【旅行記】梅雨の千葉・房総半島を巡る旅~ネコに癒され久留里線をゆく編~

外房線に乗車して安房鴨川へ

 五井から、小湊鉄道といすみ鉄道を乗り継いで到着した大原駅。ここはいすみ市の中心駅で、特急わかしおも停車する外房線の主要駅の一つとなっている。いすみ鉄道の売店をちょっと覗いてJRの改札口へと出ると、ちょうど東京発安房鴨川行の特急わかしお3号が入線してきた。この特急わかしおは以前外房線と内房線を一周したときに乗車した思い出の列車。255系10両編成での運転で、安房鴨川へ向かうこの日最初の特急列車だが、オフシーズンの平日、それに鴨川シーワールドは休館日ということでガラガラだった。これから向かう先はわかしお3号と同じ安房鴨川。しかし特急列車には乗車したことがあるので、今回は普通列車に乗車した。
 
 大原から乗車したのは、普通列車の木更津行き。新型車両のE131系の2両編成の列車だった。外房線・内房線のうち、上総一ノ宮~木更津間は、209系が主力として活躍していたが、2020年に新型車両のE131系がデビューした。日中も4両編成が最短だった同区間は、ワンマン運転が開始されると同時に、2両編成に減車となった。さらに、運行形態も見直され、日中は上総一ノ宮~木更津間を通し運行するのが基本となった。車内はセミクロスシート配置で車両の中間部に近い部分にボックスシートが各車両2ブロックずつ配置されている。ボックスシートが開いていたので、1時間ほどの乗車時間も快適に乗車することができた。
 
乗車記録 No.12
内房線 普通 木更津行
大原→安房鴨川 E131系
 
 外房線は車窓に美しい太平洋が見える風光明媚な路線だが、この日は生憎の空模様で、海も灰色に染まっていた。観光地としても名高い御宿、さらには小湊鉄道が目指した街である小湊を経て、急峻な地形を辿って走っていく。リゾートマンションが山の上に立ち並んでいるのが車窓から見えるとまもなく視界が一気に開け、列車は安房鴨川へと到着した。4年ぶりに降り立った安房鴨川駅。4年前は特急列車から普通列車に乗り換えるだけだったので、この駅の改札外へ出るのは、今回が初めてだった。
 

安房鴨川からバスで上総亀山へアクセス

 蘇我駅で別れた外房線と内房線が再び出会う安房鴨川駅。駅舎側に昔ながらの市街地が広がっているが、目の前に道路が走っているため、少し手狭な造りになっている。バスロータリーなどは駅の裏側に設置されていて、こちらの方が広々としている。イオン鴨川店もこちら側にある。
 房総半島最後の未乗路線となったのは久留里線。前回の記事でも書いた通り、木更津と大原間を結ぶ木原線の一部として建設された路線だったが、上総亀山~上総中野間の鉄道が建設されることはなく、房総半島の山中にある上総亀山駅で線路が途切れている。この久留里線に乗りに行くには、一度木更津まで行き、そこから久留里線を往復するのがベター。しかし、外房側から上総亀山駅へは、安房鴨川駅発着の高速バスに乗車するとアクセスが可能なので、それにチャレンジしてみる。
 安房鴨川駅からは、アクアラインを経由して東京駅へ向かう「アクシー号」と、県内高速バスである千葉行の「カピーナ号」が運転されている。これから乗車するのは、後者の千葉行カピーナ号。千葉中央バスや日東交通が運行する高速バスで、鴨川から久留里、東京ドイツ村経由で千葉駅へと向かう。高速バスであるものの、路線バスとしての顔も持ち合わせていて、鴨川から乗車すれば、君津ふるさと物産館以降の各バス停で下車が可能(千葉方面行の場合)となっている。一方、君津ふるさと物産館以降のバス停から乗車した場合は千葉市街に入った松ヶ丘十字路まで下車できない。久留里線の上総亀山駅へは、このバスに乗車して亀山・藤林大橋バス停で下車し、そこから10分ほど歩けばよい。盲腸線の乗りつぶしに重宝するバス路線となっている。本数も割と充実しているので、ふつうに千葉から鴨川へのアクセスにも使ってみたいバス路線である。
 
