【旅行記】水戸・会津ぐるっと周遊旅~ひたちなか海浜鉄道に乗車する〜
ひたちなか海浜鉄道の普通列車で阿字ヶ浦へ
品川から特急ときわ53号を乗り通して、終点の勝田に到着した。勝田からはこの駅で常磐線に接続するひたちなか海浜鉄道湊線に乗車。途中那珂湊で途中下車しながら、この路線を往復した。
ひたちなか海浜鉄道湊線は勝田と阿字ヶ浦を結ぶ第三セクター会社の小さな鉄道路線である。全線がひたちなか市内を走り、少し内陸にある勝田市街地と、太平洋沿岸に近い旧那珂湊市内を結んでいる。路線自体は大正から昭和初期にかけて開業し、当初は湊鉄道という会社が営業していた。その後、戦時中の統合で、茨城交通の路線となり、2008年までは同社の鉄道路線となっていた。しかし、茨城交通の経営悪化により、同社とひたちなか市が出資した第三セクター会社へ移管させることとなり、2008年からはひたちなか海浜鉄道が経営している。

ひたちなか海浜鉄道の勝田駅は、JRの改札内にあり、ホームも常磐線ホームに隣接している。常磐線の上り列車が使う2番線の隣に面した1番線が、ひたちなか海浜鉄道専用のホームとなっており、JRのホームと間には、同社の窓口兼改札口がある。勝田駅から乗車する場合は、駅のJRの券売機できっぷを買うことができる。一方、乗り換えの場合は窓口できっぷを購入する形になる。乗り換え客用にsuicaの簡易改札機が置かれているが、ひたちなか海浜鉄道ではICカードは使えない。ただし、各種キャッシュレスには対応しているようだった。
改札できっぷを購入すると、駅員から2両編成で来るが、2両目は貸切なので、先頭車両に乗ってくださいと伝えられた。小さな鉄道会社では、貸切列車が一般の列車に連結されて運転されることがよくある。ひたちなか海浜鉄道でも、週末になるといろんな催しが開催されていて、団体列車やイベント列車も頻繁に走っている。
日中も1時間あたり2本程度が運転されているひたちなか海浜鉄道。やがて、2両編成の列車が入線してきた。ラッピングが施されているが、見覚えのあるこの顔は、もともとJR東海と東海交通事業(現JR東海交通事業)から移籍してきたキハ11形。この路線ではもともと同じシリーズのキハ37形が活躍していたため、同系列車として導入された車両である。

なお、今回はひたちなか海浜鉄道が発売している一日乗車券を利用した。旅行日時点ではひたちなか市の予算で、通常1,000円のところ、割引価格の600円で発売されていた。今回は阿字ヶ浦へ行き、那珂湊で途中下車して勝田へ戻って来る。そうすると、正規の運賃の合計は1,180円となる。なんとおよそ半額で乗車することができた。なお、一日乗車券はJRの窓口では買えないので、勝田から乗車する際はまずJRの改札で、ひたちなか海浜鉄道の窓口で一日乗車券を買う旨を伝えて、改札内へ入れてもらう必要がある。
乗車記録 No.2
ひたちなか海浜鉄道 湊線 普通 阿字ヶ浦行
勝田→阿字ヶ浦 キハ11形

まずはこの列車を終点の阿字ヶ浦まで乗り通す。勝田を出ると、わずかに常磐線と並走し、その後左へカーブして同線と別れた。湊線はかつて常磐線からの直通列車が運行されており、以前は常磐線と線路が繋がっていたそうだが、現在は繋がっていない。カーブの途中で工機前駅に停車。近くには工機ホールディングスという会社の大きな工場がある。名前の通り電動工具機器メーカーらしい。その後も次の金上の先までは、勝田の市街地の中を走っていく。金上は列車交換が可能な駅。湊線では金上と那珂湊の2駅のみで行き違いができる。

金上を出てしばらくすると、勝田の市街地も途切れ、わずかに森の中を抜けて、広い田園地帯へ出た。田植えを終えたばかりの水田が車窓に広がった。この時間、雨は降っていなかったものの、海岸に近い場所では霧が発生していて、視界がやや悪くなっていた。

