【旅行記】大井川鐵道のんびり乗り鉄紀行〜新幹線「こだま」を乗り通し東京へ〜

寄り道しながらのんびりと静岡・大井川鐵道を訪ねる

 2024年3月、筆者は「JR東海未乗路線と箱根エリアの鉄道路線を巡る旅」で箱根・熱海エリアを訪ね、箱根登山鉄道(現・小田急箱根)や十国峠ケーブルカー、周辺を走る路線バスなどに乗車した。実はこのとき、本来は箱根ではなく大井川鐵道を訪ねる予定だった。しかし当時の大井川鐵道は、井川線の一部が線路設備故障の影響で運転を見合わせていた。そのため訪問を断念し、行き先を箱根方面へと変更したという経緯がある。
 こうして当時は「行くに行かれぬ大井川」となってしまったが、あれからまもなく2年が経とうとしている。全国の鉄道路線巡りも大詰めを迎えた今、改めて大井川鐵道への旅を企画し、2年前のリベンジを果たすことにした。
 大井川鐵道は、各地で活躍したSLやEL、旧型客車、さらには電車が多数在籍し、まるで昭和にタイムスリップしたような旅を楽しめるとして、鉄道ファンだけでなく観光客からも人気を集めている。近年ではトーマス列車も子供連れから高い人気を誇り、静岡県を代表する観光スポットの一つにもなっている。
 しかし、大井川鐵道が運行する2路線のうち、金谷駅と千頭駅を結ぶ大井川本線は、2022年夏に台風の被害を受け、現在も北側半分の区間が不通となっている。2025年夏には鉄道による復旧が正式に決定し、現在は2029年度の全線運転再開に向けて復旧工事が進められている。あと数年待てば全区間で乗車できるようになるが、筆者はまもなく現在営業中の路線をすべて乗り終える見込みである。また、その先でつながる井川線もまた、たびたび災害に見舞われ、長期間不通となることの多い路線であるため、今回はこのタイミングで、現在運行中の区間だけを先に乗車し、再開後に改めて訪ねることとした。
 今回の旅は、前泊を除いて2泊3日の行程である。夜行バスで到着した大阪を起点とし、1日目は静岡を目指しながら東海道新幹線「こだま」を乗り通すほか、東京-静岡間の高速バスにも乗車する。2日目と3日目はいよいよ目的の大井川鐵道へ。2路線は1日で乗りつぶすことも可能だが、今回は各地での滞在時間や日没を考慮し、2日かけてじっくり巡ることにした。
 2日目は大井川本線と井川線を乗り継ぎ、終点の井川まで向かったのち折り返し、大井川鐵道・川根温泉ホテルに宿泊する。翌日は昼前までゆっくりとホテルで過ごし、再び大井川本線に乗車して金谷へ戻る。その後は静岡空港へ移動し、九州へ帰る行程とした。
 2026年の旅はじめは、いつもの筆者の旅と比べると、静かで、そしてどこかのんびりとした幕開けとなった。

大阪行きの夜行バス「サンライズ号」から旅を始める

 今回の旅は、夜行バスの前泊から始まった。昨年春に関西を旅したときには、広島発の夜行バスで大阪へ向かったが、今回は熊本発の夜行バス「サンライズ号」を選んだ。サンライズ号は熊本と神戸・大阪・京都を結ぶ高速バスで、近鉄バスと九州産交バスの共同運行により、1日1往復が運行されている。筆者もこれまで何度かお世話になっており、関西方面への旅行の際にはとても重宝している路線である。
 バスは2人乗務で、九州道、関門橋、中国道、山陽道、神戸淡路鳴門道、阪神高速を経由して関西へ向かう。車内は独立3列シート。週末の便だったため、車内はほとんどの座席が埋まっていた。熊本-大阪間の所要時間はおよそ9時間半。広島-大阪間は実質の休息時間が5時間程度と短かったが、こちらは長すぎず短すぎず、ちょうどいい乗車時間で、しっかりと休息を取ることができた。
 
乗車記録 No.1
近鉄バス サンライズ号 京都駅八条口行
熊本駅前→大阪駅前
 
 旅の往路で乗車する夜行バスでは、なかなか寝付けないことが多いのだが、今回は思ったよりもしっかり眠ることができた。座席での姿勢を安定させるため、今回はエアークッションを2つ持参したが、どうやらこれが功を奏したらしい。さらに、近鉄バスの独立3列シートは座り心地もよく快適だった。
 
 バスは翌朝、定刻より25分ほど早い6時30分頃に大阪駅前へ到着した。近鉄バスとその共同運行会社の夜行バスは、東梅田駅付近のバス停に停車する。「サンライズ号」は、関西エリアで三宮バスターミナル、大阪駅前、OCAT、あべの橋、京都駅八条口と停車して行くが、やはりこの大阪駅前での降車が多い。バス停には筆者の乗車していたバスのほかにも、東京や山梨、仙台など各地からの夜行バスが次々と到着し、乗客を降ろしていた。少し荷物を整えた後、バス停から大阪駅へと歩き、ここから1日目の旅が始まった。

