【旅行記】新潟・北陸乗り鉄ぶらり旅~トロッコ列車で黒部峡谷を探訪する~
新潟と北陸の未乗路線を巡る旅の3日目は、早朝に黒部駅前ホテルを出発し、電鉄黒部から普通列車に乗って宇奈月温泉を訪ねている。黒部川に架かる鉄橋などから、工事列車が峡谷へ進んでいく様子を眺め、朝の黒部峡谷鉄道の様子を覗いた後は、筆者もトロッコ列車に乗車して、黒部峡谷探訪の旅を満喫した。
トロッコ列車に乗り込み黒部の深い峡谷へ

発車時刻の10分ほど前に改札が始まり、きっぷに入鋏を受けて階段を下りてホームへと進む。ホームではオレンジ色の電気機関車と数両の客車が、乗客を待ち受けていた。これに乗り込む。
これから進む黒部峡谷鉄道の本線は、黒部川の峡谷に沿うように走る鉄道路線である。前話でも書いたように本来は宇奈月から欅平を結ぶ路線だが、2024年の年始に発生した能登半島地震で線路設備が被災し、猫又〜欅平で運転を見合わせている。これに伴い今年度のトロッコ列車も猫又までの運転となっている。
通常、トロッコ列車は開放感あふれる一般車両と、窓付きのリラックス車両を連結した編成で運転される。しかし、11月の最終週に限っては、全車リラックス車両での運転となっていた。さすがにこの季節になると冷え込みが強まり、一般車両では寒すぎるということなのだろう。
リラックス車両への乗車には追加料金が必要となる。これは全車リラックス車両で運転される日であっても変わらない。筆者はもともとリラックス車両に乗車するつもりだったので問題はないが、特に車両にこだわりがない場合には、通常より割高に感じられるかもしれない。

黒部峡谷鉄道は、軌間762mmのナローゲージ路線である。現在、国内で鉄道事業として運行されているナローゲージ路線は、三重県の三岐鉄道北勢線、四日市あすなろう鉄道内部線・八王子線、そしてこの黒部峡谷鉄道の計4路線しかない。筆者にとっても、ナローゲージ路線への乗車は約2年ぶりとなり、車両の狭さに改めて驚かされた。
リラックス車両は中央にドアが設けられ、その前後に2+1列の座席が配置されている。前方と後方で左右対称の配置となっており、一人旅にはとてもありがたい構造である。現在の猫又までの運転区間であれば、宇奈月発車時点で進行方向右側の座席に座ると眺めが良い。
予想どおり、朝の第一便は非常に空いており、各号車とも乗客は4〜5人程度だった。筆者は、中国からの観光客と思われる3人組の乗客と同じ車両に乗り合わせた。前方の区画にその観光客が、後方の区画に筆者が座る形となり、車両後方はほぼ独占状態となった。
乗車記録 No.18
黒部峡谷鉄道本線 猫又行
宇奈月→猫又

発車時刻となり、列車はドアを閉め、警笛を鳴らして宇奈月を発車する。駅員の見送りを受け、列車は猫又へ向けて走り出した。ナローゲージ特有の小刻みな揺れが、車内に伝わってくる。深い黒部峡谷へのトロッコアドベンチャーが今始まる。
列車はまもなく新山彦橋へと差しかかる。列車は先ほど旧山彦橋から眺めたこの橋を、山の斜面に広がる美しい紅葉を眺め、軽快に渡っていった。

車内では、車窓の見どころを紹介する案内放送が流れる。この案内放送は富山県滑川市出身の俳優・室井滋さんが担当している。新山彦橋を渡り、トンネルを抜けた列車は、その後黒部川沿いへと出る。
まもなく車窓左手には宇奈月ダムが現れ、エメラルドグリーンに輝くうなづき湖が広がった。多数のダムが設けられている黒部川だが、宇奈月〜猫又間の道中にも2か所のダムが存在する。宇奈月ダムは2001年に完成したダムで、黒部川では唯一の多目的ダムである。併設される宇奈月発電所では水力発電が行われているほか、下流域の洪水対策や水道水の取水にも利用されている。黒部峡谷鉄道は、この先しばらく、うなづき湖の湖畔をなぞるように走っていく。

