【旅行記】北東北の鉄道路線を巡る旅~角館で武家屋敷通りに立ち寄る~

前話
 
 早朝に宮古を出発し、山田線の普通列車で到着した盛岡駅。ここからは次なる未乗路線、秋田内陸縦貫鉄道線に乗車するため秋田新幹線に乗車し、角館駅へ向かった。

秋田新幹線こまちで角館へ向かう

 乗車したのはこまち9号秋田行き。概ね1時間間隔の秋田新幹線だが、この時間だけ30分に1本になっていて間隔が詰まる。角館までの所要時間は45分ほどだった。秋田新幹線こまちは昨年の旅で東京~秋田間を走破済みである。このときはグリーン車を利用したので、普通車の利用は初めてだった。
 
乗車記録 No.5
秋田新幹線(田沢湖線)こまち9号 秋田行
盛岡→角館 E7系
 
 盛岡駅にはやぶさ・こまちとして17両編成で到着した列車は、前7両を切り離して、こまちが先に発車する。発車後はすぐに東北新幹線の高架橋から離れ、田沢湖線へのアプローチ線を下る。その後は田沢湖線へと入り、線路の両側に民家が広がる中を走っていく。去年東北新幹線から乗り通した際には、新幹線区間の走りとのギャップが面白かったのを思い出した。
 
 列車はやがて盛岡の市街地を出て、景色も街の風景から田園の景色へ移り変わる。天気が良ければ、奥には岩手山が見えるはずだが、この日は雲の中に隠れていた。去年の旅では反対側に座っていたので、岩手山はほとんど見えなかった。まだしっかりとこの目で見れていない岩手山。次回の旅も盛岡へ行く。その時には岩手山を見ることができるだろうか。それもまた旅の楽しみである。
 
 列車は雫石を通過した。雫石は一部のこまちが停車し、田沢湖線の普通列車の多くはここで折り返す。その先には赤渕という駅がある。この駅でも盛岡方面への折り返し列車の設定があるが、この駅からが本格的な峠越えの始まりとなる。田沢湖線は紅葉の美しい路線として知られる。乗車した際には色づき初めていたものの、まだ紅葉の見ごろではなかった。おそらく2週間後くらいが見ごろだったのではないかと思う。
 
 列車は赤渕駅の先にある大地沢信号場で停車し、対向の列車とすれ違った。田沢湖線の岩手県と秋田県の県境は仙岩峠という峠があり、ここに仙岩トンネルという長いトンネルがある。このトンネルの両側には大地沢、志度内の2つの信号場が設置されている。近くに民家もないような山奥に東京発着の新幹線がすれ違う信号場がある。
 信号場を発車すると、列車は仙岩トンネルを走る。この峠越え区間は、速度制限も多いことから、秋田新幹線の所要時間が長くなる要因の一つになっている。そんなこともあって、もう少し長いトンネルを掘ろうという計画がある。トンネルが完成すれば、赤渕から田沢湖までほぼトンネルに変わる予定である。そうなれば、この峠越え区間の新緑や紅葉もあまり見れなくなるかもしれない。
 
 角館へと到着。割と多くの降車があり、日本人だけでなく訪日外国人の降車も多かった。角館駅は、この地の観光スポットである武家屋敷をイメージしている。通常緑色の駅のコンビニNewdaysもこの駅では駅舎の色にあわせて黒色になっている。角館はもともと単独で角館町という町だったが、2005年に周辺の田沢湖町、西木町と合併して仙北市という市となった。武家屋敷は全国的にも有名な観光名所で、降車客を見ても分かる通り、訪日外国観光客にも昔ながらの日本の街並みを見れるとあって人気である。乗り換え時間が2時間ほどあるので、武家屋敷の広がる街並みを見に行くことにした。
 

