【旅行記】関東地方の全線完乗を目指す旅+α 〜大山ケーブルで阿夫利神社を訪ねる~
大山の玄関口、伊勢原に降り立つ
伊豆箱根鉄道大雄山線に乗車した後、路線バスと小田急の快速急行を乗り継いで伊勢原に到着した。ここが、この日巡る予定のもう一つの未乗路線、大山ケーブルカーが走る大山の玄関口である。伊勢原からはさらに路線バスに乗り換え、ケーブルカーの発着駅である大山ケーブル駅へ向かう。

海老名や厚木の名前は域外の人でも馴染みがあると思うが、伊勢原はややマニアックな印象かもしれない。小田急小田原線では本厚木と秦野の間に位置する主要駅の一つで、江戸時代から大山参詣の玄関として栄えてきた歴史を持つ。駅周辺には大きな市街地も広がっている。
朝に乗車した特急「はこね」のように、町田や海老名に停車するタイプの特急は伊勢原にも停車する。また一般列車は全列車が停車し、新宿発の各駅停車は本厚木で折り返すものが多いものの、一部は日中でも伊勢原まで運行されている。さらに、小田急と千代田線との直通列車(特急を除く)の運転区間は伊勢原が西端で、東京メトロ16000系やJR東日本のE233系2000番台は、ここが運用の西限。千代田線へ直通する列車の中には、常磐線の取手や我孫子から伊勢原まで走り抜けるロングラン運用も存在している。

伊勢原駅の改札を小田急線の1日全線フリー乗車券で出場し、最初に立ち寄ったのは券売機。ここで「丹沢・大山フリーパス(Aきっぷ)」を購入した。これから路線バスとケーブルカーに乗車するが、路線バスは往復740円、ケーブルカーは往復1,270円かかり、合計すると2,010円となる。一方で、小田急の各駅では発売されているこのきっぷは、これらがフリー区間となっており、よりお得に乗車することができる。例えば伊勢原発であれば1,750円で発売されており、都度運賃を支払うより安い。
「丹沢・大山フリーパス(Aきっぷ)」は、小田急全駅発で発売されており、発駅からフリー区間までの往復に加え、小田原線の本厚木-渋沢間、丹沢・大山エリアの路線バス、大山ケーブルがフリー区間として利用できる。大山ケーブルを利用しない場合は、さらに安いBきっぷも発売されており、目的地や使う交通手段によって、きっぷを選択できるようになっている。
はじめての神奈中バスで大山へ

フリーきっぷを購入した後は、北口にある大山行きのバスのりばへ。ここから神奈川中央交通の路線バス、伊10系統大山ケーブル行きに乗車した。
「神奈中」の愛称で親しまれている神奈川中央交通は、神奈川県下最大のバス事業者で、小田急グループに属する。社名の通り、神奈川県の中央部を中心に、東京都の町田・多摩エリアでも路線バスを多数運行している。そもそも神奈川県中央~東部エリアで路線バスを使う機会はこれまでなく。神奈川中央交通への乗車もこれが初めてだった。
秋の行楽シーズンは、大山を訪れるハイキング客が多く、この地域の繁忙期の一つである。特に紅葉が見頃となる11月下旬ごろは最も賑わう。その時期には、このバスのりばに長い行列ができることも珍しくない。この日は10月下旬で、紅葉には少し早かったものの、ハイキングには最適な季節だったため、人出が多いと予想し、あえて午後に訪れる計画にしていた。しかし、この日は直前まで警報級の大雨という予報が出ており、その影響でハイキング客の姿は見当たらなかった。観光客が数人、沿線住民が数人といった程度の乗客を乗せ、バスは静かに伊勢原駅北口を発車した。
乗車記録 No.8
神奈川中央交通 [伊10]大山ケーブル行
伊勢原駅北口→大山ケーブル

伊勢原駅北口を出発したバスは、すぐの交差点を右折して北上を開始した。商店街が広がる車窓を眺めつつ、緩やかな坂を登っていく。しばらく進むと東名高速道路と交差し、付近には東名ハイウェイバスなどが停車する東名伊勢原BSがある。東名道の高架下をくぐると、バスは県道611号線へ入った。このあたりから住宅の間に田畑が広がり、車窓の雰囲気も次第にのどかになっていく。

