【旅行記】函館本線と道南鉄道路線乗りつぶし旅~藤城・砂原支線をゆく~

 
 3日目は函館駅からスタート。まだ日が昇らない時間にホテルをチェックアウトして函館駅へと向かった。この日は函館本線の普通列車と特急列車を使って函館~森間を往復。再び函館駅へと戻った後、函館市電に乗車し、函館空港から北海道を発つ。
 
 函館駅から乗車するのは、5時49発の普通列車森行。函館駅の始発列車となっているこの列車は、乗り鉄界隈においては割と有名な列車である。なぜ有名なのかというと、走行するルートに秘密がある。
 

2つの支線を走破する1日1本だけ普通列車

 函館本線の森駅以南には2つの支線が存在していて、地図を見ると大沼、駒ヶ岳周辺で8の字を描いていることが分かる。西側を走る本線に対して、東側に支線が二つ。一つは大沼~森間で駒ヶ岳の東側を周回する砂原支線。もう一つは七飯~大沼間で新函館北斗を経由しない藤城支線。どちらも駒ヶ岳周辺の勾配対策が主な目的として維持されており、急勾配を避けるため、砂原支線は上りの貨物列車が、藤城支線は下りの貨物列車がこの支線を使用している。
 砂原支線は、途中にいくつか駅があり、営業キロが設定されている。本数は少ないが、それでも地域輸送の役割を担っている。特急列車は全列車が本線を走行する一方、普通列車は砂原支線を走る列車の方が本数が多い。営業キロが設定されているものの、運賃計算上は特例があり、途中駅で途中下車せずに大沼~森間を移動する場合は、駒ヶ岳経由で運賃計算を行う。
 一方、藤城支線は途中駅がない。北海道新幹線開業以前は下りの特急列車がこの線路を通過していたが、新函館北斗駅に停車するようになったため、この支線を通らなくなった。現在、藤城支線を通る旅客列車はわずか1日3本の普通列車のみ。この藤城支線については営業キロの設定がない。個人的な乗りつぶし記録は乗りつぶしオンラインに規準し、この乗りつぶしオンラインは営業キロが設定された路線が記録の対象となっている。そのため、乗りつぶし路線としては対象外。特急はるかやくろしおが経由する梅田貨物線や特急湘南が経由する東海道貨物線などと同じ扱いとなる。乗りつぶしの数字に変化はないが、せっかくなので乗っておきたいと思う。
 現在、藤城支線を走る普通列車は1日3本だけなのだが、うち2本は大沼から先は駒ヶ岳経由で運転され、砂原支線方面へは乗り換えが必要となる。これから乗車する普通列車が唯一、藤城支線・砂原支線の両方を経由する普通列車。そんな理由があって、乗り鉄界隈では珍しい列車として知られている。誤乗防止のために、ホームへ出る通路脇には「新函館北斗方面には行きません」との掲示が出されていた。
 

藤城支線を3両編成の普通列車で駆け抜ける

 ホームへ行くとキハ40形の3両編成が停車中。函館エリアで3両で走る列車は他にあるのだろうか。堂々の3両編成だが、後ろの2両は大沼駅までしか行かず、大沼から先へと進むのは前1両のみ。この列車は大沼からの上り列車のための車両回送の役割を兼ねており、藤城支線を走る函館~森間は実質的には回送列車を旅客化させたようなものになっている。
 
 車内では繰り返し、「新函館北斗は通りません」、「後ろ2両は大沼どまりです」と案内されていた。一般に新函館北斗を経由しない支線が存在するということはほぼ知られていないので、間違って乗ってしまう人も多いはず。この日も1人新函館北斗に向かう乗客がこの列車に乗車して大沼まで来ていたようだった。この列車で大沼まで行くとすぐに函館行の普通列車に乗れるが、残念ながら、始発の東京行きはやぶさ10号の発車には間に合わない。
 
乗車記録 No.8
函館本線 普通 藤城・鹿部経由 森行
函館→森 キハ40形
 
 七飯駅を出た列車は高架への勾配を上り、新函館北斗方面の線路とクロスして山側へとカーブしていく。緩やかな勾配を上っていくと、車窓には新函館北斗駅や新幹線の車両基地が見える。新函館北斗駅を横目にこの列車は新幹線駅をスルー。標高の高い場所を走るので、しばらくの間車窓からの景色を楽しめる。
 
 大沼駅が近づくと、新函館北斗から仁山経由で標高を一気に上げてきた本線の線路が左手から近づき、その先でクロスする。トンネルを抜けると、小沼が見え、進行方向左側に藤城支線、右側に本線の線路配置でしばらく並走。複線に見えるが、藤城支線は下りのみ、本線は両方向通行できる。車窓には小沼と駒ヶ岳が見渡せる。小沼はまだ全体が氷におおわれていた。ワカサギ釣りとかできるのだろうか?
 
 新函館北斗を華麗にスルーして大沼駅に到着。ここでは10分間ほど停車して切り離し作業を行う。このタイミングで函館方面の普通列車と交換すると同時に8の字の左側を走っていく札幌行の特急北斗2号を退避する。特急北斗2号は函館~森間を45分ほどで走るのに対して、乗車している普通列車はなんと2時間以上かかる。ちなみに特急北斗の多くが停車するのは大沼駅ではなく大沼公園駅。両駅はすぐ近くにあるが、残念ながら8の字の真ん中で乗り換えることはできない。
 

1両編成となり砂原支線へ

 2両を切り離し身軽になった普通列車森行。大沼駅を出ると駒ヶ岳方面へ向かう本線と別れる。この先はしばらく大沼湖畔の森の中を走っていく。警笛鳴ると森の中にエゾシカが数匹逃げて行った。大沼駅の次は鹿部駅だが、この間は昨年まで池田園、流山温泉、銚子口の3つの駅があった。現在は駅としては廃止されているが、銚子口駅は信号場化されている。ここで数分停車して反対列車とすれ違った。最初の駅である鹿部駅は砂原支線を通る列車の経由地として函館駅などでも見る駅名だが、鹿部の街と鹿部駅は少し離れている。
 
