【旅行記】北東北の鉄道路線を巡る旅~ANA羽田-大館能代線で北東北へ~

今年の秋も東北の鉄道路線を巡る
昨年2022年は既に到達済みだった福島県以外の東北各県に初めて訪問し、東北の鉄道路線を巡る第一歩目を踏み出すことができた年だった。10月と11月に2度東北を訪れて、10月の旅ではおもに三陸エリアを巡り、11月の旅では東北地方の幹線路線と津軽地方の私鉄路線を巡った。
そして、迎えた2023年の秋。今年も懲りずに秋の東北へ2度赴く。昨年は初めての東北地方ということもあって、幹線路線や有名路線を中心に巡った。しかし、今年はもう少し深堀して、東北地方を走るいくつかのローカル線を旅してみようと思う。1回目となる今回は、青森、岩手、秋田の3県からなる北東北エリアを目的地とした。北東北の鉄道路線は一昨年に乗車した北海道・東北新幹線と、昨年乗車した奥羽本線、五能線の川部~五所川原間、弘南鉄道、津軽鉄道に乗車済みである。一方でJRのローカル線はほぼ未乗となっている。北東北もまたローカル線が点在するエリアであり、乗車してみたいと以前から思っていた路線がたくさんあった。今回は花輪線、山田線、津軽線、大湊線、五能線の5つのJR東日本のローカル線と秋田内陸縦貫鉄道に乗車する。このうち五能線は、本来昨年秋の旅で乗車予定が、大雨被害で乗車することができなかった路線である。今回の旅はそのリベンジを果たす旅にもなった。一方、ローカル線巡りの道中では、秋田犬で有名な大館、昔ながらの街並みが残る角館、青森屈指の観光地である龍飛崎などいくつかの観光地も巡る。ローカル線巡り、観光地巡りの両方から2度目の北東北エリアの旅を満喫する。
最大の目的だった路線の運休が決まる(泣)
10月に北東北エリアの旅を企画したのには訳があった。ローカル線を巡ることや観光地を巡ることも目的の一つなのだが、旅を企画した時点での最大の目的は、青森県の龍飛崎にある青函トンネル記念館のケーブルカーに乗車することだった。この路線は青函トンネルの見学用のケーブルカーでありながら、鉄道事業法に基づく鉄道路線の一つとして運行されている。しかし、青函トンネル記念館が冬季休業となるので、春から秋にかけてしか運行されていない。また今年の運行にあたっては、クラウドファンディングが実施されるなど、かなり経営的にも厳しい状況になっているようであった。そんな事情があって、年内のうちに乗っておいたほうがいいだろうと思い、10月に訪れることにしていた。
しかし、旅行の日まで1ヵ月に迫った9月中旬、突如残念なニュースが入ってきた。青函トンネル記念館のケーブルカーが年内の運行日を全て運休するという。とある日の運行後の検査で台車に亀裂が見つかり、協議の結果、運行するのは困難と判断されたとのこと。今回の北東北エリアの旅は、このケーブルカーへの乗車を一つの目的としていたが、その大きな目的を失った形となってしまった。
この悲報はかなり残念なものだったが、こればかりは自分でどうにかできるわけではないので、諦めないと仕方がない。龍飛崎周辺に赴く予定を変更することも考えたが、ここはケーブルカーへの乗車云々に関わらず行ってみたい場所だった。いろいろ迷った挙句、旅程自体は変更しないことにして、ケーブルカーに乗車せず龍飛崎を楽しむ旅程とした。ケーブルカーが再開したら、また行けばいい。まずはケーブルカーが無事に運行再開されることを切に願っている。再開したときには、必ず龍飛崎に行く予定である。
※翌年青函トンネル記念館ケーブルカーに再チャレンジした話はこちらから
日程は3泊4日。天気予報によれば、前半2日は日本海側で雨の予報。一方、後半2日は快晴のようだ。今回はどんな東北の景色に出会えるだろうか。前日のうちに羽田空港へと飛んで前泊し、翌日、羽田空港から1日目がスタートした。
前旅
マイナー路線、ANA羽田-大館能代線で北東北へ

