【旅行記】JR東海未乗路線と箱根エリアの鉄道路線を巡る旅~箱根ゴールデンコースに挑む~

前話
 
 小田原に宿泊して迎えた2日目。この日はJR東海の未乗路線を巡る旅は一旦お休みして、箱根エリアの未乗路線を巡っていく。箱根エリアで未乗なのは、箱根登山鉄道の箱根湯本~強羅間と、ケーブルカー、それに箱根からやや南下したところにある十国峠ケーブルカーの3路線。前半は箱根ゴールデンコースと呼ばれる箱根観光の王道ルートを進み、その後はそのルートから離れて十国峠ケーブルカーに乗りに行く。その後熱海を経由して小田原へ戻り、小田原から路線バスで再び箱根を経由して三島へ抜ける流れ。1日中、箱根周辺の乗り物にひたすら乗り続けるそんな旅程となった。

小田急の車両で小田原から箱根の玄関口、箱根湯本へ

 スタートは朝6時の小田原駅から。箱根は国内有数の観光地として知られる。都心から1時間15分ほどで到着できる気軽さから、休日だけでなく平日も多くの観光客で賑わっている。近年では、訪日観光客も押し寄せており、海外からの人気も高い。それゆえに、乗りものを楽しみたい自分にとっては、混雑をいかに回避するかが課題となっていた。今回、箱根に行くにあたっては、混雑を回避する方法をいろいろ模索した。その結果、早朝から動き始めるのが一番いいということだったので、この時間から動き出すことにした。
 小田急グループでは、箱根観光に便利な箱根フリーパスというフリー乗車券を発売している。小田原発なら2日間で5000円、3日間5400円である。この乗車券を持っていれば、箱根エリアの小田急グループが運行する乗り物のほとんとが乗り放題となる。小田原から箱根間だけでなく、御殿場や三島へ抜けるバスも利用できる。王道ルートを周遊するたげでも元が取れ、乗りものごとにきっぷを買う手間も省けるのでとても利便性が高い。今回はこれを使って箱根を旅していく。
 この箱根フリーパスを使う際には注意点が一つある。箱根エリアはかつて小田急と西武が熾烈な覇権争いを繰り広げてきた場所だった。そのため、このエリアには小田急グループと西武グループのバスが両方走っている。箱根フリーパスが使えるのは、小田急グループのみ。伊豆箱根バスや芦ノ湖遊覧船(海賊船とは別)は利用できない。箱根エリアの全部の乗りものが乗り放題になるわけではないので、そこは注意が必要である。
 
 この日の前半は、箱根ゴールデンコースを進んでいく。このルートは小田急が提唱する箱根観光の王道コースである。小田原・箱根湯本から登山電車、ケーブルカー、ロープウェイ、箱根海賊船、路線バスと乗り継ぐコースとなっていて、途中では大涌谷や箱根神社などの観光地を巡ることができる。このルートを構成する乗りものは、全てが小田急箱根グループが運行する乗りもの。このコースが開発された背景には、先述の西武グループとの競争がある。小田急グループの乗りもので周遊できるコースを開発し、それを定番化とすることで、シェア争いを制したいという思惑が垣間見える。このコースが完成したのは1960年。小田急の思惑通り、ゴールデンルートという言葉はすっかり定着し、観光客の多くがこのルートを進んでいく。今回は自分も途中までそのルートに従って進むことにした。
 小田原駅は小田急小田原線と箱根登山鉄道の接続駅。しかし、新宿方面から線路が繋がっており、ロマンスカーがそのまま直通しているので、路線の終点感はあまりない。ここから箱根湯本方面は箱根登山鉄道鉄道線だが、そんなことを意識しているのは鉄道ファンくらいだろうと思う。
 箱根登山鉄道鉄道線は小田原から強羅までを結ぶ。しかし、現在は全区間を直通する列車は運転できない。箱根登山鉄道は箱根湯本~強羅間が標準軌、小田原~箱根湯本間は狭軌となっている。かつて小田原~箱根湯本間は標準軌と狭軌を組み合わせた三線軌条という形態となっていて、強羅方面からの列車も小田原駅へ乗り入れていた。しかし、車両規格が違うなどの問題も多く、2006年に小田原-箱根湯本間の列車は狭軌車両のみで運転されるようになった。ただし、登山電車の車両基地が入生田駅にある関係上、入生田~箱根湯本間は現在も三線軌条となっており、この区間は標準軌車両の回送列車が走行する。箱根登山鉄道は自社で狭軌の車両をもっていない。そのため、小田原~箱根湯本間は全列車が親会社の小田急の車両を使って運行されている。
 
