【旅行記】最後の特急かもめで行く西彼杵・長崎半島路線バスの旅~長崎半島を巡る~
長崎市内中心部から南下して樺島へ

2日目は長崎駅前からスタート。午前中のうちに長崎を発つ予定だが、昨日に引き続いて路線バスで旅する。1日目は長崎市の北側にある西彼杵半島へ向かったが、2日目は逆に南下して長崎半島の先端へと向かう。長崎駅前南口バス停から最初に乗車するのはココウォーク茂里町始発の樺島行の路線バス。終点の樺島まで乗車していく。
乗車記録9
長崎バス
戸町・栄上・野母経由 樺島行
長崎駅前南口→樺島

早朝の長崎市中心部を走り、長崎新地ターミナルを経由。その後はは国道499号線を南へと進む。戸町のトンネルをくぐるとその先で女神大橋の下を走る。女神大橋は長崎自動車道の終点の長崎料金所から出島道路へと入らずにそのまま直進すると現れる橋。全長1300メートル、主塔の高さは170mの斜張橋で、下から見上げるととても大きい。山が入り組んでいるこのエリアだが、国道沿いや山の斜面に沿うようにして住宅地が形成されている。それぞれの住宅地を始発とする長崎市内行のバスと頻繁にすれ違うが、どのバスも多くの乗客を乗せていた。

しばらく進んだ栄上はバスの運行上の拠点となっていて、ここで長崎市内方面に折り返す区間便が多数ある。また、野母方面と川原方面に行くバスの分岐点にもなっている。両方向に進んだバスは長崎半島の東西をそれぞれ進んで、後ほど訪れる岬木場バス停で合流する。今回は先に野母方面に進んで、後ほど川原方面から長崎市内へと帰る予定だ。栄上を出ると長崎市中心部から続く住宅地も終わり、国道の交通量も一気に減る。車窓も海沿いの景色に変わり、昨日の西彼杵半島の西側で見たような荒々しい海が再び見え始める。沖にいくつかの島が浮かんでいるのが見えるが、そのうちの一つが軍艦島として知られる端島で、確かにこちらから見ると軍艦が浮かんでいるように見える。端島は多い時には5000人以上が居住し、その人口密度は世界一と言われた時代があったそうだが、この狭さによく5000人も住んでいたなというのが島を見た率直な感想である。あとからバスの運転士に教えてもらったのだが、波が高い日は波が道路まで押し寄せて来ることもあるのだとか。

野母地区へ入る直前、長崎市の恐竜博物館がある手前に南越というバス停がある。軍艦島や東シナ海を一望できるバス停だが、長崎バスのCMで登場するバス停として知られている。CMはYouTubeなど調べると出てくるのだが、長崎出身の俳優役所広司さんが運転士に扮するバスが、この南越で2人の姉妹を乗せて長崎市内方面へと走っていくシーンが描かれている。長崎バスの創立80周年を記念して製作されたCMで、「名もなき1日を走る」がキャッチフレーズとなっているが、今まさに乗っているこのバスも乗客にとっての名もなき日常を支える様子を伺うことができた。


バスは長崎半島の南端に位置する野母地区へと入る。野母地区を巡回して乗客を降ろすと、乗客はついに自分一人となった。消波ブロックがたくさん積まれてる海岸線からは、このバスの終点である樺島が見える。このバスの終点である樺島は、長崎半島の先端に浮かぶ小さな島で長崎半島と橋でつながっている。このあたりまで来ると随分と南下してきていて、緯度的には熊本県の中央部あたりと変わらない。この旅の直前に旅した天草路線バスの旅では、まさにこの長崎半島を天草側から眺めたが、今度は逆に長崎半島側から熊本側を眺める格好となる。脇岬を通過して、赤い立派な樺島大橋橋渡ると、樺島へ到着した。

樺島は港の前にバス停があり、バスは近くの車庫へと走り去っていった。樺島の人口は500人ほどだが、バスは朝夕は1時間に2本、昼は1本程度が運行されている。ここからは脇岬まで戻るが、時間もあるので歩いて戻ってみることにした。
樺島大橋を歩いて渡り樺島から脇岬へ

時間はまだ7時台、波の音だけが聞こえる静かな港の朝の風景を見ながら歩いていく。先ほど乗ってきたバスが休憩している樺島車庫の前を通過して、樺島と長崎半島の間にある中島へ。中島は現在は樺島と陸続きになっていて、樺島大橋は正確には長崎半島と中島の間に架かっている。中島で道路はヘアピンカーブを描き山を登り、その先に樺島大橋がある。


長崎市内では雨が降っていたが、野母は青空が見え始めていた。大海原が広がり、たまに通る車の音以外は外海の波の音が響いている。樺島大橋は1986年に完成した全長227メートルの橋。この橋の開通を受けて長崎市内方面からのバスが樺島まで乗り入れるようになった。樺島大橋を渡って坂を下りた先が脇岬地区。ここでは一つ見ておきたいものがあった。

