【旅行記】初冬の山形乗り鉄旅~荒砥からフラワー長井線を乗り通す~

フラワー長井線の終点荒砥駅とその周辺を歩いてみる

 長井から普通列車でフラワー長井線の終点荒砥駅に到着した。山形からの路線バスで一度駅前を通過したので、約2時間ぶりに帰ってきた形になった。折り返しの列車はすぐに発車してしまうので、ここでは1時間40分の待ち合わせ。やることは特にないので、とりあえず駅の周辺を歩いてみることにした。
 荒砥駅は白鷹町に所在する。白鷹町は米沢盆地の一番北に位置する自治体で、町の真ん中を最上川が流れる。最上川はこのあたりで米沢盆地を出て、しばらく山間部を流れ、1日目に訪れた左沢線の終点、大江町の左沢付近から村山盆地へ出る。荒砥では山形市街地へ向かう国道348号線と、左沢を通って東根に向かう国道287号線が分かれる。左沢では道路標識に長井と書かれているのを見たが、ここでは寒河江の文字が見えた。ここから左沢や寒河江までは車で大体30~40分ほどらしい。
 この日は夜中に結構しっかりと雪が降ったようで、駅舎の屋根にも雪が積もっていた。荒砥駅の駅舎は荒砥駅前交流施設と名付けられ、フラワー長井線の窓口、観光案内所、ギャラリー、公民館が入っている。駅であると同時に地域の交流施設としての役割も持っている。
 
 山形鉄道の本社は長井にあるが、車両基地はここ荒砥にある。九州で例えるなら、南阿蘇鉄道の高森駅になんとなく雰囲気が似ている。2両が車庫の外に顔を出していた。山形鉄道はフラワー長井線というくらいなので、沿線では様々な花を楽しむことができる。車両の一部は、沿線で楽しめる花のラッピングがされている。写真の車両はダリアがラッピングされている。乗ってきた車両は紅花だった。白鷹町は国内有数の紅花の産地らしい。左側の車両が山形鉄道カラーの車両。現在、山形鉄道カラーの車両で現役なのはこの1両らしい。
 
 荒砥駅から街をぐるっと一周歩いてみた。とりあえずはさっきバスで通った坂道を登ってみる。車道の雪は解けていたが、歩道にき雪が積もっていて歩きづらかった。九州では滅多に足で雪の感触を感じることはないので、これはこれで楽しい。荒砥の街は荒砥駅から一段上がった丘の上に広がっている。坂を登ったところに広がる住宅街の奥には、雪化粧した山々が見えていた。この記事を書いている現在は今年最強の寒波が襲来している。おそらくここも数十センチの雪が積もっているのではないかと思う。そういう光景も一度は見てみたいが、交通障害と隣合わせなので、なかなか九州からだと難しい。
 
 坂を登った先の交差点の角には白鷹町の町役場があった。白鷹町は人口1万1千人の街である。町役場は5年ほど前に新調されたばかりらしく、図書館なども併設されていた。外から図書館が見えたが、とてもきれいで快適そうだった。最近流行りのモダンな造りの図書館。自分が住む街にも作ってほしいなと思う。
 
 町役場からしばらく街の中を歩いて、街の北の方へ出て来た。国道287号線が小さな川と道路を跨ぐ橋の上から鮎貝方面を眺めることができた。奥に見えるのは、長井盆地の西側に聳える山々。この山々の先に大朝日岳がある。目の前には山形鉄道の研修庫が見えた。車両基地の外に1両留置されている車両が見える。既に廃車された車両である。
 
  その後は駅へと戻り、先ほど長井の道の駅で購入したお昼ご飯を食べ、帰りの列車が来るのをのんびりと待った。乗りつぶしの旅だとどうしても詰め込み形の旅程になってしまうのだが、最近は乗車しないといけない路線も少なくなってきて、以前よりもかなりのんびりとした旅程を組めるようになった。駅のベンチでぼーっと列車を待つあの時間は、暇だがとても幸せな時間である。ガスストーブが焚かれていた待合室はとても暖かかった。

