【旅行記】三重・岐阜の盲腸路線を巡る旅 第二幕~太多線と名鉄広見線を巡る~
前話
大正ロマンの街、明智から明知鉄道に乗車した後、中央本線で多治見駅までやってきた。ここからはこの旅2路線目となる未乗路線に乗車し、引き続き岐阜県内の鉄道路線を楽しむ旅程となった。
JR東海の地味な存在、太多線に乗車する
多治見から乗車したのは、多治見と美濃太田を結ぶJR太多線(たいた)である。この太多線は、多治見で中央本線、美濃太田で高山本線に接続し、2つの広域的な路線間を結ぶ路線となっている。しかし、乗客の多くは沿線の利用客であり、周辺のJR路線と比較すると、地味な存在。鉄道ファンでも見落としがちな鉄道路線である。JR東海にもたくさんの路線があるが、利用客が極端に少ない名松線の方がよく話題になるので、正直一番地味な存在かもしれない。沿線の通勤・通学需要は一定数あるので、良くも悪くも目立たないローカル線である。多治見から県庁所在地の岐阜へ移動する場合、名古屋を経由するのも美濃太田を経由するのも所要時間はあまり変わらない。この路線は全線が岐阜県内を走っている。名鉄沿線を走る区間もあるが、名古屋都市圏からみれば一歩裏手を走っているのが、また路線を目立たぬ存在にさせてしまっている。

乗車したのは普通列車美濃太田行き。キハ75系2両編成での運転だった。太多線はキハ75系またはキハ25系のいずれかで運転されているが、運用的にはキハ75で運転される列車が多い。美濃太田の車両基地に所属するキハ75系は、この路線のほかに高山本線でも使用されるが、高山本線では岐阜~下呂間での運用となっていて、メインとなるのは太多線の運用である。乗車した列車は美濃太田止まりの列車だったが、太多線の列車は朝夕を中心に高山本線に直通して岐阜まで運転されている。太多線自体があまり東西に入っている感覚はないが、岐阜県の東西にまたがる通勤・通学や沿線の移動を支えている。

キハ75系に乗車するのはかなり久しぶりだった。車内は転換クロスシートが並んでいる。この車両は急行・快速列車に使用されることを前提として製造された車両なので、とても快適に移動できる。名古屋~鳥羽間の快速みえでは、現在も指定席車両の設定がある。さらにかつては名古屋~奈良を結んでいた急行「かすが」にも使用されていた。正直、普通列車のみの太多線で使用するのはちょっと贅沢な使い方だと思う。美濃太田に配置される前は武豊線で活躍しており、武豊線電化開業の際に自身が名古屋に投入された際に突き出したキハ40系を置き換える形で美濃太田へ転属し、以後は太多線の主力車両となった。
乗車記録 No.6
太多線 普通 美濃太田行
多治見→美濃太田 キハ75系

多治見では名古屋からの普通列車との接続を取って発車した。太多線と接続する名古屋方面からの列車は、なるべく対面で乗り換えられる4番線着となるように配慮されている。多治見を出た列車は、中央本線と離れて多治見市街を北へと走る。最初の小泉駅で早速反対列車とすれ違った。太多線は日中も30分に1本の運転となっている。路線の距離はおよそ18kmで、区間には6つの駅があるが、このうちの3つの駅(小泉、姫、可児)が交換可能駅。朝夕はこれらの設備をフル活用して、1時間あたり3~4本が運転されている。やがて市街地を抜けた列車は、田畑と住宅、工場という、街でもなければ田園風景でもないという景色の中を走っていく。

姫駅では交換列車はなく発車。さらに北上すると次の下切駅から可児市へと入る。沿線は宅地開発された場所が多く、住宅街が点在している。太多線の利用客はこうした住宅街からの通勤・通学客だと思われる。やがて、可児市の市街地が広がりはじめる。列車は可児川を渡り、名鉄広見線と接続する可児駅へと到着した。

