【旅行記】初夏の立山黒部アルペンルートを満喫する旅~室堂・雪の大谷を目指す編~

憧れの観光地、立山黒部アルペンルートを旅する
ずっと行ってみたいと思いつつも、なかなか行けずにいる場所というのが個人的にもいくつかある。天気や混雑などの理由から、一歩踏み出せずにいる、そんな場所である。富山と長野に跨る観光ルート、立山黒部アルペンルートはその筆頭とも言える場所で、ずっと行きたいと思っていたものの、なかなかタイミングを合わせられずにいる場所だった。
アルペンルートは「雪の大谷」や「黒部ダム」を有し、旅行会社の広告には必ずと言っていいほど登場する国内有数の観光地である。筆者も子供の頃、新聞の広告を見ながら、いつか行ってみたいと憧れていた場所だった。アルペンルートは、団体客が多いという特性上、なかなか一人旅では旅しにくい場所でもある。特に春先と初秋は雪の大谷と一足早い紅葉を目当てにしたツアーが多く、乗り物もかなり混雑すると聞いていた。さらに最近はインバウンドも盛況と聞く。夏場は割と空いているが、梅雨の時期や台風シーズンに旅を企画するのは、ある意味賭けになってしまう。空いている時期に行こうとすると、天気が心配、一方で気候のいい季節に行こうと思うと、混雑が心配。そんな感じの堂々巡りになってしまい、なかなか一歩が踏み出せなかった。
そんななか、年末年始に名古屋に住む地元の友人と会食をする機会があった。たまには旅行にでも行こうかという話になり、黒部ダムを見てみたいという意見で一致した。一人旅では行きにくいアルペンルートも、二人ならいろいろと助かる。そこから本格的に今回の旅行の計画が始動し、自分が旅行のアウトラインの計画と宿の手配を担当。友人にはきっぷの手配とアルペンルート以外の観光地とグルメの情報収集を担当してもらい、定期的に連絡を取り合いながら計画を立て、今回の旅を実行するに至った。
個人的に一番気がかりだったのは天気だった。こればっかりは運なので、正直気にかけていても仕方がない。とはいえやっぱり、観光地を巡る旅行というのは晴れてほしいもの。旅行前に友人に天気はどうだろうねとLINEを入れると、晴れ男だから心配するなと返信が来た。2週間前の天気予報は晴れ。2週間前の天気予報は正直あてにならない場合がほとんどだが、今回はそれから結局一度も予報は変わることはなく、当日を迎えた。あまり、晴れ男とか雨女とかそういうものは信じないのだが、今回ばかりは友人の発言が心強かった。
今回はそんな憧れの地だったアルペンルートへの旅をダイジェスト版として旅行記にまとめた。
前旅
中部国際空港から1日目がスタート

