【旅行記】札幌近郊乗り鉄旅~市街地を循環する路面電車、札幌市電に乗車する~

 
 羽田空港からAIRDO便と空港バスを乗り継いで到着した札幌の中心部。1日目の午後は、札幌市の市街地の南側を循環する形で運行している札幌市電に乗車する。札幌駅前でバスを下車後は、大通公園の方へと歩き、路面電車が発着する西4丁目電停へと向かった。

札幌市街地を循環する札幌市電と初対面する

 北海道に残していた未乗3路線のうちの一つ、札幌市電。現在、北海道で路面電車が走っているのは札幌と函館の2都市のみである。函館市電には数年前に乗車したことがあるが、札幌市電については、札幌駅から少し離れた場所を走っていることもあり、これまで実際にその姿を見たことすらなかった。まずは、この路面電車と初めて対面するところから、今回の札幌での旅を始めることにした。
 
 札幌市電と初対面する前に、まずは一つ事前準備を済ませる。札幌駅から歩いていく途中、地下鉄大通駅の定期券発売所へ立ち寄り、これから乗車する札幌市電の一日乗車券を購入した。土日には「どサンこパス」と呼ばれる一日乗車券が460円で発売されている。札幌市電の運賃は1乗車230円の均一制。2回以上乗車するのであれば、この乗車券を使った方がお得かつ便利ということになる。
 札幌市電は、大通駅のさらに少し南側を走っている。初めて北海道を訪れた際に大通公園付近までは来たことがあったものの、それより南側のエリアを歩くのは今回が初めてだった。例えば福岡でも、JR博多駅と繁華街である天神は少し離れている。域外から訪れると、意外と天神方面までは足を延ばさないことも多い。札幌もどこか似た構図である。札幌駅周辺へ来る機会はこれまで何度もあったが、大通・すすきのエリアについては、正直そこまで用事がなかった。札幌で市電に会いに行くという感覚は、福岡で西鉄電車に会いに行く感覚に近いのかもしれない。大通駅からさらに歩き、西4丁目電停へ到着。ここで、初めて札幌市電の車両と対面した。
 
 札幌市電は、札幌市中央区内を走る路面電車で、札幌市街地の南側をぐるっと一周するように運行されている。現在地である西4丁目電停は、その一つの区切りとなる電停で、ここから市電は4つの路線を経由しながら市街地を循環していく。路線としては、一条線(西4丁目〜西15丁目)、山鼻西線(西15丁目〜中央図書館前)、山鼻線(中央図書館前〜すすきの)、都心線(すすきの〜西4丁目)の4路線で構成されている。ただし、実際の運行上ではこれらを個別に意識する場面はほとんどない。この旅行記でも特別な場合を除いて、一括して「札幌市電」と表記する。
 1970年代頃までは、新琴似駅や苗穂駅方面など、市内各地へ路線を延ばしていた札幌市電。しかし、地下鉄の建設やモータリゼーションの進展に伴い、各路線は次々と廃止され、西4丁目〜中央図書館前〜すすきの間のみが残された。その後長らく、西4丁目とすすきのという数百メートルしか離れていない2つの電停が起終点となっていたが、この間に新たに都心線が建設され、2015年に開業。これによって札幌市電は再び環状運転が可能となり、現在は大半の電車が循環運転を行っている。
 「札幌市電」という名称ではあるが、2020年に上下分離方式へ移行しており、現在は札幌市交通局が車両・設備を保有し、運行自体は一般財団法人札幌市交通事業振興公社が担っている。そのため、運行会社の分類では、公営鉄道には該当しない。札幌市交通事業振興公社は、もともと地下鉄駅業務や定期券販売などを行ってきた札幌市の外郭団体である。
 鉄道路線の乗りつぶしも佳境を迎え、残すところ10路線前後となった現在、まだ一度も実車を見たことがない鉄道路線というものは、かなり少なくなってきた。その中で、札幌市電は数少ない“未対面”の存在だった。広大な札幌市街地の中で、路面電車が走っているのはその一角だけ。本当に札幌に路面電車が走っているのかと思うほど、これまで出会う機会がなかった。そんな札幌市電が今、初めて目の前に現れる。遠く四国・松山を走る伊予鉄道でも聞き慣れた電子ホーンをビル街に響かせながら、確かに路面電車は札幌の街を走っていた。
 
