【旅行記】室戸まわりで阿佐海岸鉄道を再訪する旅~見て乗ってDMVを体験する~

7年半ぶりに阿佐海岸鉄道を再訪

 室戸から路線バスを乗り継いで徳島県海陽町の道の駅宍喰温泉に到着。ここからはいよいよ2021年12月に運行を開始した阿佐海岸鉄道のDMVに乗車していく。阿佐海岸鉄道自体は2017年春に一度乗車済み。今回が7年半ぶりの訪問となった。

阿佐海岸鉄道のDMV導入

 阿佐海岸鉄道阿佐東線は、室戸まわりで徳島と高知を結ぶ計画だった阿佐線のうち、建設工事が進んでいた海部~甲浦間を地元が出資する第三セクターという形で開業させたもの。以前は普通の気動車で運転されており、全長も短いこともあって正直目立たぬ鉄道路線だった。そんな阿佐海岸鉄道だが、同社と沿線は2017年に、DMV(デュアル・モード・ビークル)の導入を決めた。DMVとは鉄道と路線バスの二刀流とも言える乗り物。2000年代にJR北海道が閑散線区への導入を目指して開発していたが、JR北海道での実用化は断念されていた。
 最近では専用道を使ったBRT方式の路線バスや自動運転技術の発展もあって、鉄道とバスの二刀流というのはあまり意味を持たなくなっている。以前から鉄道(新交通システム)と路線バスの二刀流を行っている名古屋ガイドウェイバスは、バスの自動運転を導入することで、現在の鉄道区間の鉄道としての運行の廃止を目指している。阿佐海岸鉄道の場合も輸送量を考えれば、正直バスで十分なのだが、それでもDMVが導入されたのは、地域の観光の起爆剤としての役割を期待されたから。沿線には観光スポットが多いわけではない。そこでこのDMVを観光の目玉として導入し、それを目当てに自分のような鉄道ファンや観光客に来てもらうことで、その経済効果を地域全体に波及させるという狙いがある。また、南海トラフ地震を見越して、鉄道とバスのどちらでも運行可能な移動手段を用意しておくというのも目的の一つになっている。
 阿佐海岸鉄道の一般気動車での運行は、2020年11月30日限りで終了し、以降はバスによる代行輸送が実施され、DMB導入への各種工事や車両の試運転が進められた。運行を開始したのは2021年12月25日。先述のとおり、国内ではガイドウェイバスも鉄道に分類されるため、鉄道とバスの二刀流は初めての事例ではないが、レールを走る普通鉄道と路線バスを掛け合わせた乗り物は、国内だけでなく、世界でも初めての導入事例だった。
 なお、以前の阿佐東線は海部~甲浦間の路線だったが、海部駅にはモードインターチェンジ(DMVのモード転換点)が設置できないため、牟岐線の阿波海南~海部間が新たに阿佐東線に組み込まれた。これにより阿佐海岸鉄道は阿波海南~甲浦間の路線となった。

