【旅行記】北関東鉄道探訪録 後篇 ~上越新幹線たにがわでガーラ湯沢へ~

前篇につづき北関東鉄道路線を巡る

 昨年秋に出かけた北関東鉄道探訪録前篇では、未乗の鉄道路線を多く残していた北関東を旅し、茨城県を走る鹿島臨海鉄道や群馬県を走るJR信越本線、吾妻線などに乗車した。今回はその後篇として、引き続き北関東を走る未乗路線を巡っていく。
 
 
 今回は北関東3県のうち、群馬県と栃木県の路線を巡る。さらに旅の最初は、北関東を越えて新潟県へも足を伸ばす。乗車する路線はJR線から大手私鉄、中小私鉄、第三セクターまでさまざまな7路線。前回と同じ2泊3日の日程だが、前回より巡る路線が多く、ちょっと忙しい旅となった。乗り鉄が忙しくても、沿線の観光も忘れない。1日目は上越線の駅であり、日本一のモグラ駅として知られる土合駅に立ち寄る。さらに3日目には世界遺産に登録されている富岡製糸場を見学していく。
 具体的な旅程は次の通りである。1日目は東京駅から上越新幹線の「たにがわ」に乗車。冬~春にかけてのスキーシーズンのみ営業している上越線ガーラ支線とガーラ湯沢駅を訪れる。その後は越後湯沢から上越線を上り、両毛線に乗り換えて桐生に宿泊する。2日目は桐生からわたらせ渓谷鐡道に乗車。その後は日光へ抜け、日光線で宇都宮へ出た後、一昨年に開業した宇都宮ライトレールに乗車する。乗車後は新幹線と特急あかぎを使って高崎へ移動し、ここで宿泊する。3日目は群馬県内で上信電鉄、上毛電気鉄道、東武桐生線の3つの路線を巡る。赤城からは特急リバティりょうもうに乗車し、帰路に就く。
 さすがは冬の関東地方、天気の心配はしなくても3日間とも晴れに恵まれた。前日のうちに羽田空港に到着し、蒲田のホテルに一泊。翌日、京浜東北線で東京駅へ出て、ここから北関東の鉄道路線を巡る旅の続きがスタートした。

 

上越新幹線たにがわでガーラ湯沢へ

 北関東の旅といいながら、最初は新潟県へ行き、上越線の未乗区間を乗りつぶしていく。上越線は、群馬県の高崎駅と新潟県の宮内駅を結ぶ路線。過去の旅では、このうち高崎~渋川間、越後湯沢~宮内間に乗車してきたが、中間部分の越後湯沢~渋川間が未乗となっていた。また、上越線の支線である通称ガーラ支線も未乗で、北関東の旅と同じタイミングで乗りに行こうと考えていた。そこで今回は、東京から上越新幹線たにがわでガーラ湯沢まで行き、そこから折り返して、上越線経由で北関東入りしていく。
 
 今回の旅で最初に乗車する未乗路線は、上越線のガーラ支線。この路線は越後湯沢駅とガーラ湯沢駅を結ぶ全長わずか1.8kmの鉄道路線である。路線分類上は在来線である上越線の支線だが、線路は上越新幹線と繋がっていて、実際には新幹線の枝線として扱われている。路線の終点であるガーラ湯沢駅には、JR東日本系列の会社が運営するガーラ湯沢スキー場がある。この路線は専ら、このスキー場へ行くスキー客のために営業している。乗り鉄目的の自分のような鉄道マニアを除けば、利用する乗客のほとんどがスキー客である。
 ガーラ湯沢駅付近には、以前から越後湯沢駅に付随した留置線と保守基地が設置されていて、新幹線から分岐する回送線が延びていた。この留置線を駅として開業させ、駅直結のスキー場を作れば、スキー客を呼び込めるのではないかという社員のアイデアにより、スキー場とともに1990年に営業を開始したのが、このガーラ支線である。スキー場は開業以降、東京から乗り換えなしで直接行けるスキー場として人気を博し、現在は国内のみならず海外からの観光客にも人気のスキー場となっている。スキー場直結の路線、駅という特性上、この路線はスキーシーズンしか営業していない。乗客を乗せた列車が走るのは12月中旬から5月初旬ごろまで。せっかくなら賑わうスキー場の様子も見てみたいので、冬真っ盛りの1月下旬に訪れて見ることにした。
 
