【旅行記】中国地方のローカル線を巡る旅 ~福塩線と木次線を乗りつぶす編~
2021年夏の時点で中国地方のJR西日本路線のうち、未乗だったのは西から山陰本線幡生~益田間、芸備線、福塩線、木次線、姫新線、津山線、因美線津山~智頭間の7路線(区間)。2020年から小野田線や美祢線など山口県のローカル線を中心に旅してきたが、中国山地に分け入る路線は伯備線くらいしか乗車したことがなかった。JR西日本は2021年、芸備線をはじめとした管内のローカル線について、10月改正による減便の実施した上で、今後の運行の在り方を検討する協議の場を作るとし、今後の存続が危ぶまれる路線も出てきている。やはり乗り鉄として行かない手はないわけだが、そんな報道もあってか青春18きっぷシーズンの芸備線では積み残しも発生していたようで、なるべく混雑を避けて乗車できるタイミングを見計らっていた。結果的に、昨年秋の週末に特に今後動きが加速することが予想される芸備線・木次線・福塩線を乗りつぶす旅を企画し、中国地方の山間路線を旅することができた。
日程は前泊を含めた2泊3日で、1日目は夜のうちに福山入りして福山駅前に一泊。2日目は福山駅から福塩線に乗車して府中を経由し三次へ。三次からは路線バスで備後庄原駅経由で西城へと向かい、備後西城駅から芸備線の普通列車で備後落合駅へ。さらに備後落合から木次線の普通列車で宍道駅に出て、宍道駅から山陰本線、伯備線経由で新見まで行き、新見で一泊する。3日目は新見から芸備線をひたすら西進して広島まで向かい、広島都市圏で未乗となっていたスカイレールサービスに乗車し、帰路に就く流れである。
ここでは簡単に1日目を振り返る。
早朝の福塩線をひたすら走り福山から三次へ

1日目はまだ真っ暗な福山駅からスタートした。ローカル線乗りつぶしの旅の朝は大体早い。2日連続で4時半起きと休日なのに平日より数時間早く起きる必要がある。直前のダイヤ改正で福塩線三次~府中間の普通列車が減便されたため、福塩線の始発列車で府中駅を目指す。乗車するのは105系の普通列車。広島県内でありながら福山駅や福塩線の福山~府中間は岡山支社に属する。そのため広島市内とは対照的にいわゆる末期色の国鉄形車両が多数活躍している。

福山から井原鉄道線が分岐する神辺や万能倉などの芦田川流域を進んで45分ですっかり日が昇った府中駅に到着。車両基地も設置されている福塩線の拠点となる駅でここまでは電化され運転本数も多いが、ここからは非電化となり1日5往復の区間となる。岡山支社はここまででこの先は広島支社の区間へと入っていく。

福塩線で乗車したキハ120形。西日本のローカル線の顔である。府中からは芦田川が流れる山間の谷間をしばらく進み、ダム建設に伴って付け替えられた八田原トンネルを抜け、上下、甲奴、吉舎といった沿線の街を経由して福塩線の終点である塩町に至る。塩町からは芸備線に入って三次へ。特に三次側では高校生の利用が目立った。
芸備線と並行する備北交通の路線バスで西城へ

三次駅の駅舎。三次市は広島県北最大の都市で人口は約5万人。ここから広島方面への列車は概ね1時間に1本運転されているが、広島市内へは高速バスも発着しており、高速バス利用者も多い。以前はこの駅から江の川沿いに進む三江線もあったが廃止されている。時間は9時を回ったところだが、次の列車まではまだ4時間もあるので、ここから庄原駅経由で西城まで備北交通の路線バスで先回りすることにした。

備北交通の路線バス「三城線」に乗って訪れた備後庄原駅。三次~庄原間の路線バスは30分に1本の運行で、芸備線の本数とは比べ物にならないほど多い。芸備線では期間限定で広島~三次間の快速みよしライナーがこの駅まで延長で運転されることもあるが、この街から広島へ向かうにも高速バスが便利であり、リニューアルされた駅舎にはバスターミナルも設置され、どちらかというとバスターミナルに付属した駅という印象が強い。平日の朝夕は芸備線を利用する高校生の姿も見られるようだが、この日は日曜日なので高速バスに乗り込む若者の姿が見られた。