可児駅では反対列車とすれ違った。この駅にはまた後から来るが、今は一度通り過ぎて太多線を乗りつぶす。名鉄広見線の新可児駅が隣接するが、太多線の方は小さな駅舎に屋根のない跨線橋というローカルな雰囲気を醸し出す駅となっている。調べてみるとJRの可児駅の乗車人員は1500人ほど、名鉄新可児駅は2500人ほどらしい。名古屋へ行くとは名鉄、岐阜へ行くときはJRという使い分けになるのだろうか。

可児駅を出た列車はしばらく名鉄広見線の線路と並走し、その後広見線の線路が太多線の上を越えていく。可児の市街地を走り抜けると、その先で木曽川を渡った。太多線は木曽川に設置された今渡ダムの数百メートル上流を鉄橋で横断する。この今渡ダムは中央本線が走る岐阜県東濃や長野県木曽エリアから流れてきた木曽川に、高山本線が走る飛騨方面から流れる飛騨川が合流する地点に設けられたダムである。日本の尾根から流れ出た水はライン川に似ていることから名付けられた日本ラインを経て濃尾平野へ流れていく。

木曽川を渡るとすぐに美濃川合駅に到着。名前が川の合流地点であることを物語るこの駅を出ると、車窓には車両基地が広がる。ここが高山本線と太多線の列車の運行を支える美濃太田車両区である。駅構内にはキハ25系やキハ75系の姿はあまりなかったが、検測車両であるキヤ95系ドクター東海の姿があった。車両区から美濃太田駅までは回送線があり、太多線の線路はしばらくこの回送線と並走する。高山本線が合流するあたりで回送線が太多線の線路と合流すると、その後は太多線と高山本線の線路が並ぶ形で列車は終点の美濃太田へと到着した。
美濃加茂市の中心駅、美濃太田に降り立つ

多治見から30分ほどで終点の美濃太田へと到着。隣には岐阜行の普通列車が停車していて、太多線からの乗り換え客が乗り込むと発車時刻となり、岐阜へと発車していった。岐阜行の普通列車の後ろには別の3両編成のキハ75系が停車中。こちらは太多線の多治見行となる列車だった。車両の回送を何度も行うのは手間なので、車両基地から駅までの回送は一気に行って、駅で解結するのが、この駅ならではの日常の光景となっている。

改札を通って一旦駅の外へ出て来た。美濃太田駅は特急ひだも停車する主要駅で、美濃太田という地名が割と有名なので、美濃太田市の中心駅だと思いがちである。しかし、この駅があるのは美濃加茂市で、美濃太田駅は美濃加茂市の中心駅である。美濃加茂市は駅がある場所にかつてあった太田町と周辺自治体が合併してできた市。鉄道がこの地に開通したのは、合併よりも昔なので、太田町の駅ということで美濃太田駅となった。この駅には高山本線、太多線のほか、長良川鉄道越美南線が乗り入れている。越美南線には2日目に乗車予定。今回の旅はこの駅に2日連続で訪れる。

ホームへ戻ると名古屋行きの特急ひだが発車するところだった。写真の列車は8両編成。8両や10両の長編成の特急列車が行き交う光景は、ローカル線のようでローカル線ではない高山本線の象徴といえる。美濃太田と言えば、かつて名鉄線経由で運転されていた特急「北アルプス」を思い出す。この列車は鵜沼の連絡線を通って高山本線に入った後、この駅で特急ひだと併結して高山へと向かっていた。2001年に廃止されていて、自分も全く実物は見たことがないが、25年ほど前に発売された電車でGo!名古屋鉄道編というゲームを持っていて、それにに北アルプスが収録されていた。ゲームは犬山が終点だが、犬山到着の時に「犬山を出ますと、次はJR線の美濃太田に止まります」というアナウンスが流れていたのを思い出す。でも実際は犬山遊園にも停車していたらしい。
車掌乗務の3両編成列車で可児へ戻る

