【旅行記】初冬の山形乗り鉄旅~山交バスで長井を再訪する~

早めにホテルをチェックアウトして山形市街地を散歩

 山形乗り鉄旅の2日目。この日は山形市から南へ進み、山形鉄道フラワー長井線に乗車しに行った。この路線には昨年秋の旅で、今泉-長井間に乗車している。今回はその時訪れた長井を再訪し、フラワー長井線の全線完乗を目指した。
 フラワー長井線は今泉で米坂線と接続しているものの、今泉から先は盲腸線となっており、終点の荒砥で線路が途切れている。赤湯から単純往復するのは面白くないので、往路は路線バスを使うことにした。山形市と長井市の間には山交バスの路線バスが走っている。このバスを利用することで、山形市街地からぐるっと一周するルートを構成できる。山形市側から長井へ行くバスは始発のバスがやや遅めで9時前の発車である。前日は山形駅前を見ただけで、まだ市街地をしっかりと見ていなかったので、7時30分頃にはホテルをチェックアウトして、歩いてバスの始発地である山形市役所前バス停まで歩いた。
 
 山形市役所の道向かいには趣きある建物が建っている。文翔館と呼ばれる建物で、以前は山形県の県庁本庁舎、県会議事堂として使われていた建物が今も保存され、山形県郷土館として公開されている。現在の山形県は、1876年に山形県、置賜県、鶴岡県が合併して誕生した。これに合わせて県庁舎が建てられたが、1911年に山形市街地で発生した大火により焼失した。この大火後に2代目の県庁舎として建てられたのが、現在の文翔館で、築110年以上の歴史を持つ。現在は国指定の重要文化財に登録されている。県庁は1975年に新しくなり、場所も山形市街地の東側に移転された。山形市自体それほど観光スポットというのは多くないので、市街地における貴重な観光地になっている。
 
 旧県庁舎の隣には県会議事堂が建っている。こちらも重要文化財にしていされている。建物の前には山形だけに山の形をしたモニュメントがあった。こんな朝早くから建物を見に来る観光客も自分くらいしかおらず、付近の官公庁やJAのビルに通勤する人たちが足早に通りすぎていく。建物の中も見学してみたいところだが、営業開始前にバスが発車してしまうので、今回はパスした。
 
 さて、文翔館を見学した後は、山形市役所前バス停へ。ここから長井行の路線バスに乗車した。時刻は8時30分をまわったところで、市役所勤めの人たちが次々と市役所に吸い込まれて行くのを眺めてバスの到着を待った。40分頃になると、さっきまでの混雑が嘘だったかのようにバス停周辺も閑散とした。

山交バスの山形-長井線に乗車

 発車時刻の3分ほど前に乗車するバスがやってきた。これから乗車する山形-長井間の路線バスは、全線一般道経由だが、途中に峠道がある関係からかハイデッカー車両を使用して運行されている。バスは山形市からフラワー長井線の終点である荒砥駅を経由して長井へ行く。時間がない時は荒砥でフラワー長井線に乗車すればスムーズに乗り継げるが、今回は時間が有り余っており、この路線バスへの乗車も目的の一つだったので、終点の道の駅川のみなと長井まで乗車していく(写真は乗車後長井駅で撮影した山形市役所行の便)。
 この山形-長井間のバスは平日と土休日で運転本数が異なっている。平日は6往復運転されているのに対し、土休日は3往復しか運行がなく、日中の運行がない。平日も土休日も長井方面行は朝の1本を逃すと、午前中にバスはなく、平日なら13時過ぎ、土休日なら16時半過ぎまでバスがないので注意が必要である。基本的には長井⇒山形の流動に合わせてダイヤが設定されている。
 今回は山形鉄道と山交バスがバス乗車券アプリ「バスもり!」で発売している「山交バス山形交通セット券」を使用した。この企画券は、山形~長井間のバスの往復乗車券と、山形鉄道フラワー長井線全線の一日乗車券がセットになったもので、3100円の通年発売になっている。山形鉄道では基本的に土休日のみ1日乗車券が発売されているが、この乗車券は平日を含めた全日で使用可能になっている。さらに山交バス山形-長井線の終点である道の駅川のみなと長井では、乗車券を提示することで、売店で使える1,000円商品券を貰うことができる特典もある。バスは片道利用となるが、ちょうどお土産をどこかで買うつもりだったので、この乗車券を利用して旅することにした。
 
乗車記録 No.7
山交バス 山形-長井線 道の駅川のみなと長井行
山形市役所前→道の駅川のみなと長井
 
 山形市役所を発車したバスは、七日町交差点を右折した後、旅籠町交差点を左折。その後はしばらく直進して、県道18号とその先の一方通行の道を走行した。山交ビルの東側の交差点から駅前の大通りに出ると、山交ビルの道路上のバス停に停車。七日町、保健所前では乗車はなかったが、山交ビルで5名ほどの乗車があった。
 
 山交ビルを出ると、次は山形駅前。バスは3番のりばに停車して、ここでも3人ほどの乗車があった。山形駅を出ると、しばらく奥羽本線と並走する線路を進み、国道348号線との交差点で右折。奥羽本線のアンダーパスを通ると、その後は国道348号線を進み、山形市の南西部の郊外へ進んだ。
 
