〔今日の交通〕JR九州 キハ140形・47形 「いさぶろう・しんぺい」

・令和2年7月豪雨で被災も風光明媚な路線として人気の高い肥薩線
肥薩線は鹿児島本線の一旦の終点である八代駅から人吉・吉松を経由して鹿児島県の隼人駅までを結ぶローカル線である。JR九州の各線の中でも多くの観光列車が走る路線として知られ、「SL人吉」「かわせみ やませみ」「はやとの風」などが運行されている。また「ななつ星in九州」の3泊4日コースの通過経路にもなっている。日本三大急流に数えられる球磨川と並走し、同じく日本三大に数えられる霧島連山を望む車窓は、鉄道ファンのみならず、近年では訪日観光客からも人気がある。しかし、今年7月のこの地域を襲った水害により、特に八代-人吉の"川線"区間が、ほぼ全線に渡り壊滅的な被害を受け、現在八代駅と吉松駅との間で不通が続いている。以前は博多と宮崎を結ぶ動脈としても機能していた同線だが、近年では高速道路の開通により利用者が激減しており、観光列車を運行するなどのテコ入れが行われてきた。しかし、今回の被災額は数百億円に達するとみられており、並行する道路も深刻な被害を受けているため、復旧の議論にこぎつけるにも数年以上かかるものと思われる。
・肥薩線の観光列車のパイオニアである「いさぶろう・しんぺい」
「いさぶろう・しんぺい」は熊本・人吉~吉松間で運行される列車で、その名前は同線の建設に尽力した当時の逓信大臣と鉄道院総裁の名に由来する。同線の中央部に位置し、最大の長さを誇る矢岳第一トンネル入口には両氏の扁額あり、当時は国を挙げた大工事だったことが伺える。関門トンネル区間を除けば、この区間が青森から鹿児島までの鉄路において最後の開通区間であった。下りが「いさぶろう」、上りが「しんぺい」であり、同じ車両でありながら、上下で列車名が異なる列車となっている。現在の車両での運行となったのは、2004年の九州新幹線新八代-鹿児島中央間の開業時である。列車自体はそれ以前から存在しており、キハ31形またはキハ40形1両で座席の一部に畳を敷いてある観光列車がルーツとなっている。2004年3月に現在の形となった際にはキハ140形1両(写真の1両目)のみだったが、後にキハ47形2両が増備され、2~3両編成での運転となっている。近年ではキハ140形は予備車の扱いとなり、基本的にはキハ47形2両で運転される場合が多い。キハ140形はキハ47形検査時に使用されるとともに、「かわせみ やませみ」の予備車も兼務しており、車内は天井模様などが、「かわせみ やませみ」と似たものになっている。2017年の特急「かわせみ やませみ」の運行開始に伴い、この列車の熊本-人吉間についても特急列車としての運行が開始された。特急列車として運行されるのは同区間のみで、人吉~吉松間は全列車が普通列車として運転される。普通列車として運転される区間であっても、ほとんどの座席が指定席となっており、自由席での乗車も可能だが、基本的には指定券を買って乗車する。全席指定としないのは、人吉-吉松間の各駅からの日常利用客を想定しているためである。
なお、先述の通り、令和2年7月豪雨で運行区間が不通となり、同列車も運休を余儀なくされている。現在は「かわせみ やませみ」と併結した4両編成で博多~門司港間を臨時運行されている。
写真:JR九州 キハ140形・キハ47形 特急「しんぺい4号」熊本行 肥薩線那良口-渡