【旅行記】まだ見ぬ九州に出会う旅 沖永良部島・徳之島編〜バスと徒歩で犬の門蓋、花徳浜・里久浜を観光する〜

 
 沖永良部島と徳之島を路線バスで巡る旅。最終日は亀津を起点に、島の南側を経由するバス・亀津-平土野線に乗車し、今回の旅で予定していたすべての路線を乗り終えた。ここからは平土野から歩いてたどり着いた犬の門蓋を皮切りに、いくつかの景勝地を巡りながら、夕方の帰りの飛行機まで、徳之島の風景を味わう。

メガネ岩で知られる「犬の門蓋」を観光する

 平土野の市街地のやや南側に位置する「犬の門蓋(いんのじょうふた)」。徳之島が誇る観光地の一つで、奄美群島国立公園内に含まれる景勝地である。徳之島の観光パンフレットには、「メガネ岩」と呼ばれる奇岩がこの景勝地の代表として掲載されることが多いが、このメガネ岩だけでなく、周辺の荒々しい海岸線を含めて、とても見ごたえがある。駐車場の脇には、沖永良部島の田皆岬やフーチャにあったのと同じモニュメントが設置されている。徳之島空港からも近く、車では15分ほどで手軽に訪れることができる景勝地である。
 読み方が少々特殊な「犬の門蓋」。1日目に沖永良部で訪れたワンジョビーチも漢字で書くと「湾門」と書き、やはり門を「じょー」と読む。奄美周辺の方言としての読みなのだろう。一方で「犬」を「いん」と読むのは薩摩弁にも共通する。九州本土の南部でも「いん」と読むことが多く、おそらくその読みが奄美の島々へも伝わっていると考えられる。ちなみに名前の由来については、鹿児島県のホームページでは、飢饉の際に食べ物をあさる野犬を捕まえて海へ投げ入れたことに由来するとされているが、諸説あり詳しくはわかっていない。
 平土野から歩き出した時には雲が広がっていたのだが、歩いている間に次第に青空が広がりはじめ、まるでタイミングを合わせたかのように、犬の門蓋に着くと同時に太陽も顔を出した。まずは展望台に上り、周辺の景色を一望してみることにした。
 
 展望台へ上ると、その見晴らしのよさに圧倒された。切り立った崖の上に立つ展望台からは、徳之島の西側に広がる東シナ海を一望できる。青空が広がると、海もより一層青くなる。深いブルーの海は水平線まで続いている。
 この日は風はさほど強くなかったが、前日までに比べれば波がやや高く、沖合の海も白波を立てていた。海からは轟音が響き、海岸に打ち寄せた波が恐ろしいほどの高さまで打ち上がる様子が見える。このあたりでは冬から春にかけてクジラを見ることができるという。展望台に設置された望遠鏡は、キャップを外せば自由に利用できた。沖合を探してみたが、この時間は残念ながらその姿を見ることはできなかった。
 
 こちらは島の北側を眺めている。奥に見える山は、前々話の空港線のバスの乗車記でも紹介した、通称「寝姿山」と呼ばれる山である。左側を頭にして妊婦が横たわっているように見えることから、子宝の島の象徴ともいわれている。徳之島は島の北側と中央から南側の2か所に連山が聳えており、この寝姿山は、北側の天城岳を中心とした連山を南側から見たときに姿を現す。空港線のバスが走る県道は、この2つの連山の間を抜けて東海岸へと向かっている。
 一方、寝姿山の手前で海へせり出し、白波を立てている海岸が見える場所が徳之島空港の滑走路の南端である。空港の施設もここからはっきりと確認できる。平土野の街は空港との間に位置しているが、入り江となっているうえに手前の丘が高いため、市街地自体はほとんど見えない。
 
 一方で南側の景観もまた美しい。南側は砂浜ではなく岩の海岸がしばらく続いており、その中にはまるでキノコのような形をした独特の奇岩も見られる。奥に見える岬の先には、うっすらともう一つの岬が見えるが、これが犬田布岬である。
 何より美しいのはこの海の青さである。コバルトブルーとエメラルドグリーンの海が見事なグラデーションを描いていた。この水平線の先に、昨日までいた沖永良部島がある。沖永良部島からは山が聳える徳之島が西側からも見えた一方で、こちらからは比較的平坦な沖永良部島は、逆光であることもあり確認するのは難しい。
 
