【旅行記】室戸まわりで阿佐海岸鉄道を再訪する旅~バスと列車を乗り継ぎ福山へ~

夜行バスで5年ぶりに四国へ旅に出る
筆者は2019年3月に四国地方の鉄道路線を完乗している。四国は学生時代に夜行バスを使って毎年のように旅していた思い出の地。福岡からは高松、松山行きのバスに加えて、岡山行きのバスも使える。旅費を節約したい学生にとっては格好の旅先だった。完乗後も2020年1月に尾道・しまなみ海道旅で今治に立ち寄っているが、他地域の乗りつぶしを優先してきたこともあって、いつの間にか最後の訪問から5年が経過しようとしていた。
5年訪れないうちに、四国の鉄道路線にも変化があった。2017年に乗車した阿佐海岸鉄道では、2021年12月からDMV(デュアル・モード・ビークル)の運行が開始され、鉄道とバスの二刀流運行が始まった。DMVが営業運転に本格的に投入されるのはこれが初めて。四国旅行を企画する時は、このDMV乗車をプランに組み込みたいと考えていた。
今回はこのDMV乗車を旅程に組み込みつつ、室戸周りで路線バスを乗り継ぎながら、阿佐海岸鉄道の沿線を訪れる。前回この地を訪れた旅でも、室戸周りの旅は気になっていたのだが、日程と予算の都合上見送っていた。阿佐海岸鉄道を再訪するにあたっては、ぜひ室戸周りで行ってみたいと考えていたので、これを実行してみる。
学生時代の青春の旅をもう一度味わいつつ、四国の未踏のエリアを訪れる。懐かしさ半分、新しさ半分、そんな旅程となった。青春の四国旅に夜行バスは欠かせない存在。今回も行きで福岡-広島間、帰りで高松-福岡間の夜行バスを利用する。旅の本体は1泊2日。広島スタートの1日目は、室戸周りの乗り継ぎ旅のスタート地点となる高知へ移動していく。直行のバスもあるが、どうせならいろんな路線に乗車してみたいので、今回は府中(広島県)、福山、松山を経由しながら高速バス、列車を乗り継いで向かった。2日目が今回の旅の主役。高知から高知東部交通の路線バスを乗り継いで、阿佐海岸鉄道沿線を目指していく。途中室戸岬では観光時間も設けた。DMV乗車後は牟岐線の普通列車と特急うずしおを乗り継いで高松へ。そこから夜行バスで九州へ戻る。
最近はホテルに前泊する旅行が多く、コロナ禍もあって夜行バスを使うのも久しぶりだった。夜行バス旅は体力勝負となることは、学生時代の旅で心得ている。数日前から睡眠をしっかりとって体調を整えつつ、旅行当日を迎えた。
前旅
JRバス中国の広島ドリーム博多号に乗車

博多駅に隣接する博多バスターミナルが今回の旅のスタート地点。クリスマスまで数日となったこの日の博多駅は、毎年恒例のイルミネーションが点灯していて、クリスマスムードが漂っていた。
今回は四国の旅だが、この記事ではまだ四国には上陸しない。今回は夜行バスで直接四国へ上陸するのではなく、まずは夜行バスで広島へ行き、そこから福山を経由して、しまなみ海道経由で四国に上陸する。2020年1月の尾道旅行で通ったしまなみ海道の車窓があまりに素晴らしかったので、もう一度眺めてみたいという自分たっての(?)希望によりこのルートとなった。