太多線に乗車にも乗車できたので、これで1日目に巡る予定の未乗2路線への乗車は完了。この日は岐阜に宿を取っていたので、あとは高山本線にでも乗車して岐阜へ行けばいい。しかし、それではちょっと岐阜に着くのが早すぎる。そこで、ここからは1日目のアディショナルタイムへと突入し、少し前に乗車した名鉄広見線にもう一度乗車しに行くことにした。
とりあえず美濃太田からは、太多線の普通列車多治見行きで、可児まで戻る。多治見から乗車した列車は2両編成のワンマン列車だったが、今度の列車は3両編成だった。太多線の朝夕は3両編成で運転される列車が多く、この場合には車掌が乗務する。
乗車記録 No.7
太多線 普通 多治見行
美濃太田→可児 キハ75系

美濃太田から2駅間、3両編成の太多線列車を楽しんで、可児駅で下車した。太多線に乗車したのは今回が初めてだったが、隣接する新可児駅を発着する名鉄広見線は既に乗車済み。実はこの街には宿泊したこともある。名鉄が運行する空港特急、ミュースカイの一部はこの駅発着で運転されている。当時、名鉄特急の沼にハマっていて、新可児発中部空港行に乗ってみたかったので、わざわざ可児に宿泊した。それももう5年以上前の話で、可児への訪問はその時以来だった。
久しぶりに可児駅前にやってきたが、前回来た時と変わっているところもあった。駅前のロータリーがきれいになっていて、広々した開放感のある駅前に変貌していた。駅自体は変わっていないようだが、ロータリーが変わるだけで印象もガラッと変わる。
以前乗車した名鉄広見線新可児-御嵩間を再履修
1日目のアディショナルタイムは、可児で名鉄へと乗り換えて、広見線の末端区間に乗車しに行った。犬山から御嵩を結ぶ名鉄広見線。しかし、運行系統は新可児で完全に分断されている。新可児から犬山方面へは、名古屋、中部国際空港方面の直通列車も多数運行されている(旅行時点)一方、御嵩方面は全列車が新可児-御嵩間の運行となっている。新可児~御嵩間は蒲郡線の吉良吉田~蒲郡と並ぶ末端区間の一つで、名鉄網の一部だが、ICカードが原則利用できないなどの制約があり、名古屋方面とは中間改札で隔てられている。新可児-御嵩間の広見線は、名鉄路線の乗りつぶしを行った5年半前の旅行の際に乗車したのだが、旅程の都合で御嵩駅を数分で折り返していた。御嵩駅にしっかり訪れることができてなかったので、今回再度訪れることにした。

新可児駅の券売機で御嵩駅までのきっぷを購入し、改札内へと入る。広見線の御嵩方面はここからすべての駅が無人駅で、列車もワンマン運転となる。そのため新可児駅には中間改札が設けられていて、御嵩方面ホームへ行くにはもう一度改札を通る必要がある。ここから先はICカードの利用は不可だが、御嵩方面の各駅から犬山・名古屋方面へ跨って利用する場合に限り、中間改札で精算することで、利用することが可能になっている。
しばらくホームで列車を待っていると、やがて2両編成の6000系電車が姿を現した。新可児-御嵩間は、以前は明智駅に交換設備があったが、これが撤去されたので、現在列車が行き違える駅が存在しない。そのため1編成が行ったり来たりを繰り返している。夕方の列車で、犬山方面からの列車から乗り換えてきた乗客も何人かいたが、車内は閑散としていた。乗客の半数程度は、この地にやってきた外国人就労者だった。
乗車記録 No.8
名鉄広見線 普通 御嵩行
新可児→御嵩 6000系

列車は新可児駅を出ると、可児市街の北側を通って東へと進んでいく。次の駅は明智駅。この日の午前中にいた明知鉄道の明智駅と同姓同名駅で、同じ県内に同じ駅名の駅がある珍しい例になっている。明智光秀はその生涯が謎だらけなのだそうで、名鉄沿線の明智も、明知鉄道の明智も明智光秀ゆかりの地を謳う。どちらが本当のゆかりの地なのか、明確なことはわかっていないらしいが、名鉄沿線の明智が最有力だと言われている。沿線はのどかな雰囲気だが、宅地が造成されている様子も見えた。新しい住宅街ができれば、またこの区間の利用客も増えるかもしれないが、やはりここまで来ると自家用車を使う人が多いだろう。