 まだ時間には余裕がある。そこで、すぐに電車へ飛び乗ることはせず、まずは電停周辺で外回り電車を撮影してみることにした。札幌市電は日中でもおおむね8〜9分間隔で運転されており、少し待っているだけですぐ次の電車がやって来る。西4丁目では内回り・外回りで乗り場位置が異なっており、外回り電車の撮影がしやすい構造になっている。晴天時は午後になるとビル影や逆光の影響も出るが、路面電車の場合は反対側から撮影しても比較的絵になりやすい。
 日中は、内回り・外回りともに低床車が毎時2本程度運転されている。札幌市電では、単車と3連接の2種類の低床車が活躍している。先に掲載した車両は1100形。アルナ車両製の低床単車で、「リトルダンサー」シリーズの一形式にあたる。「シリウス」の愛称を持ち、細部のデザインは異なるものの、伊予鉄道のモハ5000形ともどこか似た雰囲気を感じる。
 一方、写真の緑色の車両は8520形。1988年の登場以来、長年にわたって札幌市電を支えてきたベテラン車両の一つである。この緑色の車体に札幌市交通局の「ST」ロゴを配した塗装こそ、札幌市電の“標準色”といえる存在である。
 
 そして、札幌市電の顔とも言えるのが、この丸いライトと卵のような前面形状が特徴的な210形・220形・240形・250形系列である。登場当時としてはかなり先進的だったそのデザインは、今見ても愛嬌があり可愛らしい。しかしながら札幌市電の現役車両の中では最古参にあたり、半世紀以上にわたって札幌市民の暮らしを支えてきた重鎮でもある。他形式が川崎重工やアルナ車両など本州メーカー製であるのに対し、これらは北海道内で製造された“道産子車両”という点も特徴的。一部車両は廃車となっているものの、現在も多くが現役で活躍しており、この特徴的なデザインとともに、今なお札幌市電の象徴的存在であり続けている。(なお、掲載・構成の都合上、写真の順番と当日の運行順は一致していない)

「ポラリスⅡ」で運転される外回り電車に乗車

 さて、それではいよいよ札幌市電に乗車してみる。内回り・外回りに特別なこだわりはなかったため、今回は外回りの循環便に乗車し、西4丁目から西4丁目へ、時計回りに札幌市電をぐるりと一周してみることにした。どうせなら車窓も楽しみたいので、座席がセミクロスシート配置となっている低床電車「ポラリスII」で運転される便を選ぶ。
 先述の通り、日中は毎時2本が低床車で運転されている。車椅子利用者や足の不自由な利用者のため、低床車運行便は時刻表などでも公開されており、該当便は必ず低床車で運転される。一方で、「シリウス」と「ポラリス」のどちらが来るかまでは分からない。もっとも、札幌市電はおよそ1時間で一周し、再び同じ電停へ戻ってくる。今回は、ちょうど電停付近に到着した際にやって来たのが「ポラリスII」だったため、その1時間後に戻ってくる同じ車両の便へ乗車することにした。
 
乗車記録 No.3 札幌市電 外回り循環 西4丁目→西4丁目 A1210形 ポラリスⅡ
 
 外回り電車は、西4丁目で車内の7〜8割ほどの乗客が入れ替わる。運良く最後尾の運転席後ろの座席を確保することができた。3車体連接車の「ポラリスⅡ」は、車端部がクロスシート、中間部がロングシートとなっている。昼間は比較的空いているものの、ラッシュ時には積み残しが発生することもあるという札幌市電。その収容力の高さも、「ポラリスⅡ」の特徴の一つである。中間部のロングシートの一部は折りたたみ式となっており、朝夕は一度により多くの乗客を運べる構造となっている。
 
 西4丁目から乗車した外回り電車は、都心線、山鼻線、山鼻西線、一条線を経由し、西4丁目へ戻ってくる。西4丁目を出発して最初に走るのは、2015年に開業したすすきのまでの都心線区間。札幌三越前のスクランブル交差点を大胆に右折すると、その後は歩道と車道の間を縫うように進んでいく。
 この都心線の特徴の一つが、「サイドリザベーション方式」と呼ばれる軌道敷の構造である。路面電車といえば道路中央を走るイメージが強いが、ここでは上下線それぞれが、歩道と車道の間を走っていく。富山地方鉄道富山港線(ポートラム)や熊本市電の熊本駅周辺などでも見られる方式だが、札幌市電都心線では、上下線が道路の両端を走る点が特徴的。このような配置にすることで、電停を道路中央ではなく歩道脇へ設置でき、利便性や安全性の向上にも繋がっている。
 
