【乗車記】西九州新幹線に乗ってきた

「最後の特急かもめで行く西彼杵・長崎半島路線バスの旅」で長崎本線を走る特急「かもめ」に乗車してから約4か月が経過し、9月23日に西九州新幹線が開業してからも2か月ほどが経過した。特急かもめは過去のものとなり、新しい新幹線「かもめ」と在来線特急「リレーかもめ」のリレー方式が定着しつつある。西九州新幹線の開業で一時的に未完乗となっていた九州地方の完乗の防衛戦の意味も込めて、博多~長崎間を往復してきた。武雄温泉の乗り換えが必要になった一方で、所要時間が短縮された博多~長崎間。開業から約2か月の様子をまとめる。
787系の特急リレーかもめで武雄温泉へ

イベントの開催と全国旅行支援の影響もあってかにぎやかな休日の博多駅。韓国方面からの国際線も多くが復活しており、訪日外国人の姿も多く見られるようになった。国内旅行もにぎわいが戻り、ツアー客の利用も多かった。このときも博多に前泊しようかと考えたが、イベントの影響もあってか、宿泊費が通常の3倍(全国旅行支援適用しても2倍)くらい高騰していて諦めた。こうした移動需要の回復もあって、長崎方面の列車も臨時列車が設定されていた。定期列車がツアー客などで混雑しているようだったので、今回はこの臨時列車を使って博多~長崎間を往復してみた。初めに乗るのは787系で運転される特急リレーかもめ81号長崎行。かもめの愛称を新幹線に譲った長崎本線特急は、武雄温泉で新幹線に接続する列車が「リレーかもめ」となった一方で、それまで「かもめ」を名乗っていた佐賀県内発着の列車は「かささぎ」に名前を変えていて、純粋な「かもめ」はこの博多駅にはやってこなくなった。

九州新幹線の部分開業時と同じく、案内上は長崎行として案内され、武雄温泉で新幹線に接続しているという案内が繰り返し流れていた。博多駅の発車票には新しく開業した嬉野温泉、新大村の文字が流れる。列車は窓側座席がほとんど埋まった状態で博多駅を発車。まずは1時間9分かけて武雄温泉へと向かう。

特急リレーかもめ81号の途中停車駅は鳥栖、新鳥栖、佐賀、江北で、二日市は通過するが、約20分前に発車した普通が二日市まで、約10分前に発車した区間快速が基山まで先行するため、基山までは先行列車に詰まりながら走っていく。鳥栖から長崎本線へと入ると新鳥栖を経由して佐賀平野を西へと進み、ここから特急列車の俊足を生かした走りが楽しめた。列車は41分で佐賀へと到着。ここまでは列車名にリレーがついただけで特に変わった点はない。佐賀の次は肥前山口から駅名が変わった江北。ここでは肥前鹿島始発の特急かささぎとすれ違った。博多~肥前鹿島間の特急かささぎは現時点では7往復が運転され、博多~佐賀間の区間特急の延長運転のような位置づけになっている。自由席にはある程度人が乗っていたが、指定席車両は全体でも1人か2人くらいしか乗っていなかった。かささぎが発車していくと青色のキハ47形が停車していた。非電化化された肥前浜駅以南の普通列車は基本的にキハ47形が使用され、投入にあたってトイレが洋式化されるなどの工事が行われている。写真のキハ47 3509はJR九州でも数少ない寒冷地仕様のキハ47形である。

江北を発車すると列車は佐世保線へと入る。長崎と佐世保という長崎県の2つのエリアへの分岐点だった江北(肥前山口駅)。今はもうその役目はなくなり、鳥栖から続く特急街道は鹿島へ進む特急かささぎを除いて佐世保線方面に続く。佐世保線は単線路線だったが、西九州新幹線の開業に先駆け2月から大町~高橋駅間が複線化された。もともとは武雄温泉~江北間で複線化される予定だったが、区間が短縮されている。この特急リレーかもめ81号は複線区間では反対列車とすれ違うことはなく快走したが、武雄温泉駅を一駅先に控えた高橋駅で数分停車。上りのリレーかもめと行き違いを行った。それでは複線化の意味がないような気がする。高橋駅を出ると高架へと上り、終点の武雄温泉駅に到着した。
武雄温泉の対面乗り換えで西九州新幹線へ