 小田原から各駅停車箱根湯本行きに乗車。箱根登山鉄道小田原~箱根湯本間の各駅停車列車は全列車が小田急1000系4両編成での運転。かつて1000系の中には、箱根登山鉄道カラーを纏った車両があった。しかし、1000系が数を減らす中で2023年に全車両が引退。現在は箱根登山鉄道カラーの電車は存在せず、小田急カラーの車両が行き来している。
 ここから箱根湯本までの区間は、以前乗車したことがあり、今回が初めてではない。前回乗車したのは2017年の夏。北千住からのロマンスカーのメトロはこねで箱根湯本へ行き、折り返して各駅停車で小田原へと戻ったのを思い出す。ここから箱根湯本までは今回が3回目の乗車となった。
 
乗車記録 No.7
箱根登山鉄道 各駅停車 箱根湯本行
小田急1000系 小田原→箱根湯本
 
 小田原を発車した列車は、東海道本線の線路の隣を走り、一つトンネルをくぐった後、東海道本線の線路と別れる。小田原~箱根湯本間には、箱根板橋、風祭、入生田の3駅が設置されている。小田原で乗車した乗客は各車両に5・6人ほどだったが、この各駅で下車していく人も多かった。日中なら途中駅でロマンスカーとすれ違うこともよくあるこの区間。しかし、早朝なので、当然ロマンスカーの姿はない。
 
 カーブを曲がって東海道本線の線路と別れた後は早川に沿って箱根湯本へと進んでいく。ロマンスカーの車窓で眺めたときもそうだが、この川を見ると、箱根に来たなという実感が湧いてくる。川の奥にはこれから登って行くであろう箱根の山々が聳えているのが見える。手前は国道1号線、奥の高架橋は小田原厚木道路と西湘バイパスを連絡する道路である。このあたりは箱根への交通の要衝。箱根町方面へダイレクトに走る箱根新道は、この先の西湘バイパス・国道1号線との合流地点で分かれている。また、少し手前からは箱根ターンパイクと呼ばれる有料道路も分岐している。
 
 小田原から15分で終点の箱根湯本駅へやってきた。駅のホームに覆いかぶさるアーチ型の覆いが特徴的な箱根湯本駅。箱根駅伝はこの駅前の道路を走り抜けていくが、このあたりでは中継映像にチラチラと小田急の車両が写り込む。ついつい箱根湯本駅にロマンスカーが停車していないかなと見てしまう鉄道ファンも多いのではないかと思う。まだ朝6時半なので、当然、駅前のお店は営業開始前。日中は観光客で溢れかえっている駅前にもほとんど人はいない。自分で計画しておいて、これを言ったらおしまいなのだが、ここまで閑散としていると逆に観光気分は味わえないかもしれない。自分はまた夕方にここを通るので、湯本の賑わいはその時にバスの車窓から楽しみたいと思う。
 
 駅の近くに架かる早川の橋から温泉旅館が立ち並ぶ街を眺める。東海道本線の駅にもある早川。昔は芦ノ湖の流出河川だったそうだが、現在流出河川ではなくなっている。現在の芦ノ湖の水は、江戸時代に行われた灌漑事業により、深良水門と呼ばれる水門から静岡県裾野市の方へ流れているらしい。箱根登山鉄道は箱根湯本から先もこの川に沿って箱根の山を登って行く。
 前日の特急ふじさんに乗車したときはは、春の陽気でところどころ桜の咲いているところもあったが、この日は全国的に寒く、箱根もとても冷え込んでいた。もう春だからとちょっと薄着でやってきたが、もっと着込んでくればよかったと後悔した。

