【旅行記】関東地方の全線完乗を目指す旅+α 〜伊豆箱根鉄道大雄山線に乗車する〜
関東最後の普通鉄道路線、伊豆箱根鉄道大雄山線に乗車
久しぶりの小田原駅。直前に折り返した箱根湯本駅は周囲を山に囲まれているためか風を感じなかったが、小田原駅は海に程近い場所にあるため、冷たい風が吹き抜けている。この駅に来るのは3度目だが、今回、ようやくこの駅から出る全ての路線に乗り終えることになる。小田原からは伊豆箱根鉄道大雄山線に乗車。今回巡る関東未乗3路線のうち、残り2つはケーブルカー路線であるため、この路線が普通鉄道としては最後の路線ということになった。

伊豆箱根鉄道は静岡県と神奈川県で2つの路線を運行している。一つは静岡県の三島と修善寺を結ぶ駿豆線、そしてもう一つがこれから乗車する大雄山線である。駿豆線は伊豆の温泉地の一つとして知られる修善寺が終点で、JRからも特急「踊り子」が直通する。この路線には2年半前に出かけた静岡旅の中で乗車した。
一方、大雄山線は駿豆線に比べれば地味な存在と言える。今さっき乗車してきた小田急小田原線が並走していることもあって、遠方からの来訪者があまり乗る機会がない。全長もわずか9.6kmと短く、所要時間も20分ほどの小さな鉄道路線である。しかしながら、大雄山線は小田原市と南足柄市を結ぶ地域交通の役割を果たし、通勤通学でも多くの人が利用する路線となっている。路線名の「大雄山」は、終点大雄山駅周辺の地名ではない。大雄山とは駅の西側の山奥にある最乗寺という寺院の山号に由来する。大雄山線はここへ向かう参拝客輸送のために作られた路線である。今年は開業から100周年の記念の年。一部車両には記念のヘッドマークが装備されているほか、各駅には利用客に感謝を伝える旗が設置されていた。

大雄山線のホームはJR東海道本線のホームの横にあり、乗り入れ各線の中で最も南口側に位置している。今頃気づいたのだが、小田原駅は南口側から伊豆箱根鉄道、JR東日本、小田急、JR東海という形で、私鉄・JR・私鉄・JRとホームが並んでいる。ホーム番号が各線で通しとなっているのも特徴の一つで、大雄山線ホームは1・2番線を名乗っている。
JR東海道本線と大雄山線の線路はホームの横で接続されている。直通列車はないが、実はこの接続線、大雄山線の運行のために非常に重要な役割を果たしている。大雄山線の車両基地は終点の大雄山駅にある。しかし、ここでは大規模な検査を行うことはできない。そのため、大雄山線の車両が大規模な検査を行う際には、東海道本線を経由して、駿豆線の車両基地まで回送される。JR線内は自走できないので、小田原-三島間の輸送はJR貨物が甲種輸送という形で運んでいる。

改札へ入ると、既に先発の大雄山行きが停車しており、まもなく当駅止まりの列車も入線してきた。予定では次発の列車に乗るつもりだったが、先発の列車は転換クロスシート、次発はロングシートだったため、予定を早めて先発の列車に乗車することにした。大雄山線で活躍する5000系は、製造時期によって座席タイプが異なる。写真のようにスカートを装備している車両は後期製造だが、車内は転換クロスシートになっている。大雄山線はいずれの車両も3両編成。午前中の下り列車ということで車内もかなり空いていた。
乗車記録 No.5
伊豆箱根鉄道大雄山線 普通 大雄山行
小田原→大雄山 5000系

小田原発車後、大雄山線はしばらく東海道本線と並走する。大雄山線はその途中、緩やかな下り坂となっており、S字カーブを曲がる。列車はまもなく緑町駅に停車し、数名の乗客を乗せた。緑町駅を出ると、間もなく列車は急なカーブを曲がり、東海道本線、東海道新幹線の高架橋の下を潜って北を向く。その後は西側を走る小田急小田原線と適度な距離を保ちながら進んでいく。

