【旅行記】JR東海未乗路線と箱根エリアの鉄道路線を巡る旅~十国峠パノラマケーブルカーに乗車する~
前話
小田原駅をスタートし、箱根ゴールデンコースを進んできた2日目。箱根町港で、箱根駅伝の往路ゴール地点と箱根駅伝ミュージアムを観光し、そこから路線バスで隣の元箱根へ移動してきた。小田原駅から続けてきたゴールデンコースとはここで一旦お別れ。元箱根からはゴールデンルートを離れ、ケーブルカーが走る十国峠へ向かった。
ゴールデンコースを離脱し、伊豆箱根バスで十国峠へ

箱根町港からバスに乗車して到着した元箱根港。ここは箱根町港と同じく、路線バスと箱根海賊船を乗り継げる観光拠点になっている。バス停の隣には、国道1号線を跨ぐ形で大きな鳥居が建っている。箱根神社の鳥居で、箱根駅伝においても芦ノ湖エリアに到達したことを示すシンボルになっている。
次に乗車する熱海駅行のバスは、この元箱根港バス停にも停車するが、始発は元箱根というバス停である。ほぼ同じ名前のバス停だが、2つのバス停は徒歩5分の距離がある。せっかくなら始発のバス停から乗車しようということで、歩いて元箱根バス停へ向かった。

元箱根バス停へとやってきた。先ほどまでいた元箱根港は小田急グループのターミナルだったが、元箱根は伊豆箱根バスのターミナルとなっている。バスのカラーと、ライオンのマークが示すように、伊豆箱根バスは西武グループのバス会社。前編でも紹介したが、かつて箱根は小田急と西武が熾烈な観光客の奪い合いを行っていた場所として知られ、その様子は「箱根山戦争」と呼ばれている。箱根では随所にその箱根山戦争の名残りを見ることができる。元箱根では街の両側にライバル同士が遊覧船の港を作り、バスターミナルを作った。先ほどまでいた箱根町も、小田急グループは箱根町港、西武グループは箱根関所跡と、別のターミナルを持っている。桃源台・湖尻港についても同様である。
このように箱根山戦争の名残りが多く残る箱根だが、現在では小田急グループがシェアの多くを握っている状態と言える。箱根ゴールデンコースとそこから伸びる路線バス網は利便性が高く、観光客から人気。さらに箱根フリーパスの回遊性の高さも小田急グループの魅力の一つになっている。一方、西武グループの方は、箱根における事業をやや縮小させている。箱根海賊船のライバルだった芦ノ湖遊覧船は、富士急行へ売却され、箱根エリアで利用できた伊豆箱根バスの一日乗車券も2023年度末をもって廃止された。西武鉄道本体では、新宿から小田急を利用し、箱根エリアでは箱根フリーパスを利用する形の「西武線発 デジタル箱根フリーパス」を発売している。かつて戦争と呼ばれるような激しい競争を繰り広げた両グループだが、現在は協調路線へ転じている。

元箱根から乗車したのは、熱海駅行きの路線バス。箱根から熱海へ県境を跨いで走り、2つの観光地を結ぶ路線である。十国峠はこのバス路線のちょうど中間点付近にあるので、そこで一旦途中下車する。同じ乗り場からは湯河原駅へ向かうバスも運行されているようだったが、現在は運休中。3番のりばは道から見て1番奥にあり、バスが止まっているとバス停の標柱が隠れるので、最初どこがバスのりばなのか戸惑った。
乗車記録 No.14
伊豆箱根バス 熱海駅行
元箱根→十国峠登り口
元箱根では3名が乗車して発車。次の元箱根港では箱根海賊船から乗り継いだと見られる訪日客を乗せた。その後は乗降がなく、芦ノ湖エリアを離れ、標高を上げて箱根峠へ。箱根新道との合流地点の先で国道1号線と別れ、その後は県道20号線熱海箱根峠線を走っていった。山の尾根を進む県道からは、三島や沼津の街並みと駿河湾、反対側には相模湾を眺めることができた。道の途中からは、箱根ターンパイク、湯河原パークウェイといった有料道路が分岐する。有料道路がたくさんあるのは行楽地らしい光景である。

