【旅行記】特急ひだ&サンダーバードで行く北陸乗り鉄旅~新型車両HC85系特急「ひだ」で高山本線を走破する~

過渡期を迎えている北陸の鉄道路線

 北陸地方の鉄道路線は過渡期を迎えている。
 まずは2020年に完成した富山駅の南北接続事業。富山駅在来線の高架化が完成し、富山ライトレール富山港線と富山地鉄の軌道各線が接続された。これにより、富山駅の南北間を乗り換えなしで移動できるようになった。また、それまで富山ライトレールとして運行されてきた富山港線は、富山地方鉄道の路線に吸収されている。
 新型車両の導入も行われている。それまで国鉄型車両の415系が使用されていた七尾線では、新型車両の521系が運行を開始した。さらに昨年末には富山駅へと乗り入れる特急ひだにHC85系が使用開始。今年3月の改正ですべての列車がHC85系での運転となった。
 さらにこれからの変化として予定されているのが、北陸新幹線の敦賀延伸。2015年に長野~金沢間が開業した北陸新幹線だが、来年の春には関西側の玄関口である福井県の敦賀まで延伸開業が予定されている。並行在来線となる北陸本線の敦賀以北区間は第三セクター路線へと変わるほか、現在は大阪~金沢・和倉温泉間を走行する特急サンダーバードと、名古屋・米原~金沢間を走行する特急しらさぎは運転区間が短縮される予定である。

前旅
 

5年前に台風で旅程崩壊した思い出の北陸、そのリベンジへ

 5年前に初めて訪れた北陸地方。福井県や富山県の高岡エリアの鉄道路線を中心に乗車し、夏の北陸を楽しむことができた。旅行中にハプニングがあると、旅行の思い出というのはより一層濃く覚えているもの。その5年前の旅行では、旅行中に台風が直撃し、旅程を大幅に変更したのを覚えている。関西空港の連絡橋にタンカー衝突するなど、関西地方に甚大な被害をもたらした台風21号と金沢で鉢合わせとなり、乗る予定にしていた北陸鉄道やのと鉄道などを泣く泣く諦めて帰ってきたのだった。今回はそのリベンジを兼ねて、過渡期を迎えている5年ぶりの北陸の旅を企画した。
 関西と北陸を結ぶ特急列車として日本一表定速度の速い列車を有する特急サンダーバード。京都~大阪や福井~金沢などで細々と乗車したことがある特急だが、未だ全区間での乗車をしておらず、最長区間での運転となる和倉温泉~大阪間の直通列車には一度乗りたいと思っていた。北陸新幹線の開業まで1年を切って、もうそろそろ行かないとということで、5年前に台風で乗れなかった路線のリベンジも兼ねて、久しぶりに北陸へと向かった。

名古屋駅から新型車両HC85系の特急ひだで一路富山へ

 時刻は朝8時過ぎ。前日のうちに名古屋入りし、2月の静岡旅行以来2か月振りに名古屋駅へとやってきた。あの時はここから東海道本線を豊橋方面へ進んだが、今回は岐阜方面へと進んでいく。駅の売店で駅弁を購入してホームに上がるも、まだ発車までは30分弱の時間があった。ホームには関西線の電車が停車中。反対側のホームには、中央本線木曽福島駅でのさわやかウォーキングにあわせた臨時特急に使用される383系が停車していて、少し珍しいものを見ることができた。
 
 関西線の普通列車が発車後、しばらくすると名古屋車両区側から乗車する特急ひだ3号が入線。先のダイヤ改正ですべての列車が新型車両HC85系での運転に改められた特急ひだだが、乗車するひだ3号は以前からHC85系での運転となっている。HC85系はキハ85系に変わるJR東海の特急形気動車車両で、気動車と言えど実際はエンジンを回して発電し、その電気でモーターを回すハイブリッド車両。他の気動車車両に比べて圧倒的に静かなのが停車中もよく分かる。8両編成という長大編成で入線してきた列車は、前側4両(1号車~4号車)が高山行き、後ろ4両(7号車~10号車)が富山行となっている。他地域ではめったに見られない長大編成の気動車、時期や列車によっては最大10両編成で運転される。8両編成の時は5・6号車が欠番になる。今回は名古屋時点で一番最後尾となる10号車に乗車した。
 
