亀津を起点に、島の南側を走る路線バスに乗車する。その後は島の北側にあるいくつかの観光地を巡り、夕方の飛行機で鹿児島へと戻り、今回の旅を終える。ここでは路線バスへの乗車を振り返るとともに、その前後で歩いた亀津や平土野の街の様子を振り返る。
亀津の街を歩きながらバス停へ向かう

旅の3日目、最終日。この日は少し早めのスタートとなった。7時前にはホテルをチェックアウトし、まずはホテルに程近い海岸へと向かう。前日の徳之島は、ホテルに到着した後に少々まとまった雨が降ったが、この日もこれまでと同様、晴れ間はあるものの雲の多い予報となっていた。
亀徳港に程近い市街地の海岸から海を眺める。雲の切れ間から差し込む光が海面に反射し、一本の道のように伸びている。その光景はどこか幻想的で、最終日の始まりにふさわしい静かな時間が流れていた。

前日は日没間際に到着した徳之島の中心地・亀津。この日も早朝のうちにこの街を発つことになるが、その前に少しでも街の様子を見ておきたいと思い、早めに行動を始めた。
徳之島には、徳之島町・天城町・伊仙町の3つの自治体がある。空港があるのは天城町であり、前日はそこから徳之島町へ移動してきた。その徳之島町の中心地であり、島全体の中心でもある亀津は、限られた土地に市街地が凝縮され、離島とは思えないほどの賑わいを見せている。
実際、前夜にバス停からホテルへ向かう途中や、夕食を調達するために歩いた街中では、平日夜にもかかわらず人通りが多く、繁華街も活気にあふれていたのが印象的だった。市街地には地元のスーパーが点在している一方で、離島という立地もあり、大手チェーンの進出は多くない。コンビニも町の南北にファミリーマートが1店舗ずつある程度にとどまっている。

歩きながら、これまで見てきた地方都市との違いを考えてみる。筆者は鉄道路線の乗りつぶしを趣味としており、各地で駅前の市街地を歩く機会が多い。そうした場所の多くは、時代の流れの中で人通りが減り、どこか取り残されたような印象を受けることが少なくない。
しかし、この亀津の街には、そうした寂しさはあまり感じられなかった。「数十年前は賑わっていたのだろうな」と思わせる市街地中心部の景色を各地で見てきたが、亀津の街はその賑わいを今も保っているように感じられる。
本土の地方都市では、中心市街地の空洞化が進み、郊外には駐車場の広いロードサイド型店舗が並ぶ光景が一般的となっている。徳之島にもそうした流れが全くないわけではないが、チェーン店が少ないからこそ中心部に人の流れが残り、結果として街の賑わいが保たれているように思える。
大手資本の進出が限定的であるからこそ、昭和から続く街の賑わいが今もなお息づいている。かつて多くの地方都市が持っていたであろう活気を、ここに見ることができる。

やがて、前日に空港からのバスを降りた亀津待合所バス停へと戻ってきた。この時間帯は、近くの小学校へ通う子どもたちが、まだ眠そうな表情で通り過ぎていく。旅程の都合とはいえ、早朝にこの街を離れるのは少し惜しい気もしたが、離島とは思えない賑やかな街の姿をしっかりと感じることができた一晩の滞在だった。
ワゴンで運転される亀津-平土野線に乗車
さて、ここからは再び路線バスの旅へと移る。昨日は徳之島空港から亀津まで、徳之島総合陸運が運行する空港線に乗車した。最終日の最初は、亀津-平土野線に乗車してみる。この路線が今回の旅で巡る最後のバス路線だった。
この路線は亀津から島の南側に位置する伊仙町を経由し、平土野へ向かう。空港線が島の東海岸を経由する一方で、こちらは西側を経由。現在、島の北側の海岸線を走る路線バスはないため、完全な一周はできない。しかし、この路線と空港線を組み合わせることで、島をほぼ一周できる。
亀津-平土野の全区間で運行されるバスは1日4往復の運行。一方で、亀津から犬田布(いぬたぶ)間は、区間便も運行されており、この区間では6往復の運行となっている。平土野まで行く場合は空港線の方が早く運賃も安いが、空港線のバスも本数が多くはないため、時間によってはこちらの路線が先着する場合がある。実際、朝は亀津から空港へ向かう便の始発が遅いため、これから乗車する場合が平土野へ1番最初に着く便だった。