新可児駅から12分で終点の御嵩駅に到着。列車は3分ほどの停車時間で新可児へと折り返していった。前回はこの3分で折り返したが、今回は1本後の便で折り返す。御嵩駅は御嵩町の中心駅で、駅周辺に小さな街が広がっている。かつては中山道の宿場町として栄えた街である。中山道は恵那付近から御嵩まで、しばらく山の中を通っている。中央本線が通る現在の主要路と木曽川のちょうど間を走ってくる形である。名鉄広見線に並行するように御嵩町内には東西に国道21号線が走っている。この道をまっすぐ進めば、中央本線が走る土岐市に出る。
御嵩から岐阜へ名鉄列車を乗り継ぐ

御嵩駅にいる間に次第に暗くなって行き、雨も降り出した。ホームで列車を待つ20分ほどの時間は暇と言えば暇なのだが、何をするでもなくただのんびりと行き交う車の音だけを聞いて過ごす時間というのもまた旅をしている感じがして心地いい。やがて遠くから風に乗って、踏切の音と列車の走行音が聞こえ始める。やがて近くの踏切が鳴ると、列車のヘッドライトが見え、新可児まで往復してきた列車が御嵩駅に再び姿を現した。
御嵩駅からは宿泊地の岐阜へ向かう。今回は純粋に名鉄のみを使い、広見線、犬山線、各務原線経由で向かうことにした。まずは新可児駅まで来た道を戻っていく。
乗車記録 No.9
名鉄広見線 普通 新可児行
御嵩→新可児 6000系

新可児では数分の乗り換えで、中部国際空港行の普通へと乗り換えた。現在(旅行時)は毎時4本のうち2本が犬山線へと直通し、犬山から先は準急となる広見線の普通列車。そのため名古屋近辺でも新可児という行先はよく見かける。しかし、今年3月16日のダイヤ改正で、広見線のワンマン運転が拡大され、これに伴って犬山線から広見線へと直通する列車も大幅に縮小される予定である。新可児発は朝の一部を除いて、ほとんどの列車は犬山発着となり、新可児へ向かう列車は全列車が犬山発着となる。したがって、今後は名古屋近辺で新可児の行先を見ることはできなくなる。
乗車記録 No.10
名鉄広見線 普通 中部国際空港行
新可児→犬山 9500系

夜の広見線を20分ほど走り、犬山に到着。普通として走ってきた列車はここで増結の上、準急に種別を変更して、中部国際空港へ向かっていく。犬山駅の6番線は、ホームの奥に車両を押し込めるようになっていて、これを使って車両の増解結が行われている。ダイヤ改正後の準急は新鵜沼発着となり、増解結の必要性もなくなるので、この光景もほとんど見られなくなるのだろう。

犬山からは各務原線直通の名鉄岐阜行普通列車で宿泊地の岐阜へと向かった。名鉄各務原線にも久しぶりに乗車したが、こんなに駅数多かったっけと駅の多さに改めて驚いた。(新)鵜沼-岐阜間の駅数は高山本線が4駅に対して、各務原線は15駅もある。列車はこまめに駅に停車しながら、岐阜へと向かっていく。前回乗車したときは、2ドアの5700系だった記憶があるが、今回は新型の9500系だった。各務原線も数年前にワンマン化が実施された。それに伴い使用車両もワンマン運転対応車に限られることになり、ワンマン運転に対応した車両のみが使用されている。
乗車記録 No.11
名鉄犬山線・各務原線 普通 名鉄岐阜行
犬山→名鉄岐阜 9500系

名鉄岐阜に到着して、1日目の行程はこれにて終了となった。この日は駅近くのホテルに一泊した。中京エリアの乗りつぶしは順調に進んでおり、このエリアの未乗路線はあと一つ。長良川鉄道越美南線のみとなった。2日目は岐阜から高速バスで郡上八幡へ移動し、郡上八幡を観光したのち、長良川鉄道、中京エリアの全線乗車を目指した。
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