産業能率大学湘南キャンパスが近い戸倉バス停付近からは、道路幅も細くなり、正面に山が近づいてきた。戸倉を過ぎると、今度は新東名高速道路が頭上を横切る。新東名の神奈川県区間は、圏央道とつながる海老名南JCTから新秦野ICまでが開通済みで、さらに先の区間は現在も建設中である。バスの上を通る高架も開通からまだ数年しか経っておらず、真新しさが残る。交通量も少ないため、未開通の区間かと思った。
この新東名の高架をくぐったあたりから、バスは鈴川がつくる大山の谷筋へと入っていく。住宅地の裏手を抜けるバイパスもあるが、この系統は途中の停留所にも停車するため、家々が立ち並ぶ細い生活道路を進んでいく。

さらに山奥へ入ると、バスは「大山駅」という名称の停留所に到着した。ここで狭い道路からバイパスに接続する道へと合流する。この付近に鉄道の駅があったわけではないが、「駅」という名称が残っているのは、かつて国鉄・JRと神奈川中央交通の間で連絡運輸が行われていた名残である。現在は伊勢原で系統が分割されているが、以前は平塚駅から伊勢原を経て大山まで直通する便が運行されていた。
ここでバスは時間調整と対向車の待ち合わせのために数分停車。大山駅停留所を出ると、もう少し山を登って終点の大山ケーブル停留所に到着。伊勢原駅で購入した丹沢・大山フリーパスを運転士に提示し、バスを降りた。
バス停から大山ケーブル駅へ参道を歩く

伊勢原駅北口からバスに揺られておよそ25分、大山ケーブルバス停に到着した。下車すると、大手私鉄の主要駅からバス一本で来たとは思えないほど、のどかな景色が広がっている。このあたりは広い土地がないため、バス停は鈴川の上にコンクリート製の構造物を築いて整備されたロータリーの上にある。バス停周辺では、下を流れる川のせせらぎが心地よく響いていた。
降り立ったバス停の名前は「大山ケーブル」で、あたかもケーブルカー駅の目の前にあるかのような名称だが、実際にはここからケーブルカーの駅までは徒歩15分ほどかかる。すぐに乗れるわけではないため、訪れる際には計画に注意が必要である。なお、バス停周辺には駐車場が多数あり、自家用車で訪れた場合もここに車を置き、歩いてケーブルカー駅に向かうことになる。

バス停の近くから「こま参道」と呼ばれる参道を歩いていく。大山は伝統玩具の「こま」が有名で、参道名もそれにちなんで付けられている。参道の両脇には土産物屋や飲食店、旅館などが立ち並び、店先には名物のこまが並ぶ。また、この地域は豆腐も名産で、飲食店では大山とうふを提供する店が多かった。

昔ながらの参道の両脇に商店が続く光景は、四国の金刀比羅宮や江の島の参道を思わせる。階段を上り、店先を通り過ぎ、また階段を上り……といった動作を繰り返していく。都心から1時間半ほどで来られる場所とは思えない、昭和にタイムスリップしたかのような懐かしい雰囲気が漂っていた。この日は天気が優れなかったため人影もまばらだったが、晴天の週末であればもっと賑わっているはず。紅葉の見ごろや年始は、ここも多くの人で賑わう。

大山ケーブルバス停から15分ほど、息を切らしながら階段を上り続け、ようやく大山ケーブル駅に到着した。航空写真である程度距離があることは分かっていたが、ここまで階段続きとは知らず、思った以上に体力を消耗した。ちなみに翌日に乗車した筑波山ケーブルも、バス停から駅まで似たように階段が続いており、最後まで残った2路線はいずれも駅にたどり着くまでが大変な路線だった。
ここは麓から続く鈴川沿いの谷間の最奥部に位置している。ここから先は山上へ向かう登山道が延びており、こま参道から真っすぐ進めばそのまま登山道に入る。ケーブルカーのりばは、鈴川を渡った先を右に折れ、階段を上ったところにある。駅前には小さな広場があり、紅葉の時期や正月にはここに長蛇の列ができるという。
今回はフリーきっぷを使うため、ここで切符を買う必要はない。特に繁忙期には、きっぷ購入とケーブルカー乗車の双方で行列に並ばなければならず、小田急を利用して訪れるならフリーきっぷの方が時間のロスが少ない。ベンチに腰掛けて待っていると、その後もちらほらと乗客が集まってきた。
神奈川県最後の未乗路線、大山ケーブルに乗車