乗車記録 No.13
日東交通 カピーナ号 千葉駅行
安房鴨川駅→亀山・藤林大橋
 
 今回は日東交通が担当する便に乗車。日東交通は小湊鉄道と並ぶ房総半島のバス事業者で、木更津市に本社を構え、主に木更津、館山、鴨川などの房総半島南側のエリアで高速バス・路線バスを運行している。鴨川駅を出たバスは、そのまま駅前の道をまっすぐ進み、房総半島の山の中へと入っていく。亀山・藤林大橋までの所要時間はわずか20分ほど。あっという間に亀山へとたどり着くことができるとても便利なバスだった。
 バスは鴨川から亀山の手前までは県道24号線を走るが、その後は亀山地区に立ち寄るために少し狭い道を走っていく。その先で国道465号線へと出ると亀山・藤林大橋バス停がある。この国道465号線を写真と反対方向に進んでいくと、数時間前に1時間半滞在した小湊鉄道といすみ鉄道の上総中野駅にたどり着く。歩けば2時間30分~3時間で行けるらしく、行楽期には亀山と中野を結ぶバスが運行されることもあるらしい。久留里線の上総亀山駅は、バスが国道に出た交差点を直進して10分ほど歩いた場所にある。久留里線の列車までは1時間ほど時間があるので、近くにある亀山ダムを見に行くことにした。
 

亀山ダムを見学して上総亀山駅へ

 バス停からバスが走ってきた道を歩いて戻ること5分ほどの場所にある亀山ダム。君津市や木更津市、袖ヶ浦市を流れて東京湾に注ぐ二級河川小櫃川の上流部に設置されたダムで、1979年に完成した堤高34.5メートルの重力式ダムである。ダム湖はレジャー施設になっていて、奥房総地域の貴重な観光・レジャー地域にもなっている。カピーナ号はこのダムの上を走る道路を走って亀山・藤林大橋まで向かった。高速バスがダムの上を走る光景は結構珍しいかもしれない。間近にダムを見たのは久しぶりだったが、ダムの堂々とした姿と迫力はいつ見てもかっこいい。
 
 ダムの上を走る道には歩道も設置されていて、普通にわたることができる。ダムの上から下流を見渡す。高所恐怖症の人にはちょっとどころかかなり怖いかもしれない。雑居ビルなら12階くらいの高さがあるらしい。久留里線を折り返すだけならこの亀山ダムに訪れることもなかっただろうし、この旅で観光らしいことをまだ何もしてなかったので、ダムを見に来て正解だった。
 
 亀山ダムから引き返して上総亀山駅へと向かう。ダム周辺はダム湖が形成されていて、ボートを出して釣りを楽しんでいる人がたくさんいた。写真はそのダム湖にかかる川俣大橋という橋で、立派なアーチ橋だが大型車は通行禁止になっていた。調べるとこの橋ができたのは1975年とのこと、数年前は橋が損傷したため全面通行止めとなっていたらしい。かなり年季が入っているのが剥げた塗装から分かる。
 

上総亀山駅でネコに癒される

 亀山ダムから15分ほど歩き、住宅が立ち並ぶ狭い道を進むと、上総亀山駅がある。駅前には民家が並び、駅に面して駅前商店が立ち並んでいる。ほとんどは既に廃業している様子だったが、一軒は現在も営業していた。現在運行されているJRの路線には、ここ上総亀山駅のように、この先私鉄も接続していない完全な終着駅はたくさんある。これら終着駅は大半の場合、終着駅はある程度の街であることが多い。一方、上総亀山駅は一応民家が立ち並んでいるものの、街と呼べるほどの規模ではない。JRの終着駅としてこうした駅で終わるのは割と珍しい。他に思い浮かぶのはJR西日本越美北線の九頭竜湖駅とか、JR東海名松線の伊勢奥津駅とかだろうか。いずれもその先に線路が伸びる予定で断念された駅である。
 
 前回記事を含めて、何度も言及しているが、久留里線はもともと、木原線として木更津と大原を結ぶ路線の一部として計画された路線で、計画上は上総亀山から上総中野まで線路が延びて現在のいすみ鉄道と接続する予定だった。線路はホームから先も少しだけ延びているが、道路の手前に車止めが設置され、そこで途切れている。ここから上総中野までは房総半島の中でも山深い地域。建設されるのが早ければ、山の斜面を縫って走るような路線になっていただろうし、遅ければ高架橋とトンネルで山を貫く路線になっていたかもしれない。
 上総亀山駅は首都圏のJRの駅ながら、ICカードは利用できず、乗車駅証明書発行機だけが置かれている。suicaを利用できない旨の大きな表示があるので、おそらくICカードで来る乗客も多いのだろう。一方で、東京近郊のJRなどが乗り放題となる休日おでかけパスは久留里線でも利用可能。本数が少なく同きっぷが使える路線としては、鶴見線大川支線と並ぶ難関路線である。
 