前日のうちに中部国際空港に到着し、空港島内にある東横インに前泊した。中部国際空港には東横インが2つある。どちらもマンモス団地ならぬマンモスホテルとなっていて、2つ合わせた客室数はなんと2,287室にもなる。これまで結構な数の東横インに宿泊してきたが、ここまで大きいホテルは初めて。到着したのは23時ごろだったので、全く混雑しておらず、スムーズに宿泊することができた。
翌日は中部国際空港からミュースカイで名古屋へ向かった。名古屋に前泊する際によくお世話になるミュースカイ。基本的に神宮前~中部国際空港間は途中無停車となる列車が多いが、ラッシュ時間のみ途中駅に停車する列車がある。今回利用したのは、そのうちの1本だった。停車駅は特急と同じ。乗車した列車は8両編成だったが、常滑線は特急停車駅でも6両分しかホームがない駅があり、その駅に関しては後部2両がドアカットとなった。名鉄はラッシュ時に通常通過する種別が通過駅に停車する特別停車やドアカットが頻繁に見られる会社としても知られる。今回はミュースカイでドアカットを体験することができた。
今回利用したきっぷについて
さて、今回の旅行ではJRが発売している「立山黒部アルペンきっぷ」を利用した。このきっぷはJR東海とJR西日本が発売している企画券で、東海道・山陽新幹線主要駅から立山黒部アルペンルートまでの往復(周遊)の乗車券と、立山黒部アルペンルートのフリー乗車券がセットになっている。今回利用した名古屋発着の「立山黒部アルペンきっぷ」は名古屋-富山間で高山本線を利用する「ひだコース」、北陸本線・北陸新幹線を利用する「しらさぎコース」から選択できる。名古屋→[ひだコースまたはしらさぎコース]→富山→[立山黒部アルペンルート]→信濃大町→[松本経由]→名古屋とぐるっと周遊するルート設定になっている。JR西日本発着の場合は、京都→敦賀→富山→信濃大町→名古屋→京都と経由する大回りのほか、富山→信濃大町→糸魚川→富山で周回し、それ以外は往復となるルートも設定されている。発駅によっていろんなプランが用意されているので、旅行日程にあったプランを選択して購入することができる。もちろん記載したルートの逆向きでの発券も可能である。今回は名古屋発着のひだコースを選択した。
この企画券はアルペンルートの前後で、指定席を追加料金なしで1回ずつ指定できる。ただし、信濃大町-塩尻間の特急「あずさ」は指定席の利用回数に含めずに指定席を利用することができる。今回は特急「あずさ」は利用せず、特急「ひだ」と「しなの」でそれぞれ1回ずつ指定席を利用した。
きっぷの有効期間は8日間となっている。今回は3日間の旅程だが、1週間以上に渡って、アルペンルート内の観光地巡りや登山、また道中の各地の観光地を思う存分楽しむことも可能である。途中下車については全ての駅でできるわけではないものの、名古屋発着のひだコースの場合、高山本線の岐阜~高山間、大糸線の信濃大町~松本間、中央西線の洗馬~中津川間で可能となっている。また電鉄富山~立山間の富山地鉄、立山~扇沢間のアルペンルート内の乗り物、扇沢~信濃大町間の路線バス(乗降地点限定)は、フリー区間となり、有効期間内であれば、何往復しても構わない。名古屋発着ひだコースの値段は21,180円。通常料金だと、名古屋-富山間の特急ひだ指定席は7,790円。松本~名古屋間で特急しなのを利用した場合の信濃大町-名古屋間の料金は6,800円なので、電鉄富山~信濃大町間は実質6,590円ということになる。アルペンルート(電鉄富山-信濃大町間)は片道の正規料金が13,820円となっており、実質半額の値段で乗れるということになる。当然、途中で行ったり来たりすれば、さらにお得に観光できる。まさに大盤振る舞いな企画券である。
なお、立山黒部アルペンルート内の乗り物に乗車する際には、最初に専用の乗車整理票を発行してもらう必要がある。いろんなルートがあり、途中複数の鉄道会社やバス会社が絡む乗車券のため、きっぷのルール自体も少々ややこしい。その点は注意が必要であるものの、東海・関西・中国地方からアルペンルートに観光へ行くときは、ぜひ利用したいきっぷである。
特急ひだで名古屋から富山へ

名古屋駅で友人と合流。ここから3日間の旅がスタートした。アルペンルートを巡るのは2日目。1日目は名古屋から富山へ移動後、富山市街を観光した。名古屋から富山へは高山本線を経由する特急ひだ3号富山行に乗車した。名古屋発着の立山黒部アルペンきっぷは、高山本線を利用するひだコースと、しらさぎ・北陸新幹線を利用するしらさぎルートの2ルートから選択できる。所要時間はしらさぎコースの方が短いはずだが、乗り換えるのも面倒だし、今回は特急ひだで富山を目指した。特急ひだ3号は8両編成。うち4両は高山止まりで、名古屋の時点で後ろの編成が終点富山まで運転される(岐阜で進行方向が変わる)。今回は名古屋時点で最後尾の10号車に乗車した。
乗車記録 No.1
東海道本線・高山本線 特急ひだ3号 富山行
名古屋→富山 HC85系