ケーブルカーは発車の5分前から改札が始まる。丹沢・大山フリーパスは改札で係員に提示し、スタンプを押してもらう。あまりやる人はいないと思うが、このケーブルカーはフリーきっぷのエリア内にあるため、何度でも往復することができる。改札を抜けるとケーブルカーと対面した。スタイリッシュで、緑色の車体が印象的なケーブルカーに乗り込む。
これから乗車する大山ケーブルは、正式には大山観光電鉄が運行する大山鋼索線という路線である。大山観光電鉄は小田急グループに属する鉄道会社で、実際に運行しているのはケーブルカーだが「電鉄」を名乗る。大山鋼索線は、大山ケーブル駅と山上の阿夫利神社駅を結ぶわずか0.8kmの小さな路線で、大山寺・阿夫利神社への参拝客のほか、大山への登山客も多く利用する。
ケーブルカーと言えば昔ながらの車両を使う路線が多いが、大山ケーブルはとても現代的で、周囲の自然と調和したデザインが特徴である。現在の車両は2015年に運行を開始したもの。周辺には車が通れる道路がなく、どうやって新型車両を搬入したのか疑問に思い調べてみると、なんとヘリコプターで運ばれてきたらしい。車両のデザインはロマンスカーを手掛けるデザイン会社が担当しており、車体前面下部のゴールドとえんじ色のラインには、小田急らしい雰囲気が漂っている。前面の大きな窓のおかげで車内はとても開放的だった。
乗車記録 No.9
大山観光鉄道 大山鋼索線(大山ケーブル)
大山ケーブル→阿夫利神社

大山ケーブルには10人ほどが乗車し、扉が閉まるとまもなく発車した。大山ケーブル駅を出るとすぐに短いトンネルへ入っていく。この路線には2ヵ所のトンネルがある。途中にトンネルがあるケーブルカーに乗る度に思うのは、建設当時どのようにして掘り進めたのかということ。上の方から掘るのだろうか、それとも下の方から掘るのだろうか。いつも気になっている。
(ここから3枚の写真は帰りに撮影したもの。行きは窓前に係員が座る。)

この大山ケーブルには、全国的にも珍しい設備がある。それが行き違い地点に設けられた途中駅・大山寺駅である。ケーブルカーで途中駅がある例はいくつかあるものの、基本的には行き違いが行われる中間点以外の場所に作られる。しかし大山ケーブルでは、行き違いを行う場所に駅が設けられている。これはケーブルカーとして珍しく、現在運行されている全国のケーブルカー路線でも唯一の存在となっている。
ケーブルカーは通常の鉄道のように上下線で左側通行・右側通行を入れ替えることができない。車両はロープで繋がれているため、上りで左側を走る車両は下りでも左側、右側は右側と固定される。そのため行き違い部分に駅を設けると、上下便ののりばが毎回逆になってしまう。この問題があるため、中間点に駅を設ける例は基本的には避けられるのだが、大山ケーブルでは中間点に駅がある。

大山寺での交換を終えると、ケーブルカーは再び走り出す。ここから終点の阿夫利神社駅まではほぼ一直線で、途中にもうひとつのトンネルがある。大山ケーブル駅の標高は400m、阿夫利神社駅は678mなので、わずか0.8kmの間に278mを一気に駆け上がる。ケーブルカーはこの急勾配を約6分で走り抜け、終点・阿夫利神社駅に到着した。

大山ケーブルには途中駅があるため、下車時にもきっぷの確認が行われる。駅を出るとすぐに「熊注意」の看板が目に入った。今年はこの周辺でも熊が確認されたという話を聞き、ニュースでも全国的に人的被害が大きく報じられているだけに、少し気を引き締める。
阿夫利神社駅は小さな展望台のようになっており、晴れていればここからの眺望を楽しめるらしい。この日は雲が広がっていて眼下の景色は見えなかったものの、到着したときには一面に幻想的な雲海が現れ、思わず乗客から歓声が上がっていた。
そういえば、先ほど乗車した大雄山線が今年で開通100年の節目を迎えていたが、ここ大山ケーブルも60周年を迎えたところだった。さらに、明日乗車する予定の筑波ケーブルも開通100年。今回訪れる最後の3路線はいずれも、偶然にも今年が記念イヤーに当たっていたことになる。
約2200年の歴史をもつ阿夫利神社の下社を訪ねる