小田急足柄駅の北側に位置する五百羅漢では対向の列車と交換。大雄山線は単線だが、日中も15分間隔で運転されているので、数駅ごとに反対列車とすれ違う。やはり上り列車には多くの乗客の姿があった。五百羅漢を出たところで大雄山線は小田急小田原線の下を潜り、同線と東西の位置が入れ替わる。
その後は大雄山線が西の箱根外輪山寄り小田急が東の酒匂川寄りを少しの間隔を開けて走っていく。大雄山線は酒匂川に流れ込む狩川という小河川に沿って走りやや北西寄りに走っていく。北へ進むにつれて、両線の間隔は広がっていく。次の穴部を出ると、列車は狩川の土手下を走る。堤防が高いので川自体は見えない。相模沼田で再び反対列車と交換。沿線は住宅地が続いており、基本的には住宅の裏を見ながら走っていく。小田原や緑町から乗車した乗客も各駅で少しずつ下車。反対に相模沼田あたりからは、大雄山へ向かう乗客が少しずつと乗車してきた。

塚原を出ると列車は狩川を渡る。その先には一瞬田畑が広がる区間があるが、奥には工場群が立ち並び、都市郊外の景色が広がっている。次の和田河原と、その次の富士フイルム前は、その駅名の通り富士フイルムの工場、研究所の最寄り駅となっている。大雄山線が走る南足柄市は富士フイルムの創業の地であり、大雄山線の沿線はいわゆる同社の企業城下町として栄えてきた。南足柄市から小田原への通勤・通学だけでなく、東海道線沿線などから富士フイルムの工場や研究所への通勤にも大雄山線が利用されている。富士フイルム前を発車すると、列車はまもなく終点の大雄山に到着。大雄山線の完乗を達成し、これで関東地方の普通鉄道を乗り終えることとなった。

終点大雄山に降り立つ。小田原駅と同様に駅は頭端式で1面2線のホームがあり、ホーム隣には研修庫と留置線があった。それぞれ1編成ずつが止まっており、小田原方の留置線には、以前に大雄山線で活躍し、現在は事業用として活躍しているコデ165形も留置されていた。もうすぐ製造から100年が経つが、今も現役である。先述した大雄山線の車両を検査で駿豆線の車両基地まで回送する際、大雄山線内での牽引役として活躍している。

南足柄市の市街地の中央に位置する大雄山駅。先述のとおり、周辺の地名が大雄山駅というわけではなく、駅名は大雄山最乗寺の玄関口を意味している。その大雄山最乗寺へは、駅前のロータリーから伊豆箱根バスの道了尊行きに乗車することでおよそ15分でアクセスできる。大雄山駅は中小私鉄の終点らしい雰囲気で、駅舎の横には金太郎のモニュメントがあった。昔話でおなじみの金太郎は、いくつか伝説の発祥の地があるが、南足柄市もその一つとされる。

駅舎の背後と片側には大きな商業施設が建っており、改札を出て街の景色を眺めると、意外に都会的な印象を受ける。2つの建物は連絡通路で結ばれている。写真左手の建物の中には地元企業のスーパーが入居する。こちら以前は別の大手スーパーが入居していたらしい。一方で右手の建物にはダイソーなどが入居し、上階には小田急箱根グループのホテル「とざんコンフォート」が入っている。スーパーは食料品を買い求める客で賑わう一方で、やはり空きテナントも多く、寂れてしまっている感じは否めない。近くにコンビニもあったが、どうせなら地元のスーパーの方が地域感があるので、スーパーで総菜パンを何品か買い、これを昼食にした。
大雄山駅から路線バスで新松田駅へ
さて、大雄山駅からは路線バスで新松田駅へ向かう。このバスを使うと、新松田駅から開成駅まで抜けることもできる。乗りつぶしの際に覚えておきたい小技である。今回は時間に余裕があり、小田原まで大雄山線を往復する案もあったが、いろいろな乗り物を試したかったことと、新松田駅の様子も見てみたかったため、路線バスを選んだ。
ちなみに、これから乗車する大雄山駅前発・新松田駅行の路線バスは、乗換案内アプリで「大雄山」と検索しても表示されないことがあるので注意が必要である。

乗換案内アプリで「大雄山」と入力すると、伊豆箱根バスの「大雄山駅」バス停のみが表示される。しかし実際この駅のロータリーには箱根登山バスの方が多く発着している。では、箱根登山バスはアプリに登録されていないのかというと、そうではない。実は、そもそもバス停の名前が異なっており、箱根登山バスの方は「関本」と呼ばれている。伊豆箱根バスの「大雄山駅」と箱根登山バスの「関本」は、同じ場所にあり、乗り場が異なるだけである。関本は大雄山駅がある周辺の地名である。
過去の旅行記でも書いたようにかつて箱根周辺では、小田急と西武が「箱根山戦争」とも呼ばれる熾烈なシェア争いを繰り広げていた。大雄山は箱根ではないが、伊豆箱根バスと箱根登山バスが乗り入れる場所であり、このバス停名の違いも、恐らくこの歴史に由来している。

