【旅行記】北海道の廃線予定路線を巡る旅~沿岸バスで増毛町へ編~

沿岸バスで留萌本線が廃止された増毛町を訪れる

 留萌駅からは沿岸バスの路線バスで留萌本線が廃止された増毛町へと向かう。沿岸バスは留萌を拠点とする乗合バス事業者で、留萌からは増毛のほか、札幌へ向かう高速・特急バス、旭川へ向かう快速バス、羽幌を経由して豊浦へと向かう路線バスなどを運行している。今回乗車するのは留萌別苅線で、留萌市立病院を起点に増毛町の南部の別苅地区まで運行されている。留萌~増毛間は廃止された留萌本線の代替バスとして機能しているが、廃止される以前からこの地域では路線バスがメインの乗り物である。廃線が取り沙汰される路線は高速バスや路線バスが交通機関移動のメインとなっている場所が多い。
 
 増毛行の始発のバスに乗車する。一般の路線バスで運行されるが沿岸バスでは後中扉を使わず、前扉で乗り降りする。今回は時間にもかなり余裕があるので、増毛駅で降りる前にバスの終点である大別苅まで乗車する。留萌市街では通勤客を中心に車内は比較的混雑していた。増毛や羽幌から来たと思われる対向のバスは高校生が多く乗車しており、続行便も出ているようだった。留萌の市街地を出ると車内の混雑も落ち着き、車窓には日本海が見えてくる。この日は雨の予報で、土砂降りの恐れもあったが、何とか降雨は免れ、曇っていても遠くの景色まで見渡すことができた。
 
 増毛の市街地を抜けて留萌駅前からバスで約50分で到着する大別苅。漁港がある集落で、留萌側から続く平地の終端に位置する。朝9時前から旅行者がくる場所では決してない。バスはこの先の折り返し場所まで行き、帰りのバスまでは40分ほど時間を潰す。こうした集落の中にポツンと置かれたバス停というのも何か旅情を誘う。
 
 大別苅は留萌別苅線の終点だが、路線バス自体はこの先も運行されている。一つは留萌と札幌を結ぶ特急バス「ましけ号」で、特定曜日のみ運転されており、日本海オロロンラインを通って札幌へと向かうことができる。もう一つはここ大別苅を起点とする路線バスである別苅雄冬線で、この先にある雄冬地区まで1日3往復程度運転されている。今回は時間の都合上、ここから先へは行かないが、近いうちにましけ号に乗って札幌へと向かってみたい。
 
 別苅の漁港の入口から日本海を眺める。背後には断崖絶壁があり、ここから先はほんの数十年前まで道路も未整備で、北海道の秘境中の秘境としても知られていた場所なんだとか。先述の雄冬地区は昔は船でしか行き来することができない地区で、西の知床と呼ばれていたらしい。暑寒別岳から続く山は日本海まで張り出していて、ここから石狩市までは断崖絶壁の地形が続く。
 
 別苅から折り返しのバスに乗車して増毛町の街中まで戻る。別苅地区からも乗車があり、地域の足として路線バスが活躍している様子がうかがえた。旧増毛駅でバスを下車して、廃止された増毛駅を見学する。増毛駅は日本海に近い場所にあり、バスは街中を往復して旧増毛駅までやってくる。
 

2016年に廃止された旧増毛駅に立ち寄る

 留萌本線の留萌~増毛間は2016年に廃止されたが、増毛駅の駅舎はその後に改装され、地元の土産物屋が入る観光拠点となっている。廃止される数年前には乗車人員が0人だった年もあるようなので、廃止が決定したころには、この駅を使う乗客はほんの一握りだったのだろう。
 
 ホームは廃止された当時の面影をそのままに保っていて、ホームだけ見ればいつかキハ54形がやってきそうな雰囲気が漂う。ただホームは近隣の子供たちの遊び場になっていて、おそらくこの子供たちはもうここに列車が来ていたことは記憶にないだろう。廃止直前には四国のとある駅からこの駅まで旅行する男性も多かったらしいが、今はもう鉄道ファンの姿はまばらである。
 
 車止めもしっかりと残されている。今は留萌が終点となった留萌本線だが、留萌本線自体がなくなるのも時間の問題となっている。本当の車止めの位置がどんどん遠くなっていく。駅を見学したあとは駅舎の中に入居した土産物屋で蛸ザンギをいただいた。注文すると揚げたてを提供してもらえるのだが、このザンギがしっかり味がついていて、とてもおいしかった。今回の旅はここが折り返し地点になるので、お土産もここで購入して、次のバスで留萌駅へと戻った。