やがて列車は最初の駅、柳橋に到着した。黒部峡谷鉄道には、一般の乗客が乗り降りできる駅と、関係社員や工事作業員のみが利用できる駅が存在する。ここ柳橋は後者にあたり、簡易的なホームこそ設置されているものの、一般客の乗り降りはできない。
この先、欅平までの間で一般客が乗り降りできる駅は、黒薙、釣鐘、そして欅平のみである。現在、一時的に終点となっている猫又を含め、一般客が利用できない駅が多数を占めているのが、この路線の大きな特徴である。
柳橋のすぐそばには新柳河原発電所がある。車窓に見える、ヨーロッパの城壁を思わせる重厚な建物がそれで、黒部峡谷鉄道の本線からは発電所へと引き込み線が延びている。こうした光景は、この鉄道が電力会社の専用路線としての性格を色濃く残していることを実感させる。

うなづき湖の対岸に見える温泉施設までは、並行する道路が通っているものの、そこから先はいよいよ道路も途切れ、この鉄道だけが山奥へ入る唯一の手段となる。この先で使用される自動車や重機を運搬するのも、この鉄道の重要な役割。もっとも、大型の重機はそのまま列車に積み込むことができないため、分解して運び、現地で再び組み立てられる。
黒部峡谷の急峻な崖に沿って走る黒部峡谷鉄道。やがてうなづき湖は終わりを告げ、列車は高い位置から黒部川を見下ろす区間へと入っていく。
川の対岸には一本の管が延びているのが見える。あれは黒薙から宇奈月温泉へと湧き出した温泉を運ぶためのもので、「引湯管」と呼ばれている。宇奈月温泉の源泉は、この路線の黒薙駅付近にあり、この引湯管を通じて温泉街へと湯が届けられている。
なお、この引湯管を巡っては、大正から昭和にかけて、民法上きわめて重要な判例となる裁判が行われたことで知られている。「宇奈月温泉事件」と呼ばれるこの民事事件は、民法の判例集の冒頭に登場し、日本で法律を学ぶ者であれば知らぬ人はいない。そうした背景から、宇奈月温泉は「民法の聖地」とも呼ばれている。その事件の舞台となった場所は、先ほど通過したうなづき湖の底に、今は静かに沈んでおり、この引湯管も移設されている。

列車は森石を経由し、渓谷沿いをひたすら走っていく。この列車は工事作業員を運ぶこともあるためか、一般客が下車できない駅でもいったんドアが開く。カーブの途中に設けられた森石では、何両かのトロッコ車両が留置されている様子が見えた。
森石の次は黒薙に停車する。ここは一般の乗客も乗り降りできる駅で、現在の運行区間において正式に一般客が利用できるのは、起点の宇奈月と、この黒薙のみである。洞門内に設置されたホームはとても長く、列車はS字カーブを描きながら駅へと滑り込んだ。駅の近くには黒薙温泉があり、秘湯を訪ねる観光客が利用する駅となっている。
車窓の反対側にはトンネルが口を開けており、貨物列車用の支線が山の中へと続いている。支線の先にあるのは、黒部川の支流・黒薙川沿いに建つ新黒薙第二発電所。その光景は、まさに「電源開発のためのトロッコ鉄道」であることを強く印象づける。
黒薙駅付近では、列車はしばらく黒薙川に沿って走る。発車直後に後曳橋を渡り、トンネルを抜けると、再び黒部川沿いへと戻った。谷底からおよそ60メートルの高さに架かる後曳橋は、その名の通り、後ずさりしてしまいそうなほど深い谷に架かっている。

後曳橋直後のトンネルを抜けると、列車は笹平に到着する。ここも一般の乗客は下車できない駅。駅周辺では工事が行われており、作業員の姿が見えた。列車の中の観光客と作業員が互いに手を振り合う光景は、ふつうの観光路線ではなかなか目にすることのないものである。
再び黒部川沿いへ戻った列車は、山の斜面に沿って何度もカーブを描きながら進んでいく。

しばらくすると、2つ目のダムである出し平ダムの脇を通過する。関西電力が管理する水力発電用のダムで、ここで取水された水は、併設の出し平発電所をはじめ、先ほど車窓に見えた西洋風の建物が印象的な新柳河原発電所、さらに宇奈月温泉より下流に位置する音沢発電所へと送られている。

