【旅行記】関東地方の全線完乗を目指す旅+α 〜小田急ロマンスカーGSE「はこね」を乗り通す〜

蜘蛛の巣のような関東鉄道網を完乗し、寝台特急の旅へ
関東地方の鉄道路線巡りも佳境を迎えている。昨年の時点でこの地方の未乗路線は北関東に多く残っていた。昨年秋と今年の年始には、前篇・後篇に分けて「北関東鉄道探訪録」を旅した。さらに前回の東日本方面旅「水戸・会津ぐるっと周遊旅」でも関東を旅し、いよいよ未乗路線は3路線のみとなった。今回はこれら3路線に乗車し、関東地方の全線完乗を目指して旅する。
現時点で未乗となっているのは、神奈川県の伊豆箱根鉄道大雄山線と大山ケーブル、そして茨城県の筑波山ケーブルである。今回は1日目に神奈川県を、2日目に茨城県を巡り、これら3路線に乗車する行程とした。れら2路線に乗車すれば、国内のケーブルカーも完乗となる。小さなケーブルカーを巡る旅も今回で一区切りとなる。
もちろん旅の中では3路線を巡るだけでなく、周辺の鉄道・バスも楽しむ。1日目の未乗路線は小田急小田原線の沿線にあることから、小田急ロマンスカーの「はこね」「ホームウェイ」に乗車。翌日は特殊な経路を走ることで知られるJRの特急「湘南」に乗車して東京駅へ向かう。東京駅からは、つくばエクスプレスではなく高速バスを利用してつくばへ向かう。そこから筑波山ケーブルに乗車しつつ、路線バスで筑波山、土浦を経由しながら旅を進める。
今年春に出かけた関西地方の旅でも、1日目のうちに全線乗車を達成し、2日目は『+α』として、近鉄特急「ひのとり」「しまかぜ」に乗車する旅に出た。そして今回も3日目の日程のうち、2日間を未乗路線巡りに使い、最終日にはとっておきの「+α」を用意。東京と出雲市を結ぶ寝台特急「サンライズ出雲」の寝台券が確保できたので、一連の関東乗りつぶし旅の締めくくりとして、この列車に乗り通し、約22年ぶりの寝台特急の旅を味わうことにした。出雲市からは折り返し、新型車両に置き換えられた特急「やくも」に乗車する。最後は数年後に引退予定の500系「こだま」に乗車して、九州へと戻る。
おなじみの蒲田から、いつもと違うルートで旅を始める

仕事終わりに最寄りの空港へ向かい、そこから空路で羽田へ。昨年10月の北海道・稚内旅の帰りの飛行機も低気圧の影響で大きく揺れたが、今回の往路便も太平洋上を進む低気圧と前線の影響を受け、降下中はやや強い揺れとなった。10月のフライトは、例年揺れることが多い。旅立つ時、九州は晴れていたが、東京は雨。気温もぐっと下がり、冬の訪れを感じさせた。
今回も蒲田に宿泊。もう何度目か忘れた蒲田泊である。京急蒲田駅からホテルへ向かう途中のアーケードを歩くと、明日から始まる旅の実感が湧いてくる。1日目は朝早くから活動を開始するので、到着後はシャワーを浴びてすぐに早めに休んだ。
そして迎えた1日目。この日の東京も、前日に続き終日雨の予報だった。数日前は警報級の大雨が降るなどと報じられており、行程を順調に進められるか不安だったが、結果的には、時折雨脚が強まる程度で、傘の出番は一度もなかった。
普段であれば、蒲田から京浜東北線を経由して東京駅へ向かうが、今回は旅の起点が新宿駅ということもあり、京浜東北線は使わず、別のルートで新宿を目指した。蒲田から乗車したのは東急池上線。蒲田と五反田を雪が谷大塚、旗の台、戸越銀座などを経由する下町の電車である。筆者は2019年にこの路線に一度乗車している。当時は一日で世田谷線を除く東急線をすべて乗車したことを思い出す。JR沿線とは違う下町の景色を楽しみたくて、少し早起きして、池上線経由で新宿へ向かうことにした。
乗車記録 No.1
東急池上線 各停 五反田行
蒲田→五反田 7000系

日曜早朝の東急蒲田駅はまだ人の姿がまばらだった。発車を待っていた7000系による各停五反田行に乗り込み、優先席でない車端部の1人掛けシートに腰を下ろし、早朝の下町の景色を眺めながら五反田へ向かった。
蒲田から25分ほどで五反田に到着。スムーズに山手線へと乗り換えて新宿へ向かう。次回の旅もまた新宿スタートになる予定だが、スタート時間が遅いので、今度は多摩川線か世田谷線のどちらかに乗車してみたいと思う。今回の旅で関東地方は完乗となる見込みだが、またこうした折に触れて、これまで乗ってきた路線を再訪していきたい。
乗車記録 No.2
山手線外回り 渋谷・新宿方面行
五反田→新宿 E235系