乗車記録No.1
東海道本線・高山本線
特急ひだ3号 富山行
名古屋→富山 HC85系
 
 列車は名古屋駅を発車後、岐阜駅までは東海道本線を走り、岐阜からはスイッチバックして高山本線へと入る。名古屋駅の時点で座席は全て高山本線内での進行方向にあわせてあるので、名古屋~岐阜間では進行方向と逆向きに進んでいく。日差しのことも考えて座席を指定したが、高山本線で日差しの当たる席にならないためには、東海道本線内では日差しを浴びることになる。車内はまだ新車のにおいがしていて、ちょっと酔いかけた。
 
 列車は木曽川を渡って岐阜駅へと到着。ここから先は、乗っている10号車が先頭車となって、高山・富山を目指して走っていく。余談だが、特急ひだへの乗車はこれが初めてではなく2回目。キハ85系で運転されていたころの通称大阪ひだに、京都~岐阜間で乗車したことがある。HC85系統一後も大阪ひだは運行が続けられており、乗車中のひだ3号の1本後のひだ5号は、この岐阜駅で名古屋駅発の編成に、大阪始発の特急ひだ25号を併結する。
 
 特急ひだ3号の停車駅は名古屋、岐阜・美濃太田・下呂・高山・飛騨古川・猪谷・越中八尾、富山となっていて、45個の駅がある高山本線でもごくわずかの駅にしか停車しない。朝夕には主要駅以外の駅に止まる列車も運転されており、この列車の1時間前を走っている特急ひだ1号は停車駅がかなり多い。
 岐阜を出てしばらくは名鉄各務原線と並走する。鵜沼までは住宅街の中を走っていき、自衛隊岐阜基地に隣接する川崎重工の工場の横を走っていく。名鉄と別れる鵜沼は、以前名鉄との接続線があり、名鉄名古屋からの「北アルプス」が特急ひだに併結する形で乗り入れていた。鵜沼を出ると、木曽川と並走するようになり、列車は美濃太田へ到着。ここから木曽川は中津川の方へと流れていき、高山本線はその支流の飛騨川に沿って走っていく。新緑の緑が美しい田園風景を車窓に北へと走る。
 
 美濃太田を出てしばらくすると、列車は飛騨川の渓谷である飛水峡の横を走っていく。観光特急らしく車内では地元の高校生による観光案内が日本語・英語の両方で行われていた。しばらくは進行方向右側しか川が見えないが、見えないのは最初だけ。白川口駅を通過してしばらくすると、列車は飛騨川に架かる最初の鉄橋である第一飛騨川橋梁を渡る。ここから先は進行方向の左側に飛騨川が見えることが多い。エメラルドグリーンの飛騨川をしばらくの間車窓に見ながら走っていく。
 
 美しい飛騨川の景色が車窓に広がるところで名古屋駅で購入した駅弁を開封。名古屋駅の定番駅弁の一つである名古屋コーチンとりめしを購入した。とりめしにもしっかり味がついていて、その上に乗っている肉団子、照り焼き、味噌漬けの3品もとてもおいしかった。何より、車窓に広がる新緑の飛騨路が美しくて、駅弁のおいしさを引き立ててくれていた。
 
 列車は飛騨金山駅を通過。ここから先が高山本線の中でも風光明媚な場所を走っていく。下原ダム上流部のダム湖の脇を走る高山本線は、鉄道写真の撮影地としても有名で、車窓からの景色が本当に美しい。九州でも現在は災害運休中の肥薩線で似たような景色を見ることができるが、あちらは線路と川の間に側道が走っている。高山本線の場合は側道がなくすぐ下が川。線路は一部がダム湖の上を鉄橋で越える形となっていて、もはや川の上を走っているような感覚になった。
 
 美濃太田を出て約50分。列車は下呂駅に到着。下呂温泉は日本三大名湯の一つに数えられており、他には有馬温泉と草津温泉がある。温泉地らしく旅館が多数車窓からも見える。下呂市は飛騨川に沿う形で街が形成されており、ここからしばらくは飛騨川の流域に広がる下呂、萩原、上呂と言ったの街を見ながら進んでいく。 
 