阿佐東線の区間変更と乗りつぶし

 DMVは鉄道とバスの二刀流の乗り物である。この2つの形態のことをモードと呼ぶ。DMVは鉄道モードとバスモードを切り替えながら走っていく。国内ではDMV用の法令は存在しない。そのためモードによって規準する法律が異なる。鉄道モードでは鉄道に関する法律、バスモードでは路線バスに関する法律に従って運行されている。
 牟岐線を一区間吸収して、阿波海南~甲浦間の路線になった阿佐東線だが、阿波海南駅~甲浦駅が現在の路線区間ではない。というのも、阿佐海岸鉄道における阿波海南・甲浦の乗降場は、バス停として設置されており、鉄道における駅ではない。普通の鉄道だと、分岐点が駅でない路線以外は駅が起終点となる。信号場が終点なら乗客は折り返すだけになってしまうから当然である。しかし、DMVは鉄道と路線バスが連続した乗り物なので、鉄道・バスのモードの転換を行う場所が鉄道路線の起終点になる。この2つのモードを転換する場所をモードインターチェンジ(以下、MIC)という。阿佐海岸鉄道では阿波海南と甲浦の2つのMICが設置されている。この2ヵ所が現在の阿佐東線の起終点。モードインターチェンジは信号場に分岐されるので、阿波海南信号場~甲浦信号場が現在の阿佐東線の区間である。
 ところで、世界初のDMVを体験するのも今回の阿佐海岸鉄道再訪の目的の一つだが、最大の目的は、このDMV導入による阿佐東線の未乗区間に乗車することだった。海部駅~甲浦駅の路線が阿波海南信号場~甲浦信号場間の鉄道路線となったことで、起点側、終点側ともに未乗路線が発生することになった。
 まず、終点側の甲浦は甲浦駅が廃止(バス停化)され、甲浦信号場(MIC)が路線の終点となった。旧甲浦駅と甲浦信号場は、ほぼ同一地点で、かつての線路終端部あたりにMICが設置されている。しかし、届出上、旧甲浦駅と甲浦信号場は同一地点ではなく、わずかに路線が延伸された形になっている。したがって、旧甲浦駅~甲浦信号場間の0.1km(実際には50mくらい)が未乗となった。一方起点側は、阿波海南信号場~海部間が未乗となった。この区間は大部分が牟岐線から移管されている。ただの路線移管の場合は、過去の乗車記録を引き継ぐが、阿佐東線の場合、阿波海南駅と阿波海南信号場が別の設備という扱いになる。こちらも実際に未乗なのは100mくらいである。
 この2区間が未乗になっていたので、一度完乗した四国地方も一旦完乗状態ではなくなっていた。これから阿佐海岸鉄道を再訪することで、再度の四国地方の完乗を目指していく。

阿佐海岸鉄道DMVに乗車し阿波海南文化村へ

 阿佐海岸鉄道DMVは現在、阿波海南文化村~道の駅宍喰温泉間と阿波海南文化村~海の駅とろむ間の2つの系統が運転されている。後者は土休日のみ1日1往復の運行。海の駅とろむまでは海の駅東洋町からむろと廃校水族館、室戸世界ジオパークセンター、室戸岬にも停車する。一方、基本路線である前者の阿波海南文化村~道の駅宍喰温泉間の系統は平日8往復、土休日10往復の運転である。沿線の地域利用よりも観光利用が主眼に置かれているため、土休日の方が運行本数が多い。阿波海南文化村~阿波海南間と甲浦~宍喰温泉間ではバスとして道路を走行し、阿波海南~甲浦では鉄道として阿佐東線を走っていく。運行ルートは「し」の字状になっていて、宍喰を一旦通り過ぎて県境を跨いで甲浦へ行った後、国道経由で宍喰へ戻ってくる形になっている。
 DMVは予約を受け付けており、主に高速バスの予約を取り扱う「発車オーライネット」で予約ができる。座席指定も可能なので、好きな座席を選べる。空席がある場合は予約なしの飛び乗りも可能。この場合は空席の座席に乗車する形となる。今回は予約していったが、土休日であっても多客期や行楽期でない限りは満席になる心配はないと思う。車両はトヨタのマイクロバス「コースター」をベースに開発されており、車内は2+1列の座席が並ぶ。道路を走っている間はあまり鉄道車両間はないが、これでも立派な鉄道車両なので、DMV93形気動車という形式名になっている。
 
乗車記録 No.13
阿佐海岸鉄道DMV 阿波海南文化村行
道の駅宍喰温泉→阿波海南文化村 DMV93形
 
 道の駅宍喰温泉で乗車したのは自分だけ。バス停では何人かがバスを待っていたが、直後に発車する大阪行きの高速バスを待つ人たちだった。高速バスは阿南まで空席があれば短区間の利用も可能。このバス停からだと、基本、DMV目当ての人しか使わないと思われる。道の駅を発車したバスは一旦南下して、次の海の駅東洋町へ。直前に乗車した路線バスは竹ヶ島や宍喰温泉などを経由し、寄り道が多かったが、DMVは国道をそのまま走っていく。トンネルを抜けると再び県境を跨ぎ、道の駅東洋町に到着した。
 
