【旅行記】長崎本線普通”電車”と特急かもめDXグリーンの旅

長崎駅に停車する817系 長崎駅に在来線電車が入線するのもあとわずか
長崎駅に停車する817系 長崎駅に在来線電車が入線するのもあとわずか
 
 2022年9月23日に開業する西九州新幹線。武雄温泉から長崎間が開業し、途中に嬉野温泉、新大村、諫早の各駅も設置される。昨年春、瀬高から彼杵駅へと路線バスで旅した際には、武雄温泉駅や嬉野温泉駅の建設中の様子を、また夏の島原半島旅行では生まれ変わった諫早駅の姿も見てきた。特に長崎県では新幹線開業を心待ちにしているようだ。一方、現在は特急街道となっている長崎本線の肥前山口~諫早間は並行在来線となり、新幹線開業後は特急かもめの運行がなくなる。運行計画によれば、新幹線開業後は線路を佐賀県と長崎県が設立する第三セクターが所有し、運行をJR九州が担う上下分離方式に移行、特急列車の運行は博多~肥前鹿島間で引き続き行われる予定だが、肥前鹿島以南の区間では特急列車の運行が完全になくなることとなる。また、第三セクターに移管される肥前山口~諫早間のうち肥前浜~諫早間と、引き続きJR九州が保有・運行する長崎本線の諫早~長崎は"非電化化"され、架線が撤去される予定となっている。したがって、新幹線開業後は肥前浜以南では電車の運行は一切行われなくなる予定となっている。そのため、長崎本線を全線通しで運行される普通列車と肥前浜以南を運行される"電車"普通列車も、長崎まで走る特急かもめと合わせてもうすぐ見納めとなる。そこで今回はこの長崎本線を走る特急かもめと"電車"普通列車に乗車し、廃止前の特急街道としての長崎本線を堪能する旅を企画した。
 

旅のはじまりは久留米駅から

 今回の旅は久留米駅からスタート。時刻は10時前後と遅めのスタートだが、長崎へ向かう普通列車は長崎駅を正午すぎに発車するので時間にはかなり余裕がある。普通・快速列車で鳥栖まで行けばせいぜい10分程度だが、時間もあるのでこういうときは路線バスに乗車する。久留米地区は昨年の春に佐賀から江見経由で久留米に向かう路線と、久留米から八女を結ぶ路線に、そして秋には吉井から久留米へと向かう路線に乗車しているが、今回は北側の久留米から鳥栖へと運行される路線に乗車してみる。久留米と鳥栖を結ぶ路線は2路線あり、JR久留米駅を起点に西鉄久留米を経由して国道3号線を上る10番、西鉄久留米を起点にJR久留米駅、肥前麓駅などを経由して鳥栖駅まで運行される41番の2つがある。今回は前者を選択した。快速列車なら久留米から鳥栖まで7分で着くが、バスなら45分はかかる。バスは西鉄久留米駅、久留米警察署を経由して国道3号線経由で久留米駅へと向かう。鳥栖駅の裏手側は鳥栖JCTが立地することから九州の物流の拠点となっており多くの物流企業の倉庫が軒を連ねている。バスはこうした風景を横目に鳥栖市街へと入っていくが、写真がないので詳しくは割愛する。
 

鳥栖駅で駅うどんを食べて腹ごしらえ

中央軒が運営する鳥栖駅の立ち食いうどんそば
中央軒が運営する鳥栖駅の立ち食いうどんそば
 
 久留米駅からのバスは鳥栖駅には定刻からやや遅れて到着。それでもまだ時間があるのですぐに改札を抜けて5・6番のりばへと向かう。鳥栖駅は駅構内に立ち食いそば・うどんの店が設置されている。今回はえび天うどんを食べた。まだ11時半だったので他に客はいない。旅行したのは冬のとある日だったが、北風がホームに吹き込むなかで食べるうどんはとても沁みた。食べ終わる頃に来店する客が増え、お昼になる頃にはたくさんの乗客がそばを食していた。お昼を食べて一息ついたところで、いよいよ長崎への普通列車の旅が始まる。
 

長崎本線を3時間強で走破する普通列車に乗車

 さて、いよいよ長崎まで普通列車の旅が始まる。乗車するのは長崎本線2851M鳥栖始発長崎行の普通列車。鳥栖を12時4分に発車し、終点長崎には15時24分に到着する。長崎本線の普通列車は特に肥前鹿島~諫早間の運行本数が少なく、佐賀県と長崎県の県境がある肥前大浦~小長井間の運行本数は1日7往復程度で最も本数が少ない。佐賀駅側からは肥前鹿島、肥前浜、太良、肥前大浦止まりの区間列車が設定され、諫早側からも湯江、小長井止まりの区間列車が設定されているが、鳥栖から長崎まで長崎本線を全線通しで運転される列車は上り2本、下りが4本の計6本とわずかである。
 
