【旅行記】特急ひだ&サンダーバードで行く北陸乗り鉄旅~路線バスと"のと鉄道"で七尾・和倉温泉へ~
前旅
北陸の旅3日目。この日は前日から宿泊していた輪島を起点に、路線バス・のと鉄道・特急サンダーバードを乗り継いで、旅の終点となる大阪を目指す。のと鉄道も北陸鉄道と同じく5年前の台風で乗車を断念した路線。5年ぶりのリベンジを果たしに行く。また特急サンダーバードは最長区間となる和倉温泉~大阪間の列車に乗車。今後、新幹線の延伸開業まで北陸を訪れる予定はないので、おそらくこれが最初で最後の和倉温泉・金沢~大阪間の乗り通しとなる。
早朝の輪島の街と輪島駅前

3日目は西から低気圧が近づく影響で、徐々に天気が崩れる見込み。なんとか能登を離れる午前中は崩れないでほしいと願いながら前日は就寝した。朝起きると、願いが届いたのかしっかり晴れていた。前日から宿泊していたルートイン輪島。運よく日本海側が望める部屋にアサインされたので、朝4時半に起床して朝日が昇るのを楽しんだ。

前日はホテル最寄りのマリンタウン輪島でバスを下車したが、この日は輪島駅前始発のバスに乗車予定なので、ホテルから輪島駅前まで歩いて向かう。前日の夕方に歩いた朝市通りでは朝8時の開店を目指して朝市の準備が始まっていた。輪島まで来て朝市を素通りするのはもったいないが、あくまで北陸へ来た目的は乗り鉄である。

ホテルから輪島駅前までは徒歩15分ほどかかる。輪島の街並みはとてもきれい。写真の馬場崎通りは昔ながらの木造の建物が立ち並んでいる。調べてみると石川県の景観大賞を受賞したこともあるようで、こうした景観が観光地としての輪島のイメージを確立させているように思う。こんな景観の街の一角で朝市をやっているなんて、とっても素敵。交差点前の道路標識にはしっかりと「朝市」の文字。あまり道路の行先案内に無形のイベントが書かれていることも少ないような気がする。これも輪島特有の光景である。

きれいな街並みをしばらく歩くと、輪島駅前へとたどり着いた。ここが輪島のバスターミナルとなっている。道の駅も併設されていて、輪島の玄関口としての役割を今も昔も担っている。裏手には輪島市の文化会館もあり、通り抜けできるようになっていた。土産物屋や飲食店、観光案内所やバス窓口なども入居するが、まだ朝7時なので開いているわけがない。

輪島駅前というバス停名が物語る通り、ここは元々の国鉄・JR・のと鉄道の七尾線の終点だった。現在もJRとのと鉄道によって津幡~穴水間で運行されている七尾線には続きがあったのだ。2001年に廃止され、すでに廃止から20年以上の時が経っている。道の駅兼バスターミナルの建物と文化会館との間にはひっそりと七尾線の廃止モニュメントが設置されている。ちなみにのと鉄道は穴水駅から珠洲方面へと延びる能登線も4年後に廃止されている。
七尾線の廃止代替バスで輪島から穴水へ

輪島駅前から乗車するのはその七尾線の廃止代替バスとなっている穴水駅前行のバス。北陸鉄道バスグループで能登半島周辺で路線バスを運行する北鉄奥能登バスが運行している。直前には金沢行の輪島特急線のバスが発車。あちらには5人ほどが乗車していたが、穴水行は自分一人。バスのサイズも小さく、通学流動もあまりないようだ。
乗車記録No.17
北鉄奥能登バス 穴水総合病院行
輪島駅前→穴水駅前

輪島駅を出たバスは途中までは前日に輪島特急線で経由した道を走っていく。ただバイパスをずっと走る輪島特急線とは異なり、このバスは途中で旧道へと入り、市ノ瀬・三井地区へと立ち寄る。もともとこの2つの地区には七尾線の駅が設置されていて、バス停にも駅前の文字が残っている。前日乗車した輪島特急線は能登空港経由だったので、三井~穴水間は昨日とは違うルートを走る。このバスは能登空港非経由便なので、県道1号線を直進し、直接穴水此の木へと向かう。輪島特急線の一部もこのルートで走るバスがある。途中の集落で高齢者の短区間利用があり、穴水町内に入ると、小中学生の通学利用数名あった。穴水にも高校があるものの、高校生らしき乗客はいなかった。