フラワー長井線を乗り通して赤湯へ

 駅の待合室で列車を待つこと1時間ほど。帰りの列車の時間がやってきた。荒砥からはフラワー長井線を乗り通して赤湯へ向かった。この列車で赤湯へ出れば、ついにフラワー長井線の全線完乗となる。乗車した車両は奇しくも昨年の旅で今泉-長井間を往復した時に乗車した車両だった。奇しくもといえど、フラワー長井線には6両しか車両がいないので、必然的に同じ車両になる可能性は高い。
 
乗車記録 No.9
山形鉄道フラワー長井線 普通 赤湯行
荒砥→赤湯 YR-880形
 
 この車両は花結びよりと呼ばれる車両で、食堂車としても運行できるようになっている。普段は写真のようにロングシートの車両として運用されているが、床にテーブルを設置できるようになっており、団体列車などで食堂車としても使用可能である。
 天井にはフラワー長井線の写真が飾られていた。その中にはウサギの写真が何枚かあった。途中駅の宮守駅にはかつて、ウサギの駅長さんがいて、多くの人に可愛がられていた。動物の駅長といえば、和歌山鐡道のタマ駅長が有名だが、山形鉄道の駅長の方もとても人気があった。うさぎのもっちい駅長は2023年に亡くなったが、現在も山形鉄道のキャラクターとして様々なグッズが発売されている。
 
 日中の列車ということもあって、荒砥から乗車したのは自分一人だけだった。最上川を渡って、四季の里に停車。次の鮎貝で3名の乗車があった。先ほどは西側の車窓を眺めたので、今度は東側の車窓を眺めてみた。荒砥駅で待っている間には、日が差す時間もあったが、この時間は再び雪が降ってきた。
 
 列車は真っ白な田園風景を車窓に進んでいく。顔を窓に近づけると外の冷気が伝わってくる。車内は暖房が効いているが、駅に到着してドアが開くと、冷たい風が吹き込んできて、車内の暖かさもリセットされた。野川を渡ると列車は長井市街へ入った。
 
 長井では5名ほどの乗車があった。反対列車と行き違う形で長井を発車。南長井を経て、長井の市街地を出て、今泉へ走っていく。長井-今泉間は約1年前の旅で乗車した区間。その時は沿線もまだ秋の景色だったのを思い出す。今泉が近づくにつれ、徐々に雪も減っていった。
 
 時庭駅を発車すると、列車は米坂線と合流し、白川の鉄橋を渡って、今泉駅に到着。フラワー長井線、米坂線それぞれに1面2線のホームがある今泉駅。JRのホームにはキハ110系の姿があった。米坂線は2022年夏の大雨により被災。現在もこの駅と新潟県の坂町駅との間で運休しており、バスによる代行輸送が続いている。JRと新潟県、山形県はこの区間の今後の在り方を検討中で、まだその結論は出ていない。乗り鉄としてはやはりこの区間を列車で通ってみたいという思いがある。どんな結論が出るかは分からないが、どんな形であれ沿線に住む人たちにとって最もいい判断がなされることを願っている。
 
 今泉駅からは未乗区間に入る。米坂線と分かれ、次の西大塚を出ると、列車は再び最上川を渡った。米沢盆地は米沢周辺の南側と長井周辺の北側に分かれていて、特に北側のことを長井盆地という。今泉駅はこの米沢盆地と長井盆地の境目にあり、北と南の両方が山が迫る地形をしている。フラワー長井線もこのあたりから狭義の米沢盆地へ出て、この盆地の北端を辿って赤湯へ至る。
 
 今泉までは南北に走るフラワー長井線だが、今泉からは東西に走っていく。列車は梨郷、おりはたと停車して宮内へ。最上川を渡ったところから列車は南陽市へと入る。南陽市は赤湯駅と宮内駅周辺に市街地が広がっている。宮内駅からも何人かの乗車があった。次の南陽市役所駅はその名の通り南陽市役所にほぼ直結している。南陽市役所の辺りで車窓には奥羽本線が見え、その後合流。列車は終点の赤湯に到着。ついに山形鉄道フラワー長井線も完乗となった。