大山ケーブルで阿夫利神社に到着し、これでついに神奈川県内の鉄道路線を完乗。関東地方で未乗となっているのは、あとは茨城県の筑波山ケーブル1路線のみとなった。旅の前には大雨予報が出ていて内心ヒヤヒヤしていたが、この日の目的を無事に果たすことができ、まずは胸を撫でおろした。
ケーブルカー巡りは、言い換えれば寺社仏閣巡りでもある。阿夫利神社では折り返しのケーブルカーまで30分ほど時間があったため、参道を歩いて境内を訪ねた。
大山ケーブルが目指す阿夫利神社は、2200年の歴史を持つ由緒ある神社。標高1,252mの大山は古来より「雨降山」と呼ばれ、雨乞いや五穀豊穣の信仰を集めてきた。明治時代の神仏分離以前は、ケーブルカーの中間駅付近にある大山寺と一体となり、山岳信仰の中心地として栄えていたが、現在は阿夫利神社と大山寺という形に分かれている。江戸時代には大山詣が流行し、年間20万人もの人が参拝に訪れたという。いまでは周辺の丹沢エリアとともに人気のハイキングスポットとなり、参拝客と登山者が行き交う場所となっている。

現在ケーブルカーが到着するこの場所は、標高約700mの大山中腹に位置する下社で、本社はさらに上の山頂付近に構える。かつてはケーブルカーの駅名も「下社駅」であった。社殿脇からは山頂への登山道が延びており、ここから本社までは約50分ほどの道のりとされる。また、社殿横の細い通路を進むと神泉があり、大山の名水が静かに湧き出ていた。

阿夫利神社下社の大きな見どころといえば、やはり境内からの眺望である。晴れた日には湘南海岸、江の島、三浦海岸、さらには房総半島まで一望できるという。しかし、この日は雲が厚く広がり、期待した眺望は全く望めなかった。それどころか境内はときおり濃い霧に包まれ、数十メートル先の本殿さえ見えにくくなるほどだった。やがて霧が薄まると、眼下にはふわりと雲海が広がり、近くの山々が水墨画のように雲の間から姿を現した。晴れた日の絶景を楽しめなかったのは残念だが、「雨降山」という名にふさわしく、曇りや雨の日にこそ味わえる荘厳な雰囲気を堪能できた。

参拝を終えて再び阿夫利神社駅へ戻る途中、急斜面に張り付くように走るケーブルカーの姿が見えた。山肌に沿って力強く昇り降りするその姿は、この地の名物らしい風格を感じさせる。ケーブルカーに乗り大山ケーブル駅へ戻ったあと、さらにこま参道を歩き、来た道をたどるようにバス停へと向かった。
乗車記録 No.10
大山観光鉄道 大山鋼索線(大山ケーブル)
阿夫利神社→大山ケーブル
土休日のみ運行の直行便で伊勢原駅へ戻る

ケーブルカーを下車し、再び「こま参道」を歩いて大山ケーブルバス停へ戻ってきた。ここからバスに乗り、伊勢原駅へ戻ることになる。急いで歩けば先発のバスに間に合ったが、ここではあえて1本見送ることにした。
というのも、伊勢原駅北口〜大山ケーブル間には、沿線の停留所にこまめに停車する普通便に加え、途中停留所に一切停まらない直行便が土休日のみ運行されている。観光客向けのダイヤで、伊勢原駅北口発は午前中に4便、大山ケーブル発は午後に3便の設定。せっかくなら、往路とは違うバスに乗る方が旅としても面白いのであえてこちらを選んだ。