 さて、展望台からの景色を楽しんだ後は海岸線へと降りていく。展望台の脇から続く階段を一歩一歩進んでいくと、やがて海岸に出る。途中から望む海の景色もまた美しい。同時に、両側に生える植物も南国らしさを演出していた。海岸へと近づくにつれて、遠くで聞こえていたサトウキビ畑の刈り取り音は消え、次第に海の音が耳を支配していく。
 
 階段を下り、崖の隙間を抜けると、岩の間に二つの穴がぽっかりと開いた奇岩が現れる。これがこの犬の門蓋の景観を代表する「メガネ岩」である。徳之島はプレート活動による付加体を基盤とし、その上にサンゴ礁が堆積・隆起して現在の島の形がつくられている。島の西海岸には、このサンゴ礁が隆起した石灰岩の海岸線が続いており、それが長い年月をかけて海に浸食され、独特の景観を形成している。メガネ岩も、およそ150万年から100万年前に隆起したサンゴ礁が、海の浸食によって二つの大きな穴を開けた自然の造形である。
 
 メガネ岩のある狭い崖の隙間の横へ進むと、荒々しい奇岩が連なる海岸を望むことができる。海へと突き出た岩場に波が当たると、背丈を超えるほどの水しぶきが上がり、それが風に乗ってこちらまで届く。時には見ている場所のすぐそばまで波が押し寄せることもあった。その「ゴーッ、ドン」という音は、砂浜とは異なる荒々しさを持ち、恐怖心すら感じさせる。しかし、その光景はなぜか見飽きることがない。単調でありながらも複雑な、岩と波のせめぎ合いに、地球の営みを感じずにはいられない。
 
 今度はメガネ岩をくぐり抜けた先から海岸を眺めてみる。沖永良部島の田皆岬やフーチャと同様に、ここにも柵などは設置されていない。鋭く尖った岩に足を取られないように、そして何より転落しないように、細心の注意が必要である。
 メガネ岩の向こうは小さな入り江のようになっており、白波が奥へと打ち寄せてくる。こうして今も少しずつ海岸は削られている。それが数年では目に見える変化をもたらさなくとも、100万年という時間の中では確かな変化となる。今から100万年後など想像もつかないが、地球にとってはごくわずかな時間である。その時、きっとこの場所の景色も大きく変わっていることだろう。
 
 メガネ岩周辺の荒々しい海岸を堪能した後は、再び展望台へと戻り、しばらく海を眺めていた。来たときには車で訪れていた観光客が数人いたが、この時間には人の姿はなく、辺りは静寂に包まれている。
 改めて見下ろす海は、思わず見とれてしまうほどに美しい。海底のサンゴ礁がはっきりと見えるほど透き通り、キラキラと輝いている。このエメラルドグリーン寄りの青は、個人的に最も心惹かれる色かもしれない。何をするでもなく、ただこの景色を眺める。日常での「何もしない時間」は暇に感じられるが、旅においてはそれこそが贅沢なひとときだった。

海沿いの道を歩いて平土野へ戻る

 さて、犬の門蓋を訪ねた後は、再び平土野の市街地へと戻る。往路はシュガーロードと呼ばれる道を歩いてきたが、帰りは海沿いの細い道を歩いて帰ることにした。
 シュガーロードが平土野の市街地近くまで緩やかな下り坂となっている一方で、海沿いの道はアップダウンを繰り返し、何度もカーブしながら続いている。3日間歩き続けてきた足は、そろそろ悲鳴を上げそうになっていたが、急ぐ必要もない。時折立ち止まりながら景色を眺め、ゆっくりと進んでいった。
 
 奄美トレイルのコースの一部となっているこの道。広がる海の景色が美しく、歩いているだけでも心が落ち着く。同時に、海から響く波の音が、心を洗い流してくれるような感覚に包まれる。通る車も歩く人もなく、風が沿道の草木を揺らす中、静かな時間が流れていた。
 
 やがて平土野の市街地が近づくと、平土野港を高い場所から見下ろす。その後、海沿いの道は内陸へと向かっていく。20分ほど歩いてようやく現れた民家の前を通り過ぎると、犬がこちらに気付いて吠え始めた。驚かせてしまって申し訳ないと思いつつ、のどかな景色の中を歩き続ける。やがて坂道を下ると、シュガーロードから続く道へと合流し、再び平土野の街へと戻ってきた。