 1時間ほど前にカツオのたたきを食べた海の駅東洋町に到着。ここでは1人が乗車し、車内の乗客は2人になった。海の駅東洋町を出ると、再び国道に戻り、その先河内川という小さな川を渡った先で右折。甲浦駅へ向かっていく。DMVといえど、道路上の走りは路線バスと変わらない。これが鉄道に変身するというのがまだピンと来ない。
 
 海の駅東洋町から甲浦駅までの区間は、やや道幅が狭い道路を走っていく。先述の通り、阿佐東線は、もともと室戸経由で徳島と高知を結ぶ予定だった阿佐線のうち、建設が進んでいた部分を開業させたもの。甲浦駅は本来途中駅となる予定だったこともあって、駅は地区の中心から少しだけ離れている。
 
 甲浦駅に到着。今も甲浦駅と呼ばれてはいるものの、ここに設置されていた鉄道駅としての甲浦駅はDMVの開業に伴い廃止され、代わりに駅舎の前に甲浦停留所が設置されている。DMVが鉄道となるのは、この先のMICで鉄道用の車輪を下ろしてから。バス停の先には鉄路へ続くアプローチ道路がある。DMVはここを進んでいく。
 
 甲浦停留所を発車したバスは、駅舎の周りをくるっとまわる形で設置されたアプローチ道路を登って、道路と鉄道との接続点である甲浦MICに到着した。ここがバスモードと鉄道モードの転換点。DMVはここで鉄道用の車輪を下ろして、列車へと変身する。
 
 モードチェンジの準備が整うと、「鉄道モードにモードチェンジを行います」という案内放送が流れる。続けて太鼓の音楽が流れ、運転席側が少し持ち上がる。この瞬間、床下では鉄道用の車輪が下りている。「フィニッシュ」とアナウンスがモードチェンジ完了の合図。転換後は運転士が外に出て、車輪が正常に出ていることを目視で確認。鉄道用の運行装置、保安装置などの設定が行われたのち、DMVは信号場を発車する。
 このタイミングで運転士もバスの運転士から鉄道の運転士となり、規準する法律も道路運送法や道路交通法という道路の法令から、鉄道営業法などの鉄道に関する法令に変わる。阿佐海岸鉄道の運転士は路線バスの運転に必要な大型二種免許と、列車の運転に必要な動力車操縦免許の2つを持っていて、運転士もまた二刀流である。
 
 列車に変身したDMVは甲浦MICを発車。先ほどまでの路面を走るゴムタイヤの振動から、レールの上を走る鉄道特有の振動へ変わった。DMVはやや後ろに倒れた姿勢で走っていく。すぐに今は使われていない旧甲浦駅のホームの横を通過する。駅としては廃止されたが、ホームは現在もそのまま残されていて、かつてのホームへ向かう階段を上ってくれば、DMVのモードチェンジの様子を見学できるようになっている。旧甲浦駅と甲浦信号場(MIC)間は届出上、0.1km位置が異なっている。おそらくレールの終端部は以前とほとんど変わっていないのではないかと思うが、駅中心と信号場間が数十メートル離れているので、切り上げる形で0.1kmになったのだと思う。このほんのわずかな区間が未乗だったが、これで乗りつぶしたことになった。
 
 甲浦を出たバスはトンネルへ入り、次の宍喰へ向けて走っていく。さっきまで路上を走っていた乗り物が、レールの上を走っているというのはなんだか不思議な感じがする。床下からは「ガッタン、ガッタン」という独特なジョイント音が聞こえてくる。レールの上も案外早く走ることができるようで、速度に関しては普通のローカル線とほとんど変わらないかむしろ速いくらいだった。やがて車窓には宍喰の街が広がり、バスは宍喰駅に到着した。
 