新幹線までの時間を使い、JR桜島線を再訪する

 大阪駅からは新大阪駅へ移動し、その後は新幹線に乗り込む予定だったが、順調に大阪へ到着できたので、ここでは2時間30分ほどの空き時間ができた。もう少し早い時間の新幹線に乗る手もあったが、冬の九州-関西間の夜行バスは、特に福岡・山口県内で雪の影響を受けやすく、遅延を見込んで余裕を持たせていた。
 空いた時間の過ごし方は大阪に着いてから考えようと思っていたが、大阪駅へ向かって歩きながら思いついたのが、しばらく乗車していなかったJR桜島線の再訪だった。関西の路線は、関東以上に前回の乗車から時間が経っている路線が多い。桜島線も、前回の乗車から気がつけば10年が経っていた。
 
 時刻表も発車標も見ずに大阪駅の改札内へ入り、大阪環状線のホームへ向かうと、ちょうどユニバーサルシティ・桜島行の列車が停車していた。この列車が大阪から桜島線へ直通するこの日最初の列車だったらしい。幸先の良いスタートに、小さな寄り道の旅が始まる。
 
乗車記録 No.2
大阪環状線・桜島線 普通 桜島行
大阪→桜島 323系
 
 列車は西九条を過ぎると、臨海部らしい景色の中を走る。早朝の車内はUSJへ向かう観光客で混雑していたが、ユニバーサルシティで多くの乗客が下車し、その先は一転して静かになった。大阪駅から20分ほどで、列車は終点の桜島駅に到着する。
 
 桜島駅を訪ねるのは約10年ぶりだった。前回この路線に乗ったのは2016年夏で、当時はまだ201系や103系が活躍していた時代だったのを思い出す。駅周辺の景色は大きく変わっていたが、臨海部に立つ終着駅の雰囲気は、記憶の中の桜島とどこか重なるものがあった。
 
 臨海部に位置する桜島駅。駅前には阪神高速の天保山大橋が見える。外の景色は見えないので実感はないが、実は直前に乗車した夜行バスもこの橋を経由して大阪の市街地へと入っており、1時間半ぶりに帰ってきた形だった。以前は橋の全体が見えており、安治川を挟んだ反対側には天保山の観覧車なども見えていたが、現在は駅前に大きなホテルが建設され、視界は遮られれてしまっている。
 昨年行われた大阪万博の会場・夢洲は桜島駅から西へ進んだ大阪湾に浮かんでいる。開催期間中はホームの先に臨時改札が設けられ、スムーズにバスへ乗り継げるようになっていた。実はこの桜島線も夢洲への延伸計画がある。しかし、今はまだ調査段階であり、具体的な動きはない。
 
乗車記録 No.3
桜島線 普通 西九条行
桜島→西九条 323系
 
乗車記録 No.4
大阪環状線 大和路快速 天王寺行
西九条→大阪 221系
 
 
 桜島からは来た道を戻り、西九条で乗り換えて大阪へ戻る。ゆめ咲線と大阪環状線の直通列車は時間帯によって本数が限られるが、西九条では対面で乗り換えられるため、不便さは感じない。帰りは西九条で大和路快速へと乗り継いだ。
 
乗車記録 No.5
おおさか東線 普通 久宝寺行
大阪→新大阪 221系
 
 その後大阪駅では、あえてJR京都線には乗り換えず、おおさか東線の列車が発着するうめきたエリアのホームへ向かう。開業後に通過したことはあったが、ホームを訪ねるのは初めてだった。開業からもうすぐ3年、もうふつうに大阪駅の一部に組み込まれている。ここからおおさか東線の普通列車で新大阪へ向かい、大阪での小さな再訪の旅を終えた。

新大阪から東京へ東海道新幹線「こだま」を乗り通す

 桜島線を再訪したあと、これから乗車する新幹線の発車時刻の40分ほど前に新大阪駅に到着した。ここから1日目の本題へと入っていく。券売機に立ち寄った後、新幹線改札を通り、売店で軽食を買い込んで出発の準備を整える。
 この日の目的地は静岡。翌日以降の大井川鐵道乗車に備え、今日は移動に徹する一日となる。ただし、ただ移動するだけではもったいないので、以前から一度やってみたかった、東海道新幹線「こだま」の乗り通しを実行することにした。「こだま」を乗り通したら目的地の静岡を通り越して東京まで行ってしまうが、問題はない。東京ではこれまた以前から乗車してみたかった高速バスに乗車し、折り返して静岡へ向かう。
 大阪から静岡へ向かうのに、あえて一度東京まで行き、そこから高速バスで静岡へ戻る。効率だけを考えれば、明らかに遠回り。しかし、今回の旅のテーマは「寄り道」。この日の目標は静岡に着くことなので、のんびり旅を進めていく。
 
