【旅行記】関西地方の全線完乗を目指す旅+α 〜京伊間の特急「しまかぜ」を乗り通す~
前話
名古屋から快速みえと近鉄志摩線の普通列車を乗り継いで賢島に到着。賢島からは午前中に乗車した「ひのとり」に並ぶ近鉄特急の顔、「しまかぜ」に乗車した。
特急列車がずらりと並ぶ賢島駅

普通列車で駅に到着すると、ホームには「しまかぜ」が2本、「伊勢志摩ライナー」が2本並んでいた。名古屋、京都、大阪への特急列車が一堂に会し、各地への発車を待つこの光景は、まさにこの駅の象徴。伊勢志摩という近鉄沿線屈指の観光・リゾート地ならではの光景である。
賢島駅は三重県の各線を旅した9年前に一度来たことがある。その当時、名古屋-賢島間の特急列車の中には、朝に1本だけアーバンライナーで運転される列車があった。どうしてもこの列車に乗ってみたくて、この駅まで来たのを思い出す。その特急「ひのとり」が名阪特急の顔となって以降は、伊勢方面へ向かうアーバンライナーの運用も増加した。今ではそんなに珍しいものではなくなっている。そして今回もまた、この駅発の列車に乗りたいがためにこの駅までやってきた。

今回も賢島では特に観光せず折り返すが、列車の発車時間まで50分ほど時間があったので、海を見に行くことにした。
以前ここへ来た時は、南側の港の方へ歩いて行ったのを覚えている。そこで、今回は逆に北の方へ行ってみた。賢島駅の北側には志摩観光ホテル ザ クラシックというホテルがある。2016年に行われたG7(主要国首脳会議)の会場となったのが、このホテルである。その施設の横の道路の先には北側で本州と繋がる賢島大橋という橋が架かっていて、ここから風光明媚な志摩の景色を眺めることができた。
賢島はその名の通り、周囲を海に囲まれた島である。志摩諸島の島々が浮かぶ、賢島周辺の湾は英虞(あご)湾と呼ばれている。賢島は本州本土からたった10mしか離れていないが、この英虞湾に浮かぶ島なのである。近鉄志摩線が鉄橋で本州から賢島へ渡る部分が、最も本州と接近している。車窓からは川の河口のようにしか見えないが、あれは海である。

リアス式の地形がとても美しい英虞湾。沖合からは少し距離があるので、海もまた穏やかで、水面は空に浮かぶ雲を反射させていた。志摩は真珠の産地として知られる。橋の下には真珠の養殖場が広がっていた。賢島は旅館やホテルなどの宿泊施設が多く、島の人口は100人に満たない。賢島駅もリゾート地の駅といった雰囲気で、まるで沖縄に来たような感じがする。いずれはゆっくりとした観光でも訪ねてみたいと思っているが、やはり1人より複数人で観光した方が楽しめるのではないかと思う。
近鉄最長距離を走る賢島-京都間の特急「しまかぜ」に乗車

さて、賢島駅へ戻って、ここから今回の旅で1番楽しみにしていた列車に乗車していく。賢島からは14時50分発の特急しまかぜ京都行きに乗車した。いつかは乗りたいなと思ってはいたものの、なかなか乗るタイミングがなかった特急「しまかぜ」。関西(近畿)地方は、未乗路線巡りを優先してきたため、今更な乗車となったが、今回は終点の京都まで乗り通し、一連の関西の乗りつぶし旅を締めくくる。
2013年にデビューし、今年で13年目を迎えたこの列車。現在も高い人気を誇り、予約の取りにくい列車として知られている。近鉄のリゾート・観光特急の顔とも言える存在で、大阪、名古屋、京都の各地から伊勢志摩エリアへの観光客を運んでいる。運行開始当初は大阪-賢島間、近鉄名古屋-賢島間での運転だったが、2014年に京都-賢島間の列車が加わった。現在はそれぞれ各1往復の運転。ただし、臨時列車の扱いであり、火曜日は大阪発着、水曜日は京都発着、木曜日は名古屋発着がそれぞれ運休日となっている。

3方向で運転されている特急しまかぜだが、今回は京伊間の列車を選択した。近鉄では様々な区間で特急列車が運行されているが、その中でもっとも運行距離が長いのが、賢島と京都を結ぶ列車である。この間の特急列車はこのしまかぜを含めて平日2往復、土休日3往復が運転されている。特急しまかぜが1往復、残りは伊勢志摩ライナーでの運転となっている。賢島-京都間の営運行距離は195.2km(営業キロ)で、これから乗車する上り列車の運行時間は、2時間40分を越える。大阪行きが2時間20分、名古屋行きが2時間なので、この列車を満喫するなら京都行きがいい。