元箱根から30分ほどで十国峠登り口バス停に到着。森の駅箱根十国峠という建物の外がバス停となっている。バス停の名前の通り、この建物が十国峠ケーブルカーの発着点。建物の一階は飲食店やお土産売り場があり、ケーブルカーのりばは2階にあった。早速往復の乗車券を購入して、ケーブルカーに乗車しにいった。
十国峠パノラマケーブルカーに乗車

十国峠のケーブルカーは、正式には十国峠株式会社が運行する十国鋼索線という路線である。十国峠登り口駅から十国峠駅までを結ぶ短いケーブルカーで、路線の全長はわずか300mとなっている。2021年まで伊豆箱根鉄道のケーブルカー路線だったが、同年12月に十国峠関連事業が伊豆箱根鉄道から分離され、2022年2月に十国峠株式会社が富士急行に売却されたため、現在は富士急行グループに属する会社の路線となっている。近年では箱根周辺の西武グループの事業が富士急行に売却される事例が多く、芦ノ湖遊覧船も十国峠の事業を追うように昨年富士急行に売却されている。
乗りつぶしに本格的に取り組み始めて、10年くらいが経つが、この路線の存在を知ったのは割と最近の話。最初知ったときはそんなところにケーブルカーがあるのかと驚いたことを覚えている。専ら観光用のケーブルカーであり、路線バスに乗車して訪れる人よりも車で訪れる人が多い。この路線を鉄道路線として見ているのは、マニアックな鉄道ファンだけかもしれないが、このケーブルカーも列記とした鉄道事業法に基づき運行される鉄道路線の一つである。
乗車記録 No.15
十国峠パノラマケーブルカー 十国峠行
十国峠登り口→十国峠

十国峠ケーブルは15分に1本の運転。このケーブルカーはペットと一緒に乗車が可能で、乗車便にも犬が2・3匹乗ってきて、他の乗客に可愛がられていた。乗車時間は3分。山の斜面を登って行くケーブルカーの後方の車窓には静岡方面の景色が広がる。もちろん富士山も車窓に楽しむことができた。全国各地にいろんなケーブルカーがあるが、このケーブルカーはその中でも特に乗車中の眺めがいい路線ではないかと思う。まわりに木々がないのでとても視界が広かった。
十国を望む大パノラマを楽しむ

十国峠の展望台へやってきた。十国峠は標高765mの日金山の山頂にある峠で、周辺を一望すると十国が見えることがその名の由来である。その十国とは、伊豆、相模、駿河、遠江、甲斐、信濃、武蔵、安房、上総、下総のこと。山の頂上に立っているので、ほぼ360度の眺望を楽しめる。その中でもやはり見ごたえがあるのが、何と言っても富士山。箱根外輪山の山並みが右肩上がりになっているその背後に円錐の富士山が聳えていて美しい。写真でもうっすら写っているが、富士山の左側には雪を積もらせた南アルプスが見える。南アルプスが見えるということはそこはもう信濃(長野県)ということになる。

一方、こちらは関東方面の眺望。眼下に見えるのは湯河原の街。その先に延びる半島は真鶴半島である。写真の左手の山の奥にはうっすら海岸線が見えるが、これが相模湾の海岸線。海岸線を右側へ辿っていくと、写真では分かりにくいが三浦半島が確認できた。さらにその奥には房総半島も見える。確かに千葉県まで一望できることが分かる。視界が良好な時は、東京スカイツリーも見えるとのこと。写真で撮影して、明るさを変えてみると、ほんとにうっすらだが、スカイツリーが写っていた。横浜のランドマークタワーは拡大するとはっきりとその形をとらえることができた。