朝7時半前の新宿に降り立つ。ここでは小雨が降っており、副都心のビル群の高層階は雲の中に隠れていた。そういえば、この旅行記では鶴見線再訪の記録だけを掲載したが、1ヶ月ほど前にもライブを観るために東京へ来ていた。そしてその時はここ新宿に宿泊した。友人が宿を手配したが、どうしても北東側に泊まりたかったようで、いわゆるトー横と呼ばれる広場の目の前のアパホテルに泊まった。旅行後、この界隈に集う人々を描いた書籍を読んでみた。生い立ちや家庭環境、社会との関わりの複雑さには驚かされ、改めて、人が社会の中でどう生きていくのかを考えさせられた。
それはそれとして、今回の旅はここ新宿がスタート地点となった。1日目は神奈川県内で乗り残している伊豆箱根鉄道大雄山線、大山ケーブルの2路線を巡る。これらの路線だけに乗車するならすぐに終わってしまうが、やはりこれらの路線への乗車を通じて、周辺の交通を楽しむというのが筆者の旅の楽しみ方。この日は新宿から特急はこねに乗車し、箱根湯本へ向かった後、折り返し新宿へ向かいながら未乗の2路線に乗車。そして新宿へ戻った後は、明日の朝の列車のために再度小田急線を下り、小田原に投宿する。かなり非効率に見えるかもしれないが、小田急線では一日乗車券を使うので、むしろ1.5往復ほどした方が元が取れる。
小田急ロマンスカーの顔、GSEに乗車して箱根湯本へ

小田急の新宿駅に来るのは、1年半ぶりだった。前回はここから特急ふじさんに乗車して御殿場へ行き、その後は熱海・箱根エリアを巡った。今回もロマンスカーに乗って旅を始める。新宿から8時発、特急はこね3号・箱根湯本行に乗車した。
なぜこの列車を選んだのか、それには明確な理由がある。現行のロマンスカーで唯一乗っていなかったGSEに乗ってみたかったから。筆者はこれまで、北千住-箱根湯本間の「メトロはこね」、新宿-片瀬江ノ島間の「えのしま」、そして新宿-御殿場間の特急「ふじさん」に乗車してきた。これらのうち、「メトロはこね」「ふじさん」はMSE専属、「えのしま」は乗車列車がEXEで運行される列車だった。そのため、これまで展望席のある伝統的なロマンスカー車両には乗車したことがなかった。そこで今回の旅では小田急沿線を訪ねるのと同時にGSEに乗車し、ロマンスカーの旅を楽しみたいと考えていた。ちなみに、長野では元小田急10000系(HiSE)には乗車したことがある。
Graceful Super Express(GSE)の相性がつけられた70000形車両は2018年にデビューした。もう7年前にデビューしたが、デザインが洗練されており、そんなに昔のこととは思えない。列車は7両編成で、先頭と後部には展望席が設けられている。運転席は2階にあり、梯子で昇降する方式は小田急ロマンスカーの伝統である。

列車は発車の15分前に本厚木始発の特急モーニングウェイ4号新宿行きとして入線してきた。モーニングウェイは朝の新宿方面へ運転される特急列車で小田急沿線主要駅から新宿方面への着席保証列車として、平日は通勤、土休日はレジャー・買い物で使用されている。昼間は観光輸送をメインに活躍するGSEも、朝夕は他のロマンスカー車両と共に沿線から新宿への乗客輸送に徹している。
GSEは7両編成で新宿駅での停車位置が他の車両よりやや手前に設定されている。新宿駅の終端部は柵があって、撮影が難しいがGSEならきれいに撮影できた。車内清掃が行われる間、乗車記念に列車を撮影してまわった。
発車のおよそ7分前にはドアが開き、車内へ入ることができた。今回は展望席は利用しないが最後尾の7号車を指定した。先頭車両は展望席がある関係で、他の車両より開放感がある。座席自体は他の車両と大きく変わらないが、えんじ色の車体にはロマンスカーらしい品格を感じる。日曜日の朝の列車ということで、車内は7割程度の座席が埋まった。数人組で箱根観光へ行く人、子供連れでお出かけ、そして海外からの観光客と様々な乗客を乗せて列車は新宿を発車。箱根湯本までの所要時間はおよそ1時間20分だった。
先述の通りロマンスカーにはこれまでも何度か乗車しているが、新宿から箱根湯本という王道の運行区間を走る列車を乗り通すのはこれが初めてだった。列車は小田急小田原線を走破した後、小田原から小田原箱根(旧箱根登山鉄道)へと直通し、箱根湯本へと向かう。今回は小田急の1日フリー乗車券を利用したが、登山電車は範囲外なので、小田原-箱根湯本間は箱根湯本の精算窓口で別途運賃を精算した。
乗車記録 No.3
特急はこね3号 箱根湯本行
新宿→箱根湯本 70000形「GSE」

