【旅行記】夏の和歌山・奈良乗り鉄旅~南海加太線"めでたいでんしゃ"に乗車~
前話
南海多奈川線を往復し、多奈川から大阪湾を眺めた後、みさき公園駅へと帰ってきた。ここからは再び南海本線を南下して、和泉山地を越えた先にある紀ノ川駅へと移動する。駅に着いたとき、すでに乗車予定の列車は到着済みだった。多奈川線の列車を降りて、慌ただしく南海本線の区間急行に乗り換える。先発は特急サザンだが、これから向かう紀ノ川駅は特急通過駅なので、特急には乗れない。
乗車記録6
南海本線 区間急行 和歌山市行
みさき公園→紀ノ川 南海7100系

乗車したのは7100系による区間急行和歌山市行。この先、孝子、和歌山大学前、紀ノ川、和歌山市の順に停車するが、孝子駅は利用者が少なく、和歌山大学前と和歌山市は先行する特急が停車する。そのためこの列車に残っている人は和歌山大学前と和歌山市に向かう特に急がない乗客と紀ノ川駅で下車する乗客である。時刻表を見る限り、この駅で緩急接続が行われるのは割と珍しい。時刻表をザっと見た感じ平日は4回、土休日は1回しかない。この日は日曜日だったので、貴重な1回に遭遇したらしい。みさき公園駅の1番線は主にこの駅で難波方面に折り返す列車が使っている。
南海本線と加太線の分岐点紀ノ川駅

区間急行に乗車して、紀ノ川駅で下車した。この駅は和歌山市街地の北側に位置する駅で、駅の周辺には住宅街が広がっている。割と利用客は多そうに見えるが、特急や急行は止まらない。両側の和歌山大学前と和歌山市に停車するならいっそのことこの駅に停車してもよさそうな気がするが、意外と大阪方面への流動は少なかったりするのかもしれない。区間急行が発車するとすぐに背後の踏切が鳴り始め、加太線の普通列車が姿を現した。ここ紀ノ川駅は加太線の起点となる駅だが、加太線の列車は全列車が和歌山市へと直通する。紀ノ川駅から和歌山市駅方面へは本線の他に加太線の普通列車という選択肢も加わる。そう考えれば特急と加太線の普通列車でいい感じに棲み分けされている。

駅の和歌山大学前駅・難波方を見てみる。来るまでてっきりみさき公園のような大きな駅だと想像していたが、2面2線のいたってシンプルな造りの駅だった。まっすぐ進むのが南海本線。左に曲がっているのが加太線の線路である。加太線の線路は複線で分かれるが、カーブを曲がった先ですぐに単線になる。南海の支線は基本的に難波側から分岐するが、加太線は逆に和歌山市側から分かれている。先ほど特急サザンに乗って和歌山港へ向かっていたとき、和歌山市駅の到着放送で加太線の列車が案内されていた。特急サザンや急行は接続点となる紀ノ川駅を通過するので、和歌山大学前より難波方の各駅から加太線内の各駅までのきっぷで紀ノ川~和歌山市間を区間外乗車することが認められている。
加太方面の列車は降り立ったホームとは反対側から発車するので、跨線橋を使って上りのホームへと移動した。上りのホームでは何人かが列車を待っていたが、ほとんどの乗客が先発の難波行区間急行へと吸い込まれていき、加太線の普通列車に乗車したのは自分ともう一人しかいなかった。
紀ノ川から加太線で終点加太へ

南海加太線は紀ノ川駅から和歌山市の北西部に広がる住宅街を横断し、その先にある加太という港町まで走る路線である。加太は純粋にかだと呼ぶ。少し離れた三重県の関西本線の駅に加太駅と書いてかぶと駅と読む駅がある。しかし、どちらもマイナーすぎて間違える人は恐らくいない。この路線は基本的には和歌山市民の足として使われている路線だが、近年は南海電鉄が観光利用にも力を入れていて、「加太さかな線」の愛称が付けられている。「めでたいでんしゃ」というちょっぴり観光仕様の列車が走っているのだが、とりあえず往路はノーマルな電車がやってきた。 多奈川線ののんびりとした雰囲気と異なり、こちらは沿線住民や観光客など割と多くの人が利用していた(写真は終点加太駅にて)。
乗車記録7
南海加太線 普通 加太行
紀ノ川→加太 南海7100系