 再び飛騨川が接近してくる。ここまで来ると飛騨川も上流の方へとやってきた。このまま飛騨川に沿って高山へと向かうのかと言えばそうではなく、下呂と高山の間、正確には久々野駅と飛騨一ノ宮駅の間には分水嶺があり、飛騨川はこの分水嶺の手前で高山本線から離れていく。分水嶺となる場所には、高山本線で一番長いトンネルが設置されていて、トンネルを越えると、確かに川の流れが進行方向と同じ向きに変わった。ここから先は日本海へと流れ出る宮川に沿って進んでいく。分水嶺を越えるとまもなく列車は高山へと到着した。
 
 名古屋から約2時間30分で到着した高山。ここまで8両編成で走ってきた列車は、後ろ4両が切り離されて、4両編成として富山へと進んでいく。ここまでガラガラだったが、高山からは多くの外国人が乗車、ほぼ満席となって高山を発車した。やはり日本有数の観光地だけある。
 車窓には高山駅構内の留置線が見える。HC85系の他、普通列車のキハ25系が留置されていた。このあたりの普通列車の本数は決して多くなく、特急と普通列車で半々と言った感じになっている。ちなみに高山市は日本で一番大きな市として有名で、その面積は大阪府の面積よりも広い。
 
 高山を出た列車は飛騨古川へと向けて高山盆地を走っていく。高山から北へと進む特急ひだは5往復。時刻は11時を過ぎたところだが、ようやく1本目の特急列車が富山へ向けて走り出す。少し進んだ飛騨国府駅では、対向の特急ひだ8号名古屋駅と行き違いのため停車。対向列車は2両編成と短く、自由席は立客も出るほどの盛況ぶりだった。沿線の水田は水が入ったところ。田植えの時期ももうすぐそこに近づいている。
 
 飛騨古川を出ると、再び山間の景色へと変わり、ここからは宮川の渓谷に沿って猪谷へと進んでいく。太平洋側よりも日本海側の方が天気がいいようで、先ほどよりもより青く澄んだ青空が広がった。冬の時期はこのあたりも豪雪地帯へと変わるが、今は新緑が芽吹いている。
 
 宮川にもいくつかのダムが設置されている。写真のような穏やかなダム湖が見れる一方、トンネルを一本抜けると、岩や石がゴツゴツとした渓谷に変わる。いろいろな川の表情を見れるのもこの高山本線の楽しみだと思う。列車は猪谷駅へと到着。猪谷駅が高山本線におけるJR東海とJR西日本の境界駅。この駅でJR東海の乗務員からJR西日本の乗務員への交代が行われ、列車は富山県へと入っていく。
 
 猪谷駅を出てしばらくすると、一気に視界が開け、列車はこれまでの車窓とは大きく変わり、富山平野の中を走っていく。進行方向の右側の遠くには、美しい立山連峰が見えた。前回来た時は雲に覆われていた立山連峰。初めてその姿を目の前に見ることができた。最後の停車駅、越中八尾駅を出ると、列車はラストスパート。列車は終点の富山駅へと到着した。
 
 名古屋駅を出てから3時間45分ほどで終点の富山駅に到着。太平洋側から日本海側へと走り抜けて3時間台。いかに高山本線を高速で駆け抜けて来たかがよく分かる。これでJR東海・JR西日本の2社にまたがる高山本線を走破。JR西日本の未乗路線は残すところ和田岬線と和歌山線のみとなった。
 それにしてもHC85系は静かで全体的には乗り心地がいい列車だった。ただ一部の駅ではポイント通過時の衝撃が強すぎて、吹っ飛ばされるかと思った。それはどちらかと言えば高速で駆け抜けるが故の線路的な問題なのだろう。指定席も各座席のひじ掛けにコンセントが設置してあり、長時間の乗車もとても快適だった。
 
 富山駅の在来線ホームは、全面高架化となってからは初めての訪問となった。富山駅の在来線部分は、あいの風とやま鉄道の管轄する駅となっている。高山本線はあいの風とやま鉄道の駅に乗り入れる形となっていて、2・3番のりばを使用している。
 富山駅到着後は、5年ぶりに富山の路面電車へ乗りに出かけた。
 
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