観光地として有名な武家屋敷通りに立ち寄る

 角館駅から武家屋敷通りまでは徒歩で15分ほどかかる。駅前にはタクシーがとまっているので急ぎならタクシーを使うと便利だが、時間があるなら角館の街をテクテクと歩いて行った方が楽しい。駅は市街地の東側に位置していて、中心部からは少しだけ距離がある。歩いていると天気が急に回復し、青空が見えてきた。角館駅舎を撮影してから20分も経っていないのに、この天気の変わりようである。自分が峠を何度も越えて移動しているせいでもあるが、今回の旅の前半は天気の変化が目まぐるしかった。武家屋敷通りまでの道中は、角館町の中心地を歩いていく。少し昭和を感じる街並み。旅していると時々出会う素朴な街並みも個人的にはとても好きである。
 
 角館駅から歩いて15分。武家屋敷通りに到着した。東北・みちのくの小京都と呼ばれている角館。この武家屋敷通り一帯は、国の重要伝統的建造物群保存地区に保存されていて、道路脇の黒板塀と枝垂桜などの木々が特徴的な街並みが広がる。春には桜、夏は新緑、秋は紅葉、冬は雪景色と、季節で違う表情を楽しめるのも角館の武家屋敷通りの特徴なのだとか。今回は秋ではあるが、まだ紅葉はしていない。それでも緑豊かな街並みがとても美しかった。
 
 武家屋敷通りに面する武家屋敷のうちいくつかは公開されているので、敷地の中に入って建物を見学することができる。最初に見学したのは小田野家。仙北市の指定史跡であり、かつての中級武士の屋敷である。建物自体は明治時代に大火によって焼失したものを再建したものだが、近世の武家住宅そのままの間取りとなっているらしい。中に立ち入ることはできないが、建物の外周から武家屋敷の造りを見ることができた。
 
 裏手へまわると、座敷が公開されていて、中を見ることができた。お城の本丸御殿的なものは見たことがあるが、武家屋敷の内部はこれまで見たことはないかもしれない。武士がどんなところで暮らしていたのかというのも一つ勉強になる。建物の周りには樹齢数百年という樹木が植えられている。それもまた見ごたえがある。
 
 再び武家屋敷通りへ出て、奥へ奥へと進んでいく。武家屋敷だけでなく、飲食店や土産物屋なども立ち並んでいて、観光客は思い思いの休日を過ごしていた。小田野家から少し進んだところには県指定史跡に指定されている岩橋家があり、こちらも建物が公開されているので、敷地の中に入って建物外周を見て回った。
 
 一つ目の通りの突き当りを曲がると、その先もまだ奥へ武家屋敷通りが続いていた。人力車もあって、武家屋敷通りを人力車に乗って観光することもできるようだった。あんまり遠くへ行くと、角館駅へ帰るのが大変になるので、今回はここで折り返した。列車の乗り継ぎの暇つぶしくらいの感覚でフラっと立ち寄った角館の街だったが、思った以上に味わい深い街並みだった。
 
 最後に角館の街中を流れる川の河川敷へと立ち寄った。桧木内川という川で、北秋田市と仙北市の市境付近から流れ出し、途中で田沢湖の流出河川となっている潟尻川と合流、角館を通過後に田沢湖の方から流れてくる玉川と合流し、さらにその先大曲で雄物川と合わさって、秋田市から日本海に注ぐ河川である。これから秋田内陸縦貫鉄道に乗車するが、秋田内陸縦貫鉄道はこの桧木内川を遡るように北へと走っていく。写真右側の堤防沿いに植えられているのは桜の木。春になると満開の桜並木が楽しめるらしい。
 
 桧木内川の河川敷をあとにして、角館駅へと戻ってきた。帰っている間にあんなに晴れていた空にはいつの間にか雲が立ち込めてた。本当に武家屋敷通りを観光しているときだけ晴れていたのは運がよかった。さて、角館からはこの日の目的地である青森駅へ向けて移動を開始する。JR角館駅の隣にある秋田内陸縦貫鉄道の角館駅へ行き、鷹巣までのきっぷを購入。列車の発車を待った。
 
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