箱根湯本から登山電車を満喫する

 さて、駅へ戻って先へ進む。箱根湯本から先が個人的な箱根登山鉄道の未乗区間となる。ここまではほぼ小田急で、箱根登山鉄道とはいえ登山電車ではない、そんなイメージの区間だった。ここから先こそ、箱根登山鉄道の醍醐味とも言える区間となる。今回の旅で特に楽しみにしていた区間へ進んでいく。
 箱根登山鉄道の駅名標には駅の標高が記載されている。この駅名標は、鉄道の駅だけでなく、ロープウェイや海賊船の港にも設置されており、現在地が標高何メートルなのかを知ることができる。箱根湯本駅は標高96mらしい。ゴールデンコースにおける最高地点は、ロープウェイの途中の大涌谷。大涌谷は標高何メートルなのだろうか。
 
 乗車したのは普通強羅行き。1000形ベルニナⅡでの運行だった。朝も20分に1本ほどが運転されている箱根湯本~強羅間。日中はとても混雑していて、なかなか車窓をのんびりと楽しむというわけにはいかないが、朝であればそれが可能である。観光客の多くは9時以降にホテルをチェックアウトすると予想され、新宿からの最初のロマンスカーが到着するのも9時過ぎである。したがって、空いてる列車に乗車したいときは、この時間より前の列車を狙うといい。ただし、この路線は観光客輸送の傍らで通勤・通学輸送も担っている。そのため、8時前後の列車は通勤・通学の乗客増えることも念頭に置いておきたい。平日の場合、6時台か7時台の早い時間の列車は確実に空いている。乗車した列車は7時台前半の列車だったが、1両あたりの乗客は5人ほどだった。
 
乗車記録 No.8
箱根登山鉄道 各駅停車 強羅行
1000形ベルニナⅡ 箱根湯本→強羅
 
 箱根湯本を発車した列車は、駅を出た瞬間から急勾配を登り始める。車窓には湯本の街並みが広がった。その先では山の中を進み、塔ノ沢に停車。その後しばらく走ると、箱根登山鉄道の撮影地としても知られている早川橋梁を渡る。この鉄橋の先で列車はカーブを曲がり、進行方向を180度変える。箱根登山鉄道は急勾配を攻略するために途中で3回スイッチバックする。カーブを曲がった先にあるのが最初のスイッチバック地点となる出山信号所。ここで列車は進行方向を変える。箱根湯本で進行方向を向いた座席に座ると、すぐにこのスイッチバックで進行方向が変わるので、混雑している時は、最初に逆向きとなる座席を狙った方がいい。
 
 出山信号所で車掌と運転士が入れ替わる。停車中の車窓にはさっき通った早川橋梁が見えた。少し前に乗車した釜石線の仙人峠のオメガループを思い出す光景だった。信号所を発車した列車は、登ってきた箱根湯本方面の線路を横目に再び急勾配を登って行く。坂を登った先にあるのが大平台。国道1号ではヘアピンカーブでおなじみ場所である。
 
 大平台駅では再びスイッチバック。進行方向が逆になり、上大平台信号場まで逆向きに山を登る。車窓には大平台地区の旅館や住宅が見える。JRの路線なんかだと、上下のスイッチバック地点が一つの駅や信号場の構内にまとめられている場合が多いが、ここは大平台駅と上大平台信号所がそれぞれ独立していて、両方の駅で上下列車がすれ違えるようになっている。運行本数が比較的多いので、ここまででもう2本の列車とすれ違った。
 
 上大平台信号所で3回目の方向転換となり、その後も山登りは続く。車窓には並行して走る国道1号線が見える。この道こそ箱根駅伝のランナーたちが山登りに挑む道である。鉄道でもこんなに苦労しながら山を登っているのに、ここを走って登るなんてちょっと想像がつかない。列車は宮の下、小涌谷と停車し進んでいく。箱根駅伝の中継でもおなじみの地名である。小涌谷駅の手前では、国道1号との踏切を通る。箱根駅伝開催時はランナーを優先して通すことで知られる踏切である。小涌谷を出ると、小田原からほぼ並走してきた国道1号線と別れて、強羅を目指す。彫刻の森で3本目の列車とすれ違い、列車は終点の強羅へと到着した。
 
