【旅行記】新潟・北陸乗り鉄ぶらり旅~始発列車で宇奈月温泉を訪ねる〜
黒部駅前に宿泊して迎えた3日目。昨夜は新潟から西へ移動し、旅の舞台を富山へ移した。3日目はまず宇奈月温泉へ移動し、黒部峡谷鉄道に乗車。その後最近廃止が取り沙汰されている富山地方鉄道本線に乗車し富山へ出て、昨年春にJRから第3セクターへ移管された旧北陸本線を辿りつつ、宿泊地の敦賀へ向かった。
電鉄黒部から富山地鉄本線の始発列車で宇奈月温泉へ
3日目は夜明け前からの旅立ちだった。6時40分ごろが日の出となるこの季節。まだ暗い5時50分にホテルを出発する。信号機は夜間の点滅状態で、人も車もほとんど走っていない黒部の市街地をしばらく歩き、富山地方鉄道の電鉄黒部駅へ向かった。

朝6時過ぎの電鉄黒部駅に到着。ここは富山地方鉄道本線の主要駅の一つである。富山地方鉄道本線は電鉄富山駅と宇奈月温泉駅を結ぶ、同社で最も距離が長い路線だが、この電鉄黒部を含む路線東部区間について、今年、富山地鉄は単独での維持が困難であると表明した。自治体からの支援が得られない場合、2026年11月末で廃止する方針が示されている。
もしかすると1年後には廃止されているかもしれない路線から、今回の旅は始まる。その件については次話で詳しく触れるとして、ここではとりあえず券売機できっぷを購入し、ホームへ進んだ。ホームは2面3線で、大きな屋根が設けられている。どこかノスタルジックな雰囲気の漂う駅で、併設された車庫では、この後この駅始発となるであろう列車の朝の点検が行われていた。
発車時刻が近づくと、ほかにも2人の乗客が姿を見せた。やがて風に乗って列車の走行音が聞こえ、遠くからヘッドライトが近づいてくる。
乗車記録 No.17
富山地方鉄道本線 普通 宇奈月温泉行
電鉄黒部→宇奈月温泉 14760形

乗車したのは、電鉄黒部6時15分発の普通列車宇奈月温泉行き。電鉄富山を5時7分に発車する本線の1番列車であり、電鉄黒部においても下りの始発列車となる。こんな朝早くに宇奈月温泉を目指す人も少なく、2両編成の列車には6〜7人ほどの乗客が乗り込み、定刻通り電鉄黒部を発車した。
空はようやく白み始め、かろうじて窓越しに車窓を楽しめる明るさになってきた。列車は黒部の市街地を抜け、この街の背後にそびえる山へと近づいていく。電鉄黒部〜宇奈月温泉間の所要時間はおよそ40分。思った以上に時間がかかる。

私鉄路線ということもあり、途中駅が多く、電鉄黒部と宇奈月温泉の間だけでも13駅が設けられている。多くの途中駅も年季が入っており、昭和、あるいはそれ以前にタイムスリップしたかのような雰囲気が漂っていた。列車内の乗客は少ないものの、駅では反対方向の列車を待つ人の姿が見られる。
新幹線との接続駅である新黒部の次、舌山では上りの始発普通電鉄富山行きと行き違い、その先の内山では急行電鉄富山行きと交換した。この急行列車は朝に1本のみ運転される希少な存在で、宇奈月に宿泊しなければ乗り通すのは難しい列車である。
やがて車窓は峡谷の様相を見せ、黒部川が姿を現す。しばらく川に並走するように走ったのち、旅館が立ち並ぶ宇奈月温泉郷へと入っていく。車窓の移り変わりは、同じ富山地方鉄道の立山線にもどこか似ている。ほどなく列車は終点・宇奈月温泉に到着した。

早朝6時52分、宇奈月温泉に降り立つ。終点まで乗り通した乗客は、筆者を含めてわずか4人だった。宇奈月温泉へ向かうため、まず電鉄黒部〜宇奈月温泉を乗車した富山地鉄本線。この後は宇奈月温泉から電鉄富山まで、同じ路線を今度は全線にわたって乗り通すことになる。
早朝の静かな宇奈月温泉と朝を告げるトロッコ列車

まだ人の姿もほとんどない朝7時の宇奈月温泉駅前。少し冷え込んだ朝、駅前の広場に設けられた温泉噴水からは湯気が立ち昇る。
決して温泉街ががらんとしているわけではない。ただ朝早すぎるだけである。温泉街を独り占めしているかのような静かな時間に、心が落ち着く。