 発車まで30分以上あったが、ホームで行き交う新幹線でも眺めて待とうと思い、少し早めにホームへ向かった。するとまもなくホームには列車が入ってきた。どうやらこれが乗車する「こだま」になるらしい。忙しなく列車が行き交う新大阪駅に折り返しでもなく30分も早く入線する光景は、別に「こだま」だからというわけではないのだが、いかにも「こだま」らしい、ゆったりとした時間の流れを感じさせた。
 新幹線といえば「速さ」が最大の価値である。最短時間で都市と都市を結ぶことが使命であり、「のぞみ」はその象徴と言える。一方で、「こだま」は各駅に停車しながら、主要駅と小規模駅をつなぐ橋渡し役を担っている。多くの場合、その役割は短距離の輸送と「のぞみ」や「ひかり」が通過する各駅への乗客輸送だが、その役割を連続させながら長距離を走る列車も存在する。
 「のぞみ」、「ひかり」は東海道新幹線から山陽新幹線へ直通列車が多いが、「こだま」に関しては直通する列車がなく、新大阪を跨がない。筆者自身、山陽新幹線では2015年に「こだま」を乗り通した経験があるが、東海道新幹線ではこれまで機会がなかった。「のぞみ」なら何度も乗り通したことがある新大阪-東京間も、「こだま」や「ひかり」で乗り通したことがない。「こだま」の所要時間は「のぞみ」の約1.5倍。それだけに、日程に余裕のある今回の旅は、これを実行するにはうってつけだった。
 一駅ずつ停車しては追い抜かれ、待ち合わせをしながら進む。そんな「こだま」に最初から最後まで揺られ続ける旅は、鉄道ファンにとって一種のロマン。一分でも長く列車に揺られていたいファンには贅沢な列車と言える。
 
 乗車したのは「こだま712号」東京行き。新大阪を8時54分に発車し、東京到着は12時48分。所要時間は3時間54分で東海道新幹線を走り抜ける列車である。各駅に停車し、その多くで「のぞみ」や「ひかり」に道を譲りながら進んでいく。列車本数の多い東海道新幹線では、その待避回数も山陽新幹線以上に多く、時間の流れはより穏やかに感じられる。何本の列車に抜かれるのか、数えながら旅を進めていく。
 
 ところで、「こだま」の魅力は、長く揺られていられるというロマンだけではない。もう一つの魅力は、安さである。乗客が比較的少ない「こだま」には、旅行会社から割安な商品が発売されており、他の列車よりも割安な価格で乗車することができる。
 筆者も山陽・九州新幹線では日本旅行の「バリ得こだま」によくお世話になっているが、東海道新幹線ではJR東海ツアーズの「ぷらっとこだま」がそれにあたる。西日本在住の筆者にとっては「バリ得こだま」の方が馴染み深いが、全国的にはこちらの方が知られているだろう。
 区間が違うだけで、基本的な商品の校正はどちらもほとんど同じでる。「バリ得こだま」同様に「ぷらっとこだま」も普通車プランに加え、グリーン車プランが発売されている。グリーン車プランは普通車プランよりも若干高い程度なので、グリーン車プランを選んだ方が快適。東海道新幹線の「こだま」は1号車~6号車と13号車~16号車の計10両が自由席で、指定席は7号車と11・12号車の3両、グリーン車は8号車から10号車の3両と普通車指定席とグリーン車指定席の両数が同じとなっている。普通車指定席は短区間の利用も多いため、長距離利用ならグリーン車を利用する方がいい。どちらのプランも飲み物クーポンが付いてくる。JR東海グループが運営する売店で利用でき、好きな飲み物と交換できる。有効期間は長めに設定されているので、乗車時に使わなくてもいい。夜行バスの乗車時に買ったものがまだ余っていたので、筆者はこの後、高速バスで下車した静岡で引き換えた。