往路は新塗装車だったが、復路に来たのは見慣れた従来デザインの車両だった。やはりこちらの方が「神奈川のバスらしい」雰囲気がある。行先表示にも「直行便」と表示されているのが普通便との違い。やはり直行便を狙っている人が他にもいたようで、発車時刻が近づくと、乗客が集まってきた。
乗車記録 No.11
神奈川中央交通 [伊11]直行 伊勢原駅北口行
大山ケーブル→伊勢原駅北口
バスは5人ほどの乗客を乗せて発車。この便は途中の乗車がないため、これで最終的な乗車人数が確定ということになる。ロータリーを周回したバスは、下り坂を滑るように山を降りていく。普通便と同じ経路かと思えばそうではなく、大山駅バス停近くでも県道には入らず、そのままバイパスを直進。車窓の左側には、普通便が走る狭い県道と住宅が続く風景が見えた。対向車に気を配る必要がないため、バスは軽快に進んでいく。車内では、地元出身の噺家による大山観光案内の放送が流れ、観光地らしさを感じることができた。
新東名高速の高架下をくぐり、さらに建設中の道路の高架橋の下も通過すると、バスは大山入口交差点へ。走ってきたバイパスはここで終わり、バスは右左折をしながら普通便のルートへと合流した。その後は伊勢原駅北口まで、通常どおりの経路を淡々と走っていく。
伊勢原駅が近づくと、商店街の景色が広がり始めたが、この日は子どもたちの姿がとても多かった。しかもみんな仮装している。どうやら商店街主催のハロウィンイベントが行われていたようで、仮装した子どもたちが参加店舗を巡り、「トリック・オア・トリート!」と唱えるとお菓子がもらえる仕組みらしい。数百人、あるいは千人近くはいたのではと思うほど賑わっており、まさに“正しいハロウィン”という雰囲気だった。
そんな活気あふれる商店街を抜け、バスは終点・伊勢原駅北口へ。数時間ぶりに伊勢原駅へ戻り、今回の大山ケーブル訪問は無事に終了した。

さて、この日の宿泊地は小田原だが、伊勢原からは一度新宿へ戻る必要がある。とはいえ、早く戻ったところで特にやることもない。そこで、急いで電車に乗らず、少し駅周辺を歩いてみることにした。
改札前を通り抜け、往路では立ち寄らなかった南口へ向かう。北口は簡素な印象だったが、南口側は商業施設が併設された立派な駅舎で、大手私鉄の主要駅らしい風格があった。南口にもバス停が設けられており、こちらからは主に平塚駅方面へ向かう路線が発着している。駅に隣接するビルにはスーパーや家電量販店、さまざまなテナントが入居しており、日曜の夕方ということもあって、夕食を買い求める地元の人々で賑わっていた。この地に住む人たちの日常が垣間見れる瞬間もまた旅しているという実感をもたらしてくれる。
快速急行で一旦新宿へ戻る

伊勢原ではおよそ30分、ホームで休憩しながら行き交う列車を眺めた。その後、快速急行新宿行に乗車して一旦新宿へ戻った。筆者はこれまで小田急線には何度も乗っているものの、その多くはロマンスカーでの移動であり、しかも新宿寄りの区間で一般の速達種別に乗るのは今回が初めてだった。快速急行に乗るというのもまた、この日あえて小田原線を“ほぼ1.5往復”する行程にした理由の一つだった。
伊勢原から新宿までの所要時間はおよそ55分。快速急行は本厚木まで各駅に停車したあと、そこから海老名、相模大野、町田、新百合ヶ丘、登戸と停車して行く。特に魅力的なのが、登戸〜下北沢間の駅を次々と通過していく複々線区間の走り。午前中の新松田~伊勢原間と同様に5000系に当たり、その軽快な走りをじっくりと楽しむことができた。
乗車記録 No.12
小田急小田原線 快速急行 新宿行
伊勢原→新宿 5000形
列車は定刻通り終点の新宿に到着。時刻は16時40分過ぎで、日曜日の夕方の新宿駅は当たり前ながらとても賑わっていた。旅程も順調に進んだため、途中でこれから乗車する列車の特急券は、1時間早い列車に変更しておいた。明日の朝も早いので、予定より少し早めに小田原の宿を目指す。特にやることはないが、少し西口周辺を歩いて再び小田急線の改札内へと戻った。
特急ホームウェイで宿泊地・小田原へ

さて、新宿からはこの日の宿泊地・小田原へ。朝に特急「はこね」を乗り通したばかりだが、再びロマンスカーに乗車した。
乗車したのは新宿17:40発の特急ホームウェイ3号小田原行き。「ホームウェイ」は、夕方から夜間にかけて新宿を発車する特急列車に付けられる統一名称である。本来、小田急の特急列車は行き先によって「はこね」「えのしま」「さがみ」などの列車名が設定されているが、朝夕の繁忙時間帯は発着地に関わらず名称が統一される。朝の新宿行は「モーニングウェイ」、千代田線経由北千住行は「メトロモーニングウェイ」、そして夕夜間の下り列車が「ホームウェイ」「メトロホームウェイ」となる。
休日ダイヤの「ホームウェイ」は17時台から運行が始まり、最終列車は23時05分発のホームウェイ27号本厚木行きだ。列車番号は、小田原線系統が1号から、江ノ島線系統が81号から付与されている。運行序盤は箱根湯本や片瀬江ノ島まで直通する列車もあるものの、時間が遅くなるにつれて行き先は徐々に短くなり、秦野や本厚木、藤沢止まりの列車が多くなっていく。
使用車両は他の特急列車と同じで、展望席を持つGSEも使用される。今回乗車する特急ホームウェイ3号は、30000形「EXE」10両編成での運転。「EXE」は2017年に「えのしま」で乗車経験があるが、今回はそれ以来、約8年ぶりの乗車となった。