関本と新松田を結ぶ路線は、大雄山駅・関本を発着するバス路線の中で最も本数が多い。大雄山駅周辺のエリアから都心を目指す場合、もちろん小田原を経由する方法もあるが、これは遠回りとなる。そのため、乗車する路線バスで新松田へ出て、そこから小田急線で上るルートが一般的となっている。平日朝はおよそ10分に1本程度が運行されており、乗車した休日日中も20分間隔での運行で、新松田ではスムーズに新宿行きの快速急行に乗り継げるようになっている。
乗車記録 No.6
箱根登山バス 関本-新松田線 新松田駅行
関本→新松田駅
関本では5人ほどが乗車。バスは駅前を走る県道74号線に沿って市街地を進み、切通しという名の交差点を右折した。その後、開成町の街中を横断する。開成町には小田急の開成駅があるが、役場などはこのバス路線沿いに位置している。やがて開成町を抜けると、バスは酒匂川を渡り、一旦御殿場線を跨ぐ。JR松田駅入口を経由した後、松田連絡線と御殿場線の線路下を潜り抜けて、終点の新松田駅に到着した。
新松田から快速急行で伊勢原へ

路線バスで降り立った新松田駅。駅前には昔ながらの商店街が軒を連ねており、駅前広場は小田急とJRに挟まれているため、少々手狭である。ここは松田町の中心部で、新松田駅は小田急小田原線の主要駅の一つ。特急列車は停車しないが、ここを通る一般列車はすべて停車する。今乗ってきた路線バスのほかにも各方面からのバス路線が終結し、駅前にはJR御殿場線の松田駅があるため、御殿場線沿線から都心へ向かう乗客も多く利用している。なお、小田急新宿発着の特急列車のうち、特急ふじさんはこの駅の構内で小田原線から御殿場線へ直通する。そのため、1日に数往復ではあるものの、松田駅に停車することがある。

JR松田駅の正面口は、先ほどバスで通ったJR松田駅入口に近い駅北側に設けられている。しかし、小田急線との乗換客の利便を考慮して、南口側にも出入口が設けられている。新松田駅から松田駅へは横断歩道を渡ってすぐに移動できる。ただし、特急ふじさんが発着する松田駅1番線へは、2・3番線ホームの端から端まで歩き、さらに跨線橋を渡らなければならないため、数分前に新松田駅で間違いに気づいても間に合わない可能性がある。以前特急ふじさんに乗車した際の旅行記でも触れたが、松田駅で小田急線内への特急券を購入すると、硬券の特別急行券と指定券の組み合わせで発券されることで有名である。

さて、新松田駅からは新宿行きの快速急行に乗車して伊勢原を目指した。このあたりの小田急小田原線の日中ダイヤは、快速急行と急行の2本立てで、両列車が6分、14分間隔で交互に運行されている。快速急行は新宿発着で、小田原からここまでは開成のみに停車し、開成から本厚木までは全駅に停車する。つまり新宿側と小田原側で急行運転を行い、中間区間は各駅停車となる。一方、急行は新宿まで運転せず、小田原-町田間のみの運行で、快速急行より短い6両編成となっている。こちらは小田原から本厚木まで各駅に停車し、相模大野で藤沢発着の快速急行に接続する。このため、新松田からどちらに乗車してもほぼ同じ所要時間で新宿に到着するが、確実に座りたい場合は最初から快速急行を選ぶのが安心である。
乗車記録 No.7
小田急小田原線 快速急行 新宿行
5000系 新松田→伊勢原

新松田から伊勢原までの所要時間はおよそ20分。乗車したのは小田急の新型車両5000系で、列車は山がちな景色の中を走行する。各駅の階段に近い中間車両は新松田到着時点でほぼ座席が埋まっていたが、最後尾の車両はとても空いており、快適に移動できた。伊勢原到着前、車内で誰かの地震速報が鳴って一瞬ヒヤリとしたが、緊急停車するほどの地震ではなく一安心。伊勢原には正午過ぎに到着した。
伊勢原到着後は、路線バスに乗り換え、大山ケーブルが走る大山の山麓を目指した。