肥前山口駅で小休憩する鳥栖発長崎行普通列車
肥前山口駅で小休憩する鳥栖発長崎行普通列車
 
 鳥栖では博多方面からの乗り換え客を中心に混雑し、座席がすべて埋まる程度で発車した。佐賀以東の長崎本線は福岡都市圏への通勤通学流動が大きく、佐賀止まりの特急かもめも運転されるほどだ。新鳥栖、肥前麓、中原と停車していくと、次第に車内の混雑も落ち着き、背振山地を右手に見ながら佐賀平野を快調に走っていく。この列車は佐賀まで先着し、特急に抜かれることはない。佐賀には30分程度で到着し、多くの乗客がここで下車していった。佐賀では6分停車し、後続の特急かもめが先行する。885系で運転されるかもめからは多くの乗客が下車していったが、普通列車に乗り換えたのはほんのわずか。窓側にも空きがある程度で佐賀駅を発車した。列車は再び佐賀平野の田園風景を走り、バルーンフェスティバル開催時のみ営業されるバルーンさが駅を通過、唐津線と別れる久保田を経由して肥前山口駅に到着した。
 
長崎本線と佐世保線の分岐駅肥前山口 新幹線開業と同時に江北駅へと名を変える
長崎本線と佐世保線の分岐駅肥前山口 新幹線開業と同時に江北駅へと名を変える
 
 肥前山口では17分間停車し、佐世保線の普通列車が接続を取って先に出ていく。ここで乗客の半分はそちらに乗り換えていき、車内は閑散とした。肥前山口駅は地元の要望により、新幹線開業日以降は江北駅へと名前を変える予定となっている。最長片道きっぷの旅の終点で知られるこの駅だが、肥前山口の名前が使われるのももう少しである。
 
佐賀平野を抜けると青空が広がる 肥前山口から先は単線区間となる
佐賀平野を抜けると青空が広がる 肥前山口から先は単線区間となる
 
肥前浜駅から先は車窓に有明海を臨む 817系の大きな窓からの景色が美しい
肥前浜駅から先は車窓に有明海を臨む 817系の大きな窓からの景色が美しい
 
 列車はここから長崎本線の単線区間に入る。肥前竜王で上りの特急列車を退避して肥前鹿島へ。ここで車内は1両あたり2・3人程度となった。次の肥前浜は祐徳稲荷神社の最寄り駅で、ここが長崎本線の電化区間の終点となる予定である。新幹線開業後はこの駅まで電車が運行されるが、ここより南側では新型車両のYC1系で統一される予定である。この先は車窓に有明海が望めるようになり、対岸の柳川や大牟田、荒尾あたりの景色を臨むことができる。太良駅と肥前大浦駅の間にある里信号場は有明海の入り江に沿って線路が敷かれており、大きくコの字を描いて列車は走っていく。車窓の前方にこれから走る線路が見えるので個人的に長崎本線で好きな車窓の一つである。この里信号場の前後は有名な撮影ポイントである破瀬の浦の鉄橋や白浜海水浴場があるところで列車撮影でも風光明媚な場所として知られている。
 
長崎本線の佐賀県最後の駅である肥前大浦 ここから先は長崎県へと入る
長崎本線の佐賀県最後の駅である肥前大浦 ここから先は長崎県へと入る
 
長崎県に入って最初の駅である小長井駅は目の前が海で雲仙の山々を臨む
長崎県に入って最初の駅である小長井駅は目の前が海で雲仙の山々を臨む
 
 長崎本線の佐賀県最後の駅である肥前大浦駅は、早朝にはここを始発に門司港行の長距離普通列車も設定されている。列車はこの駅では普通列車と上りの特急列車の2本の行き違いを行った。肥前大浦を出るといよいよ長崎県へ。最初の停車駅である小長井駅は駅の隣が海。ここでは雲仙普賢岳と島原半島の景色を楽しめる。ここから諫早方面は街の大きさの割に普通列車の本数が少ないが、路線バスも多数運転されておりそちらがメインの移動手段になっているものと思われる。車窓には依然として島原半島を臨むが湯江駅の手前で諫早湾干拓堤防道路を見ることができる。列車は湯江で数分間停車して下りの特急かもめの通過待ちを行い、諫早に着く直前の東諫早でも上りの特急かもめの通過待ちを行う。単線路線のためこうした通過待ちが多いのも運行時間が長くなる原因である。列車は大変貌を遂げた諫早駅へ。どこの駅だったかわからないほどに変化した諫早駅、この旅行の半年ほど前に来た時にその変貌ぶりにびっくりしたことを覚えている。諫早駅では早岐駅から続く大村線と合流するが、その大村線と一緒に西九州新幹線の真新しい線路も一緒に近づいてくる。諫早からは多くの乗客が乗り込むと予想したが、そこまで混雑はしなかった。諫早から長崎間の移動には特急列車や直行バスも使われるのだろうか。この先喜々津から浦上間は旧線であるいわゆる長与経由の列車もあるが、この列車は電車のため当然市布経由で運転される。市布、肥前古賀、現川と、トンネルと高架で一気に進むが、ここでも市布と現川で行き違いのために数分間停車した。長崎トンネルを抜けると長崎市街に入っていく。浦上駅と長崎駅は駅の高架化後初訪問となった。列車は定刻の15時24分に長崎駅に到着し、長崎本線を普通列車で走破した。
 