 須川を渡ったあたりから、車窓には田畑が広がり始めた。バスはこの先、山形市の長谷堂地区を経由していく。長谷堂地区までの区間には、区間便も何本か設定されており、中心部~長谷堂間は少し本数が多い。山交ビル・山形駅前から乗車した乗客の多くは、長谷堂までの間に下車していき、この時点で車内の乗客は2人となった。
 
 長谷堂を出ると、次第に山が近づいて来る。村山盆地もこの辺で終わりとなり、ここからは本沢川に沿って峠道を進んでいく。今走っている国道348号線は山形市と長井市を結ぶ山形県内完結の国道。峠を越えた先の荒砥からは、東根を起点に最上川沿いを走って来る国道287号線との重複区間となり、国道113号線との交点がある長井市の今泉まで続いている。
 
 バスは長谷堂と荒砥の間に跨る小滝峠へ入った。奥羽本線もかみのやま温泉から赤湯間で峠を越えるが、この国道もまた険しい峠になっている。ここに聳える山々のおかげで最上川は左沢方面へ大きく迂回して流れている。坂道を登ると、次第に雪が積もり始めた。小滝峠周辺は豪雪地帯。この国道も厳冬期には雪が積もり過ぎて度々通行止めになるらしい。バスもその際には高速道路へ迂回することがあるらしく、おそらくそのためのハイデッカー車両なのだと思う。
 
 バスは何本かのトンネルを通り、峠を進んだ。峠の頂上付近は国道も路面に積雪があり、バスは雪を豪快に巻き上げながら走っていった。国道から集落へ向かう道は20cmくらいは積雪していて、車の轍ができていた。峠を越えると、その後は下り坂。荒砥側はカーブが多く、かなり急な坂道が続いている。国道沿いに見える集落の家々も、屋根に雪を積もらせていた。東北の人には雪はウンザリかもしれないが、九州からの旅人にとってはこういう光景、年に何回かしか見れない。雪景色の山形をみれただけでも、旅の収穫になる。
 
 峠を下りると、バスは白鷹町の荒砥に到着した。荒砥はフラワー長井線の終点の街で、最上川における米沢盆地の最後の街でもある。国道を直進すればそのまま長井へ行くが、バスは駅を経由するために町の中心部へ入り、国道287号線を北へ進んだ。荒砥は市街地も積雪していて、この時間も雪が降っていた。
 
 バスは一旦荒砥の街の北側へ出て、荒砥駅を通過。おそらくこのバスを使って、フラワー長井線を乗りつぶす人は、ここで下車してフラワー長井線に直接乗り換える人が多いはず。今回はこのバス路線に乗車することも一つの目的だったので、わざわざ一旦通過して長井までこのバスを乗り通す。荒砥駅で乗り降りはなかったが、次の白鷹町役場前で1人が下車。車内の乗客は自分1人になった。
 
 白鷹町役場前を出るとバスは国道348号線のバイパスへは進まず、国道の東側を走る旧道を走って行った。旧道の沿道には住宅が立ち並んでいた。道は少し狭く、雪が積もっていたこともあり、対向車とすれ違う度にバスは速度を落とした。
 しばらく貸切状態だったが、途中の浅立というバス停で2名の乗車があった。その先で国道へ出ると、バスはまもなく最上川を渡って長井市街へ。市街地の狭い通りを進んで長井市役所・長井駅前に到着した。
 
 長井市役所・長井駅前で浅立から乗車した2人が下車していき、再び貸切状態になった。結局、後からこの駅に戻って来るわけだが、使っている企画きっぷの特典で商品券を使うために一旦終点の道の駅まで行く。長井駅前を出たバスは駅前の通りをまっすぐ進み、終点の道の駅川のみなと長井に到着した。

道の駅川のみなと長井でお土産を購入して長井駅へ

 終点の道の駅川のみなと長井でバス下車した。この道の駅は国道287号線と最上川の間に作られており、物産館、フードコートが営業している。山交バス・山形鉄道セット券はこの道の駅の物産館で使える1000円クーポンがついている。案内所で乗車券を提示すると商品券と交換できた。商品券の有効期間は当日のみになっている。どうせこの後山形駅か空港でお土産を買っていく予定にしていたので、1000円商品券を使ってここで買っていくことにした。しかし、この乗車券の利用率はかなり低いようで、バスの運転手と道の駅で乗車券を提示した時にはそんなきっぷあるんだみたいな反応だった。一方、山形鉄道ではしっかり認知されていて、下車はスムーズだった。
 道の駅では山形名物の鳥中華と地元長井のお菓子屋さんの羊羹とお昼ご飯用の惣菜を購入。鳥中華は去年の旅でも買って帰ったが、美味しかったのでリピートした。
 
 道の駅で買い物をした後は長井駅前の通りをのんびり歩いて長井駅へ。駅の近くは前回来た時も少しだけ歩いたので、駅が近づくと懐かしさを感じた。遠くから市役所と一体となった長井駅を見ると大きな壁のように見えていた。
 