 都心線はその名の通り、札幌最大の繁華街を走る。途中には狸小路アーケードがあり、信号待ちをする歩行者の目の前を路面電車が横切っていく。このあたりは信号待ちも多く、すすきのまでであれば、正直歩いた方が早い。交差点を進んでいく様子は、どこか路線バスの車窓を眺めているようでもあった。
 利点が多いように見えるサイドリザベーション方式にも課題はある。自転車や原付が路面電車と自動車に挟まれるような形になったり、路面電車の存在に気づかず路上駐車した車によって運行が妨げられたりすることもあるらしい。なお、最近では、岡山電気軌道が清輝橋線と東山線を接続し、環状運転を行う計画を発表しているが、そこでも単線のサイドリザベーション方式が採用される予定となっている。
 
 サイドリザベーション方式の区間はそれほど長くはなく、やがて電車は大きな交差点を右折する。交差点角にNIKKAの広告が掲げられたこの場所こそ、札幌を代表する繁華街「すすきの」に面するすすきの交差点である。ここで電車は交差点を曲がり、月寒通へ。再び道路中央を走る形へ戻る。
 すすきの電停は、都心線開業以前の札幌市電の終点だった場所である。現在は相対式ホームへ改良されているが、どこか旧来の終点らしい雰囲気を今も残している。電停の先には小さな引き上げ線があり、ホームまで整備されているものの、現在の定期便では、この電停を始発・終点とする列車は設定されていない。
 
 すすきのから先は山鼻線区間へ入る。次の資生館小学校前を出ると、電車は月寒通から西7丁目通へ進路を変え、ここからしばらく南下していく。繁華街に近い序盤はホテルなども多いが、次第に車窓はマンション、アパート、戸建住宅へと移り変わり、市街地の中にありながらも、どこか郊外らしい雰囲気へ近づいていく。車内でも、この山鼻線区間では降車が続く。
 山鼻9条付近では、東側の少し離れた場所に中島公園が広がる。この公園の地下には地下鉄南北線が通っており、山鼻9条電停では中島公園駅、行啓通電停では幌平橋駅との間で乗継割引が設定されている。
 
 西7丁目通を南下し、幌南小学校前に差しかかると、その直後の交差点で電車は右折し、西へ向きを変える。通りの正面には、観光地としても知られ、夜景スポットとして名高い藻岩山がそびえていた。電車はその山へ近づくように進んでいく。このあたりでは戸建住宅が多く、高層の建物は少ない。写真の道の先には豊平川が流れており、そのさらに南側では、豊平川が藻岩山の裏手へ近づき、やがて市街地も終わりを迎える。
 
 市電南側区間の沿道には、スーパーや商業施設が点在している。行啓通付近から乗り込み、この周辺で下車する利用者も一定数見られた。やがて電車は中央図書館前へ到着。車窓には、電停名の由来となった札幌市中央図書館と埋蔵文化財センターが見えていた。
 中央図書館前は札幌市電で最も南に位置する電停であり、乗車した西4丁目電停から見ると対角に位置する場所である。近くには札幌市電の車両基地もある。車両基地の隣には「電車事業所前」電停が設けられているが、車両基地への線路は中央図書館前方面へ向いているため、車庫への出入りを行う列車は、この中央図書館前を始発・終点として運転されている。
 
 電車は再び交差点を右折し、車両基地を横目に見ながら電車事業所前電停へ到着。ここでは運転士の交代が行われた。車両基地の背後には藻岩山がそびえ、その山腹にはロープウェイの姿も見える。1日目は時間に余裕があったため、市電を一周した後に藻岩山へ登ることも考えていたが、この日は設備点検による運休日で、それは叶わなかった。なお、藻岩山ロープウェイ乗り場へは、JR北海道バスの路線バスが直接乗り入れているほか、ロープウェイ入口電停から徒歩でもアクセスできる。
 