この時間、駅には大阪行きと京都行きのしまかぜが並んで停車していた。この日は月曜日だったので、各方面とも列車の運行があった。順番としては、乗車する京都行が最初に賢島を発車し、名古屋行き、大阪行きの順番に発車していく。2番手の名古屋行の姿はないが、賢島駅に留置線がないため一旦鳥羽駅まで回送されており、京都行きと入れ替わりで入線してくる。12時台には各方面からの列車が20分おきに到着。「しまかぜ」が3本並ぶ光景を見ることもできる。

「しまかぜ」に使用される50000系は6両編成。一般座席は全てプレミアムシートが装備されている。この座席が並ぶ1・2・5・6号車のうち、先頭・最後尾となる1・6号車は展望座席となっており、他の座席より一段と高く眺めがいい。また、最前列の座席からは前面展望が楽しめる。2・5号車については、展望座席ではなく通常の高さの座席である。一方、賢島方から数えて4両目はグループ席車両となっている。サロン席が3ブース、和室・洋室の個室がそれぞれ1部屋ずつあり、気兼ねなく会話を楽しめる。そしてこの車両最大の特徴が3号車のカフェ車両。ここでは販売カウンターで購入した軽食やスイーツなどをカフェスペースで食べることができる。カフェスペースは2階建てとなっており、景色を楽しめるようにカウンター席が並ぶ。

発車の20分ほど前にはドアが開き、車内へ入ることができた。今回は午前中に乗車した特急「ひのとり」と同じく、最後尾車両の一番後ろの一人がけ、1号車9A席を指定した。購入に際してはチケットレスを利用し、一ヶ月前の発売時刻に購入を試みた。しかし、その時にはすでに希望の座席は埋まっていた。その後、しばらく経って再度シートマップを見てみると、希望の座席が空席になっているのを発見。一旦諦めたものの、最終的には希望の座席を指定することができた。予想だが、おそらく最前列の座席を予約しようとした人が間違えたのではないかと思う。特急「ひのとり」でも座席指定を間違える人が多いと聞く。座席を指定する際にはくれぐれも気をつけないといけない。
なぜ近鉄特急で最前列座席の指定間違いが多発するのかといえば、その理由は2つある。一つは伊勢発着の列車において、大阪・京都発と名古屋発では、号車番号が逆になるからである。近鉄特急の号車番号は名阪特急を基準に振られている。名阪特急は名古屋側が1号車、大阪側が6号車(以下、同様に6両編成で例える)として運転される。賢島方面への特急列車もこれに合わせて、大阪発は賢島側が1号車、逆に名古屋発は6号車が先頭となっている。一方でこれから乗車する「しまかぜ」は通常、大阪・京都-賢島間、名古屋-賢島間で運行され、中川の短絡線を通らない。そのため、大阪から短絡線を経由して名古屋まで行き、折り返して賢島へ行く他の車両と比較すると、名古屋発着の列車において、編成の向きが反対になる。そこで「しまかぜ」では、他の特急列車に号車番号を合わせるため、賢島基準では編成の向きが同じにも関わらず、大阪・京都発着と名古屋発着で号車番号が逆に振られている。賢島発大阪・京都行き先頭は6号車、名古屋行きの先頭は1号車として運転され、他の列車に合わせられている。
さらに、指定間違いが多発もう一つの理由は、号車番号の付番と座席番号の付番が逆になっているためである。例えば、乗車する特急しまかぜ賢島発京都行きの最前列は6号車1列、最後列は1号車9列である。この場合、最前列が6号車9列、最後列が1号車1列になるのがふつうだが、近鉄ではこれが基本逆になっていて、余計にややこしい。一方で、先頭が1号車、最後尾が6号車になる名古屋行きの場合、座席番号は変わらないため、最前列が1号車1列、最後尾が6号車9列になる。もうこんがらがって訳がわからない。この2つの理由から近鉄特急の座席指定は慎重に行わないといけないのである。