バス停でしばらく待っていると、やがてワゴンタイプの車両がやってきた。車体には「ユイ結いバス」と書かれているが、ダッシュボードには「バス代行 犬田布経由平土野行」と掲げられている。ユイ結いバスは、平土野や空港のある天城町が運行するデマンドバスで、運行は徳之島総合陸運に委託されている。車両の回送などの都合もあり、この路線は主にワゴン車で運行されているらしい。
空港線のバスが亀津-平土野をおよそ40分で結ぶ一方で、こちらはやや遠回りとなり、所要時間はおよそ1時間。乗り込んで運転士に平土野まで向かうことを伝えると、伊仙経由であることを念押しされた。
乗車(搭乗)記録 No.9
徳之島総合陸運 亀津-平土野線 平土野行
亀津待合所→平土野停留所

前日の記事にも書いたが、亀津市街地を走るバスは、上下便いずれも同じ向きに街中を巡回する。空港線の空港行きは亀徳新港手前の大船住宅を始発とするが、亀津-平土野線は亀津待合所を始発とし、徳之島高校、亀徳新港、バスセンターと時計回りに巡って市街地を抜けていく形をとる。バスはしばらく中央通りという狭い市街地中心部の通りを進み、やがて県道80号線との交差点を右折。港の景色を車窓に亀徳新港へと入った。

亀徳新港の待合所前を経由して再び県道80号線へ戻ると、市街地を南へと進んでいく。亀津市街地の南側の県道沿いには家電量販店やディーラー、ドラッグストアが点在している。バスはそれらの店舗の間を抜け、やがて亀津の市街地を出た。早朝の下り便ということもあり、この時間帯に市街地周辺から乗り込む乗客は筆者以外にいなかった。

市街地を離れると、バスはしばらく海岸線に沿って進む。朝日を浴びて輝く海が、車窓いっぱいに広がった。亀津-平土野線は主に県道80号線と83号線を走るが、県道は思いのほか内陸を通る区間が多く、海が間近に見える場所は限られている。このあたりは海岸線に沿うように道が延びており、カーブとアップダウンが続く中をバスは走っていく。亀津方面へ向かう対向車線には、通勤のため市街地へと向かう車の列が続いている。
やがてバスは喜念地区へと入った。徳之島は闘牛が盛んな地域で、各地に闘牛場が設けられている。この先にある「なくさみ館」は大会も開催される大規模な闘牛場で、観光地の一つでもあるが、本数の少なさもあり今回は訪問を見送った。

しばらく赤茶色の畑と、その向こうに広がる海を眺めながら走ると、やがて伊仙町の中心部へと入った。伊仙町は島の南部に位置する町で、県道沿いにはコンビニやドラッグストアが並ぶ。バスは一度県道を外れ、「ほーらい館」と呼ばれる施設の前を経由して再び県道へと戻る。ここでも新たな乗客はなく、バスは淡々と進んでいく。
昨日の空港線のバスでもそうだったが、車内にはラジオが流れていた。都市部のバスではあまり見られない光景だが、地方では時折出会うことがある。流れてくるのは鹿児島の放送で、道路交通情報では当たり前ながら九州道や鹿児島市内の渋滞状況が伝えられていた。ここでは直接役に立つ情報ではないものの、この場所が確かに鹿児島県の一部であることを実感させる。

伊仙の中心部あたりが島の南端に近い地点であり、ここから先、バスは進路を北へと変える。次に目指すのは、島の南西部に位置する犬田布地区。このあたりは広い丘陵地帯に畑が広がる一方で、その間には深い谷を刻む川が流れている。県道はそうした谷を大きな橋で越えていく。
前日、沖永良部からの飛行機の機窓からこのあたりを眺めた際にも、谷を跨ぐコンクリート橋やアーチ橋の姿が印象的だった。沖永良部島は高い山がほとんどなく、川も少ないため、大きな橋を見る機会はあまりない。一方で徳之島は、断崖の上に広がる丘陵地帯と、その背後に連なる山々が特徴的である。近接した島でありながら、その成り立ちは大きく異なっているのがよくわかる。
大きな橋を渡るとき、車窓には海が広がる。方角から考えれば、昨日まで滞在していた沖永良部島が見えるはずだと思い、目を凝らして探す。しかし、なかなか見つからない。島の標高が低いため、徳之島から見える山並みのような目印がないのである。何度か探した末に、ようやく水平線の向こうに平たい島影を見つけることができた。