昨年の2回の東北旅行はいずれも鉄路でスタートしたが、今回は飛行機を使ってみることにした。東北の航空路線への搭乗は、昨年の旅行で使用した三沢-伊丹線、秋田-伊丹線に次いで3回目となった。今回は初めて羽田空港発着の東北方面路線を使う。
東北へ行く際には使ってみたいと思っていた空港が前々からあった。それは秋田県北秋田市にある大館能代空港である。東北には9つの空港がある。このうち最も年間の利用者数が少ないがこの空港であり、羽田線が就航している国内の空港でも紋別、石見、能登、中標津に次いで5番目に利用者数の少ない。秋田県には秋田空港があるが、秋田県の北部に位置する能代、北秋田、大館エリアはこの空港から離れていて、東京へのアクセスに非常に時間を要する場所だった。そんな事情から1998年に秋田県が開業させたのが大館能代空港で、現在はANAの羽田線のみが1日3往復就航している。
過去のフライト履歴を確認すると、小規模路線だけに沖止めの場合が多く、飛行機までバスで案内されることが多い便だったが、この日は直前に搭乗口が変更され、ターミナル南側の一番端にある55番搭乗口からの出発となった。同じ東北の庄内空港から到着した便の折り返しが大館能代空港行きとなる。庄内空港からの便は定刻より少し早く到着。すぐに出発準備が始まった。
ANAのAirbus A320neoに初めて搭乗

今回搭乗したのはAirbus A320neo(写真は以前鹿児島空港で撮影した搭乗機の同型機)。予約した当初はAirbus A321での運航だったが、搭乗の1ヵ月ほど前にこの機材に機材が変更となった。ANAのA320neoには搭乗したことがなかったので、機材変更は結果オーライ。ただ、機材変更で翼上席へと座席も変更となってしまった。個人的に機窓が見えにくい翼上席はあまり指定しない。座席を変更しようと思ったが、機材変更時点で座席指定可能な席がほとんどなく、機窓を眺めるを諦めていた。しかし、前日の夜になっていくつか座席が開放され、結局後方席に座席を変更することができた。最終的には機窓からの景色を眺めて大館能代空港へ向かうことができるようになった。
出発の20分前になり搭乗が開始された。羽田発着便の中でも年間乗降客数が少ない方の路線ではあるものの、この日の搭乗便は満席だった。10月の行楽シーズンなので、北東北の紅葉を目当てに搭乗するツアーの団体客の姿が多かった。お隣のゲートでは5分前に出発する能登行きの便が改札中。こちらの便も胸に旅行会社のバッジを付けた乗客の姿があった。国内ツアーの需要も戻りつつあることを実感した。

A320neoはANAが2017年に投入した新機材で、韓国、中国、台湾などの近距離国際線向けに投入された機材である。機材到着から国際線投入までの間に国内線に不定期で投入されていたが、国際線投入後は、主に成田空港発着路線に就航していたので、あまり成田に行かない人間には、お目にかかる機会の少ない機材だった。その後、コロナ禍による国際線の運休と国内線の需要激減の影響から国内線にメインを移し、国内線でも日常的に見かける機材になった。国際線の需要が回復した現在は、国際線と国内線の両方で使用されていて、国際線では羽田-ソウル(金浦)線に、国内線では大館能代の他、酒田、米子等々の中・小規模路線を中心に運航されている。座席数は146席で、最前列の8席は、国内線ではプレミアムクラスとして取り扱われるビジネスクラスとなっている。普通席は3+3列の配置。各座席にシートモニターが設置されている点はほとんどA321neoと変わらないが、ヘッドレストが付いている点が国際線機材の証ともいえる。
乗車(搭乗)記録 No.1
ANA 719便
羽田空港→大館能代空港 Airbus A320neo
晴れ間広がる関東平野の機窓を楽しむ

5分前に出発する能登行のプッシュバックを待ってから定刻よりやや遅れてプッシュバックを開始。この日は北風運用だったので、滑走路34Rからの離陸となった。羽田空港のC滑走路は、国内線では北日本方面への航空機が使用することが多い。そのため、東北や北海道へ向かう路線ならANAの方が、離陸までの時間がやや短めになる。能登行の飛行機が離陸後、滑走路へと進入し、羽田空港を離陸した。