 約1年ぶりに長井駅へやってきた。前回は米坂線の列車と代行バスの乗り継ぎ時間を使って、今泉と長井の間だけフラワー長井線に乗車し長井駅へ来た。次はフラワー長井線目当てに来ることを誓って長井を離れたが、その宿題を果たしに戻ってきた。
 長井駅も以前は昔ながらの木造の駅舎が使われていたが、2021年に市役所と一体となった新駅舎となった。山形鉄道の本社もこの建物内に入っており、1階には同社の窓口がある。前回来た時は日曜日で、市役所側はシャッターが閉じられていたが、この日は平日だったので、市役所も開庁していた。市役所の奥の方には図書館と遊び場が一体となった「くるんと」という施設もある。駅のベンチでしばらく列車の発車時刻を待った。

フラワー長井線の終点荒砥へ

 長井からはフラワー長井線の旅となる。フラワー長井線は赤湯駅と荒砥駅を結ぶ第三セクター路線。国鉄・JRで運行されていた長井線を第三セクターの山形鉄道が1988年に引き継ぎ運行している。フラワー長井線は山形県で唯一、JR以外が運行する路線である。この県には地方私鉄や公営鉄道路線というのが存在していない。赤湯では奥羽本線、今泉では米坂線との乗り換えが可能で、赤湯は山形新幹線も停車するため、新幹線からそのまま乗り換えられる。1日の運行本数は12往復。全列車が赤湯-荒砥間の運転で区間列車はない。
 今回は長井から一旦終点の荒砥へ行き、ここで折り返して赤湯へ向かう。先述の通り、去年今泉-長井間だけ乗車しているので、区間の両端に未乗区間が残っていた。
 
 長井駅を11時19分発の荒砥行の普通列車に乗車。この路線は赤湯から乗車して、長井で下車する人が多い。乗車した列車は、赤湯で東京駅を8時7分に発車するつばさ127号山形行と数分で連絡しており、乗客の中にはスーツケースを持つ人の姿があった。長井では自分を含めて2人が乗車し、車内の乗客は6人ほどで長井を発車した。
 
乗車記録 No.8
山形鉄道フラワー長井線 普通 荒砥行
長井→荒砥 YR-880形
 
 前回乗車した列車はオールロングシート車両だったが、今回はボックスシート車両だった。この昔懐かしいボックスシート、二段の窓、カーテンという組み合わせは旅しているなという気分にさせてくれる。山形鉄道で活躍するYR-880形はフラワー長井線の営業開始時から活躍する車両と、後で追加投入された車両が存在する。ボックスシートの車両は初期に投入された車両で、トイレも設置されている一方、後から追加投入された車両はロングシートでトイレが設置されていない。それぞれ6両と2両が製造されたが、初期投入車両のうち2両は既に廃車となっているため、ボックスシート車が4両、ロングシート車が2両という体制になっている。
 
 長井を出た列車は市街地を走ってあやめ公園に停車。ここには工業高校があり、恐らく利用者のほとんどはこの高校の生徒なのではないかと思う。その先で野川という小さな川を渡ると、車窓は田園風景となる。田畑が広がっているが、一面の雪景色が広がった。昨年秋の旅では長井の手前で美しい田園風景を眺められたのを思い出すが、雪景色もまたとても幻想的だった。あまり雪が降り過ぎていると真っ白過ぎて何がなんだかよく分からないので、これくらいの積雪が乗り鉄にはちょうどいいかもしれない。羽前成田では2名が下車。その後もしばらく雪景色の中を走っていった。
 
 蚕桑駅の手前で列車は長井市を出て白鷹町に入った。しばらく林の中を走ると、鮎貝駅に到着した。白鷹町は最上川を挟んで鮎貝と荒砥という地区があり、ここに小さな街が広がっている。
 
 鮎貝、四季の里と停車すると、列車は最上川を渡る。フラワー長井線は最上川を2度渡る。1か所目は梨郷-西大塚間にあり、そこからしばらく川の西側を進み、終点の直前で東側へ移る。この最上川橋梁も1日目に乗車した左沢線の最上川橋梁と同じく、1887年に東海道本線の木曽川橋梁として、イギリスから輸入して架けられた橋を、1923年に移設したものである。日本の鉄道の礎を築いた鉄橋は、今も鉄道の運行を支えている。
 
 鉄橋を渡ると荒砥駅の場内へ。列車は場内信号の警戒現示に従い減速し、ゆっくりと荒砥駅に到着した。セット券のスマホ画面を運転士に提示して下車。荒砥駅はホームにも雪が積もっていた。列車の写真を撮ろうとしたら頭上の木から雪の塊が降ってきて直撃。早速、雪国の洗練を浴びた。足元は滑らないように気を付けていたが、上から雪が降ってくることは予想してなかった。
 折り返しの列車は数分で発車する。あとはもうフラワー長井線を赤湯まで乗り通して、帰るだけ。荒砥では1時間40分後の列車に乗車することにして、街を少し散歩しに行った。
 
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