庄原駅から路線バスでさらに進んで備後西城駅へ。列車と違って庄原の市街地を巡回して運行される路線バスは日曜日にも関わらず利用客も多かった。次の列車まではまだ2時間。この駅のベンチで近くのスーパーで買った総菜を食べながら列車を待つ。

晴天の備後西城駅。目の前のグラウンドでやっている部活か少年野球の試合を遠目に眺めながらのどかな時間を過ごすことができる。時折車で訪れる観光客の姿はあるがその中にここから列車に乗る人はいない。ここから列車は標高を上げて備後落合駅へのラストスパートとなる。
備後西城から芸備線の普通列車で秘境ターミナル備後落合へ

備後西城駅から普通列車に乗車して2駅。終点の備後落合駅に到着した。山間の秘境ターミナル駅として有名なこの駅では、三次方面、新見方面、宍道方面の3方向が接続する。14時台は各方面の列車がそろい、鉄道ファンでにぎわう。ここから木次線へと乗り換えるが、日曜日の午後なので乗客の多くは芸備線同士で乗り継ぐ客が多く、木次線に乗り換える乗客は少ない。

木次線の列車を待っていると、駅でガイドとして活動されている男性が駅についていろんなことを教えてくれた。駅名の落合というのはこの地の地名ではなく、3方向の列車が落ち合うことから名付けられた駅名なのだとか。今は緑が鬱蒼としている駅の裏手には機関庫が設置され、多くの職員が働いていたらしい。乗り換えの時間で繁栄していた頃のこの駅を妄想してみるのも楽しい。
木次線の普通列車に揺られて宍道へ

備後落合駅は峠の駅ではなく、ここから木次線は三井野原までは中国山地の山を登っていく。三井野原を過ぎると一転下り坂が続き、車窓には並走する国道314号線の奥出雲ループ橋が見える。木次線はここで大きく迂回しながら距離を稼いで下っていき、スイッチバックで出雲坂根駅へと下っていく。中国地方唯一のスイッチバックがあるこの区間は豪雪地帯でもあり、木次線も冬季は出雲横田~備後落合間で列車が運休する。木次線のうち備後落合~出雲横田の区間はローカルな利用客も少ないが、観光列車の出雲おろち号は紅葉のシーズンを中心に観光客から人気である。

備後落合から1時間で出雲横田に到着。この駅から木次・宍道方面は通年運行で運転本数も増える。のどかな風景をひたすら走ると、さらに1時間で木次線の拠点駅である木次駅へと到着する。車両基地も設置れており駅構内は広い。木次駅では10分間運転停車する。乗客の多くは同業者である。備後落合から宍道までの所要時間は約3時間。高速バスなら広島市内からでも追いつくだろう。

備後落合から3時間あまり、ようやく木次線を完乗して、日が沈み始めた終点の宍道駅に到着した。瀬戸内海側の福山駅から1日かけて日本海側へ出てきたことになる。といっても宍道湖があるので日本海まではそれなりに距離がある。宍道駅の近くには出雲空港があるので飛行機の音が聞こえる。宍道駅の乗り換え案内には広島方面の文字が見えるが、ここから広島を目指して乗り換える一般客は今はいないだろう。
出雲市発岡山行のロングラン列車で宿泊地新見へ

宍道駅からは出雲市発岡山行のロングラン普通列車(現在は新見止)で宿泊地である新見駅へ。米子までは乗車する人の数も多いが、伯備線に入ると閑散とした。新見までの所要時間は3時間半。出雲市から岡山まで乗り通す猛者もいるようだった。途中の米子駅では20分ほど停車し、伯備線内では特急列車や貨物列車の行き違いや通過待ちで停車時間が長くなる。この日は新見駅前のホテルに宿泊。翌日は新見駅から芸備線を広島駅へと向かった。
~芸備線を走破する編~へ続く