【旅行記】夏の和歌山・奈良乗り鉄旅~近鉄生駒ケーブルで生駒山上に登る~
前話
2日目は早朝から和歌山から和歌山線に乗車し、無事にJR西日本の全線完乗を達成することができた。そんな和歌山線の列車で到着した王寺駅。ここからは奈良県内の未乗各線へと乗車していく。これから乗車していく奈良県および大阪府の各路線は、本来昨年8月に乗車する予定だった。しかし、この時には天候不良のアクシデントに見舞われたため乗車を断念した。今回はそのリベンジとして、1年前に計画していた旅程を逆から辿っていく。
・王寺駅から近鉄生駒線に乗車して生駒駅へと向かう
王寺駅にはJRと近鉄が乗り入れているが、このうち近鉄は田原本線と生駒線の2路線が乗り入れている。歴史的な経緯により生駒線は王寺駅、田原本線は新王寺駅とそれぞれ駅が別になっていて、JRの中央改札側に田原本線の新王寺駅が、西改札口側に生駒線の王寺駅がある。今回乗車するのは生駒線。JRの中央改札からは駅前ロータリーの前を少し歩かなくてはならない。今回は和歌山線で使った乗車券を記念に持ち帰るため、駅員のいる中央改札口を使ったが、JRから直接乗り換えるならば西改札口を使った方がいい。

田原本線の新王寺駅と相対する形で向き合っている生駒線の王寺駅。両駅は200mくらいしか離れていない。田原本線の新王寺駅は設備上は別の駅という扱いだが、乗り継いだ場合は運賃は通算して計算される。いっそのこと駅前に線路を引いてしまえばいいのではと思ってしまうが、基本的にこの駅の人の流れは生駒線・田原本線からJRへという流れが一般的。つなげたところで使う人は少ないのだと思う。改札内へと入ると1面2線のホームに4両の電車が目一杯使って止まっていた。
この近鉄生駒線は前回の旅で乗車した京阪交野線と関わり深い路線である。近鉄の路線はいろんな鉄道会社が建設した路線の集合体となっているが、近鉄生駒線は信貴生駒電鉄という鉄道会社が開業させた路線だった。この信貴生駒電鉄は現在の生駒線を開業させた数年後に枚方から私市間の現京阪交野線を開業させている。交野線はその後、京阪が出資する交野電気鉄道へと事業が譲渡され、以降は京阪の路線となったが、生駒線と交野線の2路線はもともと一つの鉄道路線として繋がる予定だった。地図を見ると確かに、私市から南へ下れば生駒線へとぶつかることが分かる。しかし、私市から先の山越え区間は着工に至らず、結局線路が敷かれることはなかった。もしつながっていれば、生駒山の裏側を走る武蔵野線、いや愛知環状鉄道みたいな役割になっていたかもしれないが、それが実現することはなかった。
乗車記録17
近鉄生駒線 普通 生駒行
王寺→生駒 1021系

王寺を出た列車は大和川を渡って信貴山下駅に到着する。その名の通り奈良側の信貴山の麓に位置する駅、ここから信貴山へはバスで行くことができる。この駅から先は大和川の支流の竜田川に沿って走っていく。西側には信貴・生駒山が聳え、反対側も奈良盆地と隔たる山がある。山と山の間を抜けていくが、その狭い谷間と山の斜面には連続的にニュータウンが開発されていて、住宅が立ち並んでいるのが車窓にも見えた。乗客も生駒へ近づくにしたがって増えていく。このあとに登る生駒山のテレビアンテナが見えると、列車は生駒の市街地へと入っていく。南生駒駅周辺は酷道として有名な国道308号線が大阪側から暗峠を越えて奈良側に降りてくる地点。暗峠へはここからコミュニティバスで行けるらしい。王寺駅ではガラガラだった車内もすっかり混雑し、列車は終点の生駒駅へと到着した。