博多バスターミナルからは「広島ドリーム博多号」に乗車した。福岡-広島間には昼行高速バス「広福ライナー」が運行されている。「広島ドリーム博多号」は、その夜行便という位置づけである。現在は名称が分かれているが、かつては広福ライナーの夜行便として運行されていた。広福ライナー夜行便時代は福岡-広島・福山間で、JR九州バスと中国バスの共同運行という形で運行されていた。しかし、2022年12月に路線再編が行われ、運行区間が福岡-広島間に変更となり、中国バスが運行会社から外れ、JR九州バスと中国JRバス(現JRバス中国)との共同運行となった。これにより名称もJRバスの他の夜行バスと名称を揃える形で「広島ドリーム博多号」となった。路線再編の背景には、同区間でのWILLER(祐徳バス)の競合路線開設がある。昼行便、夜行便それぞれで競合する形となって以降は広福ライナー、広島ドリーム博多号ともに運行の縮小が行われている。広福ライナーは9往復あったものが、5往復となり、夜行便も2023年10月から週末のみの運行に変わった。
昼行便の広福ライナーには1度乗車したことがあるが、この区間の夜行便に乗車するのは初めてだった。というのも以前の広福ライナー夜行便時代は4列車が使用されていて、一人旅おいては使いづらかった。広島ドリーム博多号への名称変更とともに、車両タイプも独立3列シート車に変更となった。これにより一人旅でも使いやすくなった。乗車したJRバス中国担当便は、HPによればプライベートカーテンなしとなっているが、乗車した車両には装備されていた。カーテンの有る無しで快適性もかなり変わってくる。
広島ドリーム博多号は博多バスターミナルを22時35分に発車。西鉄天神高速バスターミナルには乗り入れないため、博多が始発である。この日は土曜日の夜で、マリンメッセでライブが行われていたため博多の時点で満席。直前の高松行が少し遅れて発車したため、このバスも数分遅れて博多バスターミナルを発車した。福岡市内の宿は超がつくほど高騰しているので、イベント開催時の週末の需要は高い。
乗車記録 No.1
JRバス中国 広島ドリーム博多号 広島駅新幹線口行
博多バスターミナル→広島バスセンター

博多を出たバスは福岡都市高速、九州道、北九州都市高速を経由して、小倉駅前へ。以前は小倉南IC経由していたが、2023年7月から小倉駅前経由に変わった。博多の時点で満席だったので、小倉駅からの乗客はおらず、そのまま発車。再び北九州都市高速経由で九州道へ戻った後、関門橋直前のめかりPAで開放休憩が行われた。めかりPAを発車したのは0時30分頃。ここで消灯となった。もうこの時点で広島まで5時間を切っている。運行時間が短い夜行バスは焦って寝れない。
バスは早朝4時40分頃には広島県の宮島SAに到着。ここで2回目の開放休憩が取られた。正直あまり寝れていないが、旅前の夜行バスはいつもこんなもの。早い時間の開放休憩なので、車内放送は行われず、発車時間はドア付近に掲示されるシステムになっていた。めかりからノンストップで運転すれば、宮島には2時間ほどで着く。バスは途中、佐波川SA(時間から推測)で2時間ほど停車しており、乗務員の休憩が行われていた。宮島SA発車後は、山陽道を五日市ICで下り、広域公園前、大塚駅前に停車。広島都市高速4号線から広島市街に入った。

バスは定刻より20分ほど早い、5時35分頃に広島バスセンターに到着。バスは広島駅新幹線口まで行くが、今回はここでバスを下車した。おそらく乗車したバスが、おそらくこの日一番に到着したバスのはず。いつもはたくさんの人がバスを待ち、多くのバスが行き交っているバスターミナルもさすがにこの時間は静まり返っていた。トータル7時間ほどの乗車時間だったが、寝れたのは3時間ほど。なかなか体勢が定まらなかったが、最後の方にはいい姿勢を見つけて、割としっかり寝ることができた。やはり宿泊代が浮くのが最大の利点。土日の宿泊費は広島市内も高いので、今後も利用する機会があるのではないかと思う。
リードライナーに乗車して府中へ
さて、広島バスセンターから今回の旅の1日目がスタートした。この日は1日かけて翌日の室戸・DMV乗車旅の起点になる高知へ移動していく。先述の通り、今回はしまなみ街道から四国入りする。広島バスセンターからしまなみ街道を通って四国へ行くバスは現在今治線の運行がある。しかし、この路線に乗車して今治へ行っても、その先での乗り継ぎに困る。そこで広島からは松山行きのバスが出ている福山へ移動することにした。
ちなみに、広島から高知へは直行の高速バス「土佐エクスプレス」も1日2往復運行されている。直接行きたい場合はこの路線が便利である。

広島からは福山へは高速バス「ローズライナー」が運行されていて、広島バスセンターに到着するまでは、この路線に乗車するつもりでいた。しかし、バスセンターで時刻表を眺めていたところ、福山行きのバスの前に府中行きが発車することがわかった。このバスに乗り、府中で福塩線に乗り換えれば、時間的にもいい感じに福山へ行けるらしい。ローズライナーで福山へ行った場合、約2時間の待ち合わせになるが、府中経由だと1時間に短縮できるようだ。こういう時はマイナーな路線を選んだおいた方が、後々後悔しなくて済む。広島-福山間は今後も移動することがあると思うので、急遽予定を変更して、広島バスセンターからは府中行きのバスに乗車することにした。