中根、そして高田の鉄橋と停車すると、やがて那珂湊の市街地へ入り、列車は那珂湊に到着した。那珂湊はひたちなか海浜鉄道の拠点駅。勝田駅以外ではこの駅の利用客が最も多く、この列車もこの駅で下車する人が多かった。駅ホームの反対側にはひたちなか海浜鉄道の車両基地が広がっている。現役の車両だけでなく、すでに廃車になった車両や同社では部品取りとして使われている車両など、いろんな車両を見ることができる。留置されていた保線車両中には、車体側面には東京メトロと書かれている車両もあった。この駅には復路で途中下車するが、とりあえずはそのまま終点まで行く。

那珂湊で乗客は半分くらいに減った。市街地を抜けると再びのどかな景色に戻る。湊線は勝田から南東へ進んで那珂湊を経由したのち、北へ進んで阿字ヶ浦へ走っていく。地図を見ると、勝田から阿字ヶ浦は方角的には真東に位置しているが、湊線はかなり迂回して走っているのが分かる。このあたりは水田ではなく畑が広がっている。湊線沿線はほしいもの産地として知られている。おそらく車窓に広がる畑は、その原料のさつまいも畑だろう。
海浜鉄道を名乗るこの鉄道、確かに那珂湊から阿字ヶ浦は海岸に近い場所を走るが、残念ながら海はほとんど見えない。ただし、那珂湊の市街地の北側にある殿山駅を出た直後には、わずかに海を見ることができる。このあたりは台地が広がっていて、湊線の線路は、海岸線から一段高い丘の上を走っている。

平磯、そして磯崎と経由して、列車は終点の阿字ヶ浦に到着した。全長14.3kmの短い湊線、全線を乗り通しても28分しかかからない。終点まで乗車していたのは10人ほど。観光客の姿が多く、みな駅前に散って行った。列車は数分停車したのち、勝田へ向けて折り返していく。比較的列車本数が多い湊線。筆者の旅恒例の一本飛ばしをここでも発動させ、次の列車まで駅周辺を散策してみることにした。
近い将来は途中駅となる終着駅阿字ヶ浦

湊線の終点である阿字ヶ浦駅。旧那珂湊市の北部に位置しており、あとちょっとだけ北へ進めば、国営ひたちなか海浜公園がある。駅と公園は、歩けば徒歩20分という、なんとも絶妙な距離離れている。同公園の名物、ネモフィラが見頃を迎えるGWには、この駅からひたちなか海浜公園までシャトルバスが運行されているが、普段はコミュニティバスのみが同区間を結んでいる。勝田駅からは直接、ひたちなか海浜公園へ行くバスがあるので、鉄道に乗りたいという欲がある人以外は、ふつうそちらを使う。駅の近くには公園だけでなく、安全運転中央研修所という施設がある。こちらも最寄り駅ではあるものの、やはり勝田駅から路線バスを使うのが便利である。
この駅はかつて海水浴客で賑わった駅だったらしい。近くにある阿字ヶ浦海水浴場は、昭和期、夏になると首都圏からの海水浴客を集めた。1980年代ごろには常磐線から湊線へ直通列車が運転されており、上野からの列車も発着していた時期があった。阿字ヶ浦のホームは使われていない部分がとても長い。これはその常磐線からの直通列車が来ていた頃の名残らしい。

常磐線に接続し、通勤通学客が比較的多い路線ではあるものの、やはり湊線にとっても利用客の減少は課題となっている。都心からのお出かけに人気なひたちなか海浜公園まで繋がれば、利用客の増加が見込める。そんなわけで、この公園への同線の延伸は兼ねてより計画されていた。そして昨年秋、公園南口までの延伸計画が国から認可され、まもなく公園への延伸工事がスタートする。今はここが終点だが、早ければ数年後には途中駅となり、ひたちなか海浜鉄道に直結する鉄道路線になる予定である。写真の奥の行き止まりの先へ、列車が走る日が待ち遠しい。なお、延伸計画は同公園の正面玄関である西口前までの予定。この区間については、西口までの工事が進んだ後に手続きや工事が開始される予定になっている。

現在は1面1線の阿字ヶ浦駅。使用停止した駅舎側のホームにはかつてこの路線で活躍していたキハ222とキハ2005の2両が留置されている。キハ222(前)は羽幌炭礦鉄道、キハ2005(後ろ)は留萠鉄道の出身で、湊線に移籍してきた車両ある。現在はひたちなか開運鉄道神社の御神体として祀られている。駅舎からホームへ続く通路脇には、レールで作った鳥居も立っている。車内はイベント時などに公開されているらしい。
阿字ヶ浦で近くの海岸を見にいく