終点の生駒駅へと到着した。近鉄奈良線の列車でこの駅は何度か通過したことがあるが、降り立つのはこれが初めてだった。奈良線のホームがまっすぐなのに対して、生駒線のホームはやや王寺側にカーブしている。生駒線の線路と奈良線の線路は、難波側で接続されている。生駒線と奈良線に直通列車はないが、車両の入れ替えはこの線路を使って行われている。生駒トンネルが駅の東側に控え、割と駅自体が手狭な駅なので、大和西大寺の車庫から回送されてきた列車は生駒トンネルの中で折り返して生駒線のホームへと入って来るらしい。

改札外へと出てみた。電車で通りすがりに見ているとそこまで大きな駅には見えないのだが、近鉄百貨店もあってかなり立派な駅だった。生駒市の人口は10万人。多くの人が大阪側へと通勤通学していると思うが、普段のショッピングはいちいち大阪へ出ていくわけではなく、生駒駅はこの周辺の中核的な役割を担っている。ここはあまり奈良県という印象がない。実際、流動の多くは奈良市街ではなく大阪市街に向いていると思われる。
ド派手ケーブルカーが走る生駒ケーブルで生駒山上へ登る

駅前の様子を一通り眺めて、やってきたのは鳥居前駅。ここから乗車するのは近鉄に2つあるケーブルカー路線のうちの一つ、生駒ケーブルである。正式な路線名を生駒鋼索線といい、生駒駅に隣接した鳥居前駅から生駒山上駅までを結んでいる。駅前の道路に目をやると、看板に「生駒聖天宝山寺」と書かれている。そのとおり生駒の街はもともと真言律宗の大本山である宝山寺の門前町として栄えてきた街だった。宝山寺は生駒山の中腹にあり、生駒ケーブルはその参拝客輸送と生駒山上への観光客輸送の役割を担っている。

ケーブルカーの駅としてはかなり広々した鳥居前駅の構内。生駒鋼索線はここから生駒山上までを結ぶ路線だと述べたが、途中の宝山寺駅で麓から中腹へ向かう路線(以後、宝山寺線と呼ぶ)と中腹から山上へ向かう路線(以後、山上線と呼ぶ)に分かれている。そのため、山上へ行くには一度乗り換えが必要である。近鉄の路線ではあるものの、ICカード等は使えないので、券売機できっぷを買って列車へと乗り込む。きっぷは下車するときに回収される。

生駒ケーブルの見どころはなんと言っても車両のド派手さだと思う。男一人では乗るのをためらってしまいそうなほどド派手なケーブルカーに乗車して、まずは生駒山の中腹にある宝山寺駅を目指す。宝山寺線区間は単線並列で2系統のケーブルカーを同時に運転できるようになっている。鳥居前駅の改札から向かって左側を宝山寺1号線、右側を宝山寺2号線と呼び、一つ前の写真で分かるようにそれぞれの系統の車両は全く趣きが異なる。通常運転されるのは、ド派手な方の1号線。車両には犬の「ブル」と猫の「ミケ」という名前が付けられている。全国の鉄道でもここまでインパクトの大きな車両はそ他にないと思う。

鳥居前駅から宝山寺駅方面を見る。2本の線路が山の上へと続いていることが分かるが、一見すると複線の普通の鉄道のようにも見える。駅周辺も山の斜面に段々になる形で家やマンションが立ち並んでいる。山の上の方にも建物が見えるように、宝山寺線の沿線は宅地開発されており、この路線も宝山寺駅周辺の住民の通勤通学で使われている。そのため鳥居前~宝山寺間は6時台から23時台まで列車が運転され、列車本数も多い。ド派手なケーブルカーなので一見すると観光客メインの路線なのかと思いきや、まったくそんなことない。

隣には宝山寺2号線の列車が留置されていた。ド派手な1号線の車両と相対して、こちらはレトロなデザインとなっている。この2号線は主に1号線の検査点検時と多客期に運転されている。普段は1号線がメインで使われるので、普段は車両が駅に留置されている。車内の様子を覗けるように車内が開放されていた。この路線が一番賑わうのはお正月。宝山寺への参拝客輸送の際は、2系統のケーブルカーが同時に運行されフル稼働する。この日は平日で利用客も少なかったが、そんな生駒ケーブルの姿もいつかは見てみたい。
乗車記録18
近鉄生駒鋼索線 宝山寺行
鳥居前→宝山寺 「ブル」