広島バスセンターから乗車したのはリードライナーの道の駅びんご府中行き。広島交通グループで貸切バスを主体に運行する広交観光運行便だった。リードライナーは広島交通と中国バスの共同運行で1日2往復が運行されている。広島交通担当便は2024年7月から当面の間、広交観光が運行している。広交観光は貸切バスのほか、高速バスや路線バスの運行も行っている。
リードライナーは広島市街地と広島県東部を結ぶバス路線の一つである。広島バスセンターから広島県方面には、福山、尾道・因島、府中、世羅・上下・甲奴の4方面へ、高速バスが運行されている。福山から順に「ローズライナー」、「フラワーライナー」、「リードライナー」、「ピースライナー」という愛称が設定されている。これから乗車する府中行きリードライナー以外の3路線の存在は知っていたが、リードライナーの存在はバスセンターで時刻表を眺めていた初めて知った。
リードライナーは広島バスセンターの6番のりばから発車する。こののりばは広島県東部方面へのライナーと、呉を結ぶ「クレアライン」が発着している。クレアラインの運行本数が圧倒的に多く、その合間を縫って東部方面へのライナーが発着する形となっている。この日は日曜日で、クレアラインの始発が遅いため、これから乗車する場合がこののりばの初バスだった。
乗車記録 No.2
広交観光 リードライナー 道の駅びんご府中行
広島バスセンター→道の駅びんご府中

広島バスセンターでは自分を含めて3人が乗車した。バスセンターを発車したバスは、県立総合体育館前交差点を直進し、そのまま国道54号線祇園新道へ入る。広島はバスセンターから山陽道広島ICまで一回も曲がることなく行ける。日曜朝だったので、交通量も少なくスイスイと進んでいった。バスは広島ICまでの間に、新白島駅、不動院、中筋駅に停車していく。これら3つのバス停はこの路線に限らず多くの高速バスが停車するバス停である。各バス停数人がバスを待っていたが、直後に来る福山行きを待つ人たちだった。結局、途中のバス停からの乗車はなかった。

広島ICから高速道路へ入ったバスは、三原久井ICまで山陽道を走っていく。夜行バスであまり寝ていなかったので、高速走行に入ると、バスの揺れの心地よさに少し寝てしまった。起きると、西条IC付近を走行中で、外もすっかり明るくなっていた。西条ICから広島空港最寄りの河内ICまでの区間は、数か月前の北海道旅でも通った区間。実はこの時も前泊か今回と同じ夜行バスかで迷ったのだが、さすがに体力的に持たなそうだったので、西条での前泊を選んだのだった。本郷ICの先で山陽本線の上を通ると、高坂PAへ入る。バスはここにある高坂BSに停車した。この高坂PA付近は山陽道で最も標高が高い。この日広島の山間部の方では雪が降っていて、PAやその周辺はうっすらと雪化粧していた。

三原久井ICで高速道路を下りると、ここから府中まで国道486号線を走っていく。ICを下りてすぐのところに三原久井バス停があり、ここで1人が下車した。広島と世羅・上下・甲奴を結ぶ「ピースライナー」はICの出入り口の交差点を左折する。三原久井バス停にはピースライナーも停車するが、両路線でバス停の位置が異なっている。この先バスはしばらく山間部を走っていった。

山の中をしばらく走ると、尾道市の御調地区に入った。御調は「みつぎ」と読み、難読地名として知られている。バスはここで道の駅に設置されたクロスロードみつぎバス停に停車。1人が下車して行った。ややこしいことに、広島県には単純に読めば「みつぎ」と読めるのに「みよし」と読む、「三次」が存在する。三次と御調の混同を避けるために、バスの時刻表などにも「みつぎ」と書かれている。ちなみに、このバスの終点は府中だが、府中も広島県内には2ヵ所ある。それぞれ安芸と備後の国府の所在地に由来するが、ここでも混同が生じるため、バスの案内上は単に府中とは案内されず、終点のバス停である「びんご府中」が使われている。

クロスロードみつぎで乗客は自分一人に。御調の小さな街を出たバスは、その後もしばらく御調川に沿って国道を走り、府中市へ入った。福塩線の下川辺駅の南側で線路と直角に交わる踏切を通過。このあたりで御調川は芦田川に流れ込み、国道も芦田川と並走する。中国バスの府中営業所を通過して、府中市の市街地へ入り、バスは終点の道の駅びんご府中に到着した。