 列車まではまだ40分ほど時間があったので、駅前でのんびり過ごすことにした。駅前に座っていると、営業している個人商店の方から2匹の猫がトコトコ歩いてやってきた。どうやら駅を昼寝場所にしているらしい。それにしてもなかなかいい昼寝場所をお持ちのよう。列車もしばらく来ない時間に人がいるのが珍しいのか、猫の方から寄ってきた。とても人懐っこいネコと列車が来るまでの時間を過ごした。
 

久留里線で木更津へ

 遠くから踏切の音が聞こえると、ディーゼル音が近づいてきた。折り返しとなる上総亀山止まりの列車が到着。ネコに別れを告げてホームへ向かう。乗車したのはキハE130形2両編成の普通木更津行。この列車は午後の一番列車で、当駅始発としては約5時間半ぶりの列車である。上総亀山~久留里間は9往復の列車が運行されているが、途中の久留里発着の区間便も設定されているため、木更津まで直通する列車はそのうちの上り6本、下り5本だけとなっている。久留里線といえばキハ30形やキハ38形などの国鉄気動車が多数運行されていた路線だったが2012年にキハE130形が登場して、現在はこの形式のみが活躍している。引退した国鉄気動車の一部は岡山県の水島臨海鉄道へと移籍し、現在も現役で活躍を続けている車両がある。キハE130形は、久留里線のほか、水郡線と八戸線でも活躍しており、八戸線で活躍する500番台には、昨年10月に乗車した。久留里線用の車両は100番台となっていて、全車ロングシートとなっている。
 
乗車記録 No.14
久留里線 普通 木更津行
上総亀山→木更津 キハE130形
 
 上総亀山に到着した列車には7人ほどが乗車していた。うち3人はビジネス客で、この駅まで迎えに来ている人がいた。残りの4人は鉄道ファンで、全員がそのまま折り返しの木更津行に乗車していた。2両編成に5人を乗せて上総亀山駅を発車した列車は、路線名にもなっている久留里へと向かっていく。亀山ダムから流れ出た小櫃川に沿って進むが、川が蛇行しているので、久留里線も何度か鉄橋を渡る。航空写真を見てみると、Ω形の川を短絡する改良工事が行われているところが何か所かあることが分かる。車窓には田園風景が広がるところもあるがあとは森というか藪のなかを進んでいく。上総亀山から20分ほどで到着するのが久留里駅。路線名になるくらいなので結構大きな街なのかと思ったが、街はこじんまりとしていた。
 
 久留里駅では列車の行き違いのために10分ほど停車。駅近くに高校があるので、ここから先は高校生たちが乗り込んできて車内もにぎやかになった。久留里線もここから先は概ね1時間に1本が運転されている。久留里駅を出て以降も引き続き小櫃川に沿って進む。最初は山に囲まれた田んぼの中を走っていくが、徐々に視界が開け、それと同時に途中駅での乗り降りも多くなっていった。
 
 木更津市街の北の端をくるっとまわって木更津駅へ到着。安房鴨川駅からバスと列車を乗り継ぐ2度目の房総半島横断がこれにて終了した。すっかり夕方になった木更津駅。木更津は高校が多くあるため帰宅する高校生で駅構内は混雑していた。高校野球では木更津総合高校が有名。この学校を含むいくつかの私立高校は駅から少し離れているので、スクールバスがひっきりなしにやってきては高校生を駅前で降ろしていた。朝に袖ヶ浦を出て、五井、上総中野、大原、安房鴨川、上総亀山と移動してきた房総半島横断の旅はここで終わりとなった。
 

空港バスで初めてアクアラインを通過する

 房総半島での旅程を順調にこなして、ここからは九州へと帰宅する。木更津駅からは小湊鉄道の木更津-羽田空港線で羽田空港へと向かった。小湊鉄道にお世話になるのは、本日2度目。木更津-羽田空港線は、小湊鉄道の他、日東交通、京浜急行バス、東京空港交通の4社共同運行となっている。バスは袖ヶ浦と木更津金田の2つのバスターミナルを経由して、東京湾アクアラインを走り、川崎浮島JCTから首都高湾岸線へと入って羽田空港へと向かう。経由する袖ヶ浦や金田のバスターミナルは広々としていて、周辺には駐車場が広がる。都心方面への主要交通手段が鉄道ではなくバスであることを象徴する光景である。実はアクアラインを走行するのはこれが初めてだった。海上区間を走行中は奥に東京都心のビル群が聳えているのが印象的。海ほたるからトンネルに戻ると、数分で東京湾の対岸に到着。昨日特急さざなみで1時間以上かけて東京から君津へ移動したのが馬鹿らしくなるくらいの俊足だった。京葉線・内房線を経由する特急が勝てるわけがないのも頷ける。今回はANAを利用して帰るので、第二ターミナルでバスを下車した。
 