阿字ヶ浦では次の列車まで50分ほど時間があったので、駅から歩いて10分弱のところにある海岸まで歩いて行ってみることにした。航空写真では高低差があまりよく分からず、すぐに海岸へ出られるものと思っていたが、実際は駅が丘の上にあって、割と急な坂道を下らなければならなかった。霧雨が降っていたが、傘をさすほどの雨ではなかった。きっと晴れていれば清々しい大海原が広がっているはずの阿字ヶ浦海岸も、この日は視界が悪く、眺めはよくなかった。

まだ海水浴のシーズンではなく、もちろん海水浴客はいない。しかし、海岸では釣りを楽しむ人の姿があった。誰もいないだろうと思ってきたが、日曜日ということで、結構人が多かったのには驚いた。海岸から道を挟んだ向かい側には民宿や旅館が数軒立ち並んでいる。おそらく昭和期には今以上の賑わいがあったはずの阿字ヶ浦。今は少し寂れてしまっている。

さて、坂道を登って駅の近くまで戻ってきた。駅へ向かう道路の向かいには、掘出神社という小さな神社があった。水戸藩二代藩主の水戸光圀ゆかりの神社と書かれていたので、どんなゆかりがあるのだろうかと思って調べて見ると、水戸光圀がここにあった塚を掘り出した際に、鏡が出土し、それをご神体にしたのがこの神社のはじまりといわれているらしい。境内にはほしいも神社というのもあった。先述の通り、このあたりはほしいもの生産が盛んな地域である。それをアピールする狙いもあって作られたのが、この神社らしい。「ほしいも」だけに「ほしいもの」が手に入る神社としてアピールされている。近くにはカフェもあった。天気がいい日は列車でここへきて、海岸を眺め、海岸近くのお食事処で昼食をとり、カフェでお茶して帰るというのも楽しいかもしれない。
ひたちなか海浜鉄道の拠点駅、那珂湊で途中下車

駅周辺を散策して駅へ戻ってくると、ちょうど踏切が鳴り始めて、阿字ヶ浦止まりの列車が到着した。今度はその折り返しとなる勝田行きに乗車し、那珂湊で途中下車してみる。
今度の列車はキハ3710形1両での運転だった。全国各地のローカル鉄道を支えるNDCシリーズの車両で、湊線では茨城交通時代に導入されている。往路で乗車しJR東海から移籍してきたキハ11形も、ベースはNDCシリーズのため、外見自体は大きくは変わらない。ただ、車内外をよく比較してみると、異なる点も様々ある。今はラッピング列車になっているが、かつては茨城交通カラーの青と赤の帯を纏っていた。
乗車記録 No.3
ひたちなか海浜鉄道 湊線 普通 勝田行
阿字ヶ浦→那珂湊 キハ3710形

キハ3710形の車内はロングシート。阿字ヶ浦から乗車したのはわずか3人だったが、磯崎や平磯からも乗車があり、那珂湊の手前では10人前後が乗車していた。それでも車内は空席が多く、横を向いて、車窓を眺めながら、乗車することができた。阿字ヶ浦から10分少々、列車は那珂湊に到着。ここで列車を下車した。

先述の通り、那珂湊駅はこの路線の拠点駅である。かつては単独の自治体だった那珂湊の中心駅で、駅周辺には市街地が広がっている。駅舎自体はこぢんまりとした造りだが、勝田駅と並ぶ湊線の有人駅の一つ。裏手には車両基地が広がっている。駅舎の横には茨城交通の那珂湊営業所があり、駅舎の前がバス停になっている。ここからは主に勝田駅や水戸駅を経由して、茨大前営業所を結ぶ路線バスが発着している。茨大前営業所行きには複数系統があり、大洗を経由する系統はここ発着、一方、大野という場所を経由するバスは、平磯発着で運転されている。市街地の南側を流れる那珂川を渡れば大洗となる。大洗の観光スポットの一つ大洗水族館は、大洗駅よりここの方が近く、ここは大洗を含めた観光拠点にもなっている。那珂湊はお魚センターという施設が観光客に人気らしい。大洗水族館を含めて、天気が良ければ歩いていくのもいい。