そんな静かな温泉街とは対照的に、早朝にも関わらず、すでに忙しなく列車の入換が行われていたのが、地鉄宇奈月温泉駅の隣に車両基地を構える黒部峡谷鉄道の宇奈月駅である。宇奈月からは、この黒部峡谷鉄道のトロッコ列車にも乗車してみる。こんなに朝早くに温泉街を訪れたのは、トロッコ列車の始発に乗車するためだ。1時間後の便でも間に合うが、この朝の静かな宇奈月の街を見てみたくて、あえて始発列車でここへ来た。
迷いの末に選んだ富山〜廃線議論と不通区間の狭間で

ところで、今回の旅で富山を訪ねた最大の目的は、富山地方鉄道本線に乗ることだった。この旅の計画を最初に立てた際には、新潟で越後線と弥彦線に乗車した後、仙台へ移動し、そこでまたいくつかの路線に乗車するつもりでいた。富山へ行くという選択肢ももちろんあったが、黒部峡谷鉄道は能登地震の影響で現在も一部区間が不通となっており、富山の乗りつぶしはこの区間の再開を待って行うつもりでいた。
しかし、今年春に富山地方鉄道は、本線の一部について、沿線自治体からの支援がない場合、2026年11月末をもって廃止する方針を示した。もしそれが現実となった場合、黒部峡谷鉄道の再開を待たずして、地鉄本線が廃止される可能性がある。そして仮に一部区間でも廃止が決まれば、お別れ乗車で列車も混雑することが予想される。そうした事情を勘案し、先に富山地鉄本線に乗っておいた方がいいという判断に至り、3日目以降の旅先を仙台から北陸へ変更した。
問題は宇奈月から先の黒部峡谷鉄道に乗車するかどうかだった。一部区間の不通が続いているため、今乗車しても将来的にもう一度乗車する必要がある。しかし、宇奈月まで来て、トロッコ列車に乗らずに帰るのはあまりにももったいない。現在暫定的に終点となっている猫又は、今しか降り立つことができず、それもまた貴重な経験である。二度の訪問も何かの縁と都合よく解釈し、現在運行中の区間だけ先に乗りつぶすことにした。
工事列車が相次いで発車していく朝の宇奈月駅

そんな経緯で、今回の旅では黒部峡谷鉄道への乗車を決めた。起点となる宇奈月駅は、富山地方鉄道の宇奈月温泉駅から徒歩2分ほどの場所にある。
黒部峡谷鉄道は関西電力グループの鉄道会社で、黒部川の峡谷に点在する発電所などへ資材を運搬するための路線として開業した。現在も、沿線の発電所や建設現場へ資材や作業員を運ぶという重要な役割を担っている。沿線には関西電力が管理する水力発電所が多数存在するが、道路は整備されていないため、このトロッコ列車は設備の維持管理や工事に欠かせない存在である。
一方で、黒部の深い峡谷を進むこの路線は観光客にも人気がある。一般客向けの輸送は1929年に便乗乗車という形で始まり、1953年には鉄道事業の許可を得て正式な営業運行を開始した。現在では北陸・富山を代表する観光スポットの一つとなっており、旅行会社の秋旅パンフレットの常連でもある。紅葉の中、赤い鉄橋を渡るトロッコ列車の写真は、誰もが一度は目にしたことがあるだろう。

まだ始発列車までは1時間以上あり、観光客の姿は筆者以外にない。窓口の営業開始は7時40分からだが、駅そのものはすでに稼働していた。改札上の電光掲示板を見ると、工事列車の発車時刻が掲出されている。駅には関西電力や関連会社の従業員・作業員が続々と集まり、列車へ乗り込んでいく。こうした工事列車は、観光客向けの一般列車の合間を縫って多数運行されており、旅客列車が走り出す前にも何本かが黒部の深い峡谷へと向かっていく。黒部峡谷鉄道の朝は早い。

宇奈月駅でぜひ見ておきたいのが、駅の東側、黒部川に架かる二つの橋、新山彦橋と旧山彦橋である。ここは黒部峡谷鉄道屈指の撮影地で、各種パンフレットや広告でもおなじみ、赤い鉄橋を渡るトロッコ列車の姿を見ることができる。遊歩道として渡ることができる旧山彦橋は、新山彦橋が完成する以前に線路が敷かれていた橋で、新旧二つの赤い橋が並んで黒部川を跨いでいる。
11月上旬から中旬にかけては、黒部峡谷が最も賑わう時期だ。山を彩る紅葉を目当てに多くの観光客が訪れる。筆者が訪ねたのは11月下旬で、すでに紅葉は終わっていると思っていたが、鉄橋周辺ではまだ色づいた木々を楽しむことができた。なお、黒部峡谷鉄道のトロッコ列車は、毎年4月中旬から11月末までの季節運行で、この日は今シーズンの営業が残り数日に迫っていた。