車内へ入ると開放感のある車内にプレミアムシートがずらっと並ぶ。各座席は電動リクライニングシートとなっており、コンセントも装備されている。シートピッチも広いので、ゆったりとくつろげる。特に最後尾の座席は後ろに気を遣う必要がなく、座席を深く倒せるのがいい。
JRで言えばグリーン車がそれ以上の装備をもつ特急「しまかぜ」。何となく高いイメージがある列車だが、実はそんなに高くない。賢島-京都間の特急料金+特別車両料金の合計は3,090円となっている。特別車両料金が必要な分、他の一般特急に比べれば1,160円高い。しかし、JRの特急列車で同じ距離乗車した場合、グリーン車の料金は5,000円、普通車指定席の料金は2,730円(A特急料金、通常期)であり、JRの普通車指定席とほぼ変わらない価格設定となっている。豪華な車内ながら案外リーズナブルなのが、この特急しまかぜの一つの特徴である。
乗車記録 No.21
特急しまかぜ 京都行
賢島→京都 50000系

鉄道ファンとしてはやはり全区間で楽しみたいこの列車だが、一般の乗客で全区間乗車する人は少ない。賢島から乗車したのは1編成で見てもわずか数人で、乗車した1号車に関しては貸切状態で賢島を発車した。乗客の多くは伊勢神宮に近い宇治山田と伊勢市から乗車してくる。それまで40分あまりの時間は車内も空いている。
賢島を発車すると、すぐに別のしまかぜ編成とすれ違った。この後名古屋行きになる編成で、乗車中の京都行と入れ替わる形で賢島駅に入線してくる。その先、志摩線は基本山側となるこちらの車窓にも一瞬だけ海が見える。進行方向右側の座席でも海が見えるのは賢島を出てすぐと、鳥羽周辺に限られる。左側に関してはここが唯一。見逃さないようにしないといけない。風光明媚な英虞湾を少し眺めた列車は、まもなく最初の停車駅である鵜方に到着した。ここでは乗車している車両にも5人ほどが乗り込んできた。隣の2人掛けの最後列座席にも乗客が現れた。隣の乗客は後面展望を楽しみにしていたようで、座席を回転させて、終点まで後面展望を楽しんでいた。

一般の特急列車は、この先途中の志摩磯部にも停車するが、この列車は通過となっている。列車は次の停車駅、鳥羽へ向けて進んでいく。しばらくすると、アテンダントが巡回し、おしぼりと記念乗車証が配布された。記念乗車証は財布にも入る少し小さめなタイプなのが嬉しい。
その後、青峰トンネルを出て、白木駅を通過した頃には、車内販売がまわってきた。「しまかぜ」ではワゴンによる車内販売も行われていて、コーヒーや一部アルコール、お菓子などは3号車の販売カウンターへ行かなくても、買うことができる。せっかくなので、ホットコーヒーを注文した。コーヒーは1杯450円。「しまかぜ」と書かれた青い紙コップに入れて提供された。支払いも各種キャッシュレス決済に対応していて便利だった。最近は交通費も宿泊費も以前に比べて高くなっている。そのため最近の旅は節約がモットーだが、これくらいはまぁいいことしようと思う。こうして観光列車に乗り、コーヒーを買って飲むというのも久しぶりだった。以前は九州を走るD&S列車でよく買っていたなと思い出す。筆者はお酒があまり飲めないので、車内販売では大体いつもコーヒーを買う。

コーヒーを飲みながら、車窓の景色を眺める。船津駅から先の志摩線は、中ノ郷まで単線となり、山の斜面と住宅の間の狭いところをゆっくりと走っていく。やがて、「われは海の子」のチャイムが流れて、列車は鳥羽に到着した。個人的には約2時間ぶりに帰ってきた形になった鳥羽。ここからの乗車は少なく、乗車した号車の人の動きはなかった。一方で、ホームでは多くの人が写真を撮影しており、人気の高さをうかがわせた。

鳥羽を出た列車は次に宇治山田に停車する。鳥羽を出ると参宮線としばらく並走し、その後その上を越えて、列車はしばらく山の中を走っていく。参宮線が伊勢湾沿いを走り、二見ヶ浦を経由する一方で、こちらは山の中を突き抜けるように直線的に走る。やがて五十鈴川を通過すると、伊勢市の市街地へと入って、宇治山田に到着。さらに駅を出てすぐに再び参宮線と交差すると、JRの留置線を眺めながら、今度は伊勢市に到着した。先述の通り、この列車の乗客多くはこの2駅から乗車する。2駅では多くの乗車があり、座席の9割程度が埋まった。この日は平日だったため、先頭車両は満席だった一方で、他のプレミアムシート車両はわずかに空席もあった。