 ガーラ湯沢スキー場が営業している時期の朝の東京駅は、ガーラ湯沢行きの新幹線が次々と発車していく。スキーシーズン以外は、高崎か越後湯沢発着となる定期列車も、この季節はガーラ湯沢まで延長して運転されている。臨時列車も定期列車の合間を縫って多数設定され、多くのスキー客を運ぶ。「たにがわ」に乗車するのも初めてだったので、定期列車にするか、臨時列車にするか迷ったが、今回は臨時列車を選択。東京駅を8時30分に発車するたにがわ81号に乗車した。
 「たにがわ」は上越新幹線の近距離区間を走る列車に設定される列車名である。ガーラ湯沢・越後湯沢発着の列車のほか、高崎発着の列車も設定されていて、朝の都心方面、夜の高崎方面の列車は都心方面への通勤客の姿も多い。定期列車はほぼ全てが各駅停車だが、臨時列車に関しては主要駅のみに停車する列車が多い。臨時列車の停車パターンは多彩で、乗車した列車は上野、大宮、高崎、越後湯沢に停車。それ以外にも高崎には停車しないタイプ、熊谷にも停車するタイプ、熊谷と上毛高原に停車するのに高崎は通過するタイプなどが設定されている。
 
乗車記録 No.1
上越新幹線 たにがわ81号 ガーラ湯沢行
東京→ガーラ湯沢 E7系 
 
 スキーシーズン真っ只中ということもあって、指定席は混雑することはなんとなく予想がついていた。そこで今回はグリーン車を利用した。グリーン車も新幹線eチケット(トクだ値14)を使えば、当日購入の自由席より安く乗れる。
 東京駅を発車し、続けて上野駅で乗客を乗せたたにがわ81号。日曜日の列車なので、利用客はほとんどがスキー客または観光客で、上野発車の時点で乗車したグリーン車は、窓側の8割が埋まった。やはりスキー板などの大きな荷物を持つ人の姿が多かった。この日の関東平野は朝から快晴。列車は雲一つない空の下、次の大宮駅へ向けて進んでいく。車窓の奥には雪を積もらせ輝く富士山が見えていた。
 
 列車は大宮に到着。ここでも乗客を拾っていく。グリーン車に乗車していたので、大宮で乗車した人は少なかったが、車内放送では指定席・自由席ともに混雑していて、座席に荷物を置かないようにと案内されていた。この列車は大宮を出ると、次は高崎となる。上越新幹線のこの区間は最近比較的よく通っているが、熊谷と本庄早稲田の両方を通過する列車に乗るのは久しぶりだった。
 
 列車は大宮から22分で高崎に到着。高崎では別に何に追い抜かれるわけでもないが、4分停車した。この列車の直後には臨時列車で北陸新幹線のかがやき521号が特定日に走っている。おそらくこの列車の運転日には、ここで追い抜かれるのだと思う。停車中の車内では、ガーラ湯沢スキー場へ訪れる人たちへ向けた案内放送が流れた。到着後は混雑するので、座席のリーフレットのQRコードを読み込んで、先に予約しておいた方がスムーズに手続きできるという内容だった。
 高崎を出ると、北陸新幹線と分かれて、やがてトンネルへと突入。ここからトンネルが連続する地帯へ入っていく。何個かトンネルを通過すると、列車は上毛高原を通過した。この先はいよいよ、この列車の由来でもある谷川岳を貫く長い大清水トンネルへ入り、上越国境を越える。
 
 大清水トンネルの中で群馬県と新潟県の県境を跨ぎ、列車は関東を抜けた。トンネルの中で越後湯沢の到着放送が流れて、トンネルを出るとすぐに越後湯沢に到着。トンネルを出た途端、車窓には一面の雪景色が広がった。まさに”トンネルを抜けるとそこは雪国”だった。乗客は皆がガーラ湯沢まで乗車するのかと思いきや、案外越後湯沢で下車する人が多く、ここで車内は閑散とした。越後湯沢周辺にはガーラ湯沢以外にもたくさんのスキー場がある。それぞれ目的のスキー場や観光地を目指していく。スキー板をドアにぶつけないようにと再三放送が行われていたのが、印象的だった。
 
 この列車に乗車したのは、ここから約3分間が最大の目的。上越新幹線を走ってきた列車は、ここから上越線のガーラ支線へと入る。ガーラ支線の運行形態はJR西日本の博多南線とよく似ている。博多南線も全列車が在来線の特急列車の扱いだが、ガーラ支線も在来線なので、この区間を走る列車は新幹線車両だが、在来線特急の扱いとなっている。博多南線は多くの列車が山陽新幹線の「こだま」からの通しとして運転されるが、案内上は博多南線として区別される。一方、ガーラ支線の場合は、東京からの直通が売りなので、もちろん通しで案内される。その点に関しては、博多南線と異なっている。
 越後湯沢を発車し、転線した列車は上越新幹線と別れる。そこからしばらく高架橋は上越新幹線とガーラ支線の2層式となっていて、ガーラ支線は上越新幹線の下を走る。まもなくガーラ湯沢となる。沿線の建物は雪をたっぷりと積もらせている。個人的に冬の新潟訪問は初めてで、こうした雪の積もった街の景色も珍しかった。
 