列車は定刻通りに新宿を発車。日曜朝ということもあり、車内では早速ビール缶を開ける音が聞こえてきた。大きくカーブすると、そのまま東京の街へと繰り出していく。
まもなく「ロマンスをもう一度」というロマンスカーのCMソングをアレンジした車内チャイムが流れる。この車内チャイムは、現行ロマンスカーではGSEでしか聞けず、筆者も実際に聞くのは初めてだった。

南新宿、参宮橋、代々木八幡を経て、東京メトロ千代田線と合流すると、列車は代々木上原を通過。やがて地下区間へと進み、東北沢のホームを横目に緩行線のさらに深い地下を走る。下北沢を通過すると緩行線と急行線が自動的に入れ替わり、その後は経堂、成城学園前などを経て、複々線を駆け抜けながら登戸へ向かう。天気が良ければ東京の街の背後に富士山が見えるのだが、この日はその姿を望むことはできなかった。和泉多摩川を通過すると、列車は多摩川を渡る。様々な車両が行き交うこの界隈、ロマンスカーの車窓の楽しみの一つである。

登戸から神奈川県へ入ると複々線区間も終了し、多摩の丘陵地帯に広がる住宅地を眺めながら走る。普段は賑わう多摩川河川敷も、この日は人影もなかった。
ところで、現在乗車している特急はこねには、停車パターンが2種類存在する。一つは新宿、新百合ヶ丘、相模大野、本厚木、秦野、小田原と停車するもので、相模大野で「はこね」と「えのしま」を分割する列車は自動的にこのパターンとなる。一方でGSEで運転される列車の多くは新宿、町田、海老名、伊勢原、小田原と停車する。日中はこの2つの停車パターンの列車が交互に運転され、途中駅は千鳥停車となる。
乗車している列車は新百合ヶ丘を通過し、最初の停車駅町田へ。この頃、上空には雨雲がかかっていて、沿線もやや強い雨が降っていた。

列車は最初の停車駅である町田に到着。R横浜線と接続するこの駅でも数名の乗客が乗り込んできた。町田を発車すると直後に相模大野を通過。ここで江ノ島線が分かれ、列車本数も少し減る。
その後、列車は相模原市南区、そして座間市内を経由して次の停車駅、海老名へ向かう。やがて相鉄厚木線の線路が頭上を通過すると、相鉄本線と合流し、緩やかにカーブしながら車両基地を眺めて海老名に到着した。
海老名には往年のロマンスカーが展示されているロマンスカーミュージアムがあるが、時間の都合で今回は立ち寄らず先を急いだ。
海老名でも乗客を乗せた列車は雨の中を走行し、海老名市内の厚木を通過して相模川を渡り、正真正銘の厚木市である本厚木を通過した。本厚木は新宿でもよく見かける行先の一つ。新宿方面からの各駅停車はほとんどの列車がここで折り返す。伊勢原までは各駅停車が何本か運転されているが、ここから先のダイヤは快速急行と急行が基本となる。確かこの辺りでJRのE233系の回送列車とすれ違った。E233系は伊勢原まで毎日入線しているが、見る機会は多くない。

厚木の市街地を出ると、これまで住宅街が続いていた車窓も、のんびりとした景色に変わる。田畑が広がる奥に見える山々が、この後登る大山周辺の山だが、窓を濡らす雨粒で車窓もぼやけてしまっていた。後ほど降りることになる伊勢原に到着すると、次は小田原までノンストップとなる。伊勢原を出た辺りで、新百合ヶ丘付近から降りしきっていた雨もようやく上がった。

伊勢原から先も街と田園風景が繰り返される景色の中を走る。秦野、渋沢と通過すると景色も少し山がちになり、ここから川音川に沿って渓谷沿いを進む。都市近傍の幹線路線ながら、緑が多いこの区間は小田急ロマンスカーのCMでも定番である。川を眺め、トンネルを抜けると、列車は松田の街へ入る。特急ふじさんが走る通称松田連絡線を横目に御殿場線と交わると、列車は新松田を通過した。

その後列車は酒匂川を渡り、西岸から少し距離を置いた場所を走る。景色も開け、車窓には田園と箱根外輪山の山々が広がる。後ほど乗車する伊豆箱根鉄道大雄山線は小田急小田原線の西側、この写真で言う奥の山との間を走っている。小田急小田原線のこの区間は、初めて乗車した2017年以来の乗車だった。

