【旅行記】釧網本線と根室本線で納沙布岬を目指す旅〜数日後に廃止になる東根室駅を訪問する〜
前話
釧路から花咲線の快速ノサップに乗車して根室駅に到着。今回の旅の目的地だった日本最東端の街、根室に辿り着いた。今回根室には約1日滞在。納沙布岬には翌日朝から行くことにして、まずは根室駅の周辺を散策、廃止が数日後に迫っていた東根室駅を訪ねた。
長大な根室本線の終点根室駅と終端部

快速ノサップで到着した根室駅。かつては滝川から続く443.8kmの、現在は一部が廃止され362.1kmとなった根室本線の終点駅である。旅行日時点では東根室駅が営業していたため、ここは有人駅としての日本最東端の駅だった。訪ねた日の数日後の3月14日の最終列車をもって、東根室駅の営業が終了し、現在はここが日本最東端の駅となっている。
プレハブ造りの根室駅舎。日本最北端の駅、稚内は道の駅や市の交流施設、映画館などと一体化したモダンな建物になっているが、こちらは平屋の小さな駅であり、昔ながらの風情が残る終着駅である。根室市は北方領土に形式上存在する町村を除けば、日本最東端の自治体である。夏至の日には3時半過ぎには日が昇る。この街は朝日が一番近い街がキャッチフレーズとなっている。駅の入口横には、最東端の有人駅であることをアピールするモニュメントがあった。モニュメントは何やら工事中。実は最東端になったことを記念して、現在は新しいモニュメントに取り換えられている。工事はそのためものだった。

駅から少し歩くと、根室駅構内の線路が途切れる場所がある。ここには根室本線終点と書かれた看板が設置されている。日本全国に張り巡らされた鉄路の東の終点がここ根室駅である。看板にはJRの終着駅として最北端の宗谷本線稚内駅、最西端の佐世保線佐世保駅、最南端の指宿枕崎線枕崎駅からの営業キロも記載されていた。
とりあえず、駅構内を見渡してみる。根室駅は1面1線の小さな駅。ホームの横には機回し用の線路が1本ある。また、その後ろには保線用の線路が並んでおり、駅構内は比較的広い。航空写真で見る限り、保線用車両の車庫の横には留置線らしき線路が2本ある。以前は列車の留置に使われていたのかもしれないが、現在は使われていないらしい。普段はここで2列車以上が並ぶことなく、来た列車が折り返すだけとなっている。夜間の停泊以外はすぐに折り返していくので、ホームに列車がいるのはわずかな時間だけである。

改めて根室本線終点の車止めを見て、日本の鉄路の東の終点に来たことを実感する。昨年、稚内を訪ねた際にも思ったが、このレールと枕崎駅、佐世保駅のあのホームのレールは、間違いなく繋がっているのである。そう考えるととても感慨深いものがある。ただし、実際に旅行すると、青函トンネル区間の海峡線は旅客列車が走っていないので、ここだけはこの”1本のレール”から離れないといけない。なかなか時間は取れないが、いつの日かここや稚内駅からひたすら列車を乗り継いで、枕崎駅や佐世保駅まで行く、そんな旅もしてみたいものである。
市役所の展望スペースから知床連山と国後島を眺める

さて、根室本線の終点を見た後は、少し歩いて根室市役所へやってきた。旅先で役場の前を通ることはあれど、役場の中に入ることは滅多にない。別に何か手続きをしなくてはならないわけではなく、目的はこの市役所からの眺望だった。
現在の根室市役所は2024年5月に供用を開始した。そんな根室市役所の4階には市民交流サロンが設けられており、ここから根室市街地や知床連山、国後島などが一望できるようになっている。一般に開放されていて、誰でも見学可能。眺めがよく根室駅近くで観光するのに最適とのことだったので、行ってみることにした。