 その後ガーラ支線は、上越新幹線の高架の東側へ出て、短いトンネルへ入る。それを抜けると終点のガーラ湯沢へと到着する。ガーラ湯沢駅のホームに入る直前の車窓には、上越新幹線のトンネルとトンネルを繋ぐシェルターが見えていた。もともと留置線への回送線なので当然だが、ほぼ同じ場所を走っている。しかし、これでも分類上は上越新幹線とは異なる立派な一つの路線である。列車は東京駅からおよそ1時間20分、越後湯沢からはわずか3分で終点のガーラ湯沢に到着。これで以前から乗車するタイミングを見計らっていた上越線のガーラ支線も無事に乗り終えることができた。

スキーシーズンのみ営業するガーラ湯沢駅を見る

 ガーラ湯沢へ降り立った。先述の通り、この駅は直結するスキー場が営業している12月中旬から5月初旬にかけてのみ営業する臨時駅である。ただし、その年の積雪状況により、スキー場の営業期間が短くなる場合もあるので、駅の営業期間は必ず一致しているわけではなく、営業開始・終了時期はスキー場が開いてなくても駅は営業している場合もある。
 駅ホームは1面2線で、構内にはこのほか保守基地も設置されている。ガーラ湯沢駅が営業しない時期は越後湯沢駅の留置線として使われており、列車は1年を通してこの駅にやって来る。臨時駅であり、また入場は発車の15分前と決められていることから、ホーム上の設備は最小限。ホームに待合室などは設置されておらず、自販機とベンチがポツンと置かれている。ホーム自体は殺風景で、まだスキー場に着いた気はしない。
 
 改札を出ると、目の前がスキー場の受付となっていて、すでに新幹線から下車したスキー客が長い行列を作っていた。もちろん、今回は乗り鉄が目的で、ここへスキーをしに来たわけではない。しかし、個人的にスキー場という場所に来たのはこれが始めてだった。もうすぐ30になろうとしているが、未だスキーをしたことがない。自分の住む九州だと高校の修学旅行でスキーを初めて体験する人も多い。しかし、自分は海外だったので、スキーは未だやったことがない。個人的には遊園地もそれ目的で行ったことがなく、乗りつぶしの旅で初めて入園した経験がある(大分県別府市のラクテンチ)。おそらく乗り鉄を趣味にしていなければ、スキー場や遊園地と全く縁がない人生になっていたような気がするが、鉄道のおかげで、雰囲気だけでも味わわせてもらっている。
 駅舎を見てみたかったので、一旦外へ出てみた。新幹線のホームの上にスキー場が乗っかる形のガーラ湯沢駅。建物はとても巨大だった。写真に写る水色のバスは越後湯沢駅方面からのシャトルバス。越後湯沢駅とガーラ湯沢駅の間はもちろん列車でも移動できるが、シャトルバスも運行されている。新幹線は日中運行されていない時間があるので、この時間はシャトルバスが便利である。
 
 スキー場のエントランスは多くのスキー客で賑わっていて、とても混雑していた。スキー場のシステム自体を見たのが初めてだったので、正直何もかもが新鮮だった。ここで受付を済ませ、ロッカーに荷物を預け、スキーウェアと用具を整えた後は、ゴンドラに乗車して山上へ向かうという流れらしい。もちろんスキー用具のレンタルも行われていて、レンタルスペースには大量のスキー用品が並んでいた。反対側にはスキーウェアや土産物を取り扱う店の他、飲食店が並んでいた。
 駅の話をすると、この駅は有人駅であり、みどりの窓口が営業している。隣の越後湯沢は主要駅でありながらみどりの窓口が営業終了しているが、ガーラ湯沢については営業が継続されており、実はこのあたりでは貴重なみどりの窓口になっている。ただし、営業は不定期で、駅の営業時にいつでも営業しているわけではない。この日は夕方の列車が既にほぼ満席となっていたこともあって、窓口は開いていなかった。券売機は指定席券売機が1台と自由席用の券売機が数台並んでいる。ここへ来る人たちは多くが新幹線とスキー場の料金がセットになったパック旅行で訪れる。そのため、基本的には帰りのきっぷを準備してから来る人が多い。
 
 裏口の方からも外へ出ることができ、そこは一面雪で覆われていた。足で雪を踏みしめた瞬間に、今まで踏んできた雪と全く質が違うことに気づいた。こんなにフカフカした雪を踏んだのは初めてだと思う。触って見るととてもサラサラしている。水分が少なく、風が吹くとすぐに飛んで行った。ここは裏口ではなく、山上から続くスキーコースのゴール地点だったらしい。ゴンドラで山上からエントランスへ戻ることもできるが、下山コースを滑ってここまで降りてくることもできる。ただし、急斜面があり上級者向けコースらしい。
 