 電車事業所前を出発した電車は北を向き、再び札幌市中心部へ向かう。中央図書館前〜西15丁目間は山鼻西線区間。車窓もまた、戸建住宅中心の景色から、徐々に背の高いマンションが並ぶ市街地へと変化していく。途中の西線16条電停は一見ごく普通の電停だが、近くにポイントが設置されており、朝時間帯を中心に多数の折返し列車が設定されている。そのため、西線16条〜西4丁目間は、札幌市電でも特に本数の多い区間となっている。
 山鼻西線では「西線○条」、その先の一条線では「西○丁目」という電停名が続くため、来訪者にはなかなか区別がつきにくい。札幌に限らず、北海道の路面電車やバスには、「○条○丁目」や「○号」が連続する場所も多く、正直なところ少し混乱する。しかし、それもまた北海道らしさの一つなのだろう。
 
 山鼻西線区間では途中駅からの乗車も多く、車内は徐々に混雑し始める。札幌医科大学附属病院やNTT東日本札幌病院に近い西15丁目電停が、山鼻西線区間の終点。ここからは一条線へ入り、再び西4丁目電停へ向かう。電車は交差点を右折して東を向き、南一条通へ。北側には大通公園が広がり、車窓にもその緑地が時折姿を見せる。ビル街を進んだ電車は、やがて西4丁目へ到着した。
 
 札幌市街地をぐるっとと巡る、およそ1時間の路面電車の旅。域外からの観光客が利用する機会といえば、藻岩山へ向かう際などに限られることが多く、また市街地南側を走るため、すすきの周辺まで行かない限り、その存在に触れる機会も少ない。それでも、実際に乗車してみると、札幌市民の日常の足として機能している様子を随所で感じることができた。
 札幌市電へ乗車したことで北海道に残していた未乗路線は、いよいよ残り2路線となった。国内の路面電車では、昨年広島市内でルート変更が行われた広島電鉄本線の「駅前大橋ルート」が未乗ではあるものの、ひとまず各地の路面電車には、これでひとまずすべて訪ねたことになった。

サイドリザベーション方式で走る路面電車を追いかけて街を歩く

 1日目は、札幌へ向かい、札幌市電に乗車することだけを主な目的としていたため、この後はホテルへ向かうだけとなった。しかし、時刻はまだ16時過ぎ。ホテルへ向かうには少し早かったので、西4丁目周辺の大通エリアやすすきのエリアを少し歩いてみることにした。
 まずは、先ほど乗車してきた「ポラリスII」を追いかけるように、すすきの方面へ歩く。交差点を曲がり、札幌PARCO前を通過する電車を撮影した。先述の通り、都心線ではサイドリザベーション方式を採用しており、道路の両側に軌道敷が設けられている。
 
 狸小路方面へ走り去っていく「ポラリスII」。サイドリザベーション方式の軌道上を走る低床連接車、そして沿線に並ぶモダンなビル群の組み合わせは、どこか近未来的な札幌の街並みを感じさせる。
 奥に見えるアーチ屋根が東西に延びる狸小路商店街。そしてさらに奥、木々の向こうにビル看板が見えるあたりが、すすきの交差点である。この後は、路面電車を追いかけるようにさらに南へ歩いた。
 
 内回りの西4丁目電停と狸小路電停は、どちらも道路中央ではなく歩道沿いに設置されている。歩行者は横断歩道を渡ることなく、歩道からそのまま路面電車へ乗り込むことができる。(写真は翌朝撮影)
 電停脇には地下街への入口も設けられている。都心線が走る札幌駅前通の地下には、札幌駅からすすきのまで地下街が続いており、そのさらに地下には地下鉄南北線が通っている。西4丁目電停は地下鉄大通駅、すすきの電停は地下鉄すすきの駅に隣接しており、いずれも乗継割引の対象となっている。
 
 その後は、夜になればさらに賑わいを見せるのであろうすすきのの繁華街を歩き、この地の名物の一つだという「にぎりめし」をいくつか購入した。歩いた方が明らかに早い距離ではあるものの、低床車ではない従来型車両にも乗ってみたかったため、すすきの電停から内回り電車に乗車し、西4丁目電停へ戻ることにした。
 
 西4丁目へ戻った後は、百貨店のデパ地下で総菜を購入。その後は大通公園方面へ出て、大通を少し歩いてみる。日曜日の夕方、公園には観光客をはじめ、それぞれの時間を過ごしながら札幌の街を楽しむ人たちの姿があった。
 この日は大通西側にあるホテルへ宿泊する予定だった。再び西4丁目へ戻った後は、今度は内回り電車に乗車し、ホテル最寄りの電停で下車。そのままホテルへチェックインし、札幌での1日目を終えた。
 
続く