 宍喰駅もかつてのホームはDMVと高さが合わず、DMVが車体の左側にしかドアがないため、DMV用のホームが上下別に設置されていた。駅の南側には車両基地があり、以前は車両基地への線路が分岐していたが、こちらも現在は廃止されており、DMVは道路を通って車両基地へ回送されている。写真の右奥に見える大きな建物が、このDMVの始発点となった道の駅宍喰温泉に隣接する温泉施設。かれこれ20分ほど乗車しているが、ただぐるっとまわってきただけなのめ、もし宍喰温泉で乗り遅れたとしても、小走りで宍喰駅までくれば十分間に合う。
 
 宍喰を出てしばらくすると、海の車窓を楽しめる。阿佐東線は全線の距離も短く、さらにトンネルや高架橋で直線的に建設されていることもあって、海が見える区間というのは1か所しかない。宍喰駅から海部間はトンネルが連続しているが、3個ほどトンネルを抜けたところから少しだけ海を車窓に走る。再びトンネルを抜けると海部駅に到着した。
 
 DMV運行開始の少し前まで、阿佐海岸鉄道阿佐東線の起点であり、JR四国牟岐線の終点だった海部駅。かつてはここでJR四国の車両と、阿佐海岸鉄道の車両が並んで停車し、乗り換える形になっていた。以前の牟岐線と阿佐東線はレールが繋がっており、直通運行われていた。現在は隣の阿波海南が接続点となっているが、DMVの導入に伴い完全に分断され、レールは接続されていない。阿佐東線の中間駅となったこの駅は、現在1面1線だけが使われている。反対側のホームには、普通の列車が走っていた時代に活躍していたASA-100形が留置されており、先代の車両とDMVが並ぶ。
 
 海部駅を出たバスは、この駅名物とも言える短いトンネルをくぐり、その先で海部川を渡る。かつてはJR四国の車両が走っていた線路をDMVは走っていく。橋を渡り、その先でもう一つトンネルをくぐると、いよいよ路線の終点である阿波海南信号場が近づく。DMVはトンネルを出たところで一旦停止し、その後ゆっくりとした速度で阿波海南信号場に到着した。
 
 JR四国の阿波海南駅に隣接したここ阿波海南信号場(MIC)が現在の阿佐東線の起点。今回は逆方向に走っているので、ここで鉄道モードが終了となる。信号場に到着すると、再び放送が流れて、今度はバスモードへの転換が行わた。
 阿波海南も甲浦と同じく、乗降する場所はバスモードに転換した先の路上に設置されている。したがって、阿佐海岸鉄道にとっては阿波海南の乗降場も、駅ではなくバス停である。海部~阿波海南信号場の区間も、阿佐海岸鉄道に移管されたことと、信号場が新設されたことにより、未乗という扱いだった。この区間に乗車したことで、阿佐東線の未乗区間のを乗り終え。再び四国地方の完乗を達成した。
 
 阿波海南では海の駅東洋町から乗ってきた乗客が下車していった。おそらくJRと乗り換えられるこの駅で降りる人がほとんどだと思う。この後は阿波海南から牟岐線の普通列車に乗車するので、結局戻って来ることになるのだが、今回は終点まで行ってみる。DMVは阿波海南から北へ1kmほど離れた阿波海南文化村という施設まで走っている。阿波海南MICでバスモードに転換したDMVは、駅前から国道55号線へ戻り、少し北上。その後右折して、終点の阿波海南文化村に到着した。
 
 終点の阿波海南文化村でDMVを下車した。DMVは全便がここを起・終点としていて、乗ってきたDMVは数分の停車時間の後、道の駅宍喰温泉行として発車していった。阿波海南文化村は博物館や工芸体験がてきる施設である。しかし、この日は月曜日で、施設はお休みとなっていた。施設に特に用事はなく、ただDMVを乗り通すことが目的でここまで来たので、この後は歩いて阿波海南駅へ戻った。