この日の太平洋側は快晴で、高山までは飛騨川の美しい景色を堪能することができた。列車は岐阜、美濃太田、下呂、高山、飛騨古川、猪谷、越中八尾と停車していく。高山までは1時間に1本ほどが運転されている特急ひだだが、高山から先は運転本数が減る。需要がないのかといえばそうではなく、むしろ外国人観光客は高山-富山間での利用が多い。高山では外国人観光客が大勢乗り込んできて、車内はほぼ満席となった。飛騨古川から先は、宮川・神通川を眺めて富山平野へと出る。日本海側は曇っていて、高山本線から立山連峰はうっすらとだけ確認できた。

名古屋から3時間50分で終点の富山に到着。お昼を過ぎたので、とりあえず昼食を食べて、その後は富山市街地を観光した。富山市街地はあまり観光地が多くない。今回は富山ガラス美術館と富岩運河環水公園を訪れた。富山ガラス美術館はきらりKIRARI富山という市立図書館と同じ建物内に入っている。隈研吾氏が設計した建物は外観だけでもかっこいい。図書館部分はとても開放的な造りだった。ガラス美術館の展示は想像以上に素晴らしく、ガラスでこんな芸術もできるのかとガラスに対する印象がガラッと変わる機会となった。その後路面電車で富山駅を通過後に訪れた富岩運河公園は、日本一景観がいいスタバがあることで有名。せっかくなのでスタバでフラペチーノを買ってコーヒータイムとした。富山駅へ戻って夕食は日本海の幸を堪能。この日は富山駅前に一泊し、翌日のアルペンルートに備えた。
地鉄電車でアルペンルートの玄関口立山駅へ
2日目は丸一日を使って、立山黒部アルペンルートを旅した。富山駅前のホテルを7時前に出発。電鉄富山を7時11分に発車する普通列車立山行に乗車し、終点の立山へ向かった。乗車したのは10300形2両編成。同じくアルペンルートを目指す観光客を中心に賑わっていたが、全員が余裕で座れる程度だった。この列車の前には特急、快速急行、普通と既に3本の列車が発車している。早朝の列車は観光客に加え、登山客も利用するため、とても混雑するという情報を得ていた。この日は土曜日。東京方面からの新幹線が到着する午前の遅い時間も混雑しそうだったので、早くもなく遅くもないこの時間の列車を利用した。

電鉄富山から立山駅間の所要時間は1時間5分。電鉄富山を発車した列車は、まずこの駅から宇奈月温泉駅を結ぶ本線を走る。一駅先の稲荷町駅では不二越線が分岐。この路線と南富山~岩峅寺間を結ぶ上滝線には昨年乗車した。もう1年以上が経過したのかと時の速さに驚く。富山市の郊外を駆け抜ける列車。線路は住宅と住宅の間の手狭な場所を走っている。後ほど並走する常願寺川を渡る鉄橋の辺りで住宅地も終わりとなり、その先は田園風景が広がる。数駅進むと立山線の起点となる寺田に到着。列車はここから立山線を進んでいく。
乗車記録 No.2
富山地方鉄道本線・立山線 普通 立山行
電鉄富山→立山 10300形

この日は晴れの天気だったが、富山平野はやや雲が多く、平野から立山の美しい景色は見ることができなかった。一方で、平野に広がる水田は田植えが終わった直後で、雲と青空が反射して、美しい車窓が広がった。立山線に入り、数駅進んだ五百石駅は立山町の中心地。高校もあり、地元客の乗り降りが多かった。そこからほぼまっすぐ南へ下ると、列車は岩峅寺駅に到着。ここで稲荷町で分かれた不二越・上滝線と再び出会った。