乗車記録 No.15
小湊鉄道 木更津-羽田空港線
木更津→羽田空港第二ターミナル
 

ANAのBoeing 787-9(78G)に初搭乗

 往路は宮崎からのフライトだったが、帰りは福岡行に搭乗した。搭乗したのは、ANAのBoeing 787-9。予約時に78Gと記載されるANAの新型機材である(写真は以前羽田空港で撮影した搭乗機の同型機)。ANAが国内線用に投入しているBoeing 787-9は789と呼ばれる機材と78Gと呼ばれる機材の2種類がある。「789」はJA830AとJA833Aの2機が在籍し、基本的な仕様は国内線用のBoeing 787-8(78P)と同様な一方、「78G」は2021年末に登場した新仕様機である。
 この78Gは、ANAがこれまで導入してきたB787とは仕様が異なっている。ANAのB787は、同社機材の最大勢力で現在は約80機が活躍。同社の現役機材の4割を占めているが、その大半がロールスロイス製エンジン(Trent1000)を搭載している。このTrent1000は、過去にエンジンに欠陥が見つかり、航空業界に大きな影響をもたらしたことがある。その中でも影響が大きかったのが、保有機材の中でロールスロイス製エンジン搭載のB787の比率が高かったANAだった。ANAでは修繕のために多くの便が欠航する事態が発生。国内・国際ともにその影響は甚大だった。こうした運航停止や不具合により、航空機を運行できなくなるリスクを回避するため、ANAでは2021年末からGE製エンジンを搭載したBoeing 787-9を投入し、現在は国内線で3機が活躍している。導入にあたって、機内についても、それまでの国内線用B787の仕様からリニューアルされた。機内仕様は先にリニューアルしたBoeing 777-200(ER)(722)と基本と、さらなる改良が行われている。プレミアムクラスの拡大が行われたほか、全席にシートモニターが設置され、その画面サイズはANA国内線で最大となっている。
 
乗車記録 No.16
ANA267便 Boeing 787-9
羽田空港→福岡空港
 
 まだ就航して間もない新しい機材。席に座ると目につくのはやはり大きな画面のシートモニターだった。ANAの国内線機材では、Airbus A321neoで装備されており、国内線でも見かける機会が増えているが、A321のそれより二まわりくらい大きく見える。タッチパネルの操作性もよく、スイスイ動くのがとても気持ちよかった。Boeing 787は2回目の搭乗で、-9には初めての搭乗だったが、機内はとても静かで快適に移動することができた。
 

終わりに

 今回の旅では、千葉県の鉄道路線をメインに、1日目は北総鉄道の乗りつぶしと、ディズニーリゾートラインの再履修を行い、2日目は房総半島を走る3つのローカル線に乗車した。
 2日目の房総半島の旅はいつになくのんびりとした旅だった。上総中野や上総亀山など降り立った各駅では、房総半島の空気に触れてゆったりとした時間を過ごすことができた。本当は小湊まで延びる予定だった小湊鉄道、本当はつながる予定だったいすみ鉄道と久留里線。いずれの路線も計画が途絶えて現在の形になったわけだが、もしつながっていたらどうなっていただろうかと想像してみるのも感慨深かった。
 房総半島へは特急さざなみを、帰りは東京湾アクアラインを走る空港バスを利用したが、東京湾アクアラインがもたらした房総半島への交通の大革命をようやく体感できたことも一つの収穫だった。渋滞がなければ一瞬で対岸へとたどり着くアクアライン。それに鉄道が勝つことは難しいということは、行ってみてみればよく分かる。状況は新幹線が開業したあとの在来線に似ているように思う。鉄道に期待される役割は、アクアラインの開通後、都心アクセスから地域輸送へと確実に変わってきている。特急列車や都心への直通列車がなくなることは、確かに衰退なのかもしれない。都心へのアクセスという役割を高速バスに譲っても、決して鉄道自体が必要されていないわけでない。今は地域の人の移動を支えるのが、この地域の鉄道の役割なのだと、改めて房総半島を旅して実感することができた。
 
・今回初めて乗車した路線
【鉄道路線】
北総鉄道 北総線 京成高砂-印旛日本医大
小湊鉄道 小湊鉄道線 五井-上総中野
いすみ鉄道 いすみ線 上総中野-大原
JR東日本 久留里線 久留里-木更津間
【バス路線】
小湊鉄道 木更津-羽田空港線 木更津駅前-羽田空港第2ターミナル
(一部区間のみ)日東交通 カピーナ号 安房鴨川駅-亀山・藤林大橋
【航空路線】
JAL 宮崎空港-羽田空港(J-AIR運航)
ANA 羽田空港-福岡空港(ANA便利用は初)
 
 
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