大阪・京都行の特急「しまかぜ」は、伊勢市を出ると大和八木まで停車しない。伊勢市から大和八木までは101.8km離れており、100km以上無停車で進んでいく。名古屋行に関しても、伊勢市の次は近鉄四日市となっており、こちらも約70km無停車となる。
伊勢市を発車すると、列車は伊勢市の市街地を抜け、その先で宮川を渡った。参宮線は多気を経由してから松阪へ走る一方で、こちら近鉄の方は松阪へダイレクトに走っていく。参宮線・紀勢本線が単線な一方、こちらは複線のため、走りも快調である。近鉄単体でみれば、まだ一路線も枝分かれする路線はないが、この列車は宇治山田から3路線目の山田線に入った。このあたりの近鉄は開業時期などの違いから、路線区間が分割されている。

今回は最後尾車両の一番後ろに座っているので、ふり返ると後面展望も楽しむことができた。隣の乗客のように座席を反対向きにして後面展望を楽しむもよし、車窓を楽しみつつ、時々振り返るのもいい。ただし、最後尾車両には車掌が乗務しているので、座席を回転すると、少々目が合って気まずいかもしれない。自分が座った一人掛けの席の場合、目の前に車掌さんがずっと立っている。後面展望したいなら、隣の乗客のように2人掛けの席を指定するのをおすすめする。車掌さんが巡回でいなくなったタイミングで写真を撮影。ちょうど鳥羽方面へ向かう特急列車とすれ違った。

やがて列車は松阪の市街地へ入り、やや低速で松阪を通過した。松阪はこの列車が走る各線の沿線の中では比較的大きな街である。しかし、「しまかぜ」はあくまで関西と伊勢志摩を結ぶというリゾート特急という位置づけなので、全列車が通過となっている。松阪を通過するのは、JRの特急列車を含めて、この特急しまかぜだけである。次の松ヶ崎を通過すると、松阪の手前から並走していた紀勢本線の上を跨いで、伊勢中川へ走っていった。

近鉄における鉄道の要衝の一つ、伊勢中川が近づくと列車は減速し、今にも停車しそうなスピードで、ホームを通過。その後も、ゆっくりと駅構内を走行した。反対側の車窓を見ると、名古屋からの特急ひのとりが中川短絡線を走行しているのが見えた。ここから先、乗車している特急しまかぜは、この特急ひのとりの後を追いかける形で走っていく。ゆっくりと走っていたのは、特急ひのとりを先行させるため。やがて、特急ひのとりが大阪線へ入ると、この列車もその後を追うようにスピードを上げ、その後は大阪線を快調に走行した。

伊勢中川から先、大和八木までは、午前中に特急ひのとりでも通った区間となる。列車は青山峠へ向けて、徐々に山の中へと進んでいく。榊原温泉口を通過し、次の東青山で待避している急行名張行を追い越すと、列車は青山トンネルへ入った。列車は数分間トンネルを走っていく。自分もこのタイミングでお手洗いを利用するがてらに車内を散策しに行った。

青山の長いトンネルを抜け、青山町、伊賀神戸と通過すると、列車は名張の市街地へ到達。まもなく名張を通過した。伊勢観光の帰りの列車ということもあり、乗客は多かったが静かだった。ゃ内放送ではカフェ車両の混雑状況とメニューの宣伝が行われていた。カフェ車両は大和西大寺駅までの営業となる。伊勢市を出た直後が一番混んでいるはずなので、名張を通過したあたりで行けば空いているのではないかと思う。

名張を通過した列車は、しばらく山の中を走行し、やがて奈良盆地へ到達した。JR桜井線と交差して、桜井を通過した後しばらく並走すると、列車はまもなく大和八木に到着した。途中伊勢中川で停車しかけたものの、ここまで1時間5分も無停車だった。大和八木では乗務員が交代。ここまで宇治山田でも交代が行われていたので、これが2度目の交代となった。ここから列車は大阪線を離れて、橿原線へと進んでいく。