列車は発車15分前、特急はこね・えのしま38号として新宿駅に入線してきた。「EXE」にはリニューアル前の未更新車と、更新工事を経て生まれ変わった「EXEα」があるが、今回やってきたのは後者のEXEαだった。折り返しとなる特急ホームウェイ3号は、終点の小田原まで10両編成のまま走る。
入線するとすぐに折り返し準備が進み、ホームには帰宅時間帯らしく大勢の乗客が列をつくっていた。昼過ぎに特急券を変更した際には、まだ2席しか埋まっていなかったものの、直前になって特急券を購入する利用者は多く、昼間の特急とは雰囲気がまるで違う。日曜でも沿線に帰る人たちに大好評のようだった。
今回指定したのは10両編成の最後尾の席。EXEでは最後尾にドアがないため、10号車の後方は人の出入りが少なく、とても落ち着ける。ほどなく車内はほぼ満席となり、定刻を迎えた列車は静かに新宿駅を発車した。

列車は新宿を発車すると、町田・海老名・本厚木・秦野、そして終点の小田原に停車する。「ホームウェイ」は小田原線系統と江ノ島線系統で停車駅が分けられており、江ノ島線方面へ向かう列車が新百合ヶ丘・相模大野に停車することで、両者を合わせると千鳥停車のようなパターンが形成されている。なお、同じ小田原方面でも「はこね」号は町田・海老名の次が伊勢原だったが、「ホームウェイ」は本厚木と秦野に停車するため、伊勢原には止まらない。伊勢原は朝の上りと夕夜間の下り特急がすべて通過する駅であり、日中に1時間に1本程度停車するのは大山観光対応であることがよく分かる。
乗車記録 No.13
特急ホームウェイ3号 新宿行
新宿→小田原 30000形「EXEα」
新宿で折り返す間に外はすっかり暗くなり、小田原までの道のりは夜の車窓を楽しむ時間となった。朝の特急「はこね」では進行方向右側を指定したため、今回は左側の座席を選び、朝とは反対の景色を眺める。
最初の停車駅・町田に着くと、多くの乗客が下車していった。最後部座席からは、車掌がホームの様子を確認するモニターも見える。モニター越しには、中央付近の車両で5人ほどが乗車しているのが映っていた。ホームでは後続の快速急行を待つ乗客が大勢並んでいる。
相模大野で江ノ島線を分けると、列車は海老名、本厚木へと進む。この2駅で、車内のほとんどの乗客が降車し、残ったのはわずか数人。本厚木では、降りたあとに別の列に並び直す姿も見えたため、伊勢原を含む通過駅へ向かう利用者もそれなりにいるようだった。

本厚木で一気に乗客が減った列車は、先ほど訪れた伊勢原を静かに通過し、次の停車駅・秦野へ向かった。ここでも乗客は次々と降りていき、車内に残ったのは自分を含めわずか2人。秦野では急行小田原行きとの接続が行われ、乗り換える乗客の姿が見られた。
秦野を出ると、次はいよいよ終点・小田原。列車は渋沢、新松田、開成を軽快に通過し、新宿からおよそ1時間20分で小田原に到着した。こうして、小田急小田原線をほぼ1.5往復した1日目の行程も終わりを迎える。
小田原に到着した編成は、折り返して19時33分発の特急「さがみ52号」新宿行きとして再び上り列車になる。この時間帯の上りで10両編成を必要とするほどの需要はおそらくないが、新宿に戻ればまた「ホームウェイ」として働くことになる。
GSE、そしてEXEαと、バリエーション豊かなロマンスカーに乗車できた1日目。未乗路線の乗りつぶしと合わせ、小田急ロマンスカーの魅力を存分に味わった充実の一日となった。