市役所の中を行き交っているのは職員と根室市民だけなので、若干アウェー感は強いが、とりあえず中へ入ってエレベーターに乗り込み、4階へ上がる。まだ供用開始後1年に満たない庁舎なので、エントランスを含めピカピカだった。4階へ到着後は、エレベーターを出て右の方へ進む。すると、ソこには根室市街を望む絶景が広がっていた。
この市民交流サロンは市民の憩いの場として、またちょっとした休憩スペースとして活用されると共に、展望台としての役割を持つ、正面向かって右手の方には北方領土の国後島が見える。国後島の近さを感じられる場所であり、北方領土問題について考える場所という役割も担っている。交流スペースの方ではカフェ感覚で世間話に花を咲かせる人たちや窓際で読書をしている人の姿があった。そこにちょっとお邪魔させてもらう形で、ここからの景色を眺めた。
交流スペースの横には食堂があり、ここも一般開放されている。食堂の方にも窓側を向いた席が用意されていて、この絶景を楽しみながら昼食を食べることができる。根室名物のエスカロップもお手頃な価格で提供されており、他にもいろんなメニューがあるようだったので、天気が良ければ観光で来てここで昼食を摂るのもアリだと思う。

この日は天気が良く、空気も澄んでいたので、ここからの眺めも素晴らしかった。根室市役所は4階建てだが、根室市役所や根室駅は丘の上にあり、周辺の市街地から一段高いところにある。そのため、とても高い場所からの眺めを楽しむことができる。
目の前に広がるのは根室湾。そして、この湾の対岸に見える山々は知床連山である。青空の下で雪を積もらせて輝く山々は、先ほど花咲線の車窓からもチラチラと見えていた。ここからは知床半島のほぼ全域の山々を眺めることができる。中央に見えるのが羅臼岳、右手に見えているのは知床岳である。この日は斜里岳から知床岳まできれいに見えていた。
一方、右手の知床岳の手前には、少しだけ雪の積もっていない陸地が見える。これが北方四島のうちの一つ国後島である。根室市街から見ると、知床半島に国後島が食い込むような形で見える。

羅臼岳周辺を拡大してみる。一番左に見えるのが羅臼岳で標高は1660m。その隣には1508mの三ッ峰、1564mのサシルイ岳、1450mのオッカバケ岳、1459mの南岳、1563mの硫黄山、1544mの知円別岳と続く。羅臼岳までは直線距離で90km離れているが、この日はほんとに霞がなく、くっきりと見えていた。

一方、右側の方にも雪を積もらせた山々見える。こちらは国後島の山々である。根室と国後島はとても近いと聞いていたが、ここら来ると、北方領土はほんとに目の前にあるということがよく分かる。左側は標高は888mの国後島の羅臼山。さらに右側は標高842mのエビカラウス山が続く。この2つの山は国後島の中央部に聳えている。山の間の海岸線沿いには、国後島の中心地であるユジノ・クリリスク(日本では古釜布という)がある。羅臼山までの直線距離は70kmと知床半島よりも近い。北方領土は日本の領土だが、戦後ロシアが占拠した。本来はボーダーなどないはずなのだが、現実的には国後島との間には境界線がある。

さらに右側を見ると、こちらはうっすらとだったが、大きな山が見えた。これは国後島で一番大高く、国後富士とも呼ばれている標高1822mの爺爺岳である。国後島の北東側に位置し、ここからは125kmほど離れているが、こちらもこの日はきれいに見えていた。実はここに到着したとき、市役所の職員さんたちが集まって、同じ景色を眺めていた。話を立ち聞きするに、この爺爺岳がここまではっきり見えるというのはとても珍しいらしい。
駅近で根室市街とその周辺を一望できるということで訪ねた根室市役所だったが、その景色はまさに絶景だった。それと同時に北方領土・国後島の近さにも驚いた。このスペースは休日にも開放されているので、根室駅へ来たついでの観光にはおすすめである。この後もしばらくこの窓からの景色を眺めて、市役所から駅へ戻った。
根室駅前から路線バスで東根室駅へ