空港線のバスに乗車し、道の駅とくのしまへ

 平土野周辺で3時間余りを過ごした後は、再び路線バスに乗車。今度は島の反対側、東海岸へと向かった。ちょうど時間はお昼時。東海岸にほど近い道の駅にレストランがあるということで、まずはバスでそちらへ向かい、その後は東海岸のビーチを歩いてみることにした。
 空港からのバスは、時間通りに平土野のポケット公園前バス停へとやってきた。乗り込んで運転士さんに、道の駅の前で降ろしてほしいと伝える。昨日の沖永良部島に引き続き、ここでもフリー乗降制度を活用する。車内に先客はおらず、平土野から乗車したのも筆者一人だった。
 バスは平土野から県道80号線を進み、山間ののどかな景色の中を走る。10分ほどで道の駅の前に到着した。降りる際、運転士からこの後はどうするのと尋ねられ、「帰りは向かい側でバスが来たら手を上げてくださいね」と丁寧に案内を受けた。なお、道の駅の最寄りのバス停は花徳三叉路であり、ホームページや乗換案内アプリでは、その少し先にある花徳(支所前)バス停が代表として表示されている。
 
乗車(搭乗)記録 No.10 徳之島総合陸運 亀津-空港線 亀津待合所行 ポケット公園前→道の駅とくのしま付近
 
 道の駅とくのしまは、この島で唯一の道の駅で、2024年12月にオープンした新しい施設である。奄美地方では奄美大島と徳之島にそれぞれ1か所ずつ道の駅が設けられている。施設内には土産物などを扱う物産館とレストランがあり、隣には世界遺産センターも併設されている。休憩施設としての役割に加え、島の新たな観光拠点としての機能も担っている。この日は火曜日で、あいにく世界遺産センターは定休日だった。センターでは世界自然遺産に登録された徳之島の自然の魅力を発信している。
 平土野で歩き回ったものの、朝から何も食べておらず、お腹も空いていたため、さっそくレストランで昼食をとることにした。さまざまなメニューが並ぶ中、やはり奄美らしい一品を選びたいと思い、「鶏飯オムライス」を注文した。
 鶏飯オムライスは、その名の通り鶏飯とオムライスを組み合わせたような料理で、オムライスに加えて薬味と燻製の鶏肉が添えられ、自分でスープを器に注ぐスタイルになっている。テーブルには食べ方の案内が置かれており、それに従っていただく。まずはそのまま、次にスープをかけてと段階を踏みながら味の変化を楽しみ、最後はオムライスに薬味をのせてスープを注ぐ。すると、オムライスが鶏飯のような味わいへと変化するのである。とてもおいしい昼食を食べることができた。

美しい砂浜が広がる花徳浜と里久浜ビーチを歩く

 レストランで食事をとった後は、近くのビーチを見に行ってみることにした。道の駅から歩いて20〜30分の場所に花徳浜と里久浜という2つの砂浜がある。花徳の集落の中を通る県道80号線を歩き、まずは花徳浜へと向かった。
 
 この日は本当に天気との相性がよく、道の駅を出る時にはやや曇っていたのに、先ほどの犬の門蓋と同様に歩いている間に晴れてきて、ビーチへ着くころには青空が広がった。天気ばかりはその時の運だが、やはりビーチは晴れていないと映えないので、お天道様にでも感謝したくなる。
 花徳の集落の海岸線に広がる花徳浜。白い砂浜が弧を描くようにして1.5kmほど続いている。サーフィンを楽しむサーフビーチとして有名で、昨年はサーフィンの世界大会アジア予選もここで開催されたという。白い砂浜とエメラルドグリーンの海。弧を描いた先の小さな岬の沖合には、請島らしき島が見えていた。
 
 誰もいない砂浜にポツンと身を置き、目の前に広がる大海原を眺める。砂浜に足跡をつけるのが申し訳ないほど、白い砂は波によってきれいに整えられていた。花徳浜の南側には、すり鉢のような形をした小高い山がある。この山の向こう側にもビーチが広がっているということで、次は歩いてそちらへ向かった。
 
 花徳浜から再び県道へと戻り、10分ほど歩いて隣の里久浜というビーチへ移動。徳之島町立東天城中学校の向かい側にあるこのビーチは、徳之島でも有名な海水浴場の一つとなっている。先ほどの花徳浜とは異なり、手前に山があるため景色の印象も変わる。砂浜はどうしても平坦な写真になりがちだが、ここではすり鉢状の山がアクセントとなっていた。
 