阿波海南でモードチェンジを見学

 阿波海南文化村から歩いて阿波海南駅へ戻ってきた。駅に到着すると、牟岐線の普通列車が到着していた。これに乗ればスムーズに徳島へ出れるが、早く徳島に着いたところでやることは特にない。せっかくなので、一本後の列車に乗車することにして、DMVのモードチェンジの様子を見学していくことにした。阿波海南MICも甲浦MICと同じく、モードチェンジの様子を間近に見学できるようになっている。
 
 とはいえ、DMVが戻って来るのは約1時間後。それまで駅のベンチで待ちぼうけとなった。かつてはただの棒線駅だった阿波海南も、今では立派な終着駅となり、信号機が設置されている。日が沈んでいくこの時間帯は、どこにいてもなんか切ない気持ちになる。ベンチに座ってただぼーっと列車を待つというのは、忙しない現代においてはある意味贅沢だと思う。
 駅の時刻表には列車の時刻表とともに並行する国道を走る高速バスの時刻が掲示されていた。阿波海南~阿南間はJRと徳島バスが共同経営を行っていて、JRの乗車券・定期券で高速バスの空席を利用できる。阿波海南駅は海部高校前バス停が対応するバス停となっていて、このバス停の高速バスの時刻表が列車の時刻の横に並んでいる。
 調べて見ると、JR四国のホームページでも、牟岐線と高速バス、それに牟岐-甲浦間の路線バスの3つを合わせた統合時刻表が公開されていた。JRの乗車券で利用できるのは阿波海南~阿南間のみだが、高速バス自体は甲浦~阿南間の区間利用が可能。牟岐~甲浦間では同時に路線バスも走っているので、これも併記されている。JRの乗車券が使えるのは高速バスの阿波海南~阿南間に限られ、その他の区間と路線バスについては現金払いになる。
一方、阿佐海岸鉄道との連絡運輸は既に終了しており、通しの乗車券・定期券の発売は行われていない。DMVは観光アトラクション的な要素が強く、地元住民の日常利用は牟岐線と路線バスになっている。ちょうど国道を海の駅東洋町行のバスが通過していった。夕方の便ということもあり、車内の乗客の姿も多かった。
 
 1時間ほど待ち続けて、ようやく道の駅宍喰温泉まで行って折り返してきたDMVが、阿波海南へ戻ってきた。さっきは車内から体験したDMVのモードチェンジを、今度は外から眺めてみる。手前で一旦停止したDMVはゆっくりとMICに到着。しばらくすると鉄道用の車輪を収納して、タイヤを接地させ、バスモードへ転換した。
 
 列車から路線バスへ変身したDMVはMICを発車し、すぐに路上に設けられた阿波海南停留所に停車した。路面が緑色に塗装された場所がバス停で、上下ともにのりばが分かれている。この便には1人が乗車していて、ここで下車していった。横に見えるのは駅前交流館の建物。実質的な阿波海南駅の駅舎となっている。バスはこの建物の横を通って、国道へと出ていく。
 
 建物の横を通って、国道へ向かうDMV。このDMV93形という車両は、トヨタ自動車のマイクロバス「コースター」をベースに作られている。後ろから見ると、ほぼコースターと同じに見える。DMVを見送って、7年半ぶりの阿佐海岸鉄道再訪を締めくくった。

