【旅行記】天草絶景路線バスの旅~快速あまくさ号で天草・本渡へ~

天草の路線バスを探訪する
熊本県の一大観光地である天草地方。崎津教会をはじめとする「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」は世界遺産に指定されているほか、イルカウォッチングも定番の観光スポットとなっている。天草へ交通機関で行く方法は陸海空それぞれある。まず、空は天草空港を拠点とする地域航空会社「天草エアライン」があり、天草空港へは熊本(伊丹への乗り継ぎが可能)・福岡空港からの便が設定されている。次に海は三角港からJR九州の観光列車「A列車で行こう」に接続する形で運行されている「天草宝島ライン」があるほか、長崎県の茂木港と富岡港を結ぶ旅客船がある。もちろんフェリー航路も多数あり、鹿児島県の長島と天草地方南部の牛深を結ぶ三和フェリー、長崎県島原半島の口之津港と鬼池港を結ぶ島鉄フェリーでアクセスが可能となっている。最後に陸の移動手段となるバスは、一般の路線バスもわずかながらつながっているが、産交バスが運行する快速バス「あまくさ号」が熊本市内と天草とを結ぶメインルートとなっており、熊本市内と天草・本渡を約2時間30分で結んでいる。
一方、天草島内の公共交通機関は、産交バスの路線バス網が広がっている。以前は現在よりもさらに多くの路線が広がっていて、廃止されてしまった路線も多いが、それでも路線は割と多い。産交バスでは快速バス「あまくさ号」と天草エリアの一般路線バスが乗り放題となる乗車券「あまくさ乗り放題きっぷ」が発売している。2日間、3日間の2種類が用意されていて、「あまくさ号」を熊本~本渡間で往復するとほとんど元が取れるので、天草エリアを交通機関で旅するには非常に有効に活用できる。今回はこの「あまくさ乗り放題きっぷ」を使って、天草の路線バスに乗車しに行った。
快速あまくさ号で本渡バスセンターへ
快速「あまくさ号」の起点は桜町バスターミナル。ここから天草市本渡の産交バス天草営業所が設置されている産交車庫前バス停まで1日10往復が運行されている。全便が産交バス天草営業所の運行となっていて、原則トイレ付のハイデッカー車両で運転される。桜町バスターミナルの2階には産交バスの窓口があり、ここで「あまくさ乗り放題きっぷ」を購入できる。乗車券は半券が2枚ついていて、両側があまくさ号の往復分、真ん中が天草島内での乗り放題券となっている。あまくさ号は5番のりばから発車。同じのりばからは長崎、鹿児島、宮崎方面の高速バスと、熊本城周遊バス「しろめぐりん」が発着しているが、あまくさ号は床にレーンが設置されていて、ここに並んで乗車する形になっている。
乗車記録1
産交バス 快速あまくさ号
宇土駅東口・さんぱーる・松島経由 産交車庫前行
桜町バスターミナル→本渡バスセンター

桜町バスターミナルを出ると、熊本駅を経由するために電車通りに沿って熊本駅へ向かう。熊本駅と熊本市中心部は路面電車・バスで10~15分ほど離れていて、以前は熊本駅周辺に商業施設がなかったため、市内中心部への移動に多少の面倒くささがあった。しかし、熊本駅の高架化に伴って熊本駅周辺が再開発され、昨年アミュプラザくまもとが開業。それまで魅力の薄かった熊本駅周辺も立派な商業地に生まれ変わっている。始発の桜町バスターミナルでは8名ほど、熊本駅では2名ほどが乗車。熊本駅を出ると国道3号線へ出て、熊本市南部、宇土市へと走っていく。

鹿児島本線と三角線が分岐する宇土駅は西口と東口にバス停があるが、あまくさ号は東口に停車して再び国道3号線に戻る。その後すぐに国道57号線に入り、三角半島の北海岸を進んでいく。国道57号線は大分から長崎へとつながる国道で、熊本市南部の近見交差点から宇土市の松原交差点まで国道3号線と重複している。松原交差点から先は再び単独区間となり、三角港まで続くが、三角港から島原港までは海上区間として海を渡る。ただし、同区間のフェリーはすでに廃止されていて、現在は島原に渡る手立てはない。国道57号線はしばらくの間JR三角線と並走する。宇土の市街を走り抜けてしばらくすると、車窓には有明海が見えるようになる。

このあたりの海岸は御輿来海岸と呼ばれる。干潮のときには干潟が現れ、美しい干潟と夕日をセットで撮影できる有名な撮影スポットとなっている。九州新幹線が全線開業する以前は三角線にキハ200系気動車などを使用した快速「おこしき」が走行していた。今の特急「A列車で行こう」の前身的な列車である。熊本市内では曇っていた天気も南下とともに晴れに変わった。有明海の奥には雲仙普賢岳を有する島原半島が見え、そこから視線を右に向けると、熊本市のシンボル的な金峰山や遠く佐賀と福岡の県境にあたる背振山地まで見通すことができる。