やがて駅の方から警笛が鳴り響き、工事列車が鉄橋へ差し掛かる。何度も警笛を山間に響かせながら、列車は赤い橋を渡っていく。その姿は、まるで宇奈月温泉に朝を告げているかのようだった。鉄橋を渡るジョイント音もまた山々にこだまする。機関車2両に客車9両、さらに貨車2両を連ねた大所帯で、列車は山奥へと分け入っていく。紅葉とトロッコ列車を写真に収めることができ、思わぬ収穫となった。列車はトンネルへ入り、やがて奥の山の斜面にその姿を現しながら、ゆっくりとガタゴト音を立てて登っていく。この先にはどんな景色が待っているのだろうか。これからの乗車が楽しみになった。

振り返ると、宇奈月駅と温泉街が一望できる。温泉街は黒部川から一段高い場所に形成されており、橋の下を覗くとゾッとするほどの高さがある。
険しい山岳地帯を流れ、日本海へと注ぐ黒部川。その上流には、黒部ダムや黒部湖がある。トロッコ列車の終点は欅平だが、そこから先も川沿いに関西電力の設備は黒部ダム方面まで続いている。欅平から黒部ダムまでの区間は現在一般の立ち入りができないが、「キャニオンルート」としてツアーでの開放が予定されている。本来であればすでに実現しているはずだったが、こちらも能登地震の影響で2027年以降に延期された。

駅へ戻ると、再び別の工事列車の発車時刻が掲出されていた。どうやら、もう一本がまもなく発車するらしい。朝も、いや朝こそ忙しい黒部峡谷鉄道である。今度は駅横の、線路を見下ろせる場所から写真を撮ってみた。奥に見えるのは、先ほど訪ねた旧山彦橋と新山彦橋である。今度の工事列車は短く、客車2両に貨車1両のみ。先ほどの列車とのもう一つの違いは先頭の機関車で、前の列車が電気機関車だったのに対し、こちらは屋根にパンタグラフがなく、ディーゼル機関車のようだった。行き先は定かではないが、黒部峡谷鉄道には発電所へ向かう複数の支線や引き込み線が存在するため、そこへ向かう列車なのかもしれない。
工事列車のダイヤなど知らずに訪れたため、早朝から二本の列車の発車を見られるとは思っておらず、まさに「早起きは三文の徳」だった。
窓口で乗車手続き済ませ、改札開始を待つ

さて、これからはいよいよ筆者もトロッコ列車に乗り込み、黒部峡谷の景色を眺めることにする。乗車する列車は8時17分発。一般の乗客を乗せる旅客列車としては、この便が始発となる。日中の便は混雑することが多いため、あえて朝の第一便を選んだ。
乗車券は事前にインターネットで予約しておいた。乗車当日、予約済み者用の窓口でQRコードを提示し、きっぷを受け取る。ネット予約は乗車日の3か月前から受け付けられており、筆者も窓口へ向かい、手際よく乗車券を受け取った。乗車にあたっては号車が指定され、行きも帰りも同じ号車を利用するよう案内される。
現在は猫又までの運行となっており、終点での滞在はできず、到着した列車でそのまま折り返す形となる。宇奈月からの往復所要時間はちょうど2時間に設定されており、行程としても分かりやすい。

発車時刻までの間、駅2階にある展示室を見学することにした。ここでは、黒部峡谷鉄道や黒部川の電源開発の歴史に関する展示が行われている。黒部川の電源開発の背景には、高度経済成長期における関西地方の深刻な電力不足があったことは、以前立山黒部アルペンルートを訪ねた際にも触れたが、実際の工事は難工事の連続だった。その中で、この黒部峡谷鉄道が電源開発において極めて重要な役割を果たしてきたことが、展示を通してよく理解できた。
やがて発車時刻が近づき、改札口へ向かう。すでに筆者以外にも何人かが改札開始を待っていた。筆者が乗車する列車の直後には工事列車も続行するようで、それに乗車する作業員たちも続々と集まり、打ち合わせを行っている。どちらかといえば、この時間帯は観光客よりも作業員の方が多いように見えた。
発車時刻の10分前になると改札が始まった。筆者も改札口で乗車券を提示し、のりばへと進む。こうして、黒部峡谷をゆくトロッコ列車での冒険の旅が始まった。この先のトロッコ列車の乗車記は長くなりそうなので、詳細は次話に譲ることとし、ここでいったん話を区切る。