根室市役所から歩いて根室駅へと戻ってきた。先ほどは列車の発車間際で駅構内も混雑していて、駅舎の中をよく見れなかったので、このタイミングで中に入って待合室で小休憩を取った。
さて、根室市役所へ行った後は、旅行日の時点で日本最東端の駅だった東根室駅を観光しに行く。この時間は花咲線の列車はなく、次の列車は1時間30分後だった。今となっては何の役にも立たない情報になってしまったが、東根室駅へは列車だけでなく、路線バスでも行くことができる。駅で小休憩した後、駅隣の根室交通の駅前ターミナルへ。ここから東根室駅の近くを通る路線バスに乗車した。

駅前ターミナルからは14時41分発の公住循環線公住入口行きに乗車した。公住循環線は根室市街地を循環して走るバス路線。公住入口バス停を起点に、市立病院前、駅前ターミナル、共立病院前と経由して公住入口に戻る系統と、反対に共立病院、駅前ターミナル、市立病院と経由する系統がある。運行本数は市立病院先回りが平日7往復、土休日3往復、共立病院先回りが平日4往復、土休日3往復となっており、両方の系統合わせて1時間に1本が運行されている。今回は後者の系統に乗車。東根室駅はこの路線の光洋中学校前バス停の近くにある。列車では3分だが、このバス路線は市街地の各地を経由して走るので、所要時間は20分ほどだった。
乗車記録 No.5
根室交通 公住循環線② 公住入口行
駅前ターミナル→光洋中学校前

バスを光洋中学校前バス停で下車した。やや遠回りの経路となるので、時間はかかったが、初めての根室市街地の様子を見学するにはちょうど良かった。このバス停では、自分の他に2名が下車。バス停の名前の通り、根室市立の光洋中学校が隣にあり、周辺は住宅街が広がっている。このすぐ近くに数日後に廃駅になる駅があるとは思えないが、バス停の先には東根室駅の看板が設置されていて、バス通りから小さな道へ曲がると、その突き当りに東根室駅はあった。
廃止直前の日本最東端の駅、東根室を訪問

バス停から歩いて2分もかからずに東根室駅に到着。ここが旅行日における日本最東端の駅だった。前回の記事で先述している通り、根室本線は根室の市街地に、南側から反時計回りに回り込む形で入って来る。そのため根室駅には東側から西を向いて到着する形となっている。根室本線がカーブしながら最も東の地点を走る根室駅手前1.5kmほどの場所の場所に東根室駅はあった。
ここはJRの鉄道路線の駅という括りにおいても、全国の全ての鉄道路線の駅という括りにおいても日本の最東端の駅だった。旅行日の時点で、日本の全鉄道路線における東西南北の端の駅は、東が東根室駅、西が赤嶺駅、南が那覇空港駅、北が稚内駅だった。東根室駅以外の各駅には既に訪問済みだったので、この東根室駅訪問をもって、日本の東西南北の端の駅全てに訪問済みとなった。また、JRの路線に限定した場合も、最西の佐世保駅、最南の西大山駅、最北の稚内駅いずれも訪問済みであり、こちらも東根室駅への訪問をもって全ての駅への訪問を完了した。
しかしながら、東根室駅は訪問日からわずか4日後の2025年3月14日の最終列車をもって廃止された。旅行から帰ってきてからまだ一か月も経っていないが、現在この駅はもう路線図からは消え、最東端の駅は根室駅へと移っている。これからは根室駅への訪問が最東端の駅への訪問記録となる。子どもの頃、日本の端の駅として覚えて以来、いつかは行きたいと思っていた東根室駅。残り数日というギリギリの訪問になってしまったが、最後の最後でこの駅を訪ねることができた。

駅は1面1線。駅舎や待合室は一切なく、ホームは板張りというとても簡易的な駅である。ここは1961年2月に仮の停車場として開業し、その後同年9月に駅に昇格した歴史を持つ。板張りのホームを歩くと、コンコンという板張り独特の音がする。ホームの長さは車両3両~4両分といったところだろうか。普段は1両の列車しか発着しないのでそれでも持て余している。
ホームの電柱には、JR北海道の駅ではおなじみのサッポロビールの駅名標が掲げられている。ホームに3ヵ所掲げられているのだが、このうちの1か所は昨年この駅が廃駅になることが発表された直後に何者かによって剥がされ、盗まれてしまった。廃止日までに結局犯人は捕まらず、駅名標が戻ってくることはなかった。駅には時刻表が掲出されているが、その横には根室警察署が作成したイラストが掲出されていた。絵には「犯人!首を洗って待っトレイン」と書かれていた。