駅位置が移動して高架駅となった長崎駅を訪問

新駅舎となって久しい長崎駅 様変わりしすぎて違う駅のよう
新駅舎となって久しい長崎駅 様変わりしすぎて違う駅のよう
 
 先述の通り長崎駅は新幹線開業を前に2020年3月に高架化され、新しい駅舎となっている。駅位置自体も数百メートル横に移動しており、以前は長崎車両センターやJR貨物の長崎オフレールステーションがあった場所にある。長崎電気軌道の長崎駅前電停や長崎駅のバス乗り場からはかなり距離がある。以前の長崎駅があった場所に駅前広場が整備され、路線バスはここに乗り入れることになるが、路面電車ののりばまではかなり距離があり、乗り換えの際は結構不便である。新幹線ホームは工事の真っ最中で、その新幹線駅の下をくぐって以前は線路であっただろう場所に通路があり、更地となった以前の長崎駅を見ることができる。アミュプラザが入る駅ビルは以前と変わらず存在するが、駅周辺の変貌ぶりにはとても驚いた。駅の西側にはホールなどを有する建物が立っている。在来線ホームは2面5線で、浦上方には引き上げ線が何本かあり、いずれは来なくなるであろう787系や415系の姿が見られた。
 

787系特急かもめでDXグリーンを堪能

787系と885系で運転される長崎発着の特急「かもめ」 今回は787系に乗車
787系と885系で運転される長崎発着の特急「かもめ」 今回は787系に乗車
 
今となっては言わずとしれた存在となったDXグリーン 長崎発だと最後尾となる
今となっては言わずとしれた存在となったDXグリーン 長崎発だと最後尾となる
 
1編成あたり3席のみの設置で、フラットにも近い角度で座席を倒してくつろぐことができる
1編成あたり3席のみの設置で、フラットにも近い角度で座席を倒してくつろぐことができる
 
 
 長崎の滞在時間は45分ほどで長崎本線を折り返す。復路で乗車するのは、特急かもめ30号博多行。行きは3時間越えの普通列車で頑張ったご褒美に、今回はとっておきの座席を用意しておいた。787系のグリーン車には一般席、グリーン個室とともにもう一つ座席が用意してある。それが運転席の後ろに設置されたDXグリーン席である。1編成あたり3席限定で設置されており、注目すべきはそのリクライニング角度。国内のグリーン車座席では最高の140°でほぼフルリクライニングに近い状態になる。リクライニングは電動式でコンセントも設置されている。予約が入ること自体も珍しい設備なので、今回は2人シートを指定した。下りでは運転席の壁が正面に来るため視界がやや悪いが、上りでは逆に最後尾になるため視界も開ける。列車は定刻通り長崎を出発し、来た道を快調に飛ばして夕暮れの長崎本線を進む。グリーン車の一般座席は諫早までの間にある程度の乗車があったが、DXグリーンは終点まで自分ひとりであった。先ほどは日中だった有明海も夕暮れの景色に変わりいい雰囲気に。太良あたりではあまりの気持ちよさに少しうたた寝。肥前鹿島を出たあたりで夕闇が街を包んだ。この列車は肥前山口通過型の特急で肥前山口は颯爽と通過。多くの通勤通学客が列をなす佐賀、新鳥栖、と佐賀平野を駆け抜け、あっという間にきた道を鳥栖まで戻った。対抗の通勤列車は帰宅ラッシュの真っ最中で混雑しているが、そんな中をフルリクライニング状態で移動できるのはなんと贅沢なのだろうか。夜になった鹿児島本線も快調に飛ばして終点博多に滑り込んだ。乗車時間は2時間程度だが、この座席なら余裕で一晩過ごせそう。デラックスだけあって座り心地もデラックスであった。
 今回は来年秋に運行形態が変わる長崎本線を訪れた。長崎本線自体がなくなるわけではないものの、電車による普通列車の運転、特急かもめの運転がなくなる大きな節目が近づいている。来年の新幹線開業前までにもう一度長崎へ赴く予定だが、その際には787系とともに活躍する885系に乗車し、特急列車から眺める長崎本線の車窓を最後まで楽しみたいと考えている。