【旅行記】夏の和歌山・奈良乗り鉄旅~和歌山線に乗車しJR西日本を完乗する~

前話
 
 和歌山駅前に一泊して迎えた2日目。この日は朝からこの旅最大のイベントが待っていた。和歌山駅から乗車するのは和歌山線。この路線は和歌山駅から橋本や五条、高田を経由して王寺駅まで続く路線だが、個人的なJR西日本最後の未乗路線となっていた。ただしこの路線は全くの未乗というわけではない。2018年12月に吉野へ訪れた際に、近鉄御所線から吉野線へ乗り継ぐ途中で御所駅~吉野口間で乗車、さらに昨年8月には桜井線からの列車で高田~王寺間に乗車している。すなわち未乗区間となっているのは、和歌山~吉野口間と御所~高田間。和歌山駅から和歌山線に乗車し、高田駅へ到着すれば、4887.3kmあるJR西日本の全路線に完乗となる。完乗目指して、最後の未乗路線の旅が始まる。
 

日中とは違う光景が広がる朝の和歌山駅

 和歌山線のホームに行く前に阪和線のホームへ寄り道。早朝の和歌山駅は昨日の午後に見た駅とは少し様子が違っていて、6時台にはこの駅から大阪環状線方面に向かう紀州路快速は一本も存在しない。その代わりに運転されているのが直通快速という種別。紀州路快速は一部を除いて日根野~大阪環状線内で関空快速と併結して運転されるが、この列車は和歌山駅の時点から8両編成となっており、途中駅での連結は行われない。直通快速と紀州路快速の大きな違いは大阪環状線内での停車駅。紀州路快速は大阪環状線内でも快速運転を行うが、ラッシュ時に運転される直通快速は大阪環状線は各駅に停車する。また、多くの紀州路快速は日根野以南で各駅に止まるが、直通快速は全列車が日根野~和歌山間で快速運転を行う。直通快速のこの間の停車駅は六十谷、紀伊、和泉砂川のみである。和歌山駅を発着する6両や8両編成の列車は基本的に朝と夜にしか見ることができない。
 
 隣には普通天王寺行が停車中。この阪和線の普通という種別も和歌山駅では早朝・夜間にしか見ることができない珍しい種別である。普通は阪和線でも天王寺側の区間で運転されていて、日中は主に天王寺~鳳間での運転となっている。朝夕には運転区間が延長され、一部は和歌山駅発着となる列車がある。225系6両編成で運転されるこの列車。6両編成の車両は連結することがないので、転落防止幌が設置されていない。以前は転落防止幌がある車両の方が違和感があったのに、いつの間にか転落防止幌がない方が違和感がある。6両編成の列車も和歌山駅では早朝と夜間しか見ることができない。直通快速と和歌山駅発着の阪和線普通。和歌山に宿泊しないとなかなか見ることができない朝の光景だった。
 

和歌山発王寺行普通列車で和歌山線を走破する

 さて、旅の本題へと戻る。阪和線のホームから移動して7・8番のりばへとやってきた。このホームは紀本線の和歌山~和歌山市間の列車と和歌山線の列車が使用している。他のホームと異なりホームの入口には中間改札が設置されている。和歌山線は無人駅が多く存在するため、不正乗車を防止するのがこの改札の目的。姫新線と播但線が発着する姫路駅にも中間改札が設置されているがそれと似た設備である。今回は前日から使用している御坊~王寺間の普通乗車券で乗車するので改札機を普通に通過すれば問題ない。しかし、青春18きっぷやいわゆる大回り乗車をするときは、インターホンで駅員を呼び出しきっぷを提示し通してもらう。乗り越しなどの精算はホーム上にある窓口で対応できるようになっていた。
 
 発車時刻の数分前に乗車する列車が回送されてきた。JR西日本の未乗区間のアンカーを務めるのは、227系1000番台4両編成の普通王寺行。和歌山県内の朝ラッシュに対応するため、途中の橋本までは4両編成で運転され、橋本で後ろ2両を切り離して2両編成となり王寺へと向かう。
 