滑走路34Rから離陸した東北、北海道方面への航空機は、すぐに右へ旋回して、お台場の南側を通ったのち、荒川の上空を飛行して高度を上げていく。羽田空港を離陸した直後は、東京タワーや丸の内のビル群、それにレインボーブリッジをはじめとしたお台場の景色を機窓に楽しむことができる。さらに高度を上げていくと、今度はスカイツリーをまわりこむように飛行し、東京の下町の景色が眼下に広がる。雲の影が眼下の街に模様をつけていて、とても美しかった。九州方面路線は洋上で旋回して静岡方面に向かっていく場合が多いので、東北、北海道方面路線のこの離陸の景色は本当にうらやましい。

関東平野は快晴だったので、シートベルト着用サインは離陸後早いうちに消灯となった。一方で機体は引き続き上昇を続ける。やがて宇都宮市上空あたりに来ると、日光や中禅寺湖などが機窓に見えた。日光へ続く杉並木も上空からもしっかり確認できる。日光には2年前に行ったが、あの時は11月中旬で紅葉が見ごろだったことを思い出した。眼下を流れる川は鬼怒川、ウイングレットの真下あたりにあるのが日光である。

関東と東北の境目、白河へと差し掛かる。機窓に広がる那須連山は、標高の高いところが赤く色づいていて、紅葉が進んでいる様子が分かる。東北は天気が悪いという天気予報の通り、東北側は雲に覆われており、天気の境目を上空が眺めることができた。その後は雲の上の飛行となり、奥羽本線に沿う形で福島県、山形県、秋田県の上空を飛行していった。
雲の中をしばらく飛行し、大館能代空港へ着陸

水平飛行もわずかな時間で、あっという間に降下を開始。秋田県の山間部にかかる雲の中へ入ると、機体はそれなりに揺れた。経験則だが、10月のフライトは結構揺れることが多い。季節の変わり目の証拠である。かなり分厚い雲の中をしばらく飛行するとようやく雲の下へと出て来た。最初はどこかわからなかったが、奥に見える平野を見て居場所が分かった。川のように見えるのは川ではなく、八郎潟だった。奥に見える広大な平地は大潟村。秋田の象徴的な地形を空から眺めることができた。

大館能代空港へアプローチを続ける搭乗機。大潟村の景色の次に見えたのは蛇行した川と街でだった。見えてる街は能代市。川は大館の方が流れてくる米代川で市街地の手前でU字に湾曲しているのが分かる。真下には奥羽本線と五能線の分岐駅である東能代駅が見えた。駅から左に延びるのが秋田駅方面の奥羽本線、右へ延びるのが五所川原方面の五能線である。東能代駅は能代市街地から少し離れていて、五能線では東能代駅と奥の市街地にある能代駅間を運転する一駅列車も運転されている。東能代駅は最終日に訪れる予定である。旅のスタートとなる飛行機の機窓に数日後に旅の道中で訪れる駅を見る。なんだか不思議な気分だった。

能代市の上空で滑走路へ向けて旋回し、その後は米代川に沿って空港へと高度を下げて行く。山間にある空港なので、特に冬の晴天時は視界不良となることも多い空港と聞く。この日は曇りだったが、こういう日は雨雲で視界不良になりやすい。シートモニターの機外カメラで前方の様子を見ていたが、かなり高度を下げたところで空港が姿を現し、無事に空港へと着陸した。
小さい空港なので、誘導路は設置されていない。滑走路の反対側の終端まで走り、そこでUターンして駐機場へと向かう。滑走路を走る飛行機からは小さいターミナルビルが見えた。あの大きな羽田空港とは対照的にとても小さい。巨大な空港と小さな空港が1本で結ばれている。これもまた航空路線の面白さの一つではないか思う。

大館能代空港のボーディングブリッジは一つだけ。ターミナルへ到着し、階段を降りるとあっという間にロビーに到着した。預け荷物がない場合は、飛行機降りて1分ほどで外へ出ることができる。飛行機から降りると羽田空港との気温差を感じた。降機した乗客も口々にが寒いと言っていた。羽田とここでは気温差が10℃くらいある。東京はまだ夏日になる日もある一方、北東北はもう冬の一歩手前まで季節が移り変わっていた。
秋北タクシー運行のリムジンバスで大館へ