橿原線と大阪線がほぼ直角に交わる大和八木駅。直角に立体交差する線路にどうやって進むのかといえば、駅の西側に設けられた連絡線を使う。大和八木駅構内の西側には、橿原線と大阪線を結ぶ連絡線が2本設置されている。この列車が走行するのは、そのうち駅ホームの北西側にある新ノ口連絡線という連絡線である。大阪線の伊勢中川方面と、橿原線の大和八木方面を結び、主に乗車中の京都と伊勢を結ぶ特急列車が使用している。この間の特急列車は、この連絡線のおかげで方向転換せずに橿原線・大阪線を行き来できるのである。
一方、もう1本の連絡線は橿原線の榊原温泉口駅方面と大阪線に五位堂方面が結んでおり、通称八木西口連絡線と呼ばれている。新ノ口連絡線は旅客列車が走行する一方で、この連絡線は通常回送列車しか走行しない。主に南大阪線で活躍する車両が、五位堂の車両基地で検査を受ける際の回送ルートとして用いられている。
これら2つの連絡線は、伊勢中川で大阪線と名古屋線を直接結ぶ中川短絡線同様に、全区間が大和八木駅の構内に含まれており、正式な鉄道路線というわけではない。個人的には乗りつぶしは基本営業キロの設定された路線が対象のため、この連絡線は対象には含んでいない。しかし、定期旅客列車が走行する連絡線であり、近鉄完乗に合わせて乗車しておきたいなと考えていた。今回賢島-京都間を走るこの列車に乗車したのも、この連絡線に乗車してみたかったというのが、理由の一つだった。

連絡線へと入った列車は、大阪線の線路と分かれて、しばらく飛鳥川に沿って北へ走る。その後はカーブして東へ進み、その後新ノ口駅の手前で橿原線へと入った。橿原線の大和八木駅の場内信号機は、新ノ口駅を出てすぐのところにあり、設備上は新ノ口を発車したらすぐに大和八木駅の構内に入る形となる。なお、連絡線の途中には保線基地も設けられていた。
大和八木で橿原線へ入ると、列車は再びスピードを上げ、奈良盆地を北へ走っていく。このあたりの橿原線には2022年の夏に天理線や田原本線に乗車した際に乗車した。橿原線の全線に乗車したのは2018年の冬。友人との関西旅行の途中で京都から橿原神宮前まで特急に乗車したのを思い出す。

2022年の旅で立ち寄った田原本や平端を通過し、橿原線を快走した列車は、やがて大和西大寺に到着。この駅名物の複雑な配線の中を走ってホームに到着した。橿原線を走っているうちに運行時間は2時間を超え、いよいよ残りは30分ほどとなった。列車はここで奈良線を跨ぎ、京都線へと進んで行く。大和八木・大和西大寺の2駅で下車する人はほとんどいなかった。

大和西大寺から列車は、いよいよ最後の路線、京都線へ入った。賢島からこれで6路線目になる。高の原を通過したあたりで、カフェ車両の営業が終了する旨の車内放送が入った。やがてJR片町線(学研都市線)の線路と合流すると、その後はしばらく両線が並んで北上する。運よく207系と並走するシーンを楽しめた。

JR片町線との並走区間を終え、京田辺を通過すると列車は木津川を渡り、その先で今度はJR奈良線が近づいてきて、城陽市から宇治市へと入っていく。京都線は最近も割と頻繁に利用している。直近では一昨年企画した京都エリアの路線巡りの旅で国際会館始発の急行を近鉄奈良まで乗り通した。やがて列車は木津川の鉄橋を通過。日も傾き、京都線も夕ラッシュに突入。通過する各駅のホームも混雑していた。

列車はやがて京都市の市街地に到達した。「楽しき農夫」という陽気なチャイムが鳴ると、列車はまもなく最後の途中停車駅である近鉄丹波橋に到着した。その後も京都市街地を北へと進んでいく。京都市営地下鉄烏丸線が分岐する竹田を通過し、車両基地に留置された地下鉄車両を眺めると、鴨川を渡り、その後は高架橋を走っていく。「大きな古時計」のチャイムが旅の終わりを告げる。やがて車窓には東寺が見えてくる。その最寄り駅、東寺を通過すると、東海道新幹線が走り去るのが見え、列車はゆっくりと終点の京都に到着した。