区間の前半は和歌山市の松江や西ノ庄などの郊外の住宅街の中を走っていく。沿線の利用は概ね西ノ庄あたりでひと段落。磯ノ浦や加太へと向かう観光客・レジャー客が車内に残る。磯ノ浦駅を出ると、車窓にはわずかに海が見える。右側にはわずかに淡路島が見え、その沖合には沼島。さらに背後には四国の山々が見える。ここが加太線で唯一海が見える区間である。すぐに海が見える区間は終わり、ここから列車は山を一つ越える。加太は周りを海と山に囲まれた港町。山を越えると列車は終点の加太へと到着した。

加太線の終点加太駅。多奈川駅と同じくこちらもローカルな雰囲気が漂う駅だが、南海電鉄が観光に力を入れているだけあって、駅もちょっぴり観光客を意識してある。駅構内は2面2線の配置で、駅舎に面していない奥のホームにも水平移動で行くことができる。但し基本的に奥のホームが使われるのは朝夜のみで日中は全ての列車が駅舎側のホームを使っている。日中の加太線は30分間隔の運転。1本列車を見送り、次の列車を待つ間に加太の港まで歩いて行ってみることにした。
加太の街を歩いて海岸へ

加太駅の前には和歌山県道7号線が走っている。先ほどまでいた多奈川駅前の道を道なりにまっすぐ進むとここへたどり着く。多奈川から加太まで連絡バスなんかあったりすると便利な気がするが、県境を跨ぐ区間でもあるので運転されていない。ここから多奈川方面へと進んだ大川という場所までは和歌山市のデマンドタクシーが運転されているようだが、和歌山市のHPでは令和5年3月31日までが運行期間となっていて、今現在走っているのかどうかはよく分からなかった。県道はカーブが連続し、きちんとした歩道もない。でもそれが港が近い証拠。小中学校や和歌山市の支所の前を歩いた後は、住宅が広がる細い路地の中を歩いていく。滞在時間がそこまで長くなかったので、かなり速足で歩いたが、30℃を越える炎天下の中では15分歩くのも大変だった。

細い路地を歩いた後、海岸へ出て、しばらく海岸に沿って歩く。やがてきれいな砂浜が姿を現した。ここは加太海水浴場。帰ってきて知ったのだが、この日は今年の営業の最終日だったようで、最後まで海水浴を楽しむ人達で賑わっていた。海水浴をするには最高の天気だったのではないかと思う。ここはちょうど和歌山湾と大阪湾の境目。沖合には地ノ島と友ヶ島という二つの島が浮かび、その奥には淡路島が見える。中央構造線の北側に位置する和泉山地~淡路島南部~讃岐山脈は地質的にも密接なつながりがあるらしい。衛星写真で見ると、ここと鳴門海峡以外はずっと高い山が連続しているしているのが分かる。

振り返ると加太の漁港が広がる。加太はマダイやアジの一本釣り漁業が盛んな港。南海加太線の観光列車もマダイをモチーフにしている。遊漁船も多数あり、この日は日曜日だったので、今から釣りに出港しようとする人達の姿もあった。周囲を山に囲まれていて、港の雰囲気がとてもいい。確かにちょっとしたお出かけで訪れるにはぴったりかもしれない。和歌山観光といえば白浜が有名だが、白浜は大阪からの日帰りには少し遠い。一方、ここは大阪の中心部からも気軽なお出かけとして訪れることのできる。大きな観光施設はないものの、港を眺めて海の幸を食べるだけでも十分楽しい。南海が加太線の観光に力を入れている理由がよく分かった。

海岸から再び細い路地と県道を歩いて駅へと戻ってきた。慌ただしすぎたので、あと1・2本くらい後の電車にすればよかったと少し後悔。でももうこの先の予定も決まっているので、加太を出発する。今度来るときは春や秋のもう少し涼しい季節に訪れて、海岸でゆっくり過ごしたい。
"めでたいでんしゃ"に乗車