発車までの間にも数本の新幹線に道を譲り、東京へ走り出す

 早めに列車に乗り込み、車内で発車を待つ。車内では車掌から「発車まで30分ほどお待ちください」との放送が入った。ローカル線の発車待ちのような放送を新大阪で聞くとは思わなかった。おそらくこんな放送、東海道新幹線ではあまり聞く機会はないだろう。
 新大阪に停車している間にも、新大阪から東京方面へは8時30分発ののぞみ2号、8時45分発ののぞみ80号、8時48分発のひかり500号の3本の列車が発車していく。8時30分発ののぞみ2号に乗車していれば、この列車の発車時刻には米原あたりまで進んでいることだろう。隣のホームを発着する新幹線を眺めながら、お茶を飲んでのんびりと発車を待った。
 この列車に新大阪から乗り込む乗客は多くない。ここから「こだま」に乗り込む乗客は、筆者と同じ「ぷらっとこだま」の利用者か、米原・岐阜羽島へ向かう乗客くらいに限られる。もちろん豊橋や浜松、静岡を目指す乗客の利用もあり得るが、浜松・静岡には直前に発車するひかり500号が停車するほか、豊橋へはのぞみ80号に乗車すれば、名古屋始発でこの列車の前を走るこだま710号へ乗り継ぐことができる。実際、筆者も新大阪-名古屋間のみを利用する場合は、空いていることが多いため「こだま」を選ぶことが多い。
 東京-名古屋間では日中も毎時2本が運転されている「こだま」だが、名古屋-新大阪間では本数が減る。その代わりに「ひかり」の一部がこの区間の各駅に停車し、本数を調整するとともに、東京方面への速達性を維持する仕組みになっている。
 
乗車記録 No.6
東海道新幹線 こだま712号 東京行
新大阪→東京 N700系
 
 ようやく発車時刻となり、列車は東京へ向けて走り始めた。発車と同時に、隣のホームには8時57分発ののぞみ82号が入線してくる。乗車している「こだま」は米原まで、この列車の猛追を受けながら走っていく。乗車した車両はJR西日本のN700系。車内には「いい日旅立ち」が流れ、快晴の大阪を車窓に、「こだま」の旅が始まった。
 東海道新幹線に乗車するのは、前回の旅以来、約2か月ぶりだった。前回は搭乗予定だった飛行機が大幅に遅延したため、急遽新幹線で夜の東海道を上り、東京を目指した。筆者は九州に住んでいるため、東海道新幹線に乗る際、新大阪は通過点となり、そのまま山陽新幹線区間も乗り通すことが多い。車窓に広がる大阪の街を見ながら、どちらの方向へ行くにしても「ようやく大阪か」と思うことが多いのだが、今回はここがスタート地点。新大阪から東海道新幹線の旅を始めるのは久しぶりで少し新鮮だった。
 
 鳥飼の車両基地の脇を通過し、茨木や高槻の市街地の背後を進む列車。その先は鉄道ファンにとっての見どころ区間となる。JR京都線や阪急京都線を車窓に進む。ここで阪急の列車とすれ違い、あるいは追い抜く光景は、筆者にとって東海道新幹線乗車時の楽しみの一つである。5300系の京都線の列車が、車窓のすぐそばを通り過ぎていく。阪急京都線も2023年の旅以来ご無沙汰である。そろそろ乗りに行きたいところだ。
 
 列車はやがて京都に到着する。ちょうど反対側のホームからは、ひかり500号が発車していった。広島・岡山発の「ひかり」の多くは、京都で6分の停車時間が設けられている。通常は停車するだけだが、多客期にはここで「のぞみ」に道を譲る。ちなみに、車窓に見えたひかり500号は、東京発着の「ひかり」で唯一、広島が始発の列車となっている。山陽新幹線内では各駅に停車し、東広島、三原、新尾道、新倉敷の各駅と東京を、乗り換えなしで結ぶ唯一の存在。この列車も、いつかは乗ってみたい一本である。
 乗車中の列車は京都で2分停車し、そのまま発車した。後方からはのぞみ82号が追いかけてきており、この列車の発車とともに隣のホームへ入線してくる。その駅で追い抜かれるわけでも追い抜くわけでもない前後の列車を、車窓から楽しめるのも、高密度に列車が行き交う東海道新幹線ならではの光景といえる。
 
 京都を出ると、列車は2本の長いトンネルを抜け、滋賀県内へと入っていく。大津や草津の市街地を車窓に進み、やがて郊外へ抜けると、車窓には田園風景が広がり始めた。この日は天気がよく、琵琶湖の先に連なる山々が雪をまとって輝いているのが見える。その山の向こうにある敦賀には、前回の旅で訪れ、そこから北陸新幹線で東京へ向かった。しかも今回とほぼ同じ時間帯の列車に乗車した。
 ある意味、この列車が米原から東京へ向かって走っている間に、乗車した「かがやき」は金沢・富山・長野を経由し、東京へ向かっていく。一度、日本海上を飛ぶ飛行機からこのあたりの景色を眺め、敦賀と米原・名古屋の近さに驚いたことがある。目と鼻の先にある米原と敦賀。そこから、全く異なるルートを走る新幹線が東京を目指している。改めて考えると、面白い。
 列車はやがて米原に到着した。ここでは4分停車する。ドアが開いてほどなく、新大阪から追いかけてきていたのぞみ82号が、颯爽と通過していった。この列車に乗っていれば、東京には1時間24分も早く到着する。
 のぞみ82号に道を譲った後も、列車はしばらくホームに停車し続ける。多客期にはここでもう一本「のぞみ」を待避することがある。「こだま」は、多くの「のぞみ」が走る大動脈を邪魔しないよう、申し訳なさそうに走っていく。