初めて乗車した特急「しまかぜ」。プレミアムシートは2時間40分ではもの足りず、まだ乗っていたいと思うほど快適だった。久しぶりに観光列車に乗車したが、普段乗車する列車とはまた一風変わった鉄道旅の楽しさを味わうことができた。今後も伊勢へ観光に行くことがあると思う。その際には、ぜひまたこの列車を使ってみたい。各方面で運転されている近鉄特急のうち、京伊間の特急列車に乗車したのもこれが初めてだった。近鉄特急で最長区間を走るこの区間の特急列車には以前から乗車してみたいと思っていたが、ようやくその夢を叶えることができた。途中にはこの区間の特急のみが通過する連絡線もあり、景色の移り変わりを含めて、とても楽しい乗車時間だった。
2日目の旅の本体部分はこれで終了となり、京都からは九州への帰路に就いた。京都からはJR京都線の新快速姫路行きに乗車して新大阪へ。その後山陽新幹線に乗車して九州へ戻り、この旅の全日程を完走した。
おわりに
関西地方で未乗にしていた路線と、初乗車から15年が経過した路線の再履修の完了を目的に旅した今回の旅。1日目は高野山まで往復しながら、未乗路線に乗車し、復路で乗車した近鉄長野線をもって、関西地方の鉄道路線の全線完乗を達成した。一方、2日目は近鉄特急「ひのとり」に乗車して、長らく乗車していなかった近鉄大阪線を再履修した。これで他地方の路線を含めた再履修対象路線も全て乗り終えることができた。さらにその後は、快速「みえ」と特急「しまかぜ」にも乗車。近畿地方という括りでは、関西各地とともに含まれる三重県の南側の地域も、久しぶり旅することができ、充実の2日間だった。
かれこれ13年余りに渡り、毎年のように旅に出ては乗りつぶしを進めてきた関西地方。そんな乗りつぶしの旅も今回で一区切りとなった。筆者は一時期東京に住んでいたため、東京近辺の鉄道路線は、自宅から気軽に乗りに行くことができた。その一方で、関西地方は旅を通して、コツコツ乗車し、ようやく完乗するに至った。
いろんな路線があるので、この地方の鉄道を一言で言い表すのは難しい。しかし、関東に比べ、私鉄各社が特色に溢れているのが、この地方の鉄道の特徴であり、面白さではないかと思う。各社の持つカラーは、車両や駅と言った設備だけではなく、沿線の街にも滲み出ている。私鉄が街を開発し、私鉄の発展と共に街も広がって、今の京阪神の大都市圏が形成された。鉄道会社と街は、共に写し鏡のように、互いの色を反映しあっている。各社の列車やダイヤを楽しみつつ、そうした沿線の街と鉄道路線の密接な関係を見るというのが、この地方においては一つの楽しみだった。
また、旅行記の中でも述べたが、関西地方は他地方に比べて、ケーブルカー路線が圧倒的に多い。これもこの地方の鉄道路線の一つの特徴となっている。ケーブルカー路線は、走っている場所が最寄り駅から離れている場合も多いため、計画を立てる上では、ちょっと厄介な存在だった。しかし、比叡山、鞍馬、生駒、天橋立、そして今回の訪ねた高野山など、観光地を走っている路線が多い。ケーブルカー巡りは大変だったものの、いろんな観光地を訪ねるきっかけにもなり、観光という面からも関西地方を楽しむことにもつながった。
今回の旅で現状運行している鉄道路線は全て乗り終えたわけだが、これからも関西では新路線の開業と延伸が予定されている。2028年にはOsaka Metro中央線で森之宮検車区への回送線を活用した支線が開業予定である。また、2031年には大阪駅とJR難波駅、南海難波駅を結ぶなにわ筋線が開業する。さらに2034年には、現在門真市まで運行されている大阪モノレールが、近鉄奈良線と接続する瓜生堂まで延伸予定である。また、なにわ筋線に関連して、阪急では新大阪となにわ筋線を結ぶなにわ筋連絡線、新大阪線の建設が計画されている。このほか各地で路線の延伸計画があり、これからも関西では鉄道路線の発展が続いていく。したがって、一度完乗したものの、まだまだこれからも新路線との出会いは続いていくことになる。しばらく新路線の開業はないが、まずは直近の中央線の支線開業を楽しみに待ちたい。一方、比較的早い時期から乗りつぶしをしてきたエリアだけに、既に乗車して10年が経過する路線もある。関西地方は今後、高速バスや路線バスを中心に旅していきたいと考えているか、また折に触れて、これまで乗車してきた路線にも乗車してみたいと考えている。
その他の関西地方の旅行記
今回初めて乗車した路線・区間
【鉄道路線】
Osaka Metro 中央線 コスモスクエア~夢洲間
南海高野線 中百舌鳥~極楽橋間
高野鋼索線 極楽橋~高野山間
近鉄長野線 河内長野~古市間
【バス路線】
南海りんかんバス [42]高野山駅前-奥の院前