住宅街の一角に道路標識が立っている。長崎市内から続いている国道499号の終点である。一見するとここが終点のようだが、実はここが終点ではない。ここから先は東シナ海を行く海上区間となっていて、鹿児島県阿久根市の阿久根駅前にわずかに続きの区間がある。その続きの区間の距離はわずか60mあまり。阿久根駅に立ち寄った際にはぜひ見てほしいのだが、駅前の国道3号線の交差点から奥に向かう道に国道499号の標識が立っている。長崎と鹿児島の間が海上区間となっている奇妙な国道だが、以前野母から阿久根まで定期船を就航させる計画があったことからこのような形になっているのだとか。一時期フェリーも運航されていたようだが、長続きしなかったそうだ。標識を撮影をしていると、折り返しの樺島発の便が長崎市内へと帰っていった。

樺島から徒歩で25分あまりで脇岬バス停に到着。次のバスは10分ほどでやってくるのでちょうどいい散歩だった。脇岬から乗車するのは岬木場行き。長崎市内中心部から脇岬へとやってくるバスは脇岬から樺島方面に行くバスと、折り返して長崎半島の東側にある岬木場まで行くバスがある(樺島まで行って折り返して岬木場まで行くバスもある)。このバスで岬木場まで行くと、川原を経由して長崎市内中心部へと走るバスに乗り換えることができ、長崎半島の南側をくるっと一周することができる。ただ本数はかなり少ないので、乗り換えがうまくいく時間は限られている。
脇岬から山を登って岬木場バス停へ
乗車記録10
長崎バス 岬木場行
脇岬→岬木場

バスに乗り込み、脇岬をあとにする。国道499号と別れてバスは標高をどんどん上げていく。長崎半島の東側は断崖絶壁となっていて、山の上に集落がいくつかある。長崎市内から続くバス路線の末端区間なので、脇岬から少し行ったバス停で一人が下車して以降は貸切となった。道も隘路となり、森の中を15分ほど走って岬木場へと到着した。

次のバスまでは1時間弱時間がある。どうやって時間を潰そうかと考えていたところ運転手にバスが好きなの?と声をかけられ、バスの発車時間までいろいろな話を伺うことができた。乗ってきたバスは来た道を戻り、脇岬や樺島を経由して長崎市内へと向かうのだそう。発車時間近くまで楽しく過ごさせてもらったので、感謝したい。

川原方面へ行くバスがやってくるまでの間、海が見える場所まで歩いて行ってみることにした。海を一望とまではいかないが、山の上から熊本県の天草方面を見ることができる。この日は少し霞んでいたが、天草下島を見ることができた。目を凝らすと発電所らしき建物が見える。九州電力の苓北火力発電所で、九州内でも大きな火力発電所の一つである。先ほどのバスの運転士の話によれば、天気のいい日には鹿児島県の甑島も見えるそう。なお、長崎半島から天草へはフェリーは就航していないが、茂木港から富岡港へ旅客船が就航している。
岬木場から川原経由で長崎駅前へ

次のバスの発車時刻の10分ほど前にバス停へと戻ると、すでに次のバスがバス停に到着していた。ここから乗車するのは川原経由のココウォーク茂里町行き。岬木場では自分以外にお年寄り2人が乗車していた。ここから川原方面へ向かうバスは平日でも3本だけと希少だが、高齢者を中心に利用があるようだ。次のバス停である木場公民館前や川原地区の終端である川原公園前発着のバスが多く、岬木場まで川原経由でやってくるバスは少ない。
乗車記録11
長崎バス
川原公園前・三和中学校前・戸町経由 ココウォーク茂里町行
岬木場→長崎駅前南口

岬木場を出るとバスは標高を下げていき、川原地区へ入っていく。途中から高齢者を中心にこまめに乗車がある。バスは栄上の少し手前の三和中学校前まで混雑した。このバスは川原から栄上へ抜けるとその後は来た道を戻る形になるが、先ほどの運転士に尋ねたところ、川原から先も長崎半島の東海岸を走るバス路線も存在しているようで、途中の千々を経由すれば茂木経由で長崎市内へ出ることも可能らしい。近いうちに乗車したい路線である。

すっかり昼になった長崎市内へと戻る。天気も回復して街は日差しを浴びていた。バスは定刻通りに長崎駅へ到着。ここでバスを下車して、長崎半島のバス旅が終わった。2日間で西彼杵と長崎半島の長崎県の2つの半島を路線バスで旅した。平地が少ない長崎県、街を一歩出ると想像以上に険しい地形をしていることがよく分かった。まだまだ長崎県には乗っていないバス路線がたくさんあるので、新幹線開業後に訪れて旅をする予定でいる。
さて、長崎駅からはいよいよ最後の特急かもめに乗車する。