 強羅駅に到着。小田原から続く箱根登山鉄道鉄道線の終点駅がこの駅である。駅舎はログハウス風の造り。箱根登山鉄道はスイスのレーティッシュ鉄道と姉妹提携を結んでいる。そのためか駅もスイスの山岳鉄道風の駅になっている。一方、駅前はバスターミナルがあり、ここから各観光地への路線バスが発着している。箱根の中でも北側エリアの観光拠点となる駅である。
 駅名標に記載されたこの駅の標高は541mだった。登山電車は箱根湯本からわずか9kmほどの間に、450mほど山を登ってきたことになる。いかに急勾配を進んできたかが、この数字を見てもよく分かる。
 
 さて、この駅ではケーブルカーに乗り換えとなる。時刻は7時40分。ケーブルカーは始発が8時25分(ダイヤ改正前)なので、ここで45分の待ち合わせとなった。特にやることはないので、駅近くの踏切から箱根登山鉄道の車両を撮影して時間を潰した。本当は3000形を撮影してみたかったが、この時間は立て続けに1000形が運行されていたので、撮影はできなかった。
 強羅駅は手前と奥に2つホームがある面白い配置の駅。ケーブルカーが運行されている時間は、ケーブルカーとの乗り換えに便利な奥のホームを使い、それ以外の時間帯は手前のホームを使うという風に使い分けがされている。この時間の強羅駅はまだ観光客の姿は少ない。代わりに通学生の姿が多かった。駅の近くには私立の女子中学校・高校がある。毎日登山鉄道に乗って通学できるなんて、なんだかうらやましい。

箱根登山ケーブルカーで早雲山へ

 強羅からはケーブルカーに乗車し、早雲山駅へ向かった。箱根登山ケーブルカーとか箱根ケーブルカーと呼ばれることが一般的だが、正式には路線名は箱根登山鉄道鋼索線という。強羅から早雲山駅までの1.2kmを結ぶ鉄道路線である。
 このケーブルカーは基本的に観光利用がメインなので、8時から18時頃までの運行になっている。乗車した列車は8時25分発の列車で、この日の始発列車だった。残念ながらこの列車は、3月16日のダイヤ改正により既に廃止されている。早雲山から先のロープウェイの営業時間が9時からなので、この便に乗っても、結局早雲山で20分ほど待ち時間が生じる。そのため乗る人が少ないというのが廃止された理由なのだろうと思う。個人的には、だからこそ、空いているだろうと思ってこの便を選んだところがあった。予想は当たって、10人も乗車していなかった。空いてる方が乗客的には嬉しいが、営業する側からしてみれば、需要がない便は削減せざるを得ない。現在は8時45分発が初便となっている。
 箱根登山ケーブルカーの車内はケーブルカーとしては珍しいロングシート。現在の車両は2020年に導入された新しい車両である。この路線といえばワインレッドをまとった車両を思い出すのだが、その車両は既に置き換えられている。
 
乗車記録 No.9
箱根登山ケーブルカー 早雲山行
強羅→早雲山
 
 強羅駅から早雲山駅の間には公園下、公園上、中強羅、上強羅の4つの駅がある。各駅は240mずつ離れていて、公園下と上強羅、公園上と中強羅はそれぞれ上下のケーブルカーのが釣り合う位置に駅がある。公園上と中強羅の間にすれ違うポイントがあり、ここで上下のケーブルカーがすれ違う。公園とは箱根強羅公園のこと。強羅から早雲山の間は山の斜面に旅館やホテルが立ち並んでおり、企業の保養所も多く立地している。この路線には踏切がなく、駅によっては、線路の反対側に行くのも一苦労なので、途中駅には両側にホームがあり、上下どちらのケーブルカーも両側のドアを開ける。
 
 強羅駅から11分で早雲山駅に到着。箱根登山鉄道の鉄道路線はここが終点。これで箱根登山鉄道の全線への乗車を達成した。早雲山駅の標高は750m。ケーブルカーは1.2kmの間に200mも山を登った。箱根登山鉄道の乗りつぶしは完了したが、箱根ゴールデンコースの旅はここから先も続いていく。ここから先はロープウェイを使い、大涌谷を経由して芦ノ湖の北側にある桃源台へ向かう。先述のとおりロープウェイは9時からの営業開始。ここではそれまで20分の待ち合わせとなった。
 