 227系1000番台はロングシート。2時間30分の乗車なのでできればクロスシートがいいが、和歌山線の和歌山側では117系が引退以降クロスシートで運転されている列車はない。一方、奈良側の五条~王寺間は大和路線や桜井線からの221系が運転されているため、クロスシートの車両がある。ただし、早朝と夕方以降に限られているため、来訪者が乗車できる列車は少ないかもしれない。227系1000番台の各編成には、ICカードの車載器が設置されている。これにより和歌山線、きのくに線の全駅でICOCAが利用できるようになった。JR西日本では関西本線や境線でも導入されているシステムだが、全国的にはあまり普及していない。
 
乗車記録16
和歌山線 普通 王寺行
和歌山→王寺 227系1000番台
 
 和歌山駅を出た列車は阪和線、紀勢本線と別れて右へカーブし進路を東へ変える。ここから先は奈良県へと入った五条駅まで基本的に紀ノ川に沿って走ることになる。すぐに車窓には車両基地が見える。吹田総合車両所日根野支所新在家派出という車両基地で、乗車している227系1000番台は、この車両基地に配置されている。阪和線やきのくに線を走る223系や225系の車両の留置線としても使われていて、阪和線カラーの車両が何編成か留置されていた。市街地を出ると田畑と住宅が広がる景色の中を走っていく。このあたりではまだ紀ノ川の対岸の先にある和泉山地は遠い。まだ朝早すぎるので4両編成の車内も1両に数人しか乗客がいなかった。
 
 列車は岩出駅の手前で紀ノ川を渡る。和歌山駅からここまでは紀ノ川の南側を走ってきたが、ここから先はずっと北側を走っていく。この鉄橋の少し手前には、前日に貴志駅の近くで見た貴志川と紀ノ川の合流地点があり、岩出頭首工と呼ばれる農業用水を取水するための堰が設置されている。岩出を出た列車はさらに紀ノ川の上流へと進んでいく。途中の粉河駅は和歌山線の運行上の拠点の一つ。和歌山駅側にはこの駅発着の区間列車が何本か設定されている。両側の山が遠くに見えていたが次第に南北の山々が近づいてくる。紀伊水道を挟んだ反対側にある徳島線にも似た車窓だったのを思い出す。橋本駅に近づくにつれて、列車は混雑し、車内は立ち客の姿も多く見られるようになった。その後、吉野口から橋本市の市街地へと入った列車は、和歌山を出て1時間10分ほどで途中の橋本駅へと到着した。
 

和歌山県から奈良県へ、JR西日本完乗への最後の未乗区間を進む

 橋本駅では後ろ2両を切り離すため、8分間停車。この駅で通勤・通学の需要もひと段落なのかと思いきや、2両編成となった列車は引き続き混雑していた。ここから先は和歌山県から奈良県へと県境を跨ぐが、引き続き車内には高校生の姿あった。県境を跨いだ奈良県五條市には、高校野球の強豪校としても知られる智弁学園高校がある。おそらくそこへ県を跨いで通っている高校生だろうと思う。
 
 全国にはいくつか橋本駅があるが、和歌山県の橋本駅はこれが初訪問だった。この駅はJRと南海高野線が乗り入れている。背後にはなんば行の南海電車が停車していた。ここから難波までは急行列車で大体1時間でたどり着く。すなわち和歌山線で和歌山へ行くのとほとんど所要時間は変わらない。高野線の中百舌鳥以南は未だ未乗。橋本駅にはまた高野線に乗りに来た際に訪れることになる。
 