そして今度は駿河湾方面を眺めてみる。手前に見えるのが三島と沼津の街。駿河湾と街の間に見える山々は沼津山地と呼ばれている。左手には伊豆半島が延びるが、右手は駿河湾をまわりこむように海岸線がうっすらと確認できる。沼津山地の右手の終端の先あたりが静岡市周辺。そこから御前崎へ海岸線が延びているのがわかる。この日の宿泊地は静岡。ここから遠くこの日の宿泊地を眺める。あとで三島や沼津にも行くことになるが、その前にもう一度箱根の山を登るので、三島へ辿り着くのは日暮れ後になる予定。いろんな方向の眺望を楽しめる十国峠。1日中、ここでのんびりするそんな旅も楽しいのではないかと思う。

各方面の眺望を眺めた後は、コンビニで買った昼食を食べて、しばらくまったりと過ごした。もっと十国峠からの眺望を楽しみたい気持ちはあったが、熱海へ向かうバスの時間が近づいてきたので、再び移動を開始。下りのケーブルカーで山麓へとおり、再び箱根からやってきたバスに乗車して、熱海駅へ向かった。
乗車記録 No.16
十国峠パノラマケーブルカー 十国峠登り口行
十国峠→十国峠登り口
路線バスで熱海の急坂を下り熱海駅へ

十国峠登り口までは山の尾根に近い場所を走る県道20号熱海箱根峠線だが、十国峠登り口以降は急な下り坂となる。バスはヘアピンカーブを曲がりながら、急坂を駆け下りていく。やがて、熱海の街が見えてきて、笹良ヶ台団地という団地を経由した。この周辺もものすごい急な坂道になっていて、山の斜面に開発された熱海を象徴するような光景だった。さら坂を下ると、来宮神社の脇を通り、来宮駅の近くを通って、市街地の中心部へ向かっていく。十国峠から30分以上坂を下り続けて、市街地中心部に到達すると、車窓には海岸が現れた。十国峠からケーブルカーと路線バスで750m以上下ってきたことになる。直線距離で十国峠と熱海の海岸は5kmほどしか離れていないので、そう考えればいかに急な斜面を下ってきたかがよく分かる。1日目も熱海駅から歩いて訪れた熱海の海岸を横目に進み、再び坂を登り、終点熱海駅に到着した。
乗車記録 No.17
伊豆箱根バス 熱海駅行
十国峠登り口→熱海駅
東海道線の普通列車でこの日のスタート地点、小田原へ

2日連続で熱海駅にやってきた。この日は平日だったが、駅前は日曜だった昨日と変わらない賑わいを見せていた。熱海からはこれまた2日連続で、東海道本線に乗車して、この日のスタート地点となった小田原駅へ戻った。これにより、早朝から箱根湯本、強羅、早雲山、大涌谷、桃源台、箱根町港・元箱根、十国峠、熱海と経由して箱根・熱海エリアをぐるっと一周したことになった。

熱海から乗車したのは上野東京ライン高崎線直通の普通高崎行き。1日目にこの区間に乗車したときはE231系だったが、今回はE233系だった。昨日はもう日が暮れていたので、車窓を楽しむことはできなかった。そんなわけで今回は海側の座席に座って、相模湾を眺めながら移動することにした。
乗車記録 No.18
東海道本線 普通 高崎行
熱海→小田原 E233系3000番台

列車は先ほど十国峠から眺めた湯河原を経由して小田原へと進んでいく。車窓には相模湾。青い湘南の海が美しく輝く。根府川はホームから相模湾が楽しめる駅として知られる。このあと都心を走る15両の長い普通列車が、のどかな海を眺める駅に停車する。そのギャップが面白い。
熱海から伊豆半島方面へ走る伊東線と伊豆急行にはまだ乗車していない。乗りつぶしもまもなく90%に到達しようとしているのだが、最後に乗車する路線をこの2路線にしたいなと考えている。次ここを通る時はもしかしたらその時になるかもしれない。

箱根・熱海エリアをぐるっと一周して、小田原駅へ戻ってきた。ここからは、この日の宿泊地の静岡駅へ向けて移動を開始する。静岡に行くのに、なぜ熱海から小田原に戻ってきたのかと言えば、まだ箱根エリアで乗りたい路線が残っているからである。ここからは国道1号線を経由する路線バス2本を乗り継いで、国道1号線・東海道ルートで静岡駅へ向かうことにした。
次話