岩峅寺駅の近くには雄山神社の前立社檀がある。ここが富山平野側からの立山への入口とも言える場所。列車の車窓もこの駅の前後で一変する。ここから先は、常願寺川の谷間に沿って森の中を進み、徐々に標高を上げていく。千垣駅と有峰口の間で列車は常願寺川を渡る。ここは富山地鉄の有名な撮影スポットとしても知られる。芳見橋と呼ばれるアーチ型が常願寺川を渡っているのが見える。この電車が走っている鉄橋もまたアーチ型の橋である。その後も川に沿ってジワジワと坂を登って行くと、列車は終点の立山駅に到着した。

今回はJRが発売している「立山黒部アルペンきっぷ」を利用して旅している。電鉄富山から立山駅までの地鉄電車は、このきっぷのかえり券の提示で乗車できる。一方、このきっぷを利用してここから先のアルペンルートを旅する場合は、窓口で使用中のかえり券を提示して、アルペンルート専用の乗車整理票を発行してもらう必要がある。乗車整理票の発行を受ければ、その後は基本的に乗り降り自由となる。通り抜けるだけでもよし、国内唯一のトロリーバスを朝から夕方までひたすら往復してもいい。ただし、最初に乗るケーブルカー(立山→扇沢の場合)または電気バス(扇沢→立山の場合)のみ時間指定が必要になっているので、発行と同時に時間の指定を受ける。ケーブルカー・電気バスともに時間指定が必要なのは最初の1回のみ。その後は時間指定なく完全フリーで乗車することができる。片道でも1万3千円するアルペンルート。立山黒部アルペンきっぷをもっていれば、正規料金の半額くらいの料金で、有効期間内でひたすら往復することも可能である。

列車を下車後、すぐに窓口へ向かったので、ほぼ待ち時間なく、計画していた通りの8時40分発の便の時間指定を受けることができた。当日券の列も時間帯によっては長蛇の列となるが、この時間は数人しか並んでいなかった。当日券の列が混雑しているとき、JRのきっぷや旅行会社発行のの引換券を持っていると、専用窓口に優先して案内してもらえるらしい。アルペンルートではWEBきっぷの発売も行っている。アルペンルートへ行くことがあらかじめ決まっている時は、JRの立山黒部アルペンきっぷを使うか、WEBきっぷを利用するとスムーズに乗車できる。なお、富山側では立山駅のほか、電鉄富山でも乗車整理票の発行が可能である。営業時間が7時30分~11時のため、今回は電鉄富山駅の窓口は使えなかった。
立山ケーブルに乗車して美女平へ

窓口での手続きを完了させて、ケーブルカーのりばへ。ここからはとんとん拍子でケーブルカーとバスを乗り継ぐ。ケーブルカーに乗る前にお手洗いを済ませておくといい。
最初に乗車するのは、立山駅と美女平駅を結ぶ立山ケーブルカー。正式には立山黒部貫光の鋼索線という路線である。実はこの先にある黒部ケーブルも路線名は同じ鋼索線。同じ会社の中に同名の路線が2路線存在している。改札は団体客と個人客で分かれている。個人客の方は20名くらいが並んでいて、同じ便に乗り合わせた乗客の8割くらいは団体客だった。乗車整理票に印字されたQRコードを読み取ってもらってのりばへ。ここから扇沢まで、アルペンきっぷのかえり券は使わないが、乗車整理票と一緒にガチャックで留めてもらえるのでなくす心配はない。

立山駅は常願寺川と称名川という立山から流れ出る2つの川の合流地点にある。ここはちょうど室堂から続く山の尾根の終端部となっていて、ここからケーブルカーで一気に美女平へ登り、そこから山の尾根を走る立山高原バスでアルペンルートの最高地点である室堂を目指していく。通勤電車並みの混雑だった立山ケーブルカー。写真には撮れなかったが、眼下には、2つの川の合流地点と地鉄電車で並走してきた常願寺川の下流方面が見えた。乗車しているケーブルカーは、後部に貨車を連結している。今も乗客の大きな荷物はこの貨車で運んでいるらしい。立山ケーブルカーは1954年に開業。現在は観光用だが、かつては黒部ダムの資材運搬でも活躍。以前は美女平への道がなかったため、美女平から先で使うバス車両もケーブルカーで運んだらしい。
乗車記録 No.3
立山黒部貫光 立山ケーブルカー
立山→美女平
高原バスで立山の絶景を堪能