大館能代空港からは到着便に接続して運行される秋北タクシーの空港リムジンバスで大館へと向かった。空港リムジンバスは大館能代空港~鷹ノ巣駅前~大館駅前~大館鳳鳴高校間の運行となっており、航空機に接続する形で運行されている。秋北タクシーは大館に本社を置くタクシー会社。この地域で路線バスや高速バスを運行する秋北バスの子会社となっている。秋北バスはもともと国際興業グループの一員で、現在は国際興業グループからは脱退しているものの、同じく東北エリアで国際興業グループに属していた岩手県交通、十和田観光鉄道とともに国際東北グループを構成している。このような経緯から、走るバスのデザインも国際興業バスのデザインである。
搭乗した飛行機が満席だったので、このバスも混雑するのかと思ったが、乗車したのはわずか5人ほどだった。搭乗客の何割かはツアー客で観光バスへと乗り換えて行き、他の乗客も家族の送迎で空港をあとにする人が多いらしい。
乗車記録 No.2
秋北タクシー
大館能代空港リムジンバス 大館鳳鳴高校行
大館能代空港→大館駅前

バスの乗客の一人が発車時刻になっても発車しないバスにヤキモキしていた。どうやら鷹ノ巣で乗り換える列車の時間が迫っているらしい。バスは時刻表の時刻より5分ほど遅れて空港を出発した。このリムジンバスは、航空機に接続するという特性上、航空機が遅延した場合は到着から15分後に出発することがホームページにも記載されている。航空機の到着が5分遅れたので、このバスも5分間発車を遅らせて乗客を待っていたのだ。おそらくそんな情報は読んでいないだろう乗客は、運転士に急いで発車するように急かしていたが、そもそも航空機から降りて30分ほどで列車に乗り換えようというプランに無理があるように思う。航空機とバスを含む旅程はより一層余裕時間が必要である。乗り換える列車の本数も限られていて、1本逃すと数時間待ちになることもある。だからこそ、小さい空港を起点とした旅行を組むのは難しい。
大館能代空港を出たバスは、米代川を渡って鷹巣の街へと向かった。空港から出た直後は秋田県に来たという実感がまだ湧いていなかったが、道路脇の防雪柵やバスの車窓に見えた秋田内陸縦貫鉄道の車両、そして交差点の縦型の信号機を見ていると、次第に北東北に来たという実感が湧いてきた。羽田空港を出て1時間強しか経っていないので、脳がここが北東北であるということを認識するのに時間がかかっている。旅行1日目の午前中にすでに北東北入りできるなんて航空機の存在は本当に偉大だと思う。
バスは鷹ノ巣駅前へ到着。ここで何人か乗客が降りて行った。空港は鷹巣の市街地の南側にあるが、空港の名前は東西にある大館と能代を使っており、北秋田の字も鷹巣の字も入っていない。この空港ができたのは、まだ鷹巣町が合併して北秋田市になる前のこと。空港をつくる場所が大館と能代の真ん中だったので、この名前になったということらしい。

鷹ノ巣の市街地を出たバスは、概ね奥羽本線に沿う形で大館へ向かっていった。平坦な川沿いを進むのかと思いきや、意外と峠越えのような区間もあった。新潟から青森に至る国道7号線を鷹巣から大館へ向かい、大館能代空港から約50分で大館に到着。大館駅前でバスを下車した。
奥羽本線の秋田県最北のターミナルとなっている大館駅。しかし、旅行日時点での駅舎はプレハブになっていた。実はこの隣に立派な新駅舎が完成していて、数日後には新駅舎の供用開始が控えていた。プレハブ駅舎での営業は残り数日。そんなときに大館駅へとやってきた。多分この記事を投稿している頃には、新駅舎がオープンし、プレハブ駅舎がその役目を終えているはずである。
さて、大館からは花輪線へと乗車するが、次の花輪線の列車は2時間後。せっかくなので、大館では、駅前のいくつか観光スポットを覗いていくことにした。
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