伊吹山を車窓に眺めた後、濃尾平野を駆け抜け、列車は名古屋へ

 米原を発車すると、車窓には雪を積もらせた伊吹山が見える。米原周辺は、新幹線にとって雪の難所として知られる。旅行日の1週間前にも雪が降ったという。本州の中でも、日本海と太平洋が接近するくびれのような地形となっているこの辺りは、高い山が少ないため、日本海側からの風が吹き込みやすい。そのため名古屋周辺でも時折大雪となり、交通機関に影響が出ることがある。
 
 関ケ原を通過すると、列車は大垣の市街地を車窓に、美濃平野へと出ていく。揖斐川を渡り、その後、東海道新幹線の車窓の名物とも言えるソーラーアークを眺めると、長良川を渡って岐阜羽島に到着した。列車は岐阜羽島でも5分ほど停車し、のぞみ4号の通過待ちを行った。
 米原・岐阜羽島のいずれの駅でも、この列車の後には「ひかり」もやってくる。こちらが乗り換えなしで便利なようだが、乗車中の列車で名古屋まで進み、そこで「のぞみ」に乗り換えれば、東京には「ひかり」よりも30分ほど早く到着できる。そのため、この駅から乗り込み、名古屋で乗り換える人も少なくない。
 
 列車は名鉄の列車と並んで岐阜羽島を発車する。やがて名鉄の列車が街中へと消えていくと、今度は名神高速道路が合流し、共に木曽川を渡る。その後はしばらく平野を走り抜け、清洲城が見える頃には東海道本線と合流する。枇杷島駅を高い位置から見下ろし、庄内川を渡ると、再び名鉄の列車と並走しながら、列車は名古屋に到着した。
 名古屋では6分停車し、のぞみ226号を待避する。米原・岐阜羽島から東京へ急ぐ乗客が乗り換える一方で、大阪・京都方面から浜松や静岡を目指す乗客がこの列車に乗り込んでくる。当たり前のことながら、グリーン車での人の動きはあまりない。

通過しかしたことのなかった三河安城でホームへ降り立つ

 名古屋を発車した列車は、中央西線や名鉄の列車を颯爽と追い抜きながら加速し、名古屋の市街地を駆け抜けていく。車窓には、少し前に廃止された東海道本線の貨物線の一つ、名古屋港線の線路が見える。
 東海道新幹線は一旦この名古屋港線と並走しながら南へと膨らみ、笠寺駅付近で東海道本線と合流する。その後は、今度は東海道本線の方が南へと膨らんでいく。列車はやがて、次の停車駅である三河安城に到着した。
 
 三河安城でも列車は5分ほど停車し、ここでのぞみ84号の通過待ちを行う。東海道新幹線の各駅には、在来線のみの利用も含めて大半の駅を訪ねたことがある。しかし、ここ三河安城と、この先の新富士はまだ訪ねたことがなかった。ずっと座りっぱなしなのももったいない。降りたことのない駅では、外の空気を吸いに行きがてらにホームへ下りてみることにした。
 笠寺から刈谷を経由すべく南へ膨らむ東海道本線と、それを直線的に横切る東海道新幹線との交点に設けられた三河安城駅。新幹線ホームと在来線ホームは少し離れた位置にあり、両者は長い通路で結ばれている。在来線側は新幹線との乗換駅でありながら、停車するのは普通列車のみというちょっと変わった駅でもある。
 三河安城は、東海道新幹線の中で「こだま」しか停車しない駅の一つ。同様の駅はほかに掛川、新富士の計3駅しかない。三河安城はその中で最も西に位置しており、「こだま」を乗り通すと、「のぞみ」で新大阪-東京を移動するのと変わらないほどの時間を要する。
 もっとも、「こだま」に乗車した場合でも、列車によっては隣の豊橋などで「ひかり」に乗り換えることができる。これが三河安城-東京間の最速移動手段となるが、この種の「ひかり」は毎時1本しか運転されていない。そのため、この駅を利用する人の一定数は、東京から「のぞみ」で名古屋まで行き、そこから折り返して三河安城へ戻るルートを選ぶ。もちろんこの場合、三河安城-名古屋間の往復分の運賃と特急料金が必要になるが、「こだま」を乗り通すよりも大幅に早いため、このような使い方をする人も多い。実際、乗換案内アプリで調べてみると、検索結果の半数程度は名古屋で折り返すルートとなっている。
 ホームへ下りると、駅員から「名古屋で折り返しとなるきっぷは自動改札機に対応していないため、有人改札をご利用ください」という案内があった。名古屋で改札を出ず、そのまま折り返してくる利用者も多いのだろう。もちろん、三河安城までのきっぷしか持っていないにもかかわらず名古屋まで行って折り返すと、キセル乗車となる。
 
