【過去旅】九州本土最南端バス停を目指す旅 ~1日目~(2022年1月)

・はじめに
 九州本土の最南端の鹿児島県南大隅町のホテル佐多岬が3月いっぱいで閉館するというニュースが入ってきました。ちょうど1年ほど前、私も鹿児島県の路線バスの旅でこらちのホテルにお世話になりました。その旅の様子はこのサイトには投稿していませんでしたが、アーカイブとしてこちらに記しておきたいと思います。

・未踏の大隅半島南端を目指して

 2022年1月の話。 まだまだ世間は感染症禍が落ち着かず、3年目に突入しようとしていた。2021年から2022年初頭にかけては、思うように旅行ができない状況下で、身近な九州を再発見することをテーマに、九州各県の路線バスの旅に頻繁に出かけていた。九州本土の最南端である佐多岬周辺は、九州の中でも比較的乗りバス難易度が高いエリアとして知られる。鹿屋や垂水から南下し、南大隅町へと至るバスはそれなりの本数あるものの、根占から南側へと進むバスはその中のごく一部で、朝の鹿屋方面と夕方の佐多方面しか運転されていない。それ故、根占から南のエリアでは到達しても帰りのバスがなく、どこかで一泊が必要になる。このエリアには民宿もあるにはあるが、ホテルは大泊地区にある「ホテル佐多岬」というホテル一軒だけ。鹿児島県の大隅半島はなかなか旅行する機会がないが、まだ行ったことのない九州の景色を見たいと思い立ち、1月のある日、旅に出たのだった。
 旅のルートは次のとおり。起点は鹿児島の空と陸のターミナルである鹿児島空港。鹿児島県の本土と離島を結ぶ日本エアコミューターの拠点であり、県内各地へ高速・路線バスが運転されているこの空港は、南九州のターミナルとしての機能を持つ。大隅半島へ向かう路線も複数あり、ここから鹿屋や垂水へ向かえばいいのだが、時間があるので、志布志へと向うことにした。その後鹿屋へと移動して、鹿屋から大隅半島南端佐多岬に近い大泊まで走る路線バスに乗車。先述の通り、その日にはもう帰ることができないので、この大泊地区にあるホテル佐多岬に一泊する。翌朝、九州本土最南端のバス停から垂水行のバスに乗車して大隅半島を北上。その後、鹿屋経由で鹿児島空港に一旦戻る。それでもまだ時間があるので、そこから鹿児島市内へと向かって桜島へ渡り、桜島の北側の地域を路線バスで旅していく。

・南九州のターミナルから志布志へと向かう

 鹿児島空港からは鹿児島県内各方面に高速・路線バスが運行されており、鹿児島中央駅と並んで鹿児島の玄関口であると同時に、鹿児島や南九州の交通結点としての役割を持っている。今回旅する大隅半島方面には、鹿屋方面の空港バスの他に、垂水港発着の路線バスと、志布志方面の路線バスが運行されている。鹿児島空港と志布志は結構離れているが、鹿児島県の東端へも1本のバスで向かうことができる。鹿児島空港と志布志を結ぶ路線バスは[急行]を名乗り、途中の牧之原〜志布志で急行運転を行う。時刻は朝の10時前、雨が少し降るなか、バスへと乗り込んだ。
 空港を出ると台地の上にある鹿児島空港から坂道を下って、日当山・京セラホテルを経由して国分市街地へと向かう。空港では飛行機からの乗り換え客の乗車もあったが、国分市街で自分以外の乗車が下車してしまって車内は一人きりになった。国分市街を抜けると国道10号で牧之原へと一気に標高を上げて走る。乗客一人のまま雨霧漂う曽於の山の中を駆け抜け、途中の集落で2人の若者を乗せた。曽於の街の一つである岩川で彼らは下車。再び乗客は一人に。岩川から志布志までは基本的に以前乗車したことがある都城-志布志線と同じルートだが、こちらは急行運転のため、県道を突っ走る。鹿児島空港から1時間50分。バスは志布志市街へと入り、終点の志布志駅前で下車した。
 
 志布志は半年ぶりくらいの方面だった。日南線経由でも何度か来たことがある。もともとここから鹿屋や垂水を経由して国分駅まで大隅線と、西都城まで向かう志布志線の2路線も乗り入れていた。広大だった駅構内は、今は1面だけのホームと着回し線だけになり、大半は公園と商業施設になっている。日南線は志布志を出ると数駅で宮崎県へと入ってしまう関係上、公共交通のメインはバス。日南線を経由すると1度乗り換えるだけで宮崎空港へも行けるが、こちらは3時間ほどかかる。鹿児島空港の方が近い。

・若者の利用が目立った志布志-鹿屋間

 志布志からは垂水中央病院行きのバスで鹿屋へと向かう。この路線は1度乗車したことがあるので、2度目の乗車となった。地方の路線バスといえば平日朝夕の通学時間帯を除いて若者の利用が少ないイメージがあるが、大隅半島には鉄道路線がないので公共交通機関はバスのみとなる。そうした事情もあってか、この日は日曜日だったが、休日日中も若者の利用と外国人技能研修生の利用が目立つ。大崎、東串良と鹿屋の街に遊びに行く若者を乗せてバスは西へと進み、鹿屋へと到着した。沿線に住む若者たちも免許を取得できるようになれば、すぐに免許を取りに行くだろうし、高校を卒業すれば大半は沿線から引っ越してしまうことだろう。それでも路線バスは大事な地域の足になっている。
 大隅半島の中心都市として栄える鹿屋からは鹿児島市街、鹿児島空港、垂水、志布志、根占、内之浦、都城など、大隅半島の各方面また隣接する都市へと路線バス網が伸びていて、バスの発着本数も比較的多い。鹿屋のバス停は市の施設やシアター、スーパーなどが入居する鹿屋市の中心施設「リナシティかのや」に隣接している。市の施設はショッピングモールというほどのお店は入居しておらず、雨の日ということもあってスーパー以外は閑散としていた。今日は佐多岬に宿泊予定だが、ホテルは素泊まりで予約してある。ホテルからコンビニから車で40分というものすごい場所に宿泊するので併設されたスーパーで夕食を調達した。
 