かつて湊線は茨城交通の路線だったため、駅は現在も茨城交通の敷地に挟まれている。駅はバス営業所に囲まれていて、表も裏もバスの駐車場になっている。駅の阿字ヶ浦方でカーブする湊線。バスの営業所への道路には、遮断機が設置されていないので、列車は警笛を鳴らして通過する。2面3線にできる那珂湊駅だが、中線は留置線として使われており、運行上は2面2線で運用されている。駅舎に面したホームの途中に中線へのポイントがあるので、それも一つ見どころである。

勝田へ戻る列車の時間が近づいてきて、改札が始まると、ホームへ入ることができた。留置線として使用されている中線には、ひたちなか海浜鉄道がJR東日本から昨年購入したキハ100系2両が留置されていた。トレーラーで搬入された後、湊線での運行開始に向けて整備が進められており、ほぼ運用できる状態にはなっているそうなのだが、運行開始にあたっての届出の承認に時間を要しているとのことで、運行開始は数度延期されている。実はこの日は一度延期された後に設定された新しい運行開始日だったのだが、直前に再延期が発表され、この車両が走る姿は見ることができなかった。駅前には観光バスが乗ってきて、ツアー客がこの列車に乗り込んでいた。列車はまだ運行できないながらも、既に車内は団体客向けに活用されているらしい。後ろの2両は「ほしいも王国ラッピング」になっている。車内がどんな風になっているかとても気になっている。

やがて踏切が鳴りだし、踏切に注意喚起を促す警笛が周辺に響くと、2両の勝田行が姿を現した。今回は列車で往復する形となった湊線。しかし、このあたりは水戸駅から路線バスで来ることもできることが分かったので、湊線が延伸した際には、バスも使って旅してみたいなと思う。湊線が延伸するおかげで、この街にはまた数年後来ることになるはず。その時にはキハ100系にも乗れるといいなと思っている。
那珂湊から勝田へ戻り、常磐線の普通列車で大甕へ

那珂湊からは12時51分発の普通勝田行で勝田へ戻った。往路の勝田-阿字ヶ浦で乗車したキハ11系2両での運転。先ほどは阿字ヶ浦方の1両目に乗車したが、今度は勝田側の先頭車両に乗り込んだ。2両目は貸切車両だが、進行方向が変わるごとに貸切車両も切り替わるようだった。
乗車記録 No.4
ひたちなか海浜鉄道 湊線 普通 勝田行
那珂湊→勝田 キハ11形
1両目の後ろ側の席に座り、ふと2両目をみると、何やら男性が乗客らしき女性に話しかけいる。その男性もまた車掌の格好でもないし、食堂車のウェイトレスのようにも見えるが、食事は見当たらなかった。あれはなんだったのだろうかと、旅行から帰ってきて調べてみると、どうやらそれは演劇だったらしい。最近はテーマパークでも没入感に浸れるアトラクションが人気である。演劇でもそれを取り入れて、体験型演劇というカテゴリーがある。観客に役者が話しかけ、自分も演劇中の1人となって話が進んでいくというものである。それをこの時、隣の車両では列車の中でやっていたのである。まさかこんなところで新しい演劇の形に出会うとは思っていなかったが、そういう演劇の楽しみ方があるというのを知るとともに、それを列車の中でやるというアイデアが、とても新鮮だった。

勝田駅に到着し、ひたちなか海浜鉄道の小さな旅が終わった。先述のとおりすでに延伸計画が進行している同線。延伸開業した際にはまた乗車することになる。その時にはひたちなか海浜公園も一緒に観光できたらと思っている。工区が2区間に分かれていて、特に2工区目がいつ着工されるかは定かでない。もしかするとあと2度この路線に乗りにいく必要があるかもしれない。まぁそれはそれで楽しいだろうと思う。今回はあいにくの天気だったので、延伸後乗りに来る時はまた晴れた日を選んできてみたい。
乗車記録 No.5
常磐線 普通 いわき行
勝田→大甕 E531系

ひたちなか海浜鉄道湊線完乗後は、この日のもう一つの目的路線、水郡線常陸太田支線に乗車しに行った。水戸から常陸太田まで往復してもいいが、どうせなら単純な往復は避けたほうが楽しい。今回はまず常磐線の普通列車で大甕へ行き、そこから路線バスで常陸太田へ向かうことにした。勝田からは常磐線の普通いわき行きに乗車。同線を北へ3駅進み、大甕(おおみか)へ向かった(写真は乗車したE531系による別の列車)。
続く