牟岐線の普通列車と特急うずしおを乗り継ぎ高松へ

 さて、阿佐海岸鉄道への再訪も無事に終え、今回の旅の目的を果たすことができたので、ここからは九州へ向けての移動を開始していく。この日は高松からの夜行バスに乗車して九州へ帰る。阿波海南からは列車を乗り継いで、夜行バスが発車する高松駅へ向かった。
 阿波海南から乗車したのは、ここが始発の普通列車徳島行き。1500系気動車1両での運転だった。JR四国の普通列車への乗車もかなり久しぶり。1500系も前回このあたりに来た以来なはずなので、かなり久々の乗車だった。牟岐線はJR四国の路線としては盲腸線となっており、徳島から離れれば離れるほど運転本数も少なくなる。末端の牟岐~阿波海南間は1日8往復のみの運転。徳島駅近辺だと30往復以上の運転があり、阿南、そして牟岐と本数がどんどん少なくなっていく。以前はキハ40系列も走っていたこの近辺の牟岐線だが、現在は阿南までしか運用がなく、末端部は1500形または1000形での運転となっている。この駅を発車する8往復の普通列車のうち、1本は牟岐から特急むろと2号徳島行に変身する。そのためキハ185系での運転である。
 
乗車記録 No.14
牟岐線 普通 徳島行
阿波海南→徳島 1500形
 
 列車が発車する頃には周囲も暗くなり、徳島までは夜間走行となった。阿波海南から徳島までは2時間20分もかかる。結構長丁場の乗車となった。前回、牟岐線に乗車しに来た時は、まだ日中の特急むとろが走っていて、徳島~牟岐間はこの特急むろとを利用した。旅行日の直前のダイヤ改正概要発表で、現在は朝夕に1往復だけ残る特急むろとの全廃が発表された。思い出の列車がまた一つなくなることになる。特急むろとの車窓に見た日和佐の海の美しさは今でも覚えている。
 牟岐から先の普通列車は初めての利用となった。最初は地域利用の高校生と、徳島へ行く乗客が半々でガラガラだったが、阿南の一つ手前の見能林から近くの阿南工業高専の学生がたくさん乗車してきて一気に混雑した。阿南の前後で列車本数が少なくなるので、学生も阿南より徳島側に作ってほしかったと思っているのではないだろうか。自分も似たような立地の高専出身なので、気持ちは察するところである。阿南駅でも多くの乗車があり、1両の列車も立客が出る混雑となった。阿南から先の牟岐線は徳島近郊の区間となり、通勤・通学で多くの人が利用している。徳島からやってくる反対列車は、乗車中の列車以上に混雑していた。
 
 阿波海南から2時間20分ほどで、終点の徳島駅に到着。ここで高徳線の特急うずしおに乗り換えるが、時間があったので、一旦夕食の買い込みと駅の外の様子を伺いに改札の外へ出た。徳島駅に来るのはこれが3度目。駅ホームは昔ながらの雰囲気が残っているが、駅舎自体は県庁所在地の中心駅としての風格が漂っている。昨日は高架化された松山駅を訪問したが、徳島駅についても、徳島県や徳島市が高架化を計画している。もしかするとこの駅も数年後には大きな変貌を遂げているのかもしれない。駅前にはそごう徳島店があったが、2020年に撤退し、現在は三越徳島店となっている。調べるに百貨店というよりはショッピングモール的な位置づけに変わっているらしい。今回は1時間に満たない滞在だが、この駅には近いうちに、関西方面への高速バス乗車の旅で再び訪れたいと思っている。徳島線、鳴門線にも久々乗車してみたいところだ。
 コンビニで夕食を買っている間に時刻は20時をまわった。明日は普通に仕事というのに、この時間にまだ徳島にいる。夜行バスのおかげで夜遅くまで四国を旅することができる。
 
 徳島からは高徳線の特急うずしおで高松へ。特急うずしお前回乗車したのが2015年なので、かなり久しぶりの乗車だった。2015年の乗車時は、まだN2000系での運転されていて、2600系すらデビューしていない時期だったので、2600系・2700系で運転される特急列車への乗車は今回が初めてだった。乗車したのは2600系。この車両は2700系と見た目は同じだが、2700系が振り子式を採用する一方で、こちらは空気ばね式の車体傾斜システムを採用している。当初JR四国はこの2600系を各線の特急に導入する予定だったが、カーブの多い路線では車体傾斜システムが不向きということが分かったため、2600系の増備は断念され、2700系が導入された。増備が行われなかったため、2600系は2編成4両と数が少なく、普段はカーブが比較的少ない高徳線の特急うずしおのみで運用されている。夜の列車なので、車窓は楽しめなかったが、俊足を飛ばす特急うずしおの走りを楽しむことができた。
 