武雄温泉駅では3分の接続で新幹線かもめにリレーする。8両編成のリレーかもめを待っているのは6両編成の新幹線。787系対N700Sの場合は2両短くなる。3分という時間は、九州新幹線の新八代駅での乗り換え時間のときと同じだが、キャリーケースを持つ乗客が多い休日の乗り換えは乗車するのにやや時間がかかっているように見えた。武雄温泉駅はもともと2面3線の駅で、このうちの南側の1本を新幹線との乗り換え用ホームとして活用している。このホームは10番のりばで、隣の11番のりばと改札なくつながっている。従来からあるホームを活用している10番線は、行き止まりではなく佐世保方面と繋がっていて、一部特急みどり・ハウステンボスはリレーかもめとしての役割を持つ列車もある。改札は新幹線改札と在来線改札で別れていて、武雄温泉で10番線に止まる特急列車は新幹線改札を利用することになる。そのためその他の在来線とを乗り継ぐ場合は、一旦在来線改札にまわらなければならず、自動改札機が使えないケースがあるので注意が必要。早特きっぷを除いて、特急と新幹線を乗り継ぐ場合には、一枚の特急券で乗るように配慮されている。新幹線ホームは2面2線の配置で、12番のりばも設置されているが、新幹線かもめは特急リレーかもめと接続運転されているため、基本的には使用していない。

乗客が乗り込んでいる間にいろいろ撮影していたらあっという間に3分が経過。待ち構えていた新幹線かもめ81号長崎行に乗車した。N700Sの行先表示に表示された長崎の文字がかなり新鮮。車内メロディーはJR九州らしい向谷メロディーが使用されているが、車内放送は西側の車内放送でおなじみの放送で、ついに佐賀・長崎に新幹線がやってきたことを実感させる。

武雄市の市街地を出て、トンネルをいくつかくぐるとあっという間に次の嬉野温泉駅に到着する。この区間はJR九州バスの嬉野線が運行されている区間で、バスでは30分弱の時間がかかるが、新幹線なら10分もかからない。嬉野温泉は古くは鉄道が運行されていたが、1931年に全廃。そして91年経った今年、悲願の鉄道復活となった。駅にはみどりの窓口が設置されているものの、指定席券売機の設置がないのだそう。武雄温泉まではすぐなので、窓口営業時間以外は基本自由席利用が多いという判断だろう。

嬉野温泉を出た列車は、佐賀と長崎の県境にある俵坂峠をトンネルで一瞬で走っていく。長崎県に入ると、車窓に一瞬穏やかな大村湾が見える。有明海の車窓がなくなった博多-長崎間の車窓。今度は大村湾が見えるが、新幹線は柵が高い区間が長いので、見逃さないようにしないといけない。基本的には長崎自動車道と同じようなルートで長崎へと向かっていく。大村がおそらくこの新幹線開業で一番恩恵が大きい街。長崎空港が所在する大村市には新大村駅が設置された。車窓に長崎空港の管制塔が見えるくらい長崎空港が近く、長崎市内から少し離れている長崎空港とのアクセスにも活用できそうだ。

新大村を出るととんとん拍子に諫早に停車して次は8分で終点の長崎。西九州新幹線は実キロ63kmの間に5駅が設置されていて、一駅の間隔がとても短い。長崎-諫早間は長崎本線でも市布経由の新線が所要時間20分ほどで結んでいて、それでも十分早かったのだが、それが10分を切るというから革命が起きた感じがする。落ち着く暇もなく各駅に停車し、博多を出て1時間42分。武雄温泉を出てからちょうど30分で長崎に到着した。
西九州新幹線用のN700Sを観察

7月に訪れて以来の長崎駅。駅前は現在も工事中で、新しい新幹線の真後ろでは、駅ビルと駅前ロータリーの整備工事が進んでいる。西九州新幹線で使用されているのはN700Sで、東海道・山陽新幹線では見かけることは多々あるが、未だ乗車したことがないので、これが初めての乗車となった。

800系つばめと同じく、この車両にもいたるところに「かもめ」のロゴが入っている。800系のときは全線開業に合わせて「AROUND THE KYUSHU」というロゴに改められたが、おそらく西九州新幹線はこの車両が使われている間に博多へと延びる可能性は相当低いので、かもめのロゴは継続的に使われるはず。かつて長崎と東京を結んだ寝台特急の愛称も今は山陽・九州新幹線で使われている。長崎駅の新幹線ホームは2面4線と広々していて、武雄温泉から先がつながったあとのことも見据えているが、現時点で西九州新幹線用の車両は4編成しかなく、この駅に2本の新幹線が止まるということ自体がそんなにない。

車内は指定席は2+2列、自由席は2+3列配置となっていて、所用時間が短いためグリーン車は設置されていない。指定席用の座席は800系と似た座席だが、座席中央のひじ掛け下にコンセントが設置されている。ただ30分で走破してしまうので、急速充電器じゃないとあまり充電が貯まらない。座席の座り心地がいいので、所要時間は短いがゆったりと移動できる。
新大村、嬉野温泉通過型のかもめに乗車