終点の穴水駅前で下車。近くに小中学校が立地するため各方面からやってきた通学者で賑わっていた。ここ穴水駅にも道の駅が併設されており、能登半島の交通拠点としての役割を果たしている。輪島駅には鉄道は来ないがこちらには現役の鉄道が走っている。駅と道の駅が併設されたパターンは前回の旅行で訪れた木古内駅でも見かけた。
のと鉄道七尾線とJR七尾線の複雑な関係

ここからはのと鉄道に乗車して七尾へと向かう。その前にこの区間を乗るにあたって、知っておくとより楽しめる事前知識を書いておく。七尾線はとってもややこしい形態となっている。
・のと鉄道がJRに直通運転してるわけではない七尾-和倉温泉間
のと鉄道の普通列車は七尾~穴水間を運行している。一方でJRは特急列車を和倉温泉駅まで運転している。wikipediaで調べるとJR七尾線は津幡から和倉温泉に至る路線と書かれているので、のと鉄道が七尾~和倉温泉間でJRに直通運転しているように見える。しかし実際には直通運転とは少し異なる形態を取っている。
実は路線自体の所有は七尾線の津幡~穴水全区間でJR西日本となっている。のと鉄道が運行する区間も、線路などの設備はJR西日本のものである。全区間のうち、津幡~七尾間はJR西日本が路線を所有し運行も行う。七尾~和倉温泉間はJR西日本が線路を所有し、運行はJR西日本とのと鉄道の両方が行う。そして和倉温泉~穴水間は、JR西日本が線路を所有し運行はのと鉄道のみが行っている。
・運行する鉄道事業者が2社存在する区間
法律上、鉄道事業者は3つ分類され、線路の所有と運行の両方行う事業者を第一種鉄道事業者、線路の所有を行わず運行のみを行う事業者を第二種鉄道事業者、運行を行わず線路のみを所有する事業者を第三種鉄道事業者という。七尾線の場合は、JR西日本が津幡~和倉温泉間で第一種鉄道事業者、和倉温泉~穴水間で第三種鉄道事業者となり、のと鉄道が七尾~穴水間で第二種鉄道事業者となっている。七尾~和倉温泉間は、運行に関してはJRとのと鉄道の両方が行う区間となっていて、JRものと鉄道もどちらも自社線として路線を運行している。ただし、定期列車においては、JRは特急列車のみを運行し、のと鉄道は普通列車のみ運行している。
このように複雑な形態になったのには、七尾線の電化開業が関係しているらしい。七尾線の電化開業で和倉温泉から先の区間を切り離したかったJR西日本。そこで、路線を保有する事を条件に出し、現在の和倉温泉〜穴水間はJR西日本の路線から切り離され、のと鉄道の路線となった。当時穴水から先の2路線を運行していたのと鉄道だったが、この区間の運行を引き受けて以降業績が悪化。これが穴水から先の区間を廃止に追い込んだとされている。
このように、JR西日本、のと鉄道それぞれに営業キロが設定された七尾-和倉温泉間。このような区間の乗りつぶしのマイルールは、営業キロが設定された会社それぞれの列車に乗ることが条件。JRとしては一度通ったことがあるのが、のと鉄道の列車として、当該区間を通過しなければ、のと鉄道七尾線の完乗にはならない(あくまでマイルール)。
この後乗る特急サンダーバードは、和倉温泉が始発なので、一度のと鉄道の列車で七尾まで行き、七尾で一度折り返して和倉温泉へと向かった。
乗り得列車に乗車してのと鉄道の車窓を楽しむ
話を旅に戻して、路線バスで降り立った穴水駅。ここでは10分ほどしか接続時間がなかったので、1本あとの普通列車に乗る予定だったが、停車中の列車を見ると、なにやら珍しい車両が停車中。だんだんと曇って来る予報だったのもあって、すぐに接続する列車で終点七尾へと向かうことにした。

珍しい列車の正体とは、のと鉄道の観光列車「のと里山里海号」に使用されるNT300形。この時間の普通列車七尾行は、折り返し七尾発の観光列車のための車両送り込みのダイヤとなっているらしく、観光列車の車両に乗車券のみで乗れるらしい。偶然訪れた乗り得列車への乗車機会。乗らないわけにはいかない。
乗車記録No.18
のと鉄道七尾線 普通 七尾行
穴水→七尾 NT300形