やがて列車は出平に到着した。ここには行き違い設備のほか留置線も設けられており、貨車が留置されていた。黒部峡谷鉄道に乗車した際には、峡谷の車窓だけでなく、ぜひ反対側の車窓にも目を向けてほしい。多くの区間でコンクリート製の壁が続いているが、その向こうには人道トンネルが延びている。
黒部峡谷鉄道の運行期間は4月から11月まで。それ以外の冬季は積雪のため、工事列車も含めて運休となる。一方で、沿線のダムや発電所は冬の間も稼働を続け、そこで働く人々は住み込みで勤務する。生活物資は運行期間中にまとめて運び込まれるが、野菜などの生鮮食品はそうもいかない。そこで冬の間は、「逓送さん」と呼ばれる職員が宇奈月からこの冬季歩道を歩き、各施設へ物資を届けている。
私たちが日常で当たり前のように使っている電気。その安定供給が、多くの人の見えない努力の上に成り立っていることを、黒部峡谷や立山黒部アルペンルートを旅すると、強く実感させられる。

出平を発車した後も、列車は川沿いを進む。トンネルを抜け、山の斜面を縫うように走り、時に洞門を潜るというその繰り返しである。対岸には切り立った岩場が迫り、出し六峰と呼ばれる景勝地が姿を現す。
やがて車窓が少し開け、奥の方に大きな建物が見え始めた。列車は黒部川沿いに設けられた黒部第二発電所を眺めながら下り坂を進む。対岸の発電所へは赤い橋が架かり、ここにも引き込み線が延びている。この赤い橋は目黒橋と呼ばれている。この赤い橋の横を通過すると、列車は、ついに終点の猫又に到着した。
部分運休で今だけ下車できる猫又駅で折り返し

宇奈月からおよそ45分、列車は折り返し地点の猫又に到着した。現在(2025年)の黒部峡谷鉄道は、ここ猫又までの運転となっている。現在は暫定措置として開放されているこの駅だが、通常は専用駅であり、一般の乗客は降り立つことができない。現在は簡易的なホームが設置され、折り返し時間にホームやその周辺に降り立つことができるようになっている。駅前には簡易トイレや、フォトスポットなども用意されている。なお、到着後に列車を見送って滞在することはできず、必ず到着した列車で折り返す必要がある。
折り返し時間はおよそ20分。降り立った観光客は、それぞれ思い思いに黒部川の峡谷美を楽しんでいた。ちなみに、全国に「犬」が付く駅は数多くあるが、「猫」が付く駅はここが唯一だという。

先述の通り、ここから路線終点の欅平までは、2024年1月に発生した能登地震の影響で運転を見合わせている。被災箇所は、猫又と鐘釣の間で黒部川を渡る釣鐘橋で、地震に伴う落石によって損傷を受けた。復旧には時間を要しており、現時点では2026年秋以降の運転再開が予定されている。猫又はおおよそ中間地点に位置しており、ここから欅平まではあと10kmほどの道のりが残されている。本当はこの続きも見てみたいというのが、猫又に降り立った際の正直な気持ちだが、ひとまず今回は、ここ猫又までの乗車記録をつけておく。

列車の到着後、ほどなくして機関車の付け替え作業が始まった。ここまで客車を牽引してきた機関車は、ホーム端へと移動し留置される。オレンジ色の車体が印象的なこの機関車は、EDR形と呼ばれる電気機関車で、この路線の主力を担う存在である。
その機関車の脇で、坂を登っていく線路が見える。これが欅平へと続く本線である。この先も線路は黒部のさらに深い山奥へと延びている。全線の運転が再開された暁には、改めてこの鉄道を訪ねて、欅平までの全線走破を果たしたい。

一方、反対側では復路を担当する別の機関車が連結作業を行っていた。作業員たちは慣れた手つきで連結を進め、出発準備が整えられていく。
黒部峡谷鉄道の運行は春から秋にかけてのみで、冬季は全線が運休となる。その間、機関車や客車は一斉に点検・整備され、翌シーズンの運行に備えられる。普段は列車を支える運転士や車掌も、この時期は整備作業に携わるという。黒部峡谷鉄道には多数の機関車が在籍しており、その個性的な姿から、熱心な鉄道愛好家も多い。