 こちらも観光客は筆者ひとりだけ。誰もいない砂浜から青い海を見つめる。遠くには請島・与路島・加計呂麻島あたりの山影が見える。空には青空が広がり、清々しい光景が広がっていた。ここでもしばらく海岸の眺めを楽しみ、徳之島の海の青さを味わった。
 このビーチには宿泊施設も併設されているようだった。晴れた日には、ここでのんびり過ごすのも気持ちがよさそうである。美しい海岸を眺めていると、旅の終わりが近づいていることが、どこかもったいなく感じられる。海の音を聞いているだけでも心地よい時間だった。
 里久浜を観光した後は、バスの時間までもう少し余裕があったため、歩いて道の駅へ戻ることにした。帰りも県道を歩く。じわじわと続く上り坂は思った以上に大変だったが、道路脇の民家や作業場の音、県道を走るトラックやトレーラーの音、そして追い抜いては追い越される郵便屋さんとの小さな競争。そうした島の日常を垣間見ることができた時間だった。歩くからこそ感じられるこの土地の暮らしを、改めて実感するひとときとなった。

路線バスで平土野へ戻り「結いの館」を見学

 里久浜から歩いて道の駅徳之島へと戻ってきた。昼どきは車も多く、物産館やレストランも賑わっていたが、この時間になると車も少なくなっていた。路線バスの時間までもう少し余裕があったので、店内で売られていたジェラートを購入し、休憩がてら味わった。
 やがてバスの時間が近づいてきたので、道の駅前の道路上で待機する。しばらくして現れたバスに手を挙げて乗車の意思を示し、そのまま乗車した。今度はコンビニに立ち寄りつつ次の観光スポットへ向かうため、平土野のこの道の突き当たりで降ろしてもらうよう運転士に依頼する。すると運転士は「ファミリーマートに行くの?」と一言。さすがは運転士さんで、降車場所から行き先をすぐに察していた。
 
乗車(搭乗)記録 No.11 徳之島総合陸運 亀津-空港線 空港行 道の駅とくのしま前付近→天城三叉路付近
 
 平土野へ戻ってバスを降り、天城町で唯一のコンビニへ向かう。徳之島には亀津に2か所、伊仙に1か所、平土野に1か所の計4か所にファミリーマートがある。ここで全国チェーンのコンビニに立ち寄ったのは、九州人ならではの理由があった。
 徳之島のファミリーマートでは、通常のラインナップとは別に総菜やパンが販売されている。これはもともとこの店舗が「エブリワン」という九州限定のコンビニだった頃の名残である。現在も奄美エリアの店舗ではそれが引き継がれ、パンが並んでいる。筆者もかつてエブリワンでよくパンを買っていたため、この光景がどこか懐かしく感じられた。ここではいつくかパンを購入した。
 
 その後は少し歩いて、天城町の図書館や防災センターなどが集まる一角へ向かい、この中にある天城町歴史文化産業科学資料センター「ユイの館」を見学した。徳之島の各町には、この施設と同様の資料展示館があるようで、ここでは天城町を中心とした徳之島の歴史や産業の成り立ちが一通り紹介されている。入館料は200円で、通常は月曜日が休館日となっている。
 
 館内は思った以上に広く、島の地質的な成り立ちや古代の遺跡に関する展示から始まり、近世の人々の暮らしや西郷隆盛との関わり、さらに戦時中の徳之島の様子や浅間飛行場についてなど、島の歴史を幅広く知ることができた。徳之島には遺跡も多く、数万年前の生活の痕跡が残されているという。
 展示は2階にも続き、こちらでは島の産業文化に関する内容が紹介されていた。サトウキビの生産や製糖の工程、かつて使われていた農機具など、島ならではの産業の姿が詳しく解説されている。ここでは45分ほどかけてゆっくりと見学し、徳之島の歴史への理解を深める時間となった。

平土野の市街地から歩いて徳之島空港へ

 結いの館を見学し、この日予定していた徳之島観光で訪れる場所はすべて巡り終えた。残すはいよいよ空港へ向かい、帰りの飛行機に乗るだけである。やがて終わる旅に寂しさを感じるのはいつものことだが、今回はその感覚がより一層強く感じられた。
 近くからバスに乗車するというのも一つの手だが、飛行機の出発まではまだ2時間ほど時間があった。あまり早く空港へ着いてもやることはない。40分ほどかかるが、あえて歩くという選択をした。その方が最後まで島の雰囲気を味わえると思ったからである。
 施設を後にし、消防署の前を通過して海の方へ向かう細い道を進む。九州電力の新徳之島発電所の裏手を回り込むように歩き、やがて海岸沿いへと出た。あとはこの道をひたすら歩いていけば空港へたどり着く。発電所の煙突や燃料タンクが並び、どこか臨海部の雰囲気が漂う平土野の海沿い。その奥に見える崖の上を、午前中には犬の門蓋から歩いてきた。
 