終点の道の駅びんご府中でバスを下車した。今回はアプリ「バスもり!」で片道券を購入して乗車した。下車する際に運転士から提示されるQRコードを読み取り、使用済み画面を運転士に提示すれば下車できる。現金払いや乗車券での乗車に比べれば、多少降りるのに時間がかかるが、やはり現金を用意する必要がないので便利だった。
バスの終点道の駅びんご府中は、JR福塩線府中駅の裏手にある。道の駅の隣には、府中天満屋があり、バス停からも直接天満屋へ行けるようになっていた。府中での乗り換え時間は20分。府中駅には駅の表裏を結ぶ自由通路はないので、駅まで多少迂回が必要だが、5分もかからずに駅へ着くことができた。
久しぶりに福塩線に乗車

道の駅から歩いて福塩線の府中駅にやってきた。この駅へ来るのは、福塩線・芸備線・木次線の旅を企画した2021年10月以来およそ3年ぶりだった。その時は福山で前泊し、始発列車でここへ来て、三次行の普通列車に乗り換えている。
福塩線はこの駅が電化区間と非電化区間の境目となっている。輸送密度もこの駅の前後で大きく変わり、ここから福山方面は福山の近郊区間となり多くの乗客の姿がある一方、ここから塩町・三次方面は利用者も少なく、列車本数も少ない区間となる。以前はこの駅を境に福山側は岡山支社、塩町側は広島支社に管轄が分かれていたが、現在は両支社が中国統括本部にまとめられたため、支社境ではない。しかし、広島側の気動車と岡山側の電車が接続する駅という点は変わらない。

福塩線は福山-神辺駅間でしかICカードを利用できないので、きっぷを購入して乗車する必要がある。府中駅から広島駅までの運賃は510円。この駅のみどりの窓口は廃止済みだが、みどりの券売機が設置されており、クレジットカードでも乗車券を買うことができた。現金払いでもいいのだが、帰ってからの旅費の精算の手間を最小限にするために、なるべくクレジットカードかICカードで決済するようにしている。
改札内に入るとなんだが前回来た時と雰囲気が変わっている気がした。それもそのはず、ホームの先にあった検修庫がなくなり更地になっていた。

まもなく福山からの普通列車が到着。この折り返しの普通列車福山行に乗車した。福塩線では、朝夕の一部列車に115系も使用されているが、大半の列車は105系で運転されている。福山-府中間の列車は、かつては途中の万能倉駅で折り返す列車もあったが、数年前に廃止されたため、現在は井原鉄道からの直通列車を除いて、全てが府中発着である。車両の送り込みと返却の関係上、福山では下り1本、上り2本が山陽本線へ直通している。このうち、上りの1本は105系で運転されており、下りの岡山発福山行と合わせて、この車両の貴重な山陽本線運用となっている。JR西日本の105系も今や岡山地区と山口地区でしか見れない。初めて広島に行った時は105系がたくさん走っていたのを思い出す。あれから10年くらいしか経過していないのに、走る列車も駅も大きく変わった。岡山地区でも227系500番台の導入が進められているが、福塩線を走る日も来るのだろうか。
乗車記録 No.3
福塩線 普通 福山行
府中→福山 105系

府中と福山間の所要時間は45分ほど。府中駅から乗車した人は少なかったが、各駅で乗車があり、福山へ近づくにつれ、乗客の数はどんどん増えていった。福塩線もこうした機会でなければなかなか乗る機会はない。久しぶりに福塩線に乗ったら、非電化区間にも乗ってみたくなった。2~3年前によく出かけた中国地方も最近は旅に出ていない。また近いうちに三次の方にも列車やバスで行ってみたいと思っている。

福塩線の列車で福山に到着。当初の計画では福山で2時間待ちの予定だったが、1時間に短縮できた。それと同時に見知らぬ高速バスと、3年ぶりの福塩線の旅を楽しむことができた。福山自体は直近では訪問していないが、過去5年で見れば割と来ている場所である。前回、福塩線に乗車したときは、混雑を避けるためにここで前泊し、早朝の列車で三次へ向かった。あの時、世の中はまだまだコロナに翻弄されていて、自分としても1年半以上ぶりに企画した本州方面の宿泊旅行だった。

福山からは高速バスに乗車して、いよいよ四国へ進んでいく。バスの発車時間まで1時間あったので、散歩がてらに福山城へ行ってみた。福山駅は福山市三之丸町に所在するお城の中に造られた駅。新幹線や福塩線のホームからは復元された天守閣が見え、駅の隣にお城の公園がある。広島市街は曇っていたが、福山は青空が広がっており、福山の市街地を一望することができた。
次話