【旅行記】中国地方のローカル線を巡る旅 ~芸備線を走破する編~
~福塩線と木次線を乗りつぶす編~の続き
早朝の新見駅から快速列車で備後落合へ

福塩線、木次線、芸備線の3路線を巡る旅の最終日は前日よりも早い朝5時の新見駅からスタート。まだ真っ暗で人っ子一人いない。この時間でもすでに伯備線の倉敷方面と姫新線は始発電車が出発している。この旅では日中の新見駅の様子を見ることができなかったが、いずれ姫新線に乗りに行く予定なので、明るい時間の様子はその時に楽しみたい。新見駅からは5時17分発の芸備線快速備後落合行に乗車する。備中神代を起点とする芸備線だが、列車はすべて伯備線の新見駅まで運転されている。

ホームへ入ってしばらくするとキハ120が1両で入ってきた。行先幕には快速備後落合の文字。芸備線の新見~備後落合間で唯一の快速列車で、新見~東城間で快速運転を行う。実質的に通学時間帯となる折り返し列車のための送り込みとして走っている列車で、日常的な利用者はほぼいないと思われる。新見側から芸備線を走破しようとすると、チャンスは1日2回しかない。1本目がこの快速列車で、2本目はこの列車の次に備後落合へと向かう13時2分の列車である。さすがに2本目に乗ると、後の行程に影響するので、暗い中からスタートした。同業者と思われる乗客を数人乗せて列車は新見駅を出発した。

備後落合を出ると列車は伯備線を北上する。東城までは快速列車で途中駅は矢神のみとなっている。伯備線の新見~備中神代間には芸備線系統の列車しか客扱いしない布原という駅があるが、この駅はもちろん通過し、芸備線の起点となる備中神代駅も通過していく。車窓には時折、オレンジの灯かりが見えるが、芸備線と三次までほぼ並走する中国自動車道で、ここから東城までは接近して走っていく。最初の停車駅である矢神に着くころには夜が明けて、車窓が見えるようになった。広島県に入り、最初の街である東城を出ると、いよいよ日本で最も乗車人員が少ない区間に入る。1日の利用者数は片手で数えられる程度となっていて、営業係数は2万5千を超えるそう(2022年に入ってからの情報)。東城から備後落合まで50分ほどかかるが、どんどん標高を上げていく。途中の駅で降りる同業者の姿もあった。
通学ラッシュの芸備線をゆく

まだ朝6時半の備後落合駅で、三次行の普通列車に乗り換える。前の列車では5人ほどの乗客がいたが、乗り換えたのは3人で、2人は列車を見送った。ここから先、列車は三次へと向かう通学時間帯に突入して走っていく。備後落合は近くに人家も少ないので、通学客の利用はないが、一駅進んだ比婆山からは通学利用があるようだった。昨日訪れた備後西城駅でたくさんの通学生を乗せて列車は快晴の庄原を走り抜ける。昨日路線バスで通った国道を遠目に見ながら列車は田園風景を走る。庄原で対向した普通列車や塩町で対向した福塩線吉舎行きの普通列車は高校生をたくさん乗せていた。朝夕の時間帯はこの区間の芸備線や福塩線が輝く数少ない時間帯である。定刻で終点の三次に到着。すぐに広島行の快速みよしライナーが出るが、キハ120ばかりでは飽きるので、次の普通列車で広島を目指す。

三次駅では1時間20分ほど時間があったので、1番のりばの端の方へ。廃止された三江線の0キロポストとモニュメントが設置されている。ここから島根県の江津までを3時間半で結んでいた三江線。江津、三次からそれぞれ線路が伸び、中間区間は鉄道建設公団が建設。1975年に全線が開業した路線で、ローカル線としては若い路線だった。残念ながら乗車する前に廃線されてしまい、路線バスやコミュニティバスに転換されている。並行する高速道路がない(浜田道からは少し離れている)この旧三江線沿線も訪れてみたい。
ローカル線から都市鉄道へ変貌する芸備線

三次から乗車するのはキハ47形2両編成の普通広島行。1日目でも述べたが、三次~広島間は高速バスも運行されており、芸備線も本数が多いとまでは言えない本数となっている。途中の狩留家や下深川といった駅から広島側へと多数の区間列車が運転されており、広島市近郊では都市鉄道の一翼を担っているが、狩留家から北側はローカル線の様相を呈する。普通列車の所要時間は1時間45分ほどで、決して近くはない。

三次を出た列車は江の川の上流に位置する安芸高田市へと入っていく。しかし安芸高田市の中心部である吉田は経由せず、街から少し離れた場所を入る。向原を出ると今度は広島市街側へと流れ込む三條川に沿って進んでいく。この三條川にかかる鉄橋の一本が数年前の水害で流出し、芸備線も1年以上にわたって不通となっていたのも記憶に新しい。広島へと出る列車のため、乗客は増える一方である。下深川を出るといよいよ車内も混雑し、広島市街へと入っていく。太田川の対岸には可部線が入り、かなり近接している。すれ違う列車も広島に近づくにつれて増えていき、都市鉄道としての芸備線の姿を見ることができた。時刻は11時15分。列車は広島駅に到着。新見駅から6時間で芸備線を走破した。
広島県最後の未乗路線、スカイレールサービスに乗車する

芸備線を乗り通してもまだ時刻は昼前。芸備線で広島県内のJRは全線乗車できたのだが、広島にはもう一つだけ未乗路線があるのでおまけにそれに乗りに行く。広島駅から山陽本線の白市行き普通列車に揺られて30分ほど、山の谷間にある瀬野駅へと到着した。この駅に隣接するみどり口駅からみどり中央まで延びるのがモノレール路線であるスカイレールサービス広島短距離交通瀬野線である。見た目はロープウェイのような形をしているが、モノレールに分類され、国内でも珍しい走行方式を採用した路線である。みどり口を出ると、すぐにグイグイと坂を上っていく。瀬野駅を谷底として、山の斜面に住宅街が造成されており、その住宅街の中を車両は標高を上げていく。終点のみどり中央までは5分ほどだが、標高は160mも上がっている。住宅街の移動手段なので、千葉のユーカリが丘線などとも似た性質を持ち、旅行者が使う路線ではまずない。折り返して瀬野駅まで、車窓からの景色を楽しみ、瀬野駅から山陽本線で広島を後にした。
おわりに
2日間で福塩線、木次線、芸備線と乗車してきた。1日目は週末ということもあって、鉄道ファンや観光客の姿が多くみられ、2日目は三次周辺で通学する高校生で混雑する芸備線の姿も見ることができた。木次線の車窓から眺める中国山地の山々、そして備後落合駅の趣ある駅構内など、どれも旅情を誘ってくれる日本の原風景と言える美しい景色だった。存廃の議論はこれからさらに詰められていくことになるだろうし、廃線という2文字も現実味を帯びてきている。こうした路線がなくなるのは鉄道ファンとして惜しい。しかし、鉄道路線は旅情や風情また観光を第一に走っているわけではないことは理解しておきたいと思う。どんなにいい景色であっても、鉄道が公共交通である以上、必要とされなければ他の輸送手段に切り替えることもやむを得ない。その結果、その地域の公共交通利用者の利便性の向上が図られたのなら、それはそれで喜ぶべきことだなのだろう。また芸備線へと訪れることがあるならば、備後落合駅でのんびり時間を過ごしてみたいが、もしかするとそうはいかないかもしれない。その時には新しく生まれ変わった広島北部地域の公共交通を使って、沿線を旅してみたい。