 平土野の街を後にし、空港へ向かって歩いていく。海沿いの道路はカーブを描きながら、坂道の向こうへと続いている。太陽の光はまぶしいが、海を眺めながらの道のりも悪くない。車の通りは多くなく、農業用のトラクターとゆっくりとすれ違った。
 
 坂を登りきって振り返ると、平土野港のあたりを一望することができた。次第に遠ざかっていく街並み。この街との別れとともに、この島との別れも近づいている。自然と寂しさのようなものがこみ上げてきた。
 日が西に傾き、大海原は光を受けて輝いている。しばらくはサトウキビ畑が広がるのどかな景色が続く空港への道。道路脇の牛舎の外では、一頭の牛がこちらを見つめていた。徳之島はどうだったかと問いかけるようなその眼差しに、思わず手を振って応えた。言葉にするまでもなく、この旅がこれまでの中でも、そしてこれから先も印象に残るものになることは間違いないだろう。
 
 しばらく海を眺めながら歩くと、湾屋川に架かる橋へと差しかかる。時計を見ると、昨日徳之島に到着したのとほぼ同じ時刻だった。ふと振り返ると、遠くから飛行機がこちらへ近づいてくるのが見えた。24時間前に搭乗した沖永良部から徳之島へのJAL3710便を、今度はこの島から眺める。次の島はどんな場所だろうかと機窓から思いを巡らせていた、1日前の自分が目の前を通り過ぎていくような、不思議な感覚に包まれた。沖永良部島とはまた違った離島の魅力と絶景に出会った、徳之島での一日だった。
 最終日も歩き続け、いよいよ足も重くなってきた。橋のたもとの河川敷の階段に腰を下ろし、しばし休憩する。奇しくもその場所は、西郷隆盛が遠島の際に徳之島へ上陸した地でもあった。現在は徳之島空港の滑走路南端付近に、ひっそりと記念碑が建てられている。西郷隆盛は徳之島に上陸後、再び沖永良部行きを命ぜられ、同島の伊延へと渡っている。なお、その上陸地の近くに見える円形の施設は、VOR/DMEと呼ばれる航空保安施設である。
 
 河川敷での小休憩を終え、再び空港へ向かって歩き出す。滑走路のすぐそばまで来ているため、ターミナルまではもうひと息だが、歩いてみると意外と距離を感じる。
 途中の道路沿いには「陸の中の海【ウンブキ】」と書かれた看板が立っていた。近くには下へと続く階段があり、沖永良部島で見た暗川にも似た光景が広がっている。陸の中に海があるとはどういうことだろうか。気になり、階段を下りてみることにした。
 
 階段を下りると、周囲を木々に囲まれた広い空間が現れ、その奥に通路が続いている。その先へ進むと、大きく口を開けた鍾乳洞が姿を現した。手動式のスイッチでライトを点灯させると、入口が照らされ、水面が深い緑色に輝いた。
 「陸の中の海」とあるように、ここは海水に満たされた鍾乳洞である。見えているのはその一部に過ぎないが、内部は広範囲に広がっているという。鍾乳洞内は海水と地下水で満たされており、潮の満ち引きによって水位が変化する。どこかで海とつながっていると考えられているが、その出入口は現在も確認されていない。この鍾乳洞はかつて陸上にあったものが、海面上昇によって水没し、現在の姿になったとされる。内部からは縄文土器も発見されており、かつては生活の場として利用されていた可能性もある。空港のすぐ近くに、これほど神秘的な空間が広がっていることに驚かされた。
 
 「ウンブキ」に立ち寄った後も、サトウキビを刈り取る農作業を横目に見ながら歩き、徳之島空港へと戻ってきた。1日目、2日目もそれぞれ15kmほど歩いたが、最終日も同じくらいの距離を歩き、3日間の総歩行距離は45kmあまりとなった。公共交通を使う旅では比較的よく歩くものの、ここまで歩いた旅はそう多くない。昨年、別件で東京を訪れた際にも友人と都内を歩き回ったが、今回はそれを上回る距離となった。数日間は足に疲労が残ったものの、それでも歩く旅の楽しさは変わらない。各地の日常に触れ、小さな発見を重ねていく。それが徒歩旅の魅力だと改めて感じた。
 さて、いよいよ今回の旅も終わりの時が近づいてきた。徳之島空港からはJALの鹿児島行きに搭乗。45分ほどのフライトで鹿児島空港へと戻り、今回の旅を締めくくった。
 
続く