三角半島の先端が近づくと、三角線が山の方へ離れていき、バスは進行方向を西から南へ変える。その先にあるのが三角西港。天草とセット巡れる観光スポットの一つで世界遺産にも指定されている。三角西港は明治政府の殖産興業の政策の一環として作られた港の一つで港が作られた当時の面影をそのまま残している。あまくさ乗り放題きっぷはこの三角西港以降がフリー区間となっていて、熊本市内~三角西港間が1往復のみ利用できる(すなわち、ここで下車してフリーきっぷ部分として後続のあまくさ号で天草へ向かうことも可能)。三角西港を過ぎると立派な橋が車窓に現れる。天草五橋の最初の橋である1号橋こと「天門橋」と、近年開通した高規格道路三角大矢野道路の「新天門橋」である。ここからは5つの橋を渡って天草上島の松島エリアへ向かう。ちなみに新天門橋は橋の名前の候補に「熊門橋」が挙がったことがある。

あまくさ号は高規格道路を使わずに、旧来からある天門橋を渡って大矢野島へと渡る。しばらく行くと道の駅に併設された「さんぱーる」バス停に停車。上天草市の路線バスの拠点の一つで、松島や三角駅に隣接する三角産交に向かう路線バスのほか、コミュニティバスが複数発着している。大矢野は天草と熊本を結ぶ唯一の経路であることから渋滞が頻発する場所。その改善を目的としたのが新天門橋から続く高規格道路で、いずれは熊本から天草までを結ぶ予定となっている。大矢野島を縦断すると二号橋、三号橋、四号橋と渡り、前島へ。観光拠点となっている「リゾラテラス天草」に立ち寄って最後の五号橋を渡り、松島に入る。三角半島区間では主に島原半島が見えていたが、今度は島原半島の南端のエリア、さらにその奥には長崎半島が見えはじめる。小さな島がいくつも浮かぶこのエリアは天草の中でも観光スポットや旅館が集中している。

バスは松島バス停に到着。コンビニの駐車場にバス停があり、冷暖房完備のバス待合所も設置されている。ここまでの運行時間は1時間半。基本的にバスはトイレ付車両で運転されるが、ここで乗務員の休憩を兼ねて5分間の休憩がとられる。乗客は降りてコンビニで飲み物などを購入することができる。乗車しているバスはもともと産交バス八代営業所所属で新八代駅と宮崎駅とを結ぶ高速バス「B&Sみやざき」に使用されていた比較的新しい車両。コンセントなども完備しているので、快適に移動できた。松島バス停での小休憩の後、バスは再び本渡へ向けて走り始める。

松島を出てしばらくは内陸を走行する。松島から先は少しだけ有料道路がのびていて、この有料道路を使う車が多い。あまくさ号はローカル輸送の役割も担っているので、一般道をひたすら走っていく。以前は有料道路を経由する「超快速」便も運行されていたが、昨今の感染症禍の影響で運転されていない。下津江四郎ヶ浜ビーチバス停から先がこのあまくさ号のハイライトとなる絶景区間。有明海の南側を一望しながら進む。左側に天草上島、右側には島原半島の南端を望む。その間にある外海と有明海とを結ぶ海峡は早崎瀬戸と呼ばれている。その奥には長崎半島の茂木あたりの山が見える。すなわちその山を越えると長崎市内になる。熊本と長崎、遠いようで実は目と鼻の先にある。約20分ほどこの絶景を見ながら走ると、正面に本渡の街が見えてくる。

本渡市街に入ると、上島から下島へと渡る天草瀬戸大橋を渡る。上島と下島は小さな海峡で隔てられていて、この海峡を渡る天草瀬戸大橋は上島側、下島側でそれぞれループする構造になっている。様々な方向へ向かう道路が交わるため、こちらも渋滞スポットとなっていて、臨海部に高規格道路の橋が建設されている。天草瀬戸大橋の南側には徒歩で渡れる可動橋が設置されているのも見どころの一つ。橋を渡って下島へ渡ると本渡バスセンターはすぐそこ。天草一の本渡の街を進んで本渡バスセンターに到着した。

天草の路線バスの拠点となっている本渡バスセンター。鉄道のない天草ではバスが公共交通のメインとなっており、ここ本渡バスセンターはその中心として天草全土に路線が延びている。今回の旅はここを拠点に下島東海岸と上島を巡る。時刻はお昼すぎ。昼食を食べて、次に乗る路線バスを待った。
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