ケーブルカーはおよそ7分で美女平に到着。ここで今度は立山高原バスに乗り換える。このバスは美女平と室堂の間を約50分で結んでいる。今いる美女平の標高は977m。一方、室堂の標高は2450m。このバスは標高差約1500mの2地点を結んでいる。扱いは乗合バスであり、途中には弥陀ヶ原、天狗平という2つのバス停が設けられている。途中下車する場合は、室堂までの列と別の列に並ぶ。ケーブルカーに乗り合わせた団体客は、専用の直行バスで一足先に室堂へ出発していった。その後、一般客の改札も開始された。乗車率は5割ほどでさほど混雑はしていなかった。

立山高原バスは全区間で富山県道6号線を走る。この富山県道6号線は富山市街から室堂へ続く県道だが、このうち美女平の少し手前の桂台~室堂間は、環境保護の観点からマイカーの乗り入れが禁止されている。この道路を走れるのは、路線バスや観光バスのほか、緊急車両や郵便物の集配車両、それに許可を受けた車両に限られる。桂台~美女平間と、弥陀ヶ原~室堂間は立山有料道路という有料道路道路になっている。団体客を乗せた観光バスは、室堂までそのまま行くことができる。しかし、通行料金が高いからなのか、それともケーブルカーも見どころの一つだからなのか、観光バスでそのまま室堂へ行く団体客は少ない。
バスに乗り込んで室堂を目指す。どちらかといえば進行方向左側の席の方が眺めがいいので、そちらに座った。
乗車記録 No.4
立山黒部貫光 立山高原バス
美女平→室堂

美女平を出てしばらくは森の中を走っていく。路線バスだが、このバスを使うのは基本観光客なので、車内ではモニターを使って見どころが紹介される。最初のみどころは沿道にある立山杉と呼ばれる大木。樹齢は1000年以上とされ、屋久杉に匹敵するらしい。バスはその後は雲の中へ突入。視界の悪い中を進んで行った。視界が良好な日には、車窓に落差日本一の称名滝を見ることができるが、この日は標高1000mあたりに雲が広がっていたため、滝を眺めることはできなかった。

何度もカーブを曲がりながらジワジワと標高を上げていくバス。最初は森だった車窓も次第に高い木が無くなり、高原地帯に突入した。このあたりで立ち込めていた雲の上に出て、上空には青空が広がり始めた。それと同時に車窓には雪を積もらせた山々が姿を現した。初めて間近に北アルプスの山々と対面するそんな瞬間だった。

雲の上に出てきたバスの車窓には雲海が広がる。雲がない日は富山平野を一望することができるらしいが、雲海もまた見ごたえがある。雲海からひょっこりと顔を出すのは標高2090mの鍬崎山。すでに標高約2000mの山の頂上よりも高い場所をバスで走っている。なんだか不思議な気分になる。写真には写っていないが、鍬崎山の奥には遠く白山連峰が見えていた。

立山有料道路の追分料金所を経て、バスは弥陀ヶ原に到着。ここには弥陀ヶ原ホテルと立山荘という宿泊施設があり、数人の乗車があった。季節はもう初夏だが、沿道の高原はまだ一面の雪に覆われていた。5月に雪を見たのはこれが初めてだと思う。目の前には大日連峰の山々が見える。大日連峰は立山連峰から派生して東西に延びる連峰で、最高峰は奥大日岳の2611m、続いて大日岳の2501m、中大日岳の2500mと大日三山と呼ばれる2500m級の山々が聳えている。