 森の中をしばらく走ると、車窓には駒ヶ岳が再び見える。ただ駒ヶ岳が見える場所は案外少ない。この山を取り囲むように線路が敷かれている函館本線。特急列車が20分ほどで駆け抜ける本線に対して、こちらはのんびりとした1時間以上の所要時間で大沼から森へと走っていく。
 
 さらに進むと掛澗(かかりま)駅で上りの貨物列車とすれ違った。普通列車は1~2両なのに対して、貨物列車は20両くらいある。行き違い設備も貨物列車に合わせてあるので、駅構内は広々としている。この砂原支線を走る貨物列車は上り列車のみ。したがってこの支線は圧倒的に上り列車の本数が多い。
 
 森には高校がないため、通学時間とは言えこの列車には誰も乗ってこない。函館駅以降の途中駅ではほぼ誰も乗り降りすることなく列車は終点へ。この列車が午前中唯一の列車なわけがよく分かる。遠くに見えていた噴火湾の海岸線が近づくと反対側から大沼で別れた駒ヶ岳駅経由の本線が近づいてきて森へ。函館から2時間。ようやく終点へと到着した。
 

噴火湾を望む森駅

 乗ってきた列車は回送列車となり、長万部方へ引き上げ後、海岸側に設けられている留置線へと入換。駅の跨線橋からは留置線へと進むキハ40と噴火湾の美しい景色を見ることができた。前日、長万部から函館へ向かったときは雨が降っていてどんよりしていた噴火湾。特急列車で通り過ぎた際にも曇っていたが、ついに噴火湾の青い海を見ることができた。この遠くに有珠山や室蘭半島が見える。特急北斗は室蘭からこの海岸線をぐるっとまわって走って来るわけだからいかに遠回りしているかがよく分かる。
 
 ホームには長万部始発でこの駅から砂原支線を走る函館行の普通列車が停車中。函館から乗ってきた普通列車は自分を含めてほぼ全員が鉄道ファンだったが、この列車で折り返して函館に帰る人も多かった。自分はというとこのあと函館市電を乗りつぶす予定があり、函館に早く着きたいので、この列車には乗らず後続の特急列車で函館へ向かうことに。この普通列車、森を特急列車より50分早く出たにも関わらず、仁山で特急列車に追い越され、函館に着くのは特急列車の20分後。あまりにも鈍足すぎる。
 
 森町の森駅。JRで「森」一文字なのはこの駅だけ。定期で運転される特急列車は全ての列車が停車する。この駅と言えばいかめしが有名で、駅前に販売店があるが、営業は9時からとのこと。この日は8時50分にはこの駅を出発してしまうので、残念ながら買うことはできなかった。みどりの窓口が設置されているほか、指定席券売機もある。普通列車は申し訳程度でしか走っておらず、ほとんどが特急列車。ただ北海道新幹線はこの街には新幹線の駅が設置されない予定で、札幌へ行くには新函館北斗や新八雲まで行かなくてはならなくなる。
 

8の字に西側を軽快に走って函館へ

 森駅からは札幌始発の特急北斗2号函館行で函館へと戻る。この駅からは自分と老夫婦の3人が乗車。函館へと向かう特急の1番列車の乗客が3人。このエリアの鉄道存続の厳しさを垣間見た。ちなみにこの北斗2号、駒ヶ岳経由の本線で森から函館へと向かう1番列車となっている。始発の普通列車は大沼止まりとなっていて、函館まではいかない。普通列車の本数で言えば、砂原支線の方がメインルートである。
 
乗車記録 No.9
函館本線 特急北斗2号 函館行
森→函館 キハ281系
 
 特急北斗の車窓にはさっきぐるっと迂回した駒ヶ岳が見える。カーブを軽快に走る特急列車。カーブで標高を上げていくので、駒ヶ岳の位置も頻繁に変わる。駒ヶ岳が車窓の後ろへと過ぎていくとまもなく大沼公園駅。この駅を出て加速するとすぐに車窓の左側から砂原支線の線路が現れ、大沼駅を通過する。その後は藤城支線が離れていき、標高を一気に下げて新函館北斗へ。ここでは反対の特急列車とすれ違う。盛岡始発の新幹線に接続する特急列車だが車内はかなり混雑した様子だった。
 
 新函館北斗を出た列車。次の七飯駅の手前で藤城支線の高架橋が近づいてくる。往路はキハ40形3両編成でこの高架橋を大沼駅へ向けて走っていった。北を上にして、8の字の左半分→右半分のルートで辿ってきわけだ。
 
 乗ってきた札幌始発の特急北斗2号は定刻で終点の函館へと到着。札幌を5時台に出てくる一番列車で、さすがに朝早すぎるので、乗客はそこまで多くはなかった。すぐに清掃作業が始まり、折り返しの特急北斗として札幌へと帰っていく。
 
 函館駅に併設された運転所の留置線にはキハ281系が1両ずつ切り離された状態で留置されていた。昨年9月に北斗の定期運用から離脱。この車両を目の前で見たのはこれが初めてだったので、最後の最後で見れて運がよかった。子どもの頃は特急北斗と言えばこのキハ281系、特急おおぞらと言えばキハ283系と何回も本を見て覚えたのを思い出す。この数日後には廃車回送されたようなので、これが函館での最後の姿だったようだ。
 さて、JRの旅はこれで終了。次回からは道南エリア最後の未乗路線である函館市電に乗車しに行く。