運よく海側のカウンター席に座ることができた。列車は穴水駅を発車。しばらくすると能登島が浮かぶ内浦が車窓に広がった。輪島は外海の日本海だが、こちらは穏やかな内海。能登半島のくぼみの真ん中に能登島が浮かんでいて、線路はこの内浦の海岸線に沿って敷かれている。やや高い場所を走るので、より車窓からの景色を楽しむことができる。

海が見えるのは前半の穴水駅~西岸間。途中の能登鹿島駅は桜の名所として知られており、駅の線路脇には両方に桜の木が植えられている。あと数週間早ければ、満開の桜が見れたはず。今は葉桜となり、新緑が芽吹いていた。内浦に浮かぶ能登島へは能登半島から2本の橋が架かっている。一つは和倉温泉から続く能登島大橋。もう一つはもう少し北側から続くツインブリッジのとという斜張橋。車窓にはその斜張橋とその先に和倉温泉の旅館が立ち並んでいる様子が見える。やはりこの区間は晴れているに越したことはない。天気が続いたことに感謝したい。

西岸駅から先は海から少し離れて山の中を走り、しばらくすると能登中島駅周辺の田園地底が姿を現す。水田には水が張られていて、青空が少し反射していた。のとののんびりとした里山の風景と季節の変化を味わいながら、列車は南下していった。

和倉温泉から先述したJR西日本との重複営業区間へと入り、のと鉄道の列車として七尾駅へと進んでいった。JRに直通しているわけではなく、のと鉄道の列車として進んでいく。穴水駅から40分ほどで終点の七尾駅に到着。座っていた席はのと里山里海号の七尾側の車両の先頭部分。3ブロック分がカウンター席となっていて、通路を挟んだ反対側も海向きに座席が配置されていた。2両編成で進んできた列車だが、2両目は締切となっていて、折り返しの観光列車の準備が進められていた。七尾駅はJRとのと鉄道それぞれに改札がある。改札を通ると、折り返しで乗車する団体客で駅舎内が大混雑していた。なお観光列車として走行するのと里山里海号は乗車券のほかに乗車整理券の購入が必要となっている。

JRとのと鉄道が乗り入れる七尾駅。駅の裏手には七尾線の車両基地が広がっている。ここは前回北陸に来た際に氷見線の氷見駅からひみ番屋街という道の駅まで歩き、そこから加越能バスが運行する「わくライナー」に乗車して訪れた地。当時は駅前のミスタードーナツで時間を潰したのを覚えているが、今も健在だった。七尾市の人口は5万人ほどで、駅前には市役所の一部機能も入っている商業施設がある。現在はドン・キホーテ七尾店が入居しているが、これは2021年にオープンしたもの。前回来た時はドン・キホーテじゃなかったと思って調べてみたらやっぱりそうだった。
一般形車両で和倉温泉へ移動

七尾駅では朝ごはんを食べて50分ほど時間を潰し、再びのと鉄道のりばへ。1本あとの列車の折り返し穴水行で、一駅先の和倉温泉へと向かった。さっき乗った列車は観光列車仕様だったが、今度は一般車両。形式も異なりNT200形となる。一般形車両は他の第三セクターにもみられるような中間部がボックスシートのセミクロスになっていた。他社のNDCシリーズとの大きな違いは尾灯が縦に入っているところ。前照灯と同じところだったり、天竜浜名湖鉄道のように横だったりと各社で様々な違いがあるのも見てて楽しい。
乗車記録No.19
のと鉄道七尾線 普通 穴水行
七尾→和倉温泉 NT200形

乗車時間はわずか6分。のと鉄道の列車は和倉温泉では車内改札となっていて、駅員に七尾駅で買ったきっぷを手渡して列車を降りる。5年ぶりに和倉温泉駅へとやってきた。和倉温泉郷はここから歩いて20分ほど離れた場所にあり、はっきり言って駅前には何もない。特急列車利用の場合はICカードが使えるが、普通列車はのと鉄道しか運転されていないため、ICカードは利用できない。列車が穴水方面へと走り去っていくのを見送って、改札の外へ出た。
さて、のと鉄道の旅も終わり、北陸の旅はいよいよ佳境へ。和倉温泉から大阪へ駆け抜ける特急サンダーバードに乗車して、北陸から離脱。終点の大阪駅へと北陸-関西を結ぶ特急列車の旅を楽しむ。
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