 標高750mの早雲山駅。ここまで来ると、周囲を見渡せるようになる。今登っているのは箱根の火山の本体部分。箱根は外輪山を持つカルデラ火山で、中央の火山の周りを外輪山が取り囲むような地形をしている。奥に見える山々は、外輪山の山々。谷間から海の方へ早川が流れている。奥に見えるのは相模湾と東京湾。目を凝らすと、三浦半島の先端にある城ヶ島や房総半島が見えた。
 

ロープウェイに乗車してゴールデンコースの最高地点、大涌谷へ

 早雲山からはロープウェイを乗り継いで大涌谷を経由して芦ノ湖の北に位置する桃源台へと進んでいく。ロープウェイの系統は大涌谷で分離されており、桃源台へ行くには大涌谷で乗り換えとなる。ただし、今回はロープウェイの定期検査の時期の旅行となったため、後半区間の大涌谷~桃源台間は代行バスへの乗車となった。とりあえず早雲山からは大涌谷までのロープウェイに乗車した。
 
 9時になりロープウェイの営業開始となった。別に狙ったわけではないが、列に並んだら、運よくこの日の初便に乗車することができた。箱根のロープウェイは1分間隔でバンバン発着する。1つのゴンドラあたりの定員は18名とのことだが、初便に乗車したのは8人ほど。自分以外の全員が訪日観光客で、当然強羅から同じケーブルカーに乗り合わせた人たちだった。
 
乗車記録 No.10
箱根ロープウェイ 大涌谷行
早雲山→大涌谷
 
 早雲山を出たロープウェイは、まずは山の斜面をゆっくりと登って行く。眼下に見える道路がどんどん小さくなっていくと同時に視界も広がり、外輪山と箱根山の間の谷間の景色が広がる。今は冬枯れの山林が広がっているが、おそらく初夏の新緑が、秋には紅葉が楽しめるのだろうと思う。
 
 早雲山から見えていた山の頂上の支柱に到達すると、車内の乗客から歓声が上がった。視界は先ほど以上に開け、遠くには富士山が姿を現した。雪を積もらせて、輝く富士山はとても美しかった。ここからは大涌谷の火山の上を通って大涌谷駅まで走っていく。車内には硫黄の鼻をつく匂いが広がる。今も活動する火山の上を走るからこその体験である。右手奥にはガラスの森美術館などがある仙石原の街も見えていた。
 
 ロープウェイで大涌谷に到着。ここがゴールデンコースにおける最高地点。標高は1044mと1000mを越えた。強羅駅の標高が541mだったので、ケーブルカーとロープウェイで500mほど登ってきたことになり、箱根湯本からすれば1000m近く山を登ってきた形である。
 ロープウェイの始発に乗ってやってきたが、大涌谷は自家用車やレンタカーで訪れている人で既に賑わっていた。箱根山は、最近でも2015年に一時噴火活動が高まった時期があった。今も活発に活動を続ける火山の一つである。大涌谷からは噴煙が勢いよく上がっている。生きてる地球を感じれるそんな場所だった。
 
 ロープウェイからも見えていたが、大涌谷の駐車場からは富士山を眺めることができた。青空に映える富士の峰。富士山の絵を描くとき、中腹を青で塗ることが多いと思う。よくよく考えるとなぜ青なのか不思議だが、晴れた日の富士山の中腹は確かに青く見える。天候や季節によっても変わって来るのだろうが、朝の方が雲が少なくてきれいな富士山を見ることができるようだ。早朝から登ってきた甲斐があった。手前は桃源台へ下りるロープウェイ。このときは定期検査のため運休中だったので、ゴンドラの姿はなかった。
 

ロープウェイの代行バスに乗車して桃源台へ

 本来であれば、大涌谷から桃源台間もロープウェイで行くことができるが、この日は定期検査のため運休。ということで代わりに代行バスに乗車して桃源台へ向かった。ハイデッカー車両での運行で、所要時間はロープウェイと変わらない15分ほどだった。代行バスは小田急グループの箱根登山バスの運行だった。
 