天狗平を出るといよいよ終点の室堂が近づいてきた。大日連峰の横を通りすぎると、その後ろには立山連峰が姿を現す。バスは既に標高2400mに近くに到達している。奥に見える立山連峰は標高3000m以上の山々が連なっている。写真の左側には一際尖った山が見える。富山を代表する名峰として知られる剣岳。敦賀-富山間で運転される新幹線「つるぎ」の由来にもなっている。

高原バスは最後の最後まで見どころがある。室堂へ到着する直前の楽しみといえばやはり雪の大谷。バスは雪の壁の間をすり抜けるようにして走っていく。その年の運行開始日から6月下旬までの期間は、2車線のうちの1車線がウォーキングゾーンとして開放されている。もちろんこれを見なければ室堂に来たとは言えないので、この後ターミナルから徒歩で見に行く。
アルペンルートの最高地点室堂と雪の大谷
室堂に到着。室堂の標高は2,450m。これまで旅した場所で最も標高が高い場所がどこかは覚えてないが、標高2,000m以上の地に降り立つのはこれが初めてだと思う。アルペンルートはここで高原バスからトロリーバスへ乗り換えとなる。ここから先は一駅一駅ゆっくり散策しながら旅を進めて行く。室堂では、バスの車窓から眺めた雪の大谷を見に行った。
ところで、この先の室堂から大観峰間を結ぶトロリーバスは、日本の法律では無軌条鉄道という鉄道の一種に含まれる。標高2450mの室堂ターミナルは、トロリーバスが発着するため鉄道駅となっていて、ここが国内の鉄道路線の駅として、最も標高の高い場所にある駅となっている。ちなみに逆に日本でもっとも地下深くにある鉄道駅は、青森県の龍飛崎にある青函トンネル記念館青函トンネル竜飛斜坑線の体験坑道駅(海面下140m)である。

専用の通路を通って雪の大谷へ。途中には大日連峰を眺められる場所があった。立山室堂は景観保護のため、富山側から見て大日連山の陰に隠れる場所にターミナル・ホテルが建設されている。風もなく穏やかな天気だったこの日の室堂。青空の下で輝く北アルプスの峰々の美しさに魅了されてしまった。登山家ではないし、全く自力で山を登っていないが、北アルプスの虜になる人の気持ちが少しだけ分かる気がした。

旅行会社のパンフレットや広告で何度も見たことがある雪の大谷を走るバスの写真。ついにこの目でそれを見ることができた。道路の雪は既に解けてしまっているが、バス2.5台分の雪の壁は圧巻の光景だった。最高地点となる場所には看板が設けられている。外国人観光客は、最高地点を指さして写真を撮るのが流行っているらしい。アルペンルートは雪の降ることがない台湾からの観光客が多いと聞く。台湾の人たちから見れば、雪自体が珍しいだろう。自分もまた日本でも西の方に住んでいて、年に1回か2回積もればいいレベルでしか雪は見ない。5月に雪を見るという経験もまたはじめてだった。雪は反射率が高いので、こんな晴天の日はすぐに日焼けしてしまう。日焼け止めをもう少し厚塗りしておけばよかったと旅行後に後悔した。

雪の大谷からターミナルへ戻る。室堂のターミナルの背後に聳えるのが、立山連峰の山々である。写真の右手は浄土山、左手は雄山。真ん中の窪んでいる部分は一ノ越と呼ばれている。今立っている室堂自体が標高2600mなので、あと400mほど登山すれば、標高3,015mの雄山にも登ることができる。富山県内の小学校では、夏に雄山へ登山旅行に行くというのが恒例の行事なんだとか。雄山は比較的登りやすい山らしく、小学生でも登ることができる。。浄土山の写真には黒い点々が見えるが、これは登山中の人である。電鉄富山を5時~6時台に出て、早朝に室堂に到着した登山者たちが早速山に挑んでいた。
さて、アルペンルートの見どころの一つの雪の大谷を見た後は、いよいよこの度の最大の目的地であった黒部ダムへ進んでいく。室堂からは今年がラストイヤーとなった国内唯一のトロリーバスに乗車して、大観峰へ向かった。
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