赤湯駅で奥羽本線の普通列車に乗り換え山形へ

 フラワー長井線はもともと国鉄・JRの路線だったため、のりばはJRと共用の改札内にある。駅は西口と東口があり、西口は山形鉄道、東口はJRが管理している。形式上、山形鉄道は車内精算で、下車した際に精算済み証を貰うことになっている。しかし、実際には精算済み証は渡されず、東口のJRの改札口で長井線ですと伝えれば、そのまま出場することができた。
 赤湯ではそのまま奥羽本線の普通列車に乗り換えるが、時間があったので、一度改札外へ。赤湯駅が南陽市の中心駅。山形新幹線も多くの列車がこの駅に停車する。ちょうどフラワー長井線の列車が到着した数分後に山形行のつばさが到着。新型車両のE8系をはじめて目の前で見ることができた。駅舎はアーチ型になっていて、とてもかっこいい。駅の待合室はホテルのエントランスのような雰囲気でとてもおしゃれだった。
 
 赤湯からは奥羽本線の普通列車で山形へ戻る。赤湯駅はフラワー長井線を含めて3線4線の配置。JRは2面2線。2番線の横は恐らく以前はホームがあったと思われる。フラワー長井線が発着する4番線がある島には、奥羽本線の一部普通列車のみが使う3番線が設けられている。1・2番線は新幹線が発着するため、車両が停車する部分全体に屋根があるが、4番線は跨線橋近くにしか屋根がなく、雨や雪が降っているときは乗り降りが大変そうだった。
 
 赤湯からは奥羽本線の普通山形行で山形へ戻った。奥羽本線は山形新幹線が走る新庄-山形間が標準軌となっており、普通列車も当然標準軌の車両が使用される。この区間の普通列車に対しては奥羽本線と同時に山形線の愛称がある。奥羽本線の普通列車は、山形駅で系統が完全に分離されており、山形駅を跨ぐ列車はない。また山形以南の普通列車も朝の上り1本を除いて米沢駅で系統が分離されており、山形-福島間を普通列車で移動する際にも基本的には米沢駅で乗換えが必要になる。
 奥羽本線の山形以南の普通列車は、現在719系のみで運転されている。2024年3月ダイヤ改正までは、701系も米沢駅まで運用をもっていたが、山形以南への運用がなくなった。719系は現在も新庄への運用をもっており、山形以南がメインだが、新庄-福島間の山形線全線で運用されている。車内は少し特殊なセミクロスシートとなっており、ドア間中央に4人がけのボックスシートがあり、その背後に2人用のクロスシートが同じ向きに並んでいた。
 
乗車記録 No.10
奥羽本線(山形線) 普通 山形行
赤湯→山形 719系
 
 普通列車を待っている間に赤湯駅周辺は青空が広がった。赤湯駅を出ると列車は峠を越えるため上り勾配を登っていく。車窓には南陽市の市街地が広がる。米沢盆地を一望するこの付近は、奥羽本線の絶景ポイントの一つになっている。赤湯までは単線だが、赤湯と次の中川駅の間にある北赤湯信号場までは複線区間である。ここから羽前中山駅までは単線となるが、その先は再び山形駅まで複線に変わる。単線と複線が何度も繰り返されるのも奥羽本線の一つの特徴である。
 
 列車は田園地帯を駆け抜けて、村山盆地へ。かみのやま温泉駅の手前では、車窓の右手に山形県で一番高いタワーマンション「スカイタワー41」が田んぼの真ん中に聳えているのが見えた。いつ見ても違和感満載の車窓である。山形新幹線も停車するかみのやま温泉駅では高校生を乗せたが、車内は、終始ガラガラだった。須川を渡ると山形市街地へ入り、列車は終点の山形駅に到着した。
 
 朝に路線バスで山形を出発してから、長井、荒砥、赤湯と経由して、山形駅に戻ってきた。巡る路線が1路線だったので、とてものんびりとフラワー長井線の沿線の各地を旅することができた。夕方の山形駅は学生で溢れていて、山形駅から各方面へ向かう列車は高校生たちで混雑していた。今回の旅のメインはこれで終了。山形駅からは空港シャトルバスで山形空港へ向かい、ここから飛行機を乗り継いで九州へ帰った。