乗車記録 No.11
箱根ロープウェイ代行バス 桃源台行
大涌谷→桃源台 箱根登山バス運行
 
 ホームページでは大変な混雑が予想されるため、迂回をとの記載があったが、ロープウェイの運行開始直後の便ということもあって、大涌谷から乗車したのは5人ほど。大涌谷から桃源台へのロープウェイは途中に姥子駅という途中駅があるので、バスはこの代替バス停にも停車し、そこから3人ほどが乗り込んだ。大涌谷からは終始下り坂で山を下りていく。ロープウェイは姥子駅を経由してくの字状に走っているが、道路はクネクネと曲がりながら山を下りる。ロープウェイからは芦ノ湖を見れるらしいので、次回箱根に来た時には、この区間のロープウェイにもぜひ乗車してみたい。
 
 やがて車窓には芦ノ湖が姿を現す。芦ノ湖遊覧船が発着する湖尻港の前を通って、箱根遊覧船が発着する桃源台へ向かう。2つの遊覧船がある芦ノ湖。芦ノ湖遊覧船は、もともと西武グループが運行していた遊覧船だった。現在は富士急行に売却され、富士急行グループの遊覧船へと変わっている。一方、桃源台から発着するのが、小田急箱根グループの箱根観光船が運行する箱根海賊船。箱根フリーパスが使え、ロープウェイからダイレクトに接続するのはこちらの船である。
 
 桃源台に到着。代行バスは建物の横に到着した。今回は一部区間で代行バスへの乗車となったが、早雲山から続く箱根のロープウェイはここが終点。桃源台は芦ノ湖の北側のターミナルで、各方面への路線バスも発着している。ゴールデンコースはここから箱根海賊船に乗船し、芦ノ湖の南側にある箱根町港、元箱根港を目指す流れ。早速、海賊船のりばへ向かい、船に乗船した。
 

箱根海賊船で芦ノ湖を遊覧

 桃源台からはロープウェイから箱根海賊船に乗り換えて、箱根町港へ向かう。箱根海賊船は桃源台港-箱根町港-元箱根港-桃源台港の順に周遊して芦ノ湖の南北を結び、ゴールデンコースの一翼を担っている。写真は到着港の箱根町港で撮影した乗船した船。いくつか船の種類があるが、今回乗船したのはビクトリー号という船だった。
 時刻は10時。ホテルをチェックアウトして動きだすにはちょうどいい時間になり、観光客の姿も一気に増えた。のりばへ行くと、150人くらいの長い行列。でも混雑回避の策はある。箱根海賊船には普通客室と特別客室の2つがあり、特別料金が必要な特別船室の方が断然空いている。箱根フリーパスを提示すると割引価格の700円で特別船室に入れるので、混雑回避におススメである。窓口で特別船室の乗船券を購入し、特別船室の列に並ぶ。特別船室の列は普通船室の4分の1以下の長さだった。乗船券を購入したときにリストバンドを渡されるので、下船するまではそれを着用する。乗船も特別船室の乗客から先に案内されるので、とてもスムーズに乗船できた。
 
乗車記録 No.12
箱根海賊船  ビクトリー
桃源台→箱根町港
 
 多くの乗客を乗せ、桃源台港を出港。箱根町港までの所要時間は25分ほど。天気もよく風が心地いいので、客室ではなくデッキで景色を眺めていくことにした。デッキも特別船室と普通船室とでエリア分けがなされている。特別船室の方が前方エリアとなるので、船が湖を進んでいく様子が見れて楽しい。桃源台港逆向きに出発するが、すぐに方向転換して前を向く。
 
 ゆっくりと芦ノ湖を航行する海賊船。両側を山に囲まれた広い湖の真ん中を箱根町港へと進んでいく。風が少し強かったものの、やっぱり晴れた日はデッキからの眺めを楽しみたいと思う。登山電車、ケーブルカー、ロープウェイと乗り継いで、船に乗る。ほとんど観光していないが、いろんな乗り物が楽しめるだけで個人的には十分観光気分だった。
 