 次来るときは駅の外も見てみたいなと思いつつ、三河安城を発車。「こだま」の旅も、三河安城でおよそ1時間半が経過した。グリーン車なので座りっぱなしでも快適だが、また新しい駅との出会いを求めて、ホームへ降りるというのも、「こだま」ならではの楽しみと言える。山陽新幹線の「こだま」を乗り通した時も、相生や新倉敷、新岩国、徳山など、初めて降り立つ駅が多かったことを思い出す。
 三河安城を発車すると、列車は遠くに岡崎の街を望みながら走り、その後、トンネルを経て蒲郡を通過する。東海道本線と絡み合うように進み、豊川を渡ると、名鉄の特急列車や東海道本線の列車とすれ違いながら、豊橋に到着した。
 
 豊橋でも5分停車し、のぞみ86号の通過待ちを行う。これで追い抜かれるのは、5本目となった。停車中の列車から在来線ホームを見ると、飯田線の普通列車岡谷行きが停車しているのが見える。飯田線のロングラン列車の一つであるこの列車には、2019年に乗車したことがある。1日中列車に乗っていられるというのは、鉄道ファンにとっては最高の幸せ。また時間を見つけて、乗りに行きたいと思う。
 ホームでは多くの人が列車を待っていたが、この「こだま」には乗り込んでこない。この列車が発車した後、同じホームにはひかり644号が入線してくるため、皆そちらを待っている。10分後のこの「ひかり」でも、東京には乗車している列車より40分ほど早く到着する。日中に豊橋に停車する「ひかり」は、名古屋・豊橋・新横浜と停車する速達型の列車である。

浜名湖や富士山を車窓に、静岡県内を一歩一歩東へ

 豊橋を出ると、列車は愛知県に別れを告げ、静岡県へと進む。静岡県は東西に長く、東海道新幹線には6つの駅が設けられている。列車はそれらの駅一つひとつに、ていねいに停車していく。
 やがて車窓には浜名湖が姿を現す。青空を映した水面が美しい。東海道新幹線の車窓の中でも、特に風光明媚な景色が広がる区間である。浜名湖を過ぎると、やがて浜松工場への回送線が分岐し、西浜松の広大な留置線や貨物駅の奥に、東海道新幹線の安全運行の要とも言うべき浜松工場の姿が見えてくる。
 
 列車はやがて浜松に到着する。遠鉄百貨店の脇から、遠州鉄道の新浜松駅がちらりと見えた。京都を出てから、ここまで全ての駅で追い抜かれてきたが、浜松では2分ほど停車したのち、すぐに発車する。繁忙期には、このわずかな停車時間の間にも「のぞみ」の通過待ちが行われることがある。
 浜松では、これまで数人しかいなかった車内にも、まとまった乗客が乗り込んできた。浜松から東京へは、22分後に発車するひかり502号が先行するが、到着時間の差は6分程度にまで縮まる。多少時間がかかっても「ぷらっとこだま」を利用できるのであれば、のんびり行こうと考える人も多い。
 
 浜松を発車し、市街地を抜けた列車は天竜川を渡り、磐田市内へと入る。沿線には大手企業の工場が数多く立地し、車窓にもそれらの工場が広がる。東海道本線が近くを並走しているため、列車の追い抜きを楽しめる区間でもある。
 やがて列車は掛川に到着した。掛川も、三河安城と同じく「こだま」しか停車しない駅の一つである。新幹線では下車したことがないが、天竜浜名湖鉄道に乗車した際、一度訪れたことがある。西日本方面から今回の旅の目的地である大井川へ向かう場合、ここで東海道本線に乗り換えれば20分ほどで到着するが、今はまだ降りない。
 掛川では5分停車し、ひかり644号とのぞみ6号の通過待ちを行う。ひかり644号は、新大阪からずっと乗車しているこの「こだま」の後を追いかけてきていた列車だが、名古屋までは各駅停車で、さらに各駅で通過待ちが設定されていたため、なかなか距離が詰まっていなかった。それが、ようやくここ掛川で追い抜く。ちなみにこの掛川駅の上り線側は、ポイントからホームまでの距離が非常に長く、時にはホームに停車する前に後続列車に追い抜かれることで知られる。
 
 掛川を出ると、列車はいくつかのトンネルをくぐり、牧之原の台地を貫いていく。トンネルの中では、今回の旅の最後に利用する静岡空港の地下を通過する。やがて列車は、今回の旅の本題である大井川鐵道が沿う大井川の長い鉄橋を、颯爽と通過した。
 明日はこの川に沿って、さらに山奥へと進むことになるが、それはこのあと東京へ行き、折り返した後の話である。やがて列車は藤枝の市街地の南側をかすめるように走る。そう、ここがこの日の宿泊地。夜に訪ねることになる街を、新幹線は颯爽と通り過ぎていく。
 