発車時間が近づくと、構内放送で車内へ戻るよう案内が流れる。それに合わせて、乗客たちも往路で乗車した号車へと戻っていった。筆者も車内へ戻り、列車の発車を待つ。
川のせせらぎだけが響く猫又駅。おそらく次にこの地を訪れるときには、猫又は再び専用駅へ戻り、一般客が下車できない駅になっているだろう。普段は降りることのできない駅で下車できたという経験もまた、今回の旅ならではの貴重な思い出となった。
小休憩の後、再びトロッコ列車に乗車し、宇奈月へ戻る

やがて山間に警笛が響き、後ろから追いかけてきた工事列車が猫又に到着した。これと入れ替わるように、乗車していた列車は猫又を発車する。対向列車に乗る作業員たちと手を振り合いながら、今度は黒部川の流れに寄り添うようにして、宇奈月を目指して走り出した。
乗車記録 No.19
黒部峡谷鉄道本線 宇奈月行
猫又→宇奈月

山の斜面を縫うように進むトロッコ列車。編成の向きが変わり、今度は前方が長くなった。くねくねとカーブを曲がるたび、その先頭を走るオレンジ色の機関車が姿を現す。この瞬間こそが客車列車の醍醐味であり、そうした光景が頻繁に見られるのも、トロッコ列車ならではである。
復路は写真撮影もほどほどにし、この目で黒部峡谷の景色を味わうことにした。もちろん記録に残すことも旅の楽しみの一つだが、スマートフォンばかり見ていてはもったいない。画面越しではなく、実際の景色をしっかりと眺め、五感で旅を味わう時間も、意識的に大切にしたい。

列車は出平、笹平、黒薙、森石と停車しながら進んでいく。途中では後続の一般列車ともすれ違った。やはり2便目、3便目ともなると乗客は増え、満員に近い状態で走っている列車もあった。ここでも対向列車の乗客同士で手を振り合う。そんな小さな交流も、旅の記憶として心に残る。
進行方向が変われば、車窓の表情もまた変わる。急峻な山々を眺めながら、列車は少しずつ宇奈月へと近づいていった。

やがて、うなづき湖が再び視界に広がり始める。往路ではやや遠目に見えていた新柳河原発電所が、今度は間近に迫ってきた。湖面に張り出す発電所の姿は、まるでヨーロッパの城壁のようである。柳橋では工事列車と行き違い、何両かの貨車には建築資材が積まれているのが見えた。

うなづき湖を眺めながらしばらく走ると、宇奈月ダムが姿を現し、列車はまもなくトンネルへ入る。そして、新山彦橋を渡った。まさにその車窓は、トロッコ列車の旅の終わりにふさわしい光景だった。川沿いの紅葉も、雲の切れ間から差し込む日差しを受けて輝いている。
列車はほどなく終点の宇奈月に到着。およそ2時間にわたる黒部峡谷探訪の旅は、ここで幕を閉じた。

黒部峡谷の景色に十分な満足感を覚えつつ、宇奈月駅に降り立つ。人々の暮らしを陰で支える電力会社の鉄道路線であり、同時に北アルプスの深い峡谷へと分け入る風光明媚な観光路線でもある黒部峡谷鉄道。その性格は、筆者が旅の目的としている「公共交通」とはやや異なるが、違った形で日常を支える鉄道であるという点でも、また旅を楽しむための鉄道という点でも、非常に興味深い存在だった。
今回は宇奈月―猫又間のみの乗車となったが、来年(2026年)夏以降に予定されている全線再開後には、改めてこの路線を訪ね、欅平までの全線完乗を果たすつもりである。猫又から先には、どのような景色が広がっているのか。運転再開の日を、今から楽しみに待ちたい。

宇奈月到着後は少し早足で、「やまびこ展望台」と呼ばれる場所へ向かった。乗車していた列車と入れ替わるように発車していく別の列車を、この展望台から見送るためである。やまびこ展望台からは、新山彦橋を高い位置から望むことができる。観光パンフレットでもおなじみの、トロッコ列車を象徴する撮影スポットである。
やがて警笛が山間にこだまし、トロッコ列車が鉄橋を渡っていく。その姿を見送り、今回の黒部峡谷鉄道の旅に終止符を打った。
さて、この後は朝に一部区間を乗車した富山地方鉄道本線に再び乗車し、この路線を走破する普通列車を乗り通して富山へ。さらに富山からは北陸本線の移管各社を乗り継いで、この日の宿泊地の敦賀へと進んだ。