 次第に箱根町港が近づいてくる。船の進行方向左手には箱根山が見えた。箱根山の奥にあるのが先ほどまでいた大涌谷。芦ノ湖は箱根山のカルデラに形成された湖。中央に火山があり、その周りを外輪山が取り囲んでいる。その間の谷間に形成されているのが芦ノ湖である。九州だと阿蘇によく似た地形だなと思う。
 桃源台から元箱根港までの間には、箱根駒ヶ岳ロープウェイという別のロープウェイもある。このロープウェイで山を登ると、展望台からは芦ノ湖だけでなく、関東平野も望めるとのこと。今回は初めての箱根旅で王道ルートを進んでいる。1日だけなので乗れる路線も限られるが、いずれは箱根に宿泊して数日かけて、もっといろんなバスやロープウェイに乗車し、点在する観光地も巡ってみたい。
 

箱根町港で箱根駅伝往路ゴール地点を見学

 小田原から箱根湯本、強羅、早雲山、大涌谷、桃源台と経由しながらゴールデンコースを進み、箱根町港までやってきた。登山電車やケーブルカー、ロープウェイ、そして船の旅といろんな乗りものに乗車することがてき、本当に楽しい行程だった。箱根町港といえば箱根駅伝の往路ゴール地点となっている場所。海賊船のりばの近くに往路のゴール地点がある。早速それを見に行くことにした。
 
 海賊船のりばから歩いて国道1号線へ。テレビで何度も見たことあるこの独特な舗装の道が目の前に現れた。大手町をスタートした各大学の襷は、5人の選手により、5時間30分あまりで箱根町に運ばれてくる。そして、往路のゴール地点はもう目前に迫っている。勝手に箱根駅伝の5区のラストスパートのシーンが頭に浮かんだ。日テレのアナウンサーの熱い実況、そして沿道からの声援、さらには運営管理車の車内からスピーカーを使って選手にゲキを飛ばす監督の声。1月2日の午後の光景。まさにここがその現場である。
 
 国道1号線の箱根町港駐車場入口交差点を右折すると、そこが往路のゴール地点である。交差点を曲がった選手は大声援のなか、ここでゴールテープを切る。待っている関係者のところに駆け込む選手もいれば、その場に倒れ込む選手もいる。小田原からここまで走ってくるなんて本当に凄い。奥には箱根の外輪山の間からひょっこりと富士山が顔を出す。おそらく、選手は見ている暇はないし、群衆の中では見えないかもしれない。それでも富士山は、ここまで走ってきた選手を讃えるように、遠くから箱根を見守っている。
 自分も、昨日大手町から東西線に乗車し、以降中野、新宿、御殿場、国府津、沼津、熱海、小田原、箱根湯本、強羅、早雲山、大涌谷、桃源台と経由して、ここへやってきた。文字通りに駅を伝って、列車を乗り継ぐ駅伝旅のゴールテープを踏む。それと同時に、ここから翌日松本を経由して福岡空港へ戻るまでの復路のスタートラインを踏んだ。
 
 箱根駅伝の往路ゴール地点の隣には箱根駅伝ミュージアムがある。いい機会なので、ここを見学した。箱根駅伝のこれまでの歴史や数々の記録を知ることができた。前半は小田原から登山電車、ロープウェイ、海賊船を乗り継いでここまできた。登山電車の小涌谷駅付近までは箱根駅伝のルートである国道1号とほぼ並走しながら走ってきたが、そこから先は少し離れたところを進んできた。しかし、せっかくなら、選手が走る国道1号も通ってみたい。ということで、実はこの後もう一度小田原から路線バスで山を登る。そこではまた山登りを担当する選手のすごさを感じることになった。
 
 箱根町港から路線バスで箱根湯本・小田原へ戻れば、ゴールデンルートを一周したことになる。しかし、この日乗車予定としていたもう一つの未乗路線、十国峠のケーブルカーは、ゴールデンコースから離れた場所を走っている。したがって、自分はこのあたりでゴールデンルートを離脱する。
 
乗車記録 No.13
箱根登山バス[H] 小田原駅東口行
箱根町港→元箱根港
 
 十国峠へのバスの始発は元箱根バス停。箱根町港バス停の目の前にある箱根町バス停からも乗車できるが、時間あるので始発のバス停から乗車することにした。とりあえず箱根町港からは小田原駅東口行の箱根登山バスに乗車して、元箱根港で下車した。
 
次話