往路は普通の南海カラーだったが、加太線に来たらやっぱり「めでたいでんしゃ」には乗っておきたい。「めでたいでんしゃ」は全編成が7100系2両編成をすこしだけ観光仕様にした車両で、現在は赤、水色、ピンク、黒の4つのカラーを纏った列車が走っている。各編成は、横から見ると魚に見えるデザイン。側面には鱗の模様が描かれ、運転席側の窓のブラインドが目になっている。今回乗車したのは水色の「めでたいでんしゃ かい」。加太の海の中をモチーフにした車両である。

沿線住民の日常的な利用でも使われる車両のため、車内はロングシートだが、座席のモケットには海の生物が描かれていたり、つり革もホタテやカニなどの形になっていたりして、とても可愛いらしい。個人的には広告が吊り下げられる場所にもワカメを模した紙が吊り下げられているのがいいと思う。休日のお出かけもこんな可愛らしい電車ならより一層楽しい。
乗車記録8
南海加太線・本線 普通 和歌山市行
加太→和歌山市
南海7100系「めでたいでんしゃ かい」

今度は加太から乗車した列車を終点の和歌山市まで乗り通してみる。再び加太から磯ノ浦間で再びわずかに海を眺める。今度は紀伊半島の南側の稜線が海の奥に見えた。海が見えるのはほんの一瞬なので、見逃さないように気を付けないといけない。その後は沿線の乗客を乗せて和歌山市駅へ。往路は気づかなかったが、紀ノ川駅とその隣の東松江駅との間には信号場が設置されていて、列車の行き違いができるようになっていた。

列車は終点の和歌山市駅へと到着。この記事を書きながら気づいたが、乗ってきた車両の"鱗"の一部はハートマークになっている。探すまでもないが探してみてほしい。列車は主に特急サザンが発着する4番線と紀勢本線が発着する2番線の間にある行き止まりの3番線に到着した。加太線の普通列車は基本的にこの3番線を使う。加太線の列車の対面には特急サザンが停車中。ホーム移動なく水平移動のみで乗り換えることができるように配慮されていた。
生まれ変わった南海和歌山市駅からJR和歌山駅へ路線バスで移動

南海電鉄の支線巡りの旅はここで終了。和歌山市駅の改札外へと出て来た。朝もこの駅で乗り換えたが、この駅の改札外に出たのは7年ぶり。7年前はまだ茶色の巨大な建物が建っていたが、見違えるほどにきれいな駅舎に生まれ変わっている。7年前は特急サザンでこの駅に来て、ここから紀勢本線で和歌山へと向かった。亀山から続く長大路線の終点が私鉄のターミナルというのが面白い紀勢本線。確か昔の駅舎は南海の改札口の先に中間改札があったと思う。南海の駅員に青春18きっぷに入鋏してもらった記憶がある。新しい和歌山市駅では南海とJRで改札が完全に分離されており、初見だと改札を見つけにくい。JRが乗り入れる駅であるものの、土地は全て南海の所有で、紀勢本線もその土地の一部はJRが南海の土地を借りて走っている。南海にとっても紀勢本線の線路は大事なもので、同社や泉北高速鉄道の新車搬入の際には、この駅で輸送を担当するJR貨物から南海へと車両の引き渡しが行われる。
駅には商業施設キーノ和歌山やホテルが入り、隣接して和歌山市民図書館がある。スタバ併設のカルチャー・コンビニエンス・クラブが指定管理者となっている図書館で、駅直結なので利便性がよさそう。自分の住んでいる街にはないのでとても羨ましい。なんとなく駅のデザインが同じ形の図書館がある徳山駅に似ているのは気のせいだろうか。

和歌山市駅からは次の路線に乗車するために和歌山駅へと移動した。紀勢本線は以前乗車したことがあるので、今回は和歌山市街を走るバスに乗車。和歌山市駅から和歌山駅までの間はバスも多数運行されていて、10~15分ほどで移動できるが、少し時間があったので、あえて少し遠回りするバスに乗車してみた。和歌山市駅の時点では和歌山駅行として案内されていない60系統のバス。和歌山市駅から南海和歌山港駅にもほど近い運輸支局を経由して和歌山市街の西側を一周し、その後和歌山駅へと運転される路線だった。車窓には朝に乗車した和歌山港線の線路が見えた。
乗車記録9
和歌山バス[60]運輸支局経由JR和歌山駅行
南海和歌山市駅→JR和歌山駅
さて、和歌山駅到着後は、たま電車でおなじみの和歌山電鐵貴志川線に乗車していく。
次話