乗車記録 No.15
高徳線 特急うずしお30号 高松行
徳島→高松 2600系
 
 特急うずしおで徳島から1時間。四国チャイムの響きとともに列車は終点の高松に到着した。朝に高知駅前のホテルを出発して早16時間。室戸・甲浦・徳島と経由して、高松までたどり着くことができた。1日半という短い四国滞在だったが、前日は松山駅、高知駅、この日は徳島駅、高松駅に訪問したので、4県の県庁所在地の中心駅の再訪も達成してしまった。高松駅は駅舎自体は以前と大きく変わらないが、駅の隣に商業施設「高松オルネ」がオープンして、買い物の利便性が増した。以前はスーパーがあったと記憶していて、初めて高松に来た時は夜行バスに乗る前にそのスーパーでいろいろ買い込んで乗った覚えがある。

さぬきエクスプレスに乗車し九州へ戻る

 高松駅からは四国高速バスのさぬきエクスプレス福岡号で九州へ帰った。以前は四国高速バスと西鉄高速バスの共同運行だったが、現在は四国高速バスの単独運行で毎日運転されている。2024年8月までは高松駅を22時45分に発車していたが、8月からは20分早くなり22時25分発となった。それでも夜遅くまで四国に滞在できることに変わりはなく、九州からの四国旅にとってはなくてはならない存在だと思う。バスは高松中央ICから高松道に入った後、善通寺ICで高速を下り、善通寺、丸亀、坂出を経由する。坂出を出るのは23時52分。日付が変わる寸前まで、四国を楽しむことも可能である。今回は徳島から高徳線を選択したが、徳島線、土讃線経由で丸亀・坂出へ出て、ここでバスに乗り換えても十分間に合う。1人運行のバスだが、高松から乗務した運転士は坂出で交代となるため、実際には2人の運転士により運転されている。坂出北ICから高速道路へ戻ると瀬戸大橋を渡って本州へ。倉敷市の鴻ノ池SAで消灯前の開放休憩が取られ、その後消灯となった。
 
乗車記録 No.16
四国高速バス さぬきエクスプレス福岡号 西鉄天神高速BT行
高松駅バスターミナル→小倉駅前
 
 行きのバスはあまり寝れなかったが、帰りは爆睡。起きるといつのまにか朝の休憩箇所である壇ノ浦PAに着いていた。この日は朝から仕事。博多まで乗っていると定刻で8時をすぎてしまうので、小倉駅前でバスを下車した。小倉駅前は定刻では6時50分着だが、30分以上の早着で6時15分には到着した。
 

小倉からN700系16両編成の「こだま」で博多へ

 小倉からは新幹線で博多へ先回り。さぬきエクスプレス福岡号が早着したおかげでN700系16両編成で運転される小倉発博多行き「こだま771号」に乗車することができた。東海道新幹線では、「こだま」ももちろん16両編成で運転されているが、山陽新幹線ではそのほとんどが500系、700系、N700系の8両編成での運転となっている。16両編成で運転される列車は、この「こだま771号」を含む小倉-博多間の1往復のみである。いつか乗りたいと思っていたものの、なかなかタイミングが合わなかった列車に今回初めて乗車することができた。ちなみに上りは博多22時48分発、下りは小倉6時43分発なので、小倉に泊まらなくても往復することは可能である。
 
乗車記録 No.17
山陽新幹線 こだま771号 博多行
小倉→博多 N700系
 
15号車に乗車したが、やはり階段から離れていることもあって、乗車していたのは2人だけだった。一方、階段付近の号車は、割と人が乗っているように見えた。この「こだま771号」は小倉~博多間の始発列車でもある。この列車の後は約2時間に渡って、16両編成の列車の運転がない。次の小倉→博多の16両編成は小倉9時3分発の新大阪発博多行ひかり591号となっている。
 小倉から18分で終点の博多に到着。小倉-博多間を走る16両編成の「こだま」で最後まで旅を楽しみ、ついに旅のゴール博多駅へ到着となった。
 