バスは犬田布地区を通過。犬田布以降はバスの本数も減る。バスはやや内陸へと入りながら北上し、糸木名地区を通過すると、伊仙町から天城町へと入った。太陽の位置が車窓の反対側へと移り、島を周回していることを実感する。この先は、畑と集落、そしてアップダウンの続く道が繰り返される。
天城町内では西阿木名、瀬滝といった集落を通過していく。瀬滝集落の端にある兼久小学校前で、ようやく2名の乗客が乗り込んできた。このまま終点まで貸し切りかと思っていたが、利用客がいることにどこか安堵する。
バス停には路線バスの標柱と同時に、青いデマンドバスの標柱も立っている。これが天城町が運行し、乗車している車両が使われるデマンドバス「ユイ結いバス」のもの。天城町ではバスの本数が減る一方で、平土野方面へはデマンドバスを利用できるようになっている。
その後もバスはアップダウンの続く県道を進み、終点の平土野へと近づいていく。兼久小学校前から乗車した2人の乗客は平土野市街地手前の平瀬商店前というバス停で下車して行った。

やがてバスは平土野の市街地へ入る。どこが終点なのかが乗車するまでよくわかっていなかったが、バスはポケット公園前、天城町役場前を経由して、平土野郵便局前へ。郵便局の横に徳之島総合陸運の平土野停留所があり、ここがバスの終点だった。運賃を支払い、お礼を告げてバスを下車する。空港線の亀津-平土野間の運賃は950円だが、こちらはやや高い1,230円だった。
島の南側を経由して走る亀津-平土野線。青い海や丘陵に広がる畑の風景は、いかにも徳之島らしいものだった。そこに点在する集落を通り過ぎるたび、この島で続いてきた暮らしの気配がふと感じられる。そんな時間が、終点まで静かに流れていた。
天城町の中心地、平土野から犬の門蓋を目指してのんびり歩く

昨日は飛行機の機窓から眺め、その後空港線のバスで通り過ぎた平土野の街に到着した。これで今回巡る予定だったバス路線はすべて乗り終えたことになる。ここからも路線バスは何度か利用するが、徳之島の観光へ目的を移す。
平土野では3時間あまりの時間を設けていた。ここでは市街地から歩いて30分ほどの場所にある「犬の門蓋(いんのじょうふた)」という景勝地を訪ねる。徳之島を代表する観光スポットの一つだが、近くにバス停はなく、公共交通で訪れる場合は歩く以外に手段がない。しかし、のんびり歩いて向かうのも悪くない。
平土野は島の北西部に位置する天城町の中心地である。小高い丘の斜面に広がる市街地の頂上には、インドの世界遺産タージ・マハルを思わせるようなデザインの町役場が建っていた。おそらくバブル期ごろの建設だろうと思い調べてみると、やはりそうだった。本庁舎の入口へは長い階段が続いているが、別に駐車場も整備されている。ここを歩いて上る人はそれほど多くないのだろう。

役場の前を通り過ぎ、坂を下っていくと港が見えてくる。昨日乗車した空港-亀津間のバスも、先ほど乗ってきたバスもこの道を通る。左手に見えるポケット公園前バス停付近からは急な坂が海の方へと続き、その先には水平線まで続く海が広がっている。市街地を背にして海が広がるこの景色は、この街を象徴するものの一つとなっている。静かな市街地を歩き、港へと歩みを進めた。

やがて港へとたどり着いた。平土野の港には小さな砂浜が広がり、その奥にフェリーが寄港する平土野港がある。海岸では犬の散歩をする地元の人の姿も見られ、周辺には手狭ながらも港らしい風景が広がっていた。
平土野は亀徳と並び、この島の海の玄関口の役割を担っている。ここにはマルエーフェリーグループの奄美海運が運航する、鹿児島-喜界島-奄美大島-徳之島間のフェリーが発着している。現在は週4日の運航。かつては沖永良部島の知名港まで運航されていたが、現在は平土野-知名間は休止されたため、ここが航路の終点となっている。この日はフェリーの就航日。この時間帯はまだ車の往来も少なかったが、犬の門蓋から戻ってきた後には、コンテナを積んだトラックがひっきりなしに行き交う様子が印象に残った。なお、海の状態によっては亀徳新港の代替を担うこともある。