・鹿屋から大泊へ当日中に帰れないバスの旅

 鹿屋から乗車するのは、大泊行の路線バス。鹿屋を発着する長距離路線の一つで、大隅半島の南端であり、佐多岬への入口である集落、大泊までを結ぶ。大泊までの所要時間は1時間40分。途中の根占より先は帰りのバスがない。
 鹿屋では5人ほどの乗車があり、鹿屋市街を南下しながら走っていく。鹿屋を出ると大姶良地区へ。そこから錦江湾へと出て大根占、根占へと向かう。根占は指宿へと渡るフェリーが発着しており、ここまでは一応乗客の姿があったが、ここからは自分一人になった。鹿屋からここまででようやく中間点。根占まではある程度あった国道の交通量も一気に減り、歩道は雑草が伸びきっていて、荒々しい海岸が続いている。九州本土なのに、離島に来た雰囲気が漂う。この日は生憎の曇天で、錦江湾の対岸の知林ヶ島が何となく見える程度。晴れていればたぶん気分爽快なんだろうが、この日は曇りすぎていて、なんだかとても心細い。根占から30分ほど南下すると、断崖絶壁の海岸線を走り、トンネルや洞門をいくつかくぐる。その先で佐多地区へと入る。ここにはスーパーがあり、ホテルのホームページ曰くここがホテルから一番近いスーパーなのだとか。しばらく続いた海岸線区間も終わり、佐多地区からは一転山の中へ。途中で国道を逸れて隘路に入ると、島泊という小さな集落に立ち寄る。
 
 佐多からさらに15分でやっと大泊に到着。運転士に雨の日にこんなところ来て何するの?みないな顔されながらバスを降りた。バスはすぐに折り返してきた道を帰っていった。雨が降りしきる大泊集落。人っ子一人、車一台いないところにポツンと降りた。聞こえてくるのは波の音。心地よい響きだが、孤独過ぎて心細さが半端ではなかった。帰りのバスは明日の朝。この日の帰りのバスはない。
 

・終点の大泊で下車しホテルへ

 南大隅町の大泊地区。佐多岬の玄関口で、佐多岬自体はここからさらに数キロ進んだところにある。九州本土最南端の郵便局があり、ここから先は県道は1車線の狭い道になる。乗ってきたバスはここから終点だったが、1本後にあたる終バスはここから一つ隣の外ノ浦まで運転されていて、バスの路線自体はここからあと少しだけ先に続いている。平日は上り2本、下り4本、休日は上り1本、下り3本となっていて、上りの終バスが平日10時過ぎなのに対して、ここに最初に辿りつけるバスは11時59分着なので、当日中に戻ることはできない。
 
 現在時刻は15:30。今日はここ大泊にあるホテル佐多岬に一泊する。ホテルはバス停から少し歩いたところにあるので雨の中移動。冬にしては結構な雨で太平洋の波も高い。チェックインは16時からだったが、少し早めにチェックインさせてもらった。
 

・九州本土最南端のバス停

 宿泊したホテル佐多岬には九州本土最南端のバス停が設置されている。ここが網目のように張り巡らされた九州本土のバス路線網の一端である。昔は佐多岬の近くまで路線バスで行けたそうで、もう少し南までバス路線が延びていたらしい。先ほど降り立った大泊発着のバスもあるため、このバス停を通るバスは上り1本、下り2本だけ。バス停の時刻表には8:00発垂水中央病院行の文字。外ノ浦行の下りのバスも来るものの、もはや時刻表すら存在していない。
 
 宿泊したホテル佐多岬は、九州本土最南端の「ホテル」を名乗る。民宿はこれより南にもあるがホテルはここが一番南。客室に入る前から砂浜に打ち寄せる波の音が聞こえる。客に入ると広がる海。天気こそ悪いがこのロケーションは最高。17時を過ぎてお風呂に入りに行く。ここで薄々気づくが、どうやら今日の宿泊客は自分一人らしい。なので大浴場も貸切。こんな形でホテルを貸切なんて嬉しいような悲しいような。普段なら観光バスが来たりするのだろうか。
 時間や世間の騒がしさから全て解放された気がした。テレビやスマホの喧騒など必要なく、海から聞こえて来る波の音が天然のASMRとして心を癒してくれる。バスは明日の朝8時にしか来ないので、時間に縛られることもない。趣味柄、時間に追われる旅が多いが、たまには時間を気にする必要もないこんな旅もいい。一週間くらいぼーっとしたかった。夜寝る時も窓の外からは波の音が聞こえてくる。外は真っ暗でほとんど何も見えないが、防波堤の灯台の灯かりが点滅し、遠くに航行する船の姿が見えた。
 
2日目~に続く