この日は平日だったため、人の姿はまばらだったが、直前の週末には多くの人が訪れたようだった。この日も駅へ着いた時には2人が列車を待っていて、自分の後には入れ替わり立ち替わりで来訪者の姿があった。残り数日でなくなる駅。自分もこうした境遇の駅に来るのは初めてだったが、1週間後にはもう駅でなくなっているというのは、なんだか寂しい気持ちになった。その後の情報によると、最終列車発車後に、駅名標やこの最東端の駅の看板も撤去されてらしい。今はもうここに駅はなく、全ての列車が通りすぎている。

東根室駅は根室市街地の中にあり、利用者も一定数いそうな雰囲気はある。駅の入口側にも背後にも住宅街が広がっている。しかし、とにかく花咲線自体の本数が少なく、多くの人が車を持ち、市街地各所へは先ほど乗車した路線バスが運行されているため、廃止されることとなった。先ほど乗車した路線バスが、ある意味中心部へのライバル路線ということになるが、いろんな場所を経由して走る路線バスの方が便利で本数も多いので、この駅の出番というのはもはやないのである。
もう一つ理由を挙げるとすれば、最東端の駅を根室駅に譲るというのもあるのではないだろうか。東根室駅は途中駅で、何ともアピールがしにくい。東根室駅を廃止して、根室駅を最東端の駅とすれば、観光客にもアピールしやすく、根室駅へ訪れるきっかけにもなる。稚内駅みたいに、終着駅が最東端の駅の方が達成感は感じやすいし、観光もしやすい。

東根室駅には約45分滞在。根室駅からの往路は路線バスで来たが、帰りは列車で戻る。やはりこの駅で列車を乗り降りして駅を訪問したことにしたいので、片方は列車を使う形で計画を立てていた。乗車したのは15時54発の普通列車根室駅行き。この列車は釧路を13時台に発車する先ほど乗車した快速ノサップの後続の列車である。快速ノサップはこの駅を通過するため、この駅に停車する下り列車はこの列車が約5時間ぶりの列車だった。列車の発車時刻直前には人が集まり始めたが、その多くは根室駅からの折り返し列車に乗車する人たちで、根室行に乗車したのは、自分を含め3人だった。
乗車記録 No.6
根室本線(花咲線) 普通 根室行
東根室→根室 キハ54形
東根室から根室はわずか3分で到着。運賃は200円だった。旧日本最東端の駅から新日本最東端の駅へのきっぷは、事前に網走駅の指定席券売機で発券しておき、根室駅到着後に乗車記念のスタンプを押してもらい持ち帰った。東根室駅へ訪問した証として、これからも大切に保管したいと考えている。

花咲線の普通列車に一駅間だけ乗車して、根室駅に戻ってきた。これでこの日の旅程は全て終了となった。先ほどは列車が発車した後に行った根室本線終点の車止めだったが、列車がいる写真も撮っておきたいと、少し急ぎ足で歩いて撮影。この列車もまた折り返し数分で来た道を戻っていく。今回の旅における列車の旅はこれで終了となる。釧路へ向けて発車していく列車を見送り、その後は宿泊先のホテルへ向かった。

この日は根室駅近くのイーストハーバーホテルに宿泊した。根室市には東横インやスーパーホテルなどの全国チェーン系のホテルはなく、ここが一番いいホテルのようだった。西向きの客室にチェックイン。やがて日が沈んでいき、客室からとても幻想的な夕陽を楽しむことができた。根室湾の奥に聳えるのは、阿寒富士や雌阿寒岳をはじめとする阿寒湖周辺の山々。直線距離で120km離れているが、空気がとても澄んでいて、その姿をはっきりと見ることができた。ここまでキレイな夕陽を見たのは初めてかもしれない。晴天に恵まれ、北海道の絶景を存分に楽しめた2日目の日程は、この美しい夕陽と共に終了となった。
続く