 さて、ガーラ湯沢からは一駅戻り越後湯沢駅へ向かう。先述の通り、ガーラ湯沢と越後湯沢の間にはシャトルバスが走っていて、これを利用する手もあるが、せっかくなら乗車する機会がなかなかないガーラ支線を往復しておきたいので、列車を選択した。15分前になると改札内へ入れるようになる。夕方は都心方面へ帰る人たちで改札前も大行列になるらしいが、さすがに午前中にここから列車に乗るのは、ガーラ支線目当てに来た鉄道ファンぐらいで、ホームへ入るとほぼ無人だった。
 発車まで少し時間があるので、列車を撮影がてらにホームの端まで行ってみた。線路では消雪用のスプリンクラーが動作していた。雪が降る地域の新幹線に、雪が降る季節に来たのは初めてだったので、こうした光景を見るのもこれが初めて。こうした雪に対する設備が整っているからこそ、新幹線は雪に強い。

ガーラ湯沢から一駅戻って越後湯沢へ

 ガーラ湯沢10時29発のたにがわ408号東京行に一駅だけ乗車。先ほど東京から乗車した列車は臨時列車だったが、この列車は毎日運転される定期列車だった。もちろんガーラ湯沢~越後湯沢間に関しては、ガーラ湯沢の営業期間中のみの運転。それ以外の時期は越後湯沢発着で運転されている。
 
 乗客の姿はまばらで、ガーラ湯沢から越後湯沢間に関しては、おそらく5人ほどしかいなかったのではないかと思う。自分は2号車に乗車したが、他に乗客はいなかった。先述のとおり、ガーラ湯沢~越後湯沢間は在来線特急の扱い。この区間には特定特急料金が設定されていて、乗車券190円、特急券100円の計290円で乗車することができる。博多南線は合計330円なので、この区間が、日本で最も安く新幹線車両に乗れる区間となっている。上越新幹線内との間には指定席が発売されているが、ガーラ湯沢~越後湯沢間の利用では、指定席の取り扱いがなく、自由席しか利用することできない。
 
乗車記録 No.2
上越新幹線 たにがわ408号 東京行
ガーラ湯沢→越後湯沢 E7系 
 

越後湯沢で上越線の列車を待つ

 ガーラ湯沢からわずか3分で越後湯沢に到着。昨年4月にはほくほく線の列車で直江津からここへ来て、折り返し上越線の長岡行に乗車したが、その時以来8か月ぶりの訪問となった。今回はここから上越線の南側の区間に乗車していく。水上方面は列車本数が少なく、ここでは1時間30分の待ち合わせ。やることは特にないが、雪が積もる湯沢の街並みが見てみたかったので、駅周辺を散歩してみることにした。
 
 前回来た時はスキーシーズンが終わった直後だったので、駅は静まり返っていたが、この日はスキーシーズンの日曜日の朝ということもあり、多くの人で賑わっていた。とりあえず駅の西側周辺を適当に歩いてみる。駅の西側は旅館やホテルが多く立ち並んでいるエリア。観光地らしい景色が広がっている。道路の真ん中には消雪パイプと呼ばれるスプリンクラーが設置されていて、雪を溶かしていた。雪国に冬に来るのは初めてだったので、この設備が実際に動いているのも初めて見た。
 
 大きな道路の周りこそ積雪は少ないが、細い路地へ入ると、沿道は1m以上の雪が積もっていた。ここは新潟県の中でも豪雪地帯の一つ。湯沢町のアメダスの記録を見てみると、この日の積雪は111cmだったらしい。しかし、これでも積雪は少ない方。大雪が降ると2mを超え、下手すると3mを超える積雪になることもある。雪国らしい景色を楽しむことができた。
 
 駅構内は混雑していたので、少し早めに改札内へ。混雑している改札外とは対照的に、在来線ホームは列車のいない時間は静まり返っている。ホームへ下りると駅構内にも雪が高く積もっているのが見えた。ポイントに設置された融雪カンテラからは煙が上がっていた。やがて、遠くから長岡行の列車が姿を現した。なぜかそれだけでもとても幻想的な光景に見えた。
 
 現在は使用されていない4番線ホームは屋根が取り外されているのでこの積雪。この4番線ホームは上りの本線なので、今も貨物列車が通過し、線路自体は使われている。雪の中を走るEH200形牽引の貨物列車も見てみたかったが、今回は時間が合わず見ることはできなかった。次に乗車する普通列車は、この駅に発車の20分前には到着。外はかなり冷え込んでいたので、列車到着後は暖房の効いた車内で列車の発車を待った。
 
次話