港から振り返ると、狭い路地に建物が密集しているのが見える。坂道の両側には小さな繁華街も広がり、どこか昔ながらの雰囲気を漂わせている。筆者は各地で駅前の市街地を歩くことが多いが、こうした街並みに出会うことも少なくない。さまざまな街で人々の営みを感じながら歩くことも、公共交通で旅をする楽しみの一つである。
市街地では建物の壁面に絵が描かれている場所が多く見られる。これは「平土野アートプロジェクト」の一環とのことで、歩きながらそれらを探してみるのも楽しい。

市街地を一通り歩いた後、いよいよ犬の門蓋へ向かって歩き始める。平土野から犬の門蓋までは、基本的に上り坂が続く。昨日、飛行機の機窓からも見た通り、徳之島の西側は丘陵地帯となっており、断崖の上に広い土地が広がっている。平土野はその窪地に位置し、入り江状の地形の斜面に市街地が形成されている。丘の上にはサトウキビやジャガイモの畑が広がり、奄美らしい風景が続く。振り返ると、天城町役場とその周囲に広がる市街地が見渡せた。

海沿いを進む道もあるが、こちらは帰りに歩くことにして、まずは畑の中を一直線に伸びる2車線道路を進む。すれ違う車の多くは軽トラックや農業用の車両で、この一帯が農業地帯であることを物語っていた。
緩やかな坂道を進んでいくと、やがて道路は大きく折れ曲がる。この道はここからおよそ3kmにわたって直線が続き、その先も緩やかなカーブを挟んでさらに1kmほど直線が延びている。沿道にはサトウキビ畑が広がることから、「シュガーロード」と呼ばれているという。犬の門蓋への入口はこの道を500mほど歩いた場所にある。果てしなく続く道をひたすらに歩いていく。

坂を上るにつれて、背後に広がる海が次第に大きく見えてくる。やがて遠くから飛行機の音が聞こえ、鹿児島から到着したと思われるATR42-600が徳之島空港へ向けて高度を下げていった。昨日は筆者自身も、その機内からこのあたりの景色を眺めていた。あちらから見れば、ここが断崖の上に広がる丘陵地帯であることがよく分かるのだろう。
今まさに機内の窓からこの島を見て、「徳之島へ来た」と実感している人もいるはずだ。やがて飛行機は徳之島空港へと着陸し、ターボプロップ機特有の音が風に乗ってこちらまで届いてきた。一方で、周囲はどこまでものどかである。畑の合間には牛舎があり、牛の鳴き声が響く。その向こうでは、かすかに海の音も聞こえていた。

犬の門蓋へと続く分岐点にたどり着き、後ろを振り返ると、歩いてきた道の先に青い海が広がっている。離島らしい風景に、しばらく見入ってしまった。この時期は多くの畑でサトウキビの収穫が終わっているが、時期によっては沿道に背丈ほどのサトウキビが生い茂り、さらに南国らしい景観が広がるという。何気ない風景の中に、その土地らしさがふと現れる瞬間が、筆者はとても好きである。
離島であるがゆえに降雨の偏りが大きく、過去には干ばつの被害も受けてきたというこの地域。交差点の一角には、国のかんがい排水事業と同時に実施されている県の畑地帯総合整備事業について紹介する看板が立てられていた。

交差点を曲がり、犬の門蓋へと向かう細い道へ入る。何台かの車に追い越されながら進んでいく。この周辺は、奄美地方の世界自然遺産登録を契機に整備された自然遊歩道「奄美トレイル」の一部にもなっている。平土野から犬の門蓋を経て海沿いに戻るこのコースのテーマは「五感で楽しむ島の自然と人々の暮らし」である。実際に歩いてみると、平土野の街で人々の営みを感じ、シュガーロードでは島の自然と農業の風景に触れることができた。この時間はまさに、そのテーマを体現するようなものだったように思う。
やがて、平土野から歩いて30分ほどで犬の門蓋に到着した。断崖の先に広がる海の景色に早速圧倒される。ここからは1時間半ほどかけて、この景勝地をゆっくりと巡ることにする。その様子は次話で書くことにして、ここで一度区切ることにする。
続く