宝山寺線の日中は20分間隔の運転。一方、宝山寺から先へと続く山上線は40分に1本の運転となっている。乗車した宝山寺線のケーブルカーは、山上線に接続しない時間の列車だったので、車内にいたのは沿線の住民と生駒山でハイキングを楽しむ人たちだった。鳥居前駅を出て勾配を登っていくケーブルカー。単線並列なので、中間部分の行き違いも系統別にすれ違いの設備がある。ここも一見すると複々線にも見える。行き違い箇所には踏切も設置されている。ケーブルカーと踏切の組み合わせは他の路線ではあまり見かけない。実は全国のケーブルカーで踏切が設置されているのは、生駒ケーブルと信貴山ケーブルの2路線計7か所のみ。近鉄のケーブルカーでしか見ることのできない組み合わせである。生駒ケーブルには宝山寺線側に3ヵ所、山上線側に2ヵ所踏切がある。この行き違い部分にある踏切は、他の踏切とは違い大型車両以外の車両の通行が可能。ケーブルが通るので道路にはケーブルが通る溝がついている。ケーブルカーが運行中の時はこの溝をケーブルが動いている状態になる。
宝山寺駅でケーブルカーを乗り継ぐ

宝山寺駅へと到着。今回は訪れないが、生駒聖天と呼ばれる宝山寺はここからもう少し坂を登って行ったところにある。宝山寺へ苦労せずに行くには、ここで山上線に乗り換えて、途中駅の梅屋敷駅で下車したほうが下り坂で楽らしい。生駒駅から山の斜面に広がる住宅地もこの駅のあたりまで広がっているが、ケーブルカーで登ってきただけあって、この駅の時点でも高い。駅の改札外からはわずかに生駒駅の北側の景色が見えていた。この駅は「く」の字状になっていて、宝山寺線のホームの上に山上線のホームがある。その両方のホームの間の脇が駅の改札口となっている。乗り換える場合はそのまま乗り換えることができる。改札は有人ではないが、一度改札外へ出る予定だったので、往路は鳥居前から宝山寺、宝山寺から生駒山上できっぷを分けて購入した。

宝山寺駅からは山上線に乗車して生駒山上へと向かう。またまたこちらもド派手な車両で男一人で乗るには勇気がいる。山上線の車両は「スイート」「ドレミ」という名前が付けられていて、お菓子の家と森の音楽隊をモチーフとしている。山上線は40分に1本の運転で、基本的には発車時間まで車内で待てるようになっている。発車時間が近づくと、宝山寺線の接続列車から多くの人が乗り換えてきた。乗車した時間は山上の遊園地が開園してからの一番列車なので、この時間にあわせてきた人も多いのではないかと思う。
乗車記録19
近鉄生駒鋼索線 生駒山上行
宝山寺→生駒山上 「スイート」

宝山寺線に対して山上線は一般的なケーブルカーと似た雰囲気を感じる。宝山寺駅を出た直後はトンネルで、それを抜けると虫と鳥の鳴き声が響く山の中を山上へ登っていく。途中には梅屋敷と霞ヶ丘の2つの駅が設置されている。途中駅があるケーブルカーは坂本ケーブルで乗車したことがあるが、坂本ケーブルが申し出がなければ通過となる一方、こちらは途中駅にも必ず停車する。そして降りる人も何人かいた。霞ヶ丘駅周辺には何もないが、梅屋敷駅周辺には住宅もあり、日常的な利用もあるのかもしれない。なお、生駒山上遊園地のナイター営業などで運転時間が延長されるときは、この2駅を通過する「直行」列車も運転されている。途中でケーブルカー同士ですれ違いさらに標高を上げる。車窓には奈良盆地が見え始める。登ってきた線路を見ていると、イノシシの御一行様が線路を横断していくのが見えた。親と子で10匹ほどいたのではないかと思う(写真は復路で撮影したもの)。