おわりに

 約5年ぶりの四国地方訪問となった今回の旅。四国での滞在時間は1日半と短かったものの、高速バス、路線バス、そして鉄道と様々な交通機関を楽しめた旅だった。DMVの運行が開始された阿佐海岸鉄道も、運行開始から3年が経ってしまったが、ようやく再訪することができ、鉄道とバスの二刀流を体験することができた。前回、阿佐海岸鉄道を訪れた際には行かず、宿題として残していた室戸周りの路線バスの旅にもチャレンジ。天気に恵まれたこともあって、朝から夕方まで、車窓に広がる青い海を楽しむことができた。学生時代に夜行バスでよく訪れていたということもあって、今回も夜行バスで四国を訪れた。夜行バス自体もしばらくご無沙汰となっていたが、今後はまたお世話になる機会も増えるのではないかと思っている。
 今回の旅は阿佐海岸鉄道の再訪とDMVの乗車が一つの大きな目的だった。鉄道とバスの両方を走れるDMVという乗り物は、乗り物好きとしてはとても魅力的で、さっきまで路上を走っていた車両が、レールの上を走るというのは、とても新鮮で、乗っても見ても面白い乗り物だった。路線バスが並行して走っていることもあって、DMVの必要性を考えてみたくなるが、このDMVは地域利用というよりは、地域の観光の目玉として、アトラクション的な要素強めで導入された乗り物なので、そこは考えないでおこうと思う。DMVをきっかけに、沿線を旅する人がいれば、それで意味はあるのだと思う。
 一方で、観光メインだとしても、気になるのは運行区間だろうか。並行して路線バスが走っているので、大人の事情があると察するが、現状の運行ルートだと、鉄道と路線バスの二刀流というDMVの長所を十分には活かせていない気がした。現在は土休日に1往復だけ海の駅とろむまで行く便があるが、やはりDMVの真価が発揮できるのはこちらの系統の方だと思う。できれば、その先も奈半利まで繋がり、DMVを介して計画された阿佐線が繋がると、魅力もさらに増すような気がする。今回は日程の都合上、室戸系統への乗車は見送ったが、再びこの地を訪れることがあれば、この区間を走るDMVに乗車してみたい。
 阿佐海岸鉄道の再訪により、四国地方の鉄道路線を再完乗することができた。鉄道路線としては再び全て乗り終えた状態となった四国地方だが、まだまだ乗りたいバス路線ややりたいことは山ほどある。全国の鉄道路線へ乗車を優先してきたので、ちょっと間隔が開いてしまったが、乗りつぶしの方もまもなくひと段落となる予定。今後は1・2年に一回は行けたらと思っている。今気になっているのは、四国と関西を結ぶ高速バスと、愛媛県内のバス路線。どちらを先に乗車するかは決めていないが、今後も夜行バスを使いながら、効率的に旅していきたいと思っている。

四国地方の他の旅行記

 

今回初めて乗車した路線

【鉄道路線】
阿佐海岸鉄道 阿佐東線 甲浦信号場-(旧)甲浦、海部-阿波海南信号場
 
【バス路線】
JRバス中国 広島ドリーム博多号 博多BT-広島BC
広交観光 リードライナー 広島BC-道の駅びんご府中
伊予鉄バス ホエールエクスプレス JR松山駅前-はりまや橋
高知東部交通 高知-安芸線 はりまや橋-安芸駅
高知東部交通 安芸-室戸線 安芸駅-室戸世界ジオパークセンター
高知東部交通 室戸-甲浦線 室戸営業所-海の駅東洋町
阿佐海岸鉄道 道の駅宍喰温泉-甲浦信号場、阿波海南信号場-阿波海南文化村