 橋本を発車した列車はさらに紀ノ川に沿って進み、隅田駅と大和二見駅の間で県境を跨ぐ。奈良県へと入ると紀ノ川は吉野川へと名を変える。列車はまもなく五条駅へと到着した。五条駅も和歌山線の運行上の拠点の一つ。自治体的には五條市だが、駅名は五条駅となっていて、"にんべん"がつかない。現在は少なくなっているが、和歌山線から大和路線や大阪環状線へと直通する列車が設定されており、ここから先は大阪からも直通列車がある区間へと入っていく。時刻は7時40分。ここから先はしばらく山間を走っていく。次に市街地が広がるのは御所。御所へたどり着くころには8時を過ぎるので、大体この駅が通勤・通学のピークだと予想していたが、五条駅を発車してもな座席は全て埋まった状態だった。五条から高田・王寺方面のこの時間の列車も意外と混雑するのかと思いきや、次の北宇智駅で半分くらいが下車していった。近くの工場に勤務する外国人の通勤客が橋本側から通勤する流動があるらしい。北宇智駅は以前はスイッチバックが必要な駅だったが、現在は棒線駅になっている。北宇智駅を出た列車は再び山の中を走って吉野口駅へと到着した。
 近鉄吉野線との接続駅である吉野口駅では、到着時に五条方面の普通列車と行き違ったが、さらに14分間停車して、もう一本の列車と行き違う。北宇智駅で多くの乗客が下車したため、車内は閑散としたが、この時間は近鉄の列車も上下の列車が発着するため近鉄線から乗り換える乗客もちらほらいた。
 

高田駅到着をもってJR西日本を完乗

 吉野口駅から御所駅間は5年前に乗車した区間。以前来た時は水色の105系に乗車したが、あの時のモーターを唸らせながら走る走りとは打って変わって227系は静かに走っていく。5年前と言えば和歌山線や桜井線の車両が置き換わる直前の時期だった。105系や117系でこの路線を走破していたらかなり印象の違う路線だったに違いない。いい意味でノスタルジーに溢れていたのではないかと思う。5年前の少し日が傾いてきた時間の趣ある御所駅に入って来る105系を思い出した。
 御所からは再び未乗区間となり、JR西日本の全線完乗へ向けてラストスパートをかける。山間を走ってきた和歌山線の車窓も御所以降は奈良盆地の南側へ到達して視界が開ける。近鉄御所線が並走する御所駅~大和新庄間では車窓に近鉄電車が見えた。大和新庄を出た列車は近鉄南大阪線の線路をくぐり、桜井線の線路と合流して高田駅へ。到着の瞬間、JR西日本の全線完乗を達成した。
 昨年は桜井線の奈良発王寺行に乗って通り過ぎた高田駅。今回もこの駅は通過点だが、ありがたいことにこの駅でも列車は7分停車し、列車の交換を行った。せっかくなのでホームへ降りてみた。ここ数年のいろんな路線との出会いを思い出した。4883.7kmあるJR西日本路線の個人的なゴールは高田駅だった。とはいえ、来年にはまた未乗路線ができる。防衛戦という言い方は好きではないが、また新しい路線との出会いも楽しみである。
 
 和歌山から乗り込んだ普通列車の旅も残りわずかとなった。高田駅から王寺駅までは20分ほど。大阪方面へ向かう乗客を各駅で拾いながら進んでいく。以前の高田~王寺間は、日中も大和路線との直通列車が運転されていた。しかし、2020年のダイヤ改正で運行形態が大幅に見直され、日中の大和路線の直通列車が廃止となっている。和歌山線の高田周辺は近鉄大阪線や南大阪線が走っているため、やはりそちらを利用する人が多いのだろう。ただし、朝夕は大和路線の直通列車、和歌山線の列車、桜井線の列車がこの高田~王寺間を走り、運行本数が増える。その構図は基本的には変わっていない。
 列車は終点の王寺駅に到着。2時間30分ほどで和歌山線を走破する普通列車の旅が終わった。列車は折り返し和歌山線・桜井線経由の奈良行となって折り返していった。オメガ走法とでも名付けたくなる走り方。青春18きっぷの旅なら乗り通してみたくなる。
 JR西日本の全線完乗という一つの目標を達成し、和歌山線の電車を下車した王寺駅。ここからは引き続き奈良県内の路線に乗車していく。JR西日本の王寺駅に隣接する近鉄王寺駅へ向かった。
 
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