宝山寺線の列車に5分、山上線の列車に7分乗車して生駒山上へと登ってきた。途中宝山寺駅を見て回ったので、30分以上かけて登ってきたが、接続列車に乗れば最速15分で着くことができる。次の列車までは35分ほど時間があるので、大阪側を望める展望台へと行ってみることにした。
生駒山上遊園地の展望台から大阪市街を一望

生駒山上にある生駒山上遊園地。入園は無料で乗り物やアトラクションに乗るときにチケットを購入するシステムになっている。遊園地に来る格好で男一人遊園地内を歩くのは少々気まずい。しかし、鉄道路線の乗りつぶしをしていればこんな路線にはいくつか出会う。入園料を支払って遊園地内へと入らないと乗れない別府ラクテンチケーブルに比べたら全然気楽ではある。大きな遊具はないものの、園内にはいろんな遊具があり、夏休みもあと数日で終わりを迎えようとしていたこの日、遊園地は平日だったが多くの人で賑わっていた。

遊園地の中を歩いて星の広場展望台という場所までやってきた。ここからは大阪の街並みが一望できる。広場の頭上にはインスタグラムなどでもよく見かけるサイクルモノレールという遊具が走っている。こんなに眺めのいい遊園地の遊具もおそらく他にはないだろう。ここ最近はいろんな場所から関西を俯瞰する景色を眺めてきたが、生駒山は周囲に高い山がないので、視界の広さが段違いだった。この景色を見るだけでも十分来る価値がある。

大阪市北部と淀川の流域を眺める。左側に見えるビル群が京橋や梅田あたり。中央から右側に見える線のようなものが淀川である。画面中央の奥の方は宝塚市あたり、そしてその左手に見えるのは六甲山地である。目を凝らすと六甲アイランドやポートアイランドも見える。天気がいいと明石海峡大橋も見えるらしいがこの日は見えなかった。右側に目を向けると高槻市近辺から京都市街までを一望でき、さらに左側に目を向けると、関空や和泉山地の稜線がみえる。まさに関西を一望するに相応しい場所だと思う。1日目には大阪府の南部の多奈川から大阪湾を眺めたが、ここ生駒山上は和泉山地、金剛山地、生駒山地という大阪府と他県とを隔てる逆L字の山々の反対側の端に近い場所にある。朝からその山地の裏側を和歌山線、近鉄生駒線に乗車して移動し、今、生駒山の上から大阪湾を眺めている。
再び生駒ケーブルで生駒(鳥居前駅)へ戻る

展望台からの眺望に感動していたらあっという間に帰りのケーブルカーの時間が近づいてきた。少し早足で生駒山上駅へと戻り、宝山寺行のケーブルカーに乗車して生駒山をあとにする。まだ遊園地の開園から間もないので、帰りのケーブルカーの乗客は数人だけ。大阪方面の景色を眺めた展望台からは数百メートルしか離れていないが、ケーブルカーは奈良側の景色を見ながら山を下りていく。山のてっぺんにいたことがよく分かる。
乗車記録20
近鉄生駒鋼索線 宝山寺行
生駒山上→宝山寺 「スイート」

復路の宝山寺駅ではわずかな乗り換え時間で山上線から宝山寺線へと乗り換える。帰りは猫の「ミケ」号だった。宝山寺1号線と山上線のケーブルカーは電飾が施されていて、目や耳が光るようになっている。可愛いというよりちょっと不気味。この路線のことを何も知らずに踏切で通過待ちしてたら度肝を抜かれるだろうと思う。
乗車記録21
近鉄生駒鋼索線 鳥居前行
宝山寺→鳥居前 「ミケ」

鳥居前駅に到着して生駒ケーブルの乗りつぶしを完了。写真で見るより数倍ド派手なケーブルカーのインパクトにびっくりな面白い路線だった。そして、山上から眺める京阪神の景色もとても美しかった。今度はぜひ夜景を眺めてみたい。さて、鳥居前駅でケーブルカーに別れを告げた後は、再び生駒駅へと戻り、ここからは奈良県最後の未乗路線となった近鉄けいはんな線に乗車。学研奈良登美ヶ丘駅へ向かった。
次話