 そこから再び長いトンネルを抜け、安倍川を渡ると、列車は静岡に到着した。後ほどこの駅には、バスタ新宿からの高速バスでやってくる予定である。そして、ここで東海道本線の普通列車に乗り換え、藤枝へ向かう算段。ホームの奥に見える在来線ホームに、数時間後には立っていることだろう。
 静岡では通過待ちは行われず、3分ほどの停車で発車となった。ここまで来ると、到着順はあまり気にせずに「こだま」に乗る人も多くなる。やはり静岡からこの列車に乗り込む人は多く、グリーン車も少し混雑し始めた。
 
 静岡を発車した列車は、東海道本線と並走しながら静岡市街地を抜け、清水を過ぎると、いくつかのトンネルを抜けて次の新富士を目指す。やがて視界が開けると、車窓には富士山が姿を現し始めた。東海道新幹線の象徴とも言える富士川の長い鉄橋を渡ると、列車は富士市街へと入り、まもなく新富士に到着する。

新富士でもホームへ降りて、「こだま」ならではの旅を楽しむ

 新富士では5分停車し、のぞみ88号の通過待ちを行う。三河安城に続き、ここも通過するばかりで下車したことがなかったため、ホームへ降りてみた。
 新富士駅は、東海道新幹線の駅の中で、他の鉄道路線と全く接続していない唯一の駅である。JRの路線と接続しない駅としては岐阜羽島駅もあるが、こちらは名鉄羽島線の新羽島駅が隣接し、乗り換えることができる。新富士から在来線の富士駅までは路線バスで10分とかからず、歩いても20分ほどの距離である。
 
 現在のところ、身延線などから富士を経由し、東海道本線で東京まで行くきっぷを持っていれば、富士で途中下車して新富士駅へ移動した上で、そこから新幹線に乗車することも可能である(もちろん特急券は別に必要)。実際、この選択乗車がどれくらい利用されているかはわからないが、ここはこのルールがしっかり使えそうな駅の一つとだと思う。しかし、今年3月以降は熱海-東京間で運賃計算上、新幹線と在来線の別線化が行われるため、少なくとも熱海から先については、新幹線経由を指定する必要が出てくる。
 この駅の見どころといえば、やはりホームから望む富士山。冬晴れの快晴となったこの日の東海道。ここからの富士山の眺めも、十分に見応えがあった。
 
 新富士を出ると、列車は富士山や周辺に広がる工場群を眺めながら、次の三島へと進む。東海道新幹線のVTRなどでもおなじみの、富士山を背に走る新幹線の構図は、このあたりで撮影されたものが多い。冬晴れの青空に聳える富士山は、これまで見てきた中でも群を抜いて美しかった。
 やがて富士山は手前の山に隠れて見えなくなるが、この先、三島周辺でもう一度その姿を現す。手前の山の斜面には東名高速道路と新東名高速道路が走り、海沿いには東海道本線と国道1号が並ぶ。このあたりでは、5つの大動脈がかなり接近して走っている。この辺りといえば岳南電車が走っている。もう訪ねたのは3年前。時の早さに驚かされる。

三島から熱海を抜け、いよいよ関東・小田原へ

 列車はやがて三島に到着する。ここまで来ると東京までもう少しという気がするが、「こだま」では、まだここから1時間ほどを要する。列車はここで4分停車し、のぞみ8号の通過待ちを行う。新富士で追い抜いたのぞみ88号以降の「のぞみ」は、いずれも新大阪をこの列車より1時間以上遅く発車した列車である。
 三島は全国の新幹線駅で唯一、通過線の内側にホームを持つ駅である。基本的に富士山側の座席に座ると、列車の通過シーンは遠目にしか見られないが、ここではこちら側の車窓から通過列車を楽しめる。三島は主要駅ではないものの、研修庫や留置線を備えた新幹線の拠点の一つ。「こだま」は東京・新大阪のいずれの方向にも、早朝・深夜に始発・終着となる列車が設定されているおり、特に、都心への新幹線通勤を支えている。
 この駅には一部の「ひかり」も停車する。実は、この列車が三島を発車した直後に、ひかり502号が入線してくる。このひかりは小田原で乗車している列車を追い抜く。三島に停車する「ひかり」は、岡山発着で新大阪まで各駅に停車し、そこから京都、名古屋、浜松、静岡に停車する停車型の「ひかり」である。三島と熱海は千鳥停車となっており、基本的にはどちらか一方に停車するが、どちらにも停車しない列車もある。
 