しばらくのどかな景色の中を駆け抜けると、徐々に住宅が増え始め、街が広がり始める。大雄山線と交差し、留置線が多数広がる足柄を通過すると、列車はまもなく小田原に到着。ここでは数分停車し、子供連れの乗客が何組か下車した。
さて、小田原から列車は小田急箱根鉄道線へと入る。以前は箱根登山鉄道という会社名だったが、グループ再編により昨年から小田急箱根に社名が変わった。もちろん元から小田急グループだが、社名に小田急が入ったことで、一般の人には直通という感じが伝わりにくいかもしれない。なお、旅客案内上は「箱根登山電車」が使われている。

小田原を出ると列車は東海道本線と並走し、トンネルを一つ抜けて右へカーブ。その後早川に沿って湯本へと走る。最初の駅、箱根板橋では小田原行の各駅停車と交換。そして次の風祭でも箱根湯本へ行って折り返してきた新宿行き特急はこね30号と交換した。反対列車のEXEは随分空いていたが、この後箱根湯本に到着したら理由がわかった。皆、乗車している列車の折り返しの方を狙っていたらしい。やはりGSEはロマンスカーの顔であり、人気の高さを感じさせる。
入生田を出ると早川に沿いながらゆっくり進み、列車は定刻通り終点の箱根湯本に到着。およそ1年半ぶりに箱根湯本へ降り立った。現在のロマンスカーのフラッグシップGSEで、快適な列車旅を楽しむことができた。次はぜひ展望席にも乗車してみたいと思っている。
1年半ぶりの箱根湯本で折り返し各駅停車で小田原へ

久しぶりに訪ねた箱根湯本駅。降り立つとホームには、折り返しとなる新宿行きの列車を待つ乗客が長い列を作っていた。また、対面で接続する強羅方面の列車にも、乗り換え客や団体客が大勢乗り込む。関東屈指の観光地・箱根らしい光景だった。筆者は改札口へ向かい、小田急の1日フリー乗車券を提示するとともに、乗り越しの旨を駅員に伝え、小田原〜箱根湯本間の運賃360円を現金で支払って改札を出た。
前回、箱根湯本を訪れた際には、この先の登山電車やケーブルカー、ロープウェイ、遊覧船を楽しんだが、今回はここで折り返す。せっかくの箱根ではあるものの、特急「はこね」を乗り通すためだけに来た。初めてここに来たときも、同じような行程だったことを思い出す。国道1号に架かる歩道橋の上から箱根湯本駅のホームを眺める。箱根駅伝でもおなじみの、アーチ状にくり抜かれた形のホームに、バーミリオンオレンジのGSEが停車し、多くの観光客が行き交う――この景色こそ、小田急の一大リゾート・箱根を象徴するシーンである。

まもなく構内踏切の警報音が聞こえ、強羅方面へ向かう登山電車が発車していった。乗車した特急「はこね3号」を待ち受けていたのは、100形車両による3両編成の列車。いずれの車両も100歳を超えるか、まもなく100歳を迎えるこの路線の大ベテランである。しかし、残念ながら2028年に引退することがすでに発表されている。この日も多くの乗客を乗せ、箱根の急坂を力強く登っていた。このタイミングでその姿を見られたのは運がよかったと思う。

さて、箱根湯本ではICカードで改札を入り直し、各駅停車に乗って小田原へ戻る。昨年の箱根旅の旅行記にも書いたが、箱根登山電車の小田原〜箱根湯本間は狭軌となっており、この区間の各駅停車は小田急本体の1000形電車を使用して運転されている。小田原までの所要時間は15分。途中駅での交換があるため完全なパターンダイヤではないが、日中は概ね20分間隔で運行されている。
乗車記録 No.4
小田急箱根鉄道線(箱根登山電車) 各停 小田原行
箱根湯本→小田原 小田急1000形

ロマンスカーで来た道を少し戻り、終点の小田原で下車。乗車した列車は小田原に10時ちょうどに到着する便だったが、ちょうど1か月後の旅で利用する新幹線をネット予約する必要があったため、小田原到着後すぐにe5489で予約を入れた。旅の途中で列車を予約しなければならないとき、つい忘れてしまうことが多い。しかし今回は、競争率の高い「早得きっぷ」を購入したかったので、メモやリマインダーなどあらゆる手段を尽くして、予約し忘れを防いだ。
さて、各駅停車で小田原に到着したあとは、いよいよこの旅最初の未乗路線に乗車。伊豆箱根鉄道大雄山線の列車で大雄山へと向かった。