ほんとは長崎を観光して帰りたいところだが、このあと博多で所用があるので、とんぼ帰り。折り返しも臨時で設定されている新幹線かもめ84号と特急リレーかもめ84号で博多へと戻る。往路で乗車したかもめ81号と列車名の背景色が違うが、これは停車駅による区別で、「こだま」を連想させる青が各駅停車なのに対し、「ひかり」を連想させる赤は一部通過型の列車。現在は設定されていないが、途中駅を全部通過する最速達型は「のぞみ」を連想させる黄色となり、同じかもめでも停車パターンで背景色が変わる。復路に乗車するかもめ84号は諫早だけに停車する一部停車型のかもめで、現時点でのもっとも停車駅が少ないパターンの列車となっている。リレーかもめと同じく基本的には最終目的地が表示されるので、行先には博多の文字が出る。実は新幹線と接続するリレーかもめには1本だけ門司港行が設定されているので、ここに門司港が表示されるのではないかと開業時に話題となったが、それには対応していないようだ。ただ、駅の表示には門司港と表示される変な光景を目にすることができる。ちなみに武雄温泉駅到着時には、誤乗を防ぐ目的で、真の終点である武雄温泉の文字が表示されるので、乗り換える際に振り返ってみるといい。

長崎駅を出た列車は、坂の街を象徴するような駅正面の山手の景色を眺めてすぐにトンネルへと入る。8分で諫早へと到着すると、新大村、嬉野温泉を通過して次は終点の武雄温泉。行きよりもさらに早い26分で武雄温泉に到着。武雄と長崎が20分台ということに頭が混乱する。

武雄温泉では隣のホームで待ち合わせる特急リレーかもめ84号に乗り換える。今度は885系6両編成で両数は同じ。もちろん新幹線の方がやや長い。こちらもやや混雑していて、乗り換えには時間がかかっていた。こうした乗り換えは基本的に窓側の人は窓側の席へ、通路側の人は通路側の席に乗り換ることが多く、通路側の人が先に乗りるが、乗り換えた先の列車では通路側の人が先に乗り込んでいて、窓側の人を窓側に通さないといけないという状況が多発する。それにキャリーケースなどの荷物の出し入れにも時間がかかるので、列車内の通路が混雑して、思うように乗客が吸い込まれて行かなかった。どうしようもないことだが、通路側の人が始発駅で先に乗車していた場合、始発駅とここで2回その人にすいませんと言いながら、窓側に座らないといけないのが少し気を遣う。指定する座席は新幹線と在来線特急で同じ番号じゃない方がいいかもしれない。

885系の特急リレーかもめ博多行の側面表示。博多方面は単純にリレーの文字が加わっただけで、武雄温泉で新幹線に乗り換えという表示がない分すっきりと見える。特急リレーかもめは787系、885系の他、783系電車でも運行されていて、時間によってさまざまなバリエーションが楽しめるのは今後も楽しみの一つになりそうだ。

西九州新幹線の開業と同時に佐世保線へ進出した885系。特急リレーかもめの他に佐世保行の特急みどりでも運用されていて、武雄温泉から先にも進む列車がある。帰りの特急リレーかもめ84号は肥前鹿島を出ると次は佐賀に止まる。西九州新幹線開業以前は長崎本線系統の列車に肥前山口を通過する列車が設定されていたが、佐世保線方面の列車は全て停車していたので、佐世保線側から江北駅を通過すると不思議な感じがする。佐賀駅でも乗客を乗せて、列車は長崎本線、鹿児島本線をひた走り終点博多へと到着した。

終点の博多で乗ってきた885系を撮影。博多駅に西九州新幹線が来るわけではないので、この駅での特急列車の顔ぶれに大きな変化はなく、ここではいつもの顔ぶれが並んでいた。
乗車してみての感想など
博多~長崎間を移動して感じたのは、新幹線が速すぎて、十分早いはずの在来線が余計遅く感じたということ。これまで特に佐賀県内では自慢の俊足を生かして駆け抜けるのが長崎本線特急の特徴で、有明海沿岸を進む区間と対比すると速く感じていた。現在もその俊足ぶりは変わらないが、西九州新幹線がそれよりもはやすぎるので、俊足の特急列車が遅く感じるという感覚に陥った。また、佐世保線は一部区間が複線化されているものの、行き帰りとも複線の終端の駅で交換のため停車し、所要時間が2~3分ほど増加していた。せっかく複線を用意したのに結局止まるというのが少し残念だった。有明海を進む長崎本線はカーブやポイントが多く、乗り心地がいいとは言えなかったが、新幹線になったおかげで乗り心地は格段に良くなったように思う。対面での乗り換えなので、乗り換え自体もそこまで苦にはならなかったが、純粋に新幹線にもっと乗っていたいと思った。全体での所要時間は20分ほど短くなったが、そこまで博多と長崎が近くなったという感覚はなかった。ただ、嬉野や大村にはアクセスしやすくなったので、これから活用していきたいと思っている。
今回初めての乗車となった西九州新幹線。今回はお試し乗車ということで単純な往復だったが、まだまだ長崎県も行ってみたい観光地、乗ってみたいバス路線が多くあるので、新幹線に乗って訪れたいと思っている。