 三島を出ると、少しの間だけ富士山を眺めながら三島市街を抜け、列車はいくつかの短いトンネルを経て、東海道新幹線では最長となる新丹那トンネルへと入る。この先の熱海も静岡県内ではあるが、このトンネルに入ると、いよいよ関東だなと、「のぞみ」に乗っていても感じる区間である。トンネルを抜けると、列車は山の斜面に住宅が広がる風景の中に顔を出す。偶然写真を撮ったのは来宮神社のあたりで、写真に写る道路は、以前の箱根旅で十国峠から熱海駅まで路線バスで通った道だった。
 列車は熱海に到着する。ここは手狭な場所に駅があるため、通過線を持たない。在来線にとってはJR東海とJR東日本の境界駅であり、ここから東京方面へは、新幹線以外にも特急・普通列車と複数の選択肢がある。それでも、やはり都心へ最速で帰りたい人は新幹線を選ぶ。乗り込む人を見ていると、外国人観光客の姿が多く見られた。どうせ乗るなら新幹線に乗っておきたいという人も多いはずである。
 
 列車は熱海を出た後も、大小いくつかのトンネルを抜けて進む。トンネルとトンネルの合間から、山の斜面に点在する住宅を眺めるのが、この地らしい車窓である。途中で列車は静岡県から神奈川県へと入り、いよいよ関東へ到達する。やがて早川を渡り、小田急箱根の線路と交差すると、まもなく列車は小田原に到着した。
 小田原では、ひかり502号とのぞみ228号の通過待ちを行う。この先は列車順の通りに東京へと向かう。新大阪からここまでに追い抜かれた列車は11本。最後にこの列車を追い抜くのぞみ228号は、新大阪を10時15分に発車した列車で、この列車が三河安城付近を走行している頃に新大阪を出発した列車である。5分前後停車する駅もここが最後となり、あとは一路、東京を目指すのみとなった。

都会の街並みへ移り変わる車窓とともに4時間の旅を締めくくる

 小田原を出ると、列車は新横浜、品川、東京と停車する。ここまで来ると、ようやくいつものルーティンに戻ったような感覚になる。相模川を渡ると、やがて車窓には横浜近郊の街並みが広がり始める。新横浜に到着すると、乗車していた車両からも数名の乗客が下車していった。時刻は12時30分。発車標に並ぶ列車の間隔も次第に開いてきたが、それでも列車は8分後に到着するのぞみ10号の追従を受けながら、東京へと向かっていく。
 
 新横浜を出ると、列車はやがて多摩川を渡り、東京都へと入る。品鶴線との並走区間を経て高架へ上がると、大田区内の街並みを望みながら進む。やがて品川到着を告げる車内放送が流れると、車内の乗客も一斉に降車の支度を始める。速度を落とし、山手線や東海道本線と合流すると、列車はまもなく品川に到着した。
 
 品川では、グリーン車の乗客も7割ほどが下車していった。品川を出ると、車窓には高輪ゲートウェイ駅周辺のビル群が見えてくる。手前の電留線には、昨年乗車した寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」の285系が停車しているのが見えた。以前は「いつか乗りたいな」と思って眺めていたが、今は「また乗りたいな」へと変わっている。
 その後も山手線や京浜東北線の列車と並走しながら進み、列車はまもなく終点の東京に到着した。4時間弱に及ぶ「こだま」の旅を終えるとともに、長年の夢だった東海道新幹線「こだま」の乗り通しを、ついに果たすことができ、昼下がりの東京駅へと降り立った。
 
 12時48分、列車は定刻通り終点の東京に到着した。長旅の余韻に浸る間もなく、列車はすぐに折り返しの準備が整えられ、13時3分発のひかり513号岡山行きとして、来た道を引き返していく。朝、この列車が新大阪に入線してきたとき、隣のホームにいたのぞみ2号に乗車していれば、10時57分には東京に到着していたことになる。そのまま東北新幹線に乗り換えていれば、11時8分発のなすの257号なら、ちょうど終点の郡山に着いたところであり、11時20分発のはやぶさ19号も、すでに仙台の手前に差し掛かっているところである。
 速さが売りの新幹線。しかし、隣の通過線にその忙しない大動脈としての役割を譲り、各駅停車で一歩一歩、一駅ずつのんびり旅をするのもまた面白い。車窓は「のぞみ」と変わらないが、より深く東海道新幹線の車窓を味わうことができた、4時間弱の旅だった。
 東海道新幹線は、「ひかり」もまだ乗り通したことがない。「ひかり」には複数の停車パターンがあり、これもまた興味深い列車である。次はまた時間を見つけて、この「ひかり」の乗り通しにもチャレンジしてみたいと思っている。
 
乗車記録 No.7
中央線快速 中央特快 高尾行
東京→新宿 E233系
 
 さて、「こだま」で東京に到着後は中央線快速に乗車して、新宿へ。次はいよいよバスタ新宿から高速バスに乗車し、旅の目的地静岡を目指した。