山形空港からの飛行機で帰路へ

 山形駅からは山交バスの山形空港シャトルバスで山形空港へ。このバスは山形駅と山形空港を結び、各航空機に接続する形で運行されている。出発便に対しては出発時刻の40分前に着くダイヤになっており、山形駅-山形空港間の所要時間も40分なので、山形駅を航空機出発の1時間20分前に発車する。山形駅発車後は駅前の大通をひたすら直進。山形県庁前を経由した後、山形蔵王ICから山形道へ。その後、山形JCTからは東北中央道に入り、空港最寄りの東根ICで高速を降りた。運賃は1,300円。山交バスでは地域連携Suicaの山交チュリカを導入しており、支払いには全国共通ICカードが利用できた。
 
乗車記録 No.11
山交バス 山形空港シャトルバス 山形空港行
山形駅前→山形空港
 
 バスに乗車している間に暗くなってしまったが、初めて山形空港にやってきた。この空港はおいしい山形空港という愛称がついている。JALとFDAが就航し、JALは羽田、伊丹の2路線。FDAは小牧と新千歳の2路線を運航している。現行ダイヤでは、JALは朝夕、FDAは日中の発着。JALは羽田線が1日2往復、伊丹線が1日3往復設定されている。いずれもJ-AIRが運航し、FDA便を含めて当空港を発着する定期旅客便全てがエンブラエルの機材である。山形県内に空港があるということ自体、結構認知度が低いなと思うが、山形県には庄内空港もあり、実は県内に2つの空港がある県でもある。もうお土産も購入済みなので、すぐに保安検査を受けて制限エリア内へ入った。
 
乗車(搭乗)記録 No.12
JAL2238便 (J-AIR運行)
山形空港→伊丹空港 E170
 
 山形空港からはJAL2237便で伊丹へ。定刻通りの運航で搭乗率は6割ほどだった。山形空港を離陸すると、寒河江や河北の夜景を眺めて旋回。その後、山形市街を眺めながら上昇し、新潟県、長野県、愛知県の上空を飛行して、伊丹空港へ向かった。新潟県上空以降は、各地の夜景を楽しめるフライトになった。首都圏の夜景がとても美しく、その後も長野県の上田・佐久、諏訪湖、飯田、愛知県の豊橋、岡崎、三重県の松坂などを機窓に楽しむことができた。フィナーレはなんといっても大阪市街の夜景。伊丹空港着陸の楽しみの一つだと思う。定刻より少し早く伊丹空港に到着。ここで九州への飛行機へ乗り継ぎ、今回の山形旅行を終えた。
 

おわりに

 山形の鉄道路線を巡った今回の旅。前泊を除けば1泊2日というやや弾丸な旅行となったが、宮城県と山形県の未乗路線に乗車することができて、とても充実した2日間だった。この旅は本来、来年の春に行こうと思っていた。昨年、米沢や長井を訪れたときと時期が似ていたため、どうせなら季節を変えて春にと考えていたが、数週間違いでもすっかり山形は冬に入っていた。初冬の山形の景色を楽しむことができたので、この時期に企画して正解だったかなと思う。
 山形市に降り立ったのも今回が初めてだった。東北地方の県庁所在地では最後の訪問となり、山形県内でも新庄、酒田、米沢といった他エリアの中心地よりも遅い訪問だったが、活気ある山形の街の姿を見ることができ、乗り鉄とともにこちらもいい収穫だった。今回は仙山線を利用して、山形へ来たが、仙台-山形間の移動は、高速バスでの移動が主流となっている。こちらの路線も気になっているので、東北地方の鉄道路線を巡り終えた後に、高速バスの旅を企画して乗車してみたいと思っている。山形県は沿線の道路工事の影響で長期運休中の陸羽西線を乗り残している。こちらも運転再開後、なるべく早い時期に訪問したい。
 

東北地方の他の旅行記

 

今回初めて乗車した路線

【鉄道路線】
仙台空港鉄道 仙台空港線 仙台空港-名取間
JR東日本 仙山線 仙台-羽前千歳間
JR東日本 左沢線 北山形-左沢間
山形鉄道 フラワー長井線 赤湯-今泉間、長井-荒砥間
 
【バス路線】
山交バス 山形-長井線 山形市役所前-道の駅川のみなと長井間
山交バス 山形空港シャトルバス 山形駅前-山形空港間
 
【航空路線